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『我輩は猫又である。 』
桐谷・虎助0104

……ふぁぁぁぁぁ。
 ぽかぽかした陽気に誘われていつものように昼寝をしていた俺は欠伸をしながら目を覚ました。
 うぅんと大きく背伸びをすると縞々の尻尾がぴんと天井に向かって立ち上がる。
自分で言うのもなんなんだけど、絶妙な具合で綺麗に縞が入りすらっとしている結構イケてる自慢の尻尾。
 俺は桐谷家で飼われている虎縞の猫だ。
 名前は桐谷・虎助(きりたに・こすけ)。
 でも、本当は妖怪猫又だったりする。まぁ、妖怪とはいっても俺はまだ152歳だから猫又にしてみればまだまだ若い部類に入るんだけどね。
 昼間、家に居る時はだいだいこの部屋に居る。この部屋とは、俺の飼い主である桐谷家のデカ息子の部屋だ。
 テレビにコンポ、パソコンにゲーム機、家具などCDのジャケットや本の表紙を除けばほぼ全ての物が徹底して白、黒、灰色で纏められているシンプルで、部屋の主の無趣味具合を示すような面白みのない部屋だけど、俺はこの部屋がこの家中の部屋で1番大好きな部屋だ。
 1番日当たりはいいし、窓からは近くの公園にある公園が見えるので景色もいい。
それになんと言っても殺風景なくせに、雰囲気がどこか暖かい。ちょっと、そんな所がデカ息子と似ている。多分、この部屋がお気に入りなのはそんな理由もあるんだろうなぁ。
まぁ、とにかくそんなわけで、俺はいつもこの時間はこの部屋で昼寝することに決めていた。
 でも、今日はいつもより早くが覚めたなぁなんて思いながら、ひょいっと、机に飛び乗って窓から外の景色を見た。
 今日も、いい天気だ。
 昼寝にも飽きたし、窓が開いてれば外に出れるのになぁ。
 そう思い立つと居ても経っても居られなくなって、机からベッドに飛び移り、床に下りる。
 ドアの前まで歩いていって、いつものように隙間から部屋でようとしてあることに気付く。
――――ドアが開いてない!
 一生懸命頭でドアを押し開けようとしたけれど、柔らかい毛がつるつると滑ってしまいわずかな隙間すら開く気配がない。
 そういえば、さっき昼寝していた時に俺の大嫌いな掃除機の音が聞こえたような気がする。きっと、おかーさんが掃除の弾みにドアを閉めてしまったんだろう。
 一生懸命、
「おかーさぁん、おかーさんってばぁ! 開けて。あーけーてーよー!」
と、呼んでみたがおかーさんが俺の声に気付いてくれる様子はない。
 この時間がいつも、俺のお昼寝タイムであるように、おかーさんにとってこの時間は大好きなホラービデオ鑑賞の時間なんだ。
「つまんねー」
 俺は少しふてくされて、再びさっきと同じ道を通って机の上に戻って外を眺める。
 出られないとなるとますます外に出たくなってくる。
 俺はかりかりと窓の桟に前足を乗っけて、
「外……出たい」
と呟く。
……。
………。
――――そだ、また人間になればいいんじゃん!
 そうだよ、人間になれば窓どころか部屋のドアだって開けられるし。
 まだ152歳とはいえ猫又。俺は人間に変身出来るんだ。
――――よしっ、変身!
 そう念じると、あっというまに、俺の姿は虎縞の小さな猫から人間に姿を変えた。
 ぷるぷると頭を軽く振ると変身前と同じ金色の髪が揺れる。それと一緒に、ちりんと首輪についた鈴が小さな音を立てた。
 変身直後の俺は裸に首輪1つという格好になってしまう。
 ちょっと前までは首輪が革のベルトだったせいで変身するたびに咽喉が絞まって危険だったんだ。変身する前にうまく外せればいいんだけど、猫のままの手じゃベルト状の首輪を外すのはものすごく難しい。
 だけど、最近、首輪を新しく変えてくれた。変えてくれたのはデカ息子だ。
 この赤い布ゴム製の首輪だと変身しても首が絞められる心配がないから、俺はものすごく嬉しかった。
―――――雑なように見えて、案外気が利くんだよな、アイツ。
 この首輪を選んでくるあたり、しっかり俺の正体に気付いているくせにどうも現実を直視できないみたいだ。
 いい加減、現実認めろって。
 外に出るのに裸ってのはさすがにヤバイので、俺はいつものようにデカ息子の服をあさって適当にズボンとシャツを拝借する。
 人間になった俺とデカ息子の身長は15センチも違うから、俺はスボンの裾を何度も折り曲げなければいけない。ウエストもベルトを締めないとずり下がりそうになるし。
きっとどこかにデカ息子がもっと小さかった時にきていた服もあるんだろうけど、気にしない。
 だって、けっこうこのぶかぶかな感じがデカ息子に抱きあげられた時の包まれてる感じで安心できるんだ。
 鏡に映った自分の姿をみて、俺はにこっと笑った。
 さぁて、あとはいつもみたいにちょっと金も借りて……と、その時、玄関のドアが開く音がした。
 階下から、
「ただいまー」
というデカ息子の声が聞こえた。
「おかえりー…あっ、ヤベッ」
 なんで返事しちゃうかな、俺!
 思わず返事した俺の声がばっちり聞こえたらしく、足音がものすごい勢いでこの部屋に迫って来た。
――――は、早く隠れないと。変身!

 すぽっと小さくなった俺が思わず脱げた服の山に隠れるのと、デカ息子が部屋のドアを開けたのはほぼ同時……いや、ちょっと俺の方が早かったかな?


Fin
PCシチュエーションノベル(シングル) -
遠野藍子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年03月19日

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