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『☆新人育成プロジェクト☆ 』
アブドゥル・ヴァイザード0013
 場所はヴァネチア北部。
 砂嵐の吹き荒れるこの場所で、アブドゥル・ヴァイザードの操る『マスタースレイブ』が
ゆっくりと距離を近づける。その手には巨大なグラブが握られており、不気味な程に濃い赤
色を湛えていた。
「くっ‥‥」
 クラブによる痛打を嫌い、一人の兵士が距離を離そうとバルカンにて牽制を続けるが、ア
ブドゥルは全く引く様子を見せない。放たれる銃弾を身に受けながらも、確実に自らの射程
内へと相手を捕らえていく。
「逃げ回るの終わりだ。覚悟を決めろ‥‥」
 周囲に緊張感が走る中、アブドゥルはクラブを振り下ろす。
 その一撃目を盾で防いだ兵士だが、あまりの威力のために盾は変形。その兵士の操るマス
タースレイブの左腕ごと破壊される結果に終わった。
「まだ‥‥負けてない!」
 そう言い放ち、至近距離からバルカンを構えるが、バルカンの弾は既に尽きていた。何度
も引き金を引く音だけが空しく響き渡り、その絶望感を煽る。
「お前‥‥戦場に出るには十年早かったな‥‥」
 一言だけそう呟き、アブドゥルは二撃目のクラブを振り下ろす。防ぐ手段を失ったマスタ
ースレイブの頭部に亀裂が生じ、ミシミシと悲鳴を上げる。
 勝負の決着に、三撃目のクラブは必要無かった‥‥。

「あ~! また負けちゃった~!!」
 がっくりとうなだれた一人の女性が、責めるような瞳で隣に居た男を睨む。
 その男、アブドゥルはそんな非難の目を無視しながら、マスタースレイブを選択する場面
で手元の丸いボタンを押す。
 現在、アブドゥルと一人の少女はシミュレーション演習の最中であった。シミュレーショ
ン演習とは、実践にでる前の模擬的な訓練のこと。平たく言えば、テレビゲームでコツを掴
もうということである。
 これには、新人同士の訓練、それぞれの戦い方における癖の研究、自分に合っているマス
タースレイブの適性検査等、様々な目的がある。
「またそのMS? 少しは手加減してよ~」
「駄目だ。腕が鈍る」
 一喝され、ため息をつきながらテレビの画面を凝視した少女は、別のマスタースレイブの
表示される画面で丸いボタンを押した。
「こんどは負けないからね!」
「別に勝ち負けを競っている訳ではないのだが‥‥」
「だったらあんな勝ち台詞言わないでよ! 悔しいじゃない!!」
「癖だ。気にするな」
「するよっ!!」
 言い合っている間に、テレビの中でお互いのマスタースレイブが向き合う。
 アブドゥルに文句を言うのに夢中だった少女はそれに気づかず、アズラエールの放つバル
カンにて大幅に体力が削られていた。
「あ~!! ちょっとずるいよそれ!!!」
「気づかなかったお前が悪い」
「だからってそんな大型バルカンなんて‥‥」
 悔しそうに呟き、アブドゥルの手元を見る少女。
 そして何かを思いついたように笑顔を見せ、アブドゥルのコントローラーを叩き落とした。
「な‥‥何をする!?」
「隙を見せる方が悪いんでしょ? だったらアブドゥルさんが悪いんじゃないの~♪」
 偉そうにのたまったリースは、動くことのできないマスタースレイブにオートライフルに
て執拗な攻撃を繰り返す。
「くっ‥‥ならば!!」
 大人気なく怒り出したアブドゥルは、少女と同じようにコントローラーを叩き落とした。
「ちょ‥‥ちょっと! 大人が子供相手にムキにならないでよ!!」
「実戦では大人も子供も無い。力が全てだ」
 今の状態で言っても説得力も威厳も存在しないが、アブドゥルの言っていることに間違い
は無い。だが、三十四歳の男がやることかと聞かれれば、沈黙を守る以外に無いのも事実で
はあるが‥‥。
「あったま来た~! こうなったらとことんやってやるんだからっ!!」
「望むところだ」
 そんなやり取りが数時間にも及んだ頃、二人の周囲には沢山の人が集まっていた。
 皆、何事かと二人の争いを見つめるが、それを止める者は誰も居ない。それどころか、ど
ちらが勝つかでトトカルチョが始まる始末である。

 これから後、少女が一人前のMSパイロットになるまで、アブドゥルの任は解かれること
は無い。
『MSパイロットの教官をお願いする』
 全ては、この言葉から始まったことである。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
白峰なおう クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年03月17日

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