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『Let's hear you say that again! 』
真咲・水無瀬0139

 タイミングを図る必要もない。
 チリチリと導火線が燃える、小さいが独特の音に注意も払えない程度の輩なら、底も知れたものだ。
 真咲水無瀬は、その瞬間を待つだけで良かった。
 何処から流れて来たのか、先だってから付近で難民を対象に強盗紛いにちょろちょろとしていた野盗、弱者は群れるというが、小悪党が群れて強さを勘違いされるとこちらが迷惑を被る。
 そのくせ、数だけは多かった為、ゴーストタウンに追い込み、予め仕掛けてあった爆発物を使って分断する。
 他は他で上手くやっているだろうし、心配はしていない…水無瀬が追った男は弱い中でそれなり、集団の取り纏めているのだと行動で容易に知れた。
 とはいえ、彼が最初の爆発で先頭を切って逃げ出したお陰で簡単に事が運んだのだからある意味感謝が必要か。
 水無瀬は天災でか戦闘でだかは知らないが、半壊したビル、男の死角の位置の壁に体重を預けて影に半身を溶かす…黒を基調にした着衣に同色に漆黒の髪に肌の白さが際立ち、耳朶を彩る赤い貴石のピアスが目立つ。
 顎を僅かに上げて瞼を閉じ、ズボンのポケットに左手の親指だけをひっかけ、一定のリズムで指先が腿を叩く…そして右、身体の横に何気なく下ろされた手の先には鈍く黒い光を放つリボルバー。
 エヴァーグリーン所属平和条約巡察士は、野盗への警備や犯罪の捜査が主だ。
 水無瀬が所属するのはその中でも切り込み的な遊撃隊…ピースメイカー部隊であり、危険である事にかけては群を抜く。
 如何にエスパーとはいえ身を護るにもっと効率的な武器もあろうが、彼にしてみれば銃と我が身があれば用は足りる。
 ジッ、と。
 耳に届く音が変わった。
 男の足音に紛れてごく小さなそれに、意識をせずとも『力』が応じる。
 爆発は野盗の前方、音と煙こそ派手だが、余程の至近でないと殺傷力はない。相手の注意を逸らし、隙を作る為だけの物だ。
 『ここ』から『あそこ』へ。気圧変化時の耳鳴りに似た僅かな感覚を知覚する間もなく、水無瀬の身体はビル影から、咄嗟に身を丸めた男の背後へ移った。
「ゲームオーバーだな」
…精神エネルギーをそのまま自身に向け、空間から空間へそのまま移行させる…瞬間移動。
 立ち姿は先と変わらず、違いと言えば、男の背から心臓を過たず狙いを定める存在を示す為押しつける銃口に上げた右腕…そして開かれた瞳の深い闇色。
 野盗は手にしていた短銃を地面に落として両手を上に挙げた…降伏の意。
「タゲ捕獲。セカンズチームは無事任務完了。戻るぞ」
首元に止めた小型の無線機に口を寄せ、周囲に点じた隊員達に指示を下す。
「立て」
銃口はそのまま、端的な指示だけを男に向けると、片手だけで器用にポケットを探ると煙草とライターを取り出した。
 軽く振って一本だけを銜え、ライターの火を移す。
 紫煙を吸い込む目元が少し綻ぶ…やはり仕事の後の一服は格別…こと、待つ間に喫煙をするワケにいかなかっただけ、余計に美味く感じられる、ヘビースモーカーの手軽にして至上の幸福である。
 その間に、チラと後ろを振り返った野盗の頭目は一瞬表情を凍り付かせた。
 それも道理だ。
 佳容と評して遜色のない容貌、一見して頭に「美」をつけたくなる少年−実は既に成人年齢に達しているのだが−に、筋肉質な体躯を誇る自分が抵抗もなくあっさりと捕まってしまったのが信じられない心持ちなのだろう。
 野盗は、口の端を歪めた。
「へ、世界平和に貢献なさるお偉いエスパー様にエスコートして貰うなんざ光栄だ」
「月はまだ出てないぞ」
負け犬の遠吠え…にかけて少し考えなければならない切り返しで一蹴した水無瀬は、吸い殻を靴底で踏み潰し、二本目に先と同じ動作を繰り返そうと…。
「アンタなら夜じゃなくてもいい声でなくんじゃねぇか?なんたってエスパー様のは具合が違うっつーからな、一度味わったら飽きね…」
空気かが変わった…とても静かに。
 ひぃやりと、体感温度が下がるのに、頭の後ろで手を組んだまま野盗は下卑た笑いをひきつらせてそっと後ろを振り返った…勇気ある行動だ。
 煙草を口に運びかけた動作のまま、凍り付いたような水無瀬…手元に向けられていた視線が上がる、漆黒に濡れたような輝きを持つ瞳が野盗に据えられる。
 それに野盗も凍り付き、気付く…概して、悪党という者は人の弱味をつくのが上手い…彼もまたその例に漏れず、見事なまでに水無瀬の逆鱗に触れた。
「俺に…相手して欲しいのか?」
要りません、と言葉を発する事すら出来ないのは、瞳の奥、苛烈な強さを持つ光に蛇に呑まれた蛙と化す。
「安心しろ。飽きないようにお相手するのは得意でね」
浮かべた笑みはいっそ凄絶なまで迫力を湛える。
「逃げてもいいぞ?」
言うが様、銃が火を噴く。
 リボルバーの弾は六発、右耳を掠めて左頬を風で切り、右肩から斜めがけにされた革ベルトを焦がして左脇に吊したホルスターを撃ち抜き、生地を余らせて皺になっていたズボンの右足に穴を開け左のつま先の石が弾けた。
「おや外れたか…これくらいじゃすぐに飽きちまうだろう?」
当然、弾丸は外したのではなく、外されたのだ。
 バラバラと薬莢を落とす、その目が据わりきっている…のに笑顔。まだ笑顔。
「す、すみませ…」
ガクガクと震えながら思わず、泣きが入る野盗…だが。
「俺に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇかっ!」
笑顔から一転、怒りへと。
「テメ、根性あんならもっぺん言ってみろよコラ!詫びるくれーならしょっから言ってんじゃねぇよアァ!?っかってんのかよオラ!」
殴る蹴る。それだけに止まらない。
 廃墟の街に、表記に耐えない異音が小一時間、続いたという…。


 翌日。
「………聞いたか?」
本部の廊下の片隅でこそこそと車座を組む数人…その制服から、ピースメイカー部隊の構成員と知れる。
「聞いた聞いた。なんや昨日、ザコ連中のアタマがものごっついコトんなって運ばれて来たってぇ話やろ?」
その特殊な一画を作り出す全員が部隊員らしい…通りすがる人々が、遠巻きに近寄らない。
「なんでもリーダーが本部までひきずって来たとか…」
「ひゃー。現場から20?qはあったやん、リーダー無尽蔵な体力してはるなぁ」
内の一人が我が身を抱いて怖気立つ。
「それで後頭部がハゲちゃったんでショ?またリーダーが気にしてるコト言ったんでしょうね…無知って恐ろしいわぁ」
「アレ、なんか気にしなあかんよーなコトあらはったっけ?べっぴんさんやし、お肌キレエやし。正直、初めて見たときなんて愛らしおなごはんやと…」
指折り数えるその前で、他のメンバーがあわあわとジェスチャーをする…が、手足をばたつかせるそれが一体何を意味してか分からないでいる、その上から。
 ハラ、と白い灰が降った。
「あ、リーダー♪」
己が失言に気付いていない隊員は、極上の笑顔を浮かべ、覗き込む水無瀬を見上げた。
「なんやえらいご機嫌さんやん、ええことでもあらはったん?」
「…もっぺん」
水無瀬はふ、と紫煙を吐き出す。
「テメェ、もっぺん言ってみろ!」
笑顔から憤怒への移り変わりが、前世紀の日本で信仰を集めた守護神に似るという事で…以降、水無瀬が一部の隊員から『大魔神』と呼ばれる所以がここにある。

 終
PCシチュエーションノベル(シングル) -
北斗玻璃 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年03月03日

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