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『もえるかもめさん。 』
三島・玲奈7134)&藤田・あやこ(7061)&天王寺・綾(NPCA014)

「皆で回しちゃる!」
「…回転寿司じゃないですよ、ここは。──…あ、いっぱい出してネ!」
「そっちこそ、どこのぼったくりバーや」
 わいわいと賑わう店内。
 セーラー服にメイド風のエプロン(アンダーにスクール水着着用)の娘二人が、銀盆にお冷をのせて、或いは布巾や注文票をもってあちらの席、こちらの席と独楽鼠のように動き回っている。
『ほら、奴隷1、奴隷2、きりきり働くのじゃ』
 黒地に青い魚柄の着物を纏った少女が、床から10センチ程のところに浮遊しながら娘二人──三島玲奈と天王寺綾にぴしゃりと命じた。
「奴隷って言うのやめてー」
「ウチは奴隷やない!……って、口調変わってんで、アンタ」
 間髪入れずに二人がツッコミを入れたが、当の少女──…座敷童は涼しい顔だ。
『妾はもともとこう言う口調じゃ』
 少女の隣では、こくこくと彼女曰く『御主人さま』な、精霊御鴎様が訳知り顔で頷いている。
 深夜の高野山東京別院。有名な霊場の一つというだけあって、大小様々な魑魅魍魎達が集まっていた。
「そういえば今日は出陣の宴…って、言ってましたけど…」
 注文のカッパ巻を届けてきた玲奈が所狭しと集まった魍魎達を見遣って呟いた。
 魍魎達は酒を片手に寿司をパクつきながら、武勇伝やら、自身の技のこと等を得意げに語らっている。中には必勝の鉢巻きを頭部にまいたものまで居る始末。
「ベオウルフやったか、──…倒すとか、えらい物騒な話やな」

 座敷童の話によれば、元々彼女は公家が興した老舗料亭・対鴎荘(たいおうそう)に住み着いていたのだという。
 しかしそこは、経営不振で取り壊されてしまった──見た者には幸運が訪れるとか、住み着いた家に富を約束するという伝承がある、座敷童が住み着いているというのに、だ。
 彼女は思った。
 自分が未熟なせいではない、霊力不足なのだ、と。
 不足ならば、借りればよいのだ。
 単なる自己弁護、責任転嫁なのかもしれない──それでも、座敷童は機会を待った。
 人にまぎれて、ずっと、ずうっと。
 やがて、強力な霊脳少女玲奈が産まれた。彼女の力を借りれば、何とかなるかもしれない──そう思い、童は成長を見守る事した。 だが喜びも束の間、邪悪な存在が生じてしまった。
「霊力借りれば良い、とか。サラ金業者じゃあるまいし…」
「…ご利用は計画的にお願いしたい所ですけど──…ってそうじゃなくて。ベオウルフって何ですか、やっつけるなんて出来るんですか?」
 いかにも強そうな名前だと、玲奈が困ったように座敷童と御鴎様を見る。
『心配は無用じゃ、グレンデルを召還すればベオウルフなぞイチコロよ』
 くっくっく、と何やら悪人笑いをする座敷童──…外見は子供だが中身はどうやら、黒い大人のようだ。座敷童の言葉にわいわいやっていた魍魎たちも『そうだ、そうだ!』と同調する。
「そやかて暴力はアカンで」
 殺気交じりの熱気に包まれる室内の空気を変えるように、ちちち、と人差し指を振りながら綾が諫言を口にした。
「別院が祀る水運の神、弘法大師の霊力では足らん?水妖神グレンデルまで召還してまで倒すべき相手って何や?」
 どうにも腑に落ちないといった風情の綾の問いに対する、座敷童と御鴎様の返答は取り付く島もないものだった。
『私達は料亭・対鴎荘さえ再建できればいいのです。でもベオウルフが邪魔』
『……という訳で、協力するのじゃ二人共』
 何でもすると言っただろう、と。ちっちゃいくせに態度のでかい座敷童の少女が偉そうに命じるのに、ぱんと両手を叩いた玲奈が名案を思いついたとばかりに口を開く。
「じゃ一緒に御寿司屋しましょ」
 ベオウルフも、グレンデルも、みんな一緒に、と。
 頭の中ではやたらファンシーなベオウルフ(想像図)と、グレンデル(想像図)が、ここに居る座敷童や御鴎様、魍魎達全員が自身が着て居る萌え寿司の制服を纏って接客している姿が展開されていた。
『だが断る!』
「…わ、そんなに力一杯言わなくても」
 綾と玲奈を除いた全員にきっぱりと断られて、玲奈の眉がハの字を描く。
『ここまで言っておるのに、頼みが聞けぬというのじゃな』
「それが人に物を頼む態度か、アンタら」
「……綾さんは人の事言えないと思います」
 思わずつっこみをいれてしまう二人。座敷童の後ろでは魍魎達が『ベオウルフの仲間だ』『裏切り者だ』等と騒いでいる。
 その場に不穏な空気が流れ始める。
『どうやら少々痛い目を見てもらう必要があるようじゃ』
「ちょっと待てぇい!味方になった覚えもないのに、何で裏切りモンな──ぎゃぁッ!?」
「綾さんッ!?……きゃぁッ」
 猛抗議を始めた綾に、魍魎の一匹から容赦なく電撃が浴びせられた。
 一応、死なない程度には加減されているのだろうが、不意打ちのそれに綾は悲鳴をあげて引っくり返る。
 心配する玲奈にも、電撃が飛んできて寸でのところで避けるものの、そう何発も避けられる自信はなかった。
「た、た……助けておかーさん」
 狭い店内をじたばたと逃げ回りながら、玲奈は懐から携帯を取り出しとある番号をコールする。


 ──…一方、デンマークの上空を幾つもの鳥影が覆っていた。
 一見、渡り鳥の群れのように見えるそれらは、鴎。鴎の大群である。
「…IO2本部、こちらあやこ」
 耳がおかしくなりそうな鴎達の鳴き交わす声と、羽ばたきの生ずる群れの少し後方を追う大きな鳥──ではなく、白い翼を持った少女が通信機を片手に追っていた。
 長い黒髪と、白い肌。そして一目で異形とわかる長いエルフと言われる妖精族の尖った耳、左右色を違えた瞳、そして背には天使を思わせる白き翼──…IO2オカルティックサイエンティストの藤田あやこである。
「膨大な群れが日本に進行中。まるで、あの姿は─…」
 一心に何処か……日本を目指して飛ぶ鴎達を翼を翻して追いながら、報告を続けるあやこ。
 時折、鴎達の散った羽毛が鼻先を掠めるのかくしゃみをしつつ、彼らを見て浮かんだ伝説の存在の名を唇にのせた。
「──…まるで、巨人グレンデルの様な」
 ふるりとその時微かに身を震わせたのは、果たして冷気のせいか、それとも他の要因があってのことか。
 通信を一旦切って、小さく息を吐いたその時、ぷるるる…、と懐に振動を感じそっと振動のもとを取り出す。
「あら。玲奈じゃないの、どうしたの?」
 取り出した携帯の通話ボタンを押せば、何やら切羽詰った娘の声。
「え…?ベオウルフ?鴎?…──ちょっと、順を追って話して頂戴」
 何があったというのか、早口で捲くし立てる娘の背後はやたらと騒がしい。
 不審そうに眉根を寄せてあやこは、受話器の向こうに意識を集中した。


「ベオウルフの正体が判明したわ」
 交通局本社にて、あやこは玲奈の通報を頼りに夥しい量のデータの中からベオウルフの正体に関する情報を手に入れた。
「ほんと?」
 あれから一悶着あったらしい、制服のスカートの裾の焦げ跡や、乱れた髪に名残がうかがえる。
 玲奈は電話の向こうのあやこの言葉にメモをとりながら耳を傾けた。
「列車の制御装置の名前らしいのよ。心臓部というか霊魂ね」
「制御装置?…しっかし何でデンマークの英雄に肖ったんだか?」
 相手が養母だからか、玲奈の口調もどこかくだけたものになっている。
「その宿敵が水妖グレンデルなの」
 漸く繋がったとばかりにぱちん、と指を鳴らした玲奈だったが、すぐに腑に落ちないという顔になった。
「たかが名前じゃん、それが霊力の妨げになるの?」
「言霊という物もあるわ」
 ことだま──言葉に宿る力。声に出した言葉が現実のことがらに対し影響を及ぼすという。
 よい言葉を口にすれば、慶事がおこり、不吉な言葉を口にすれば、凶事がおこるとされる。
「…──という訳で鴎つながりで何でも水の神通力を借りりゃええってもんちゃうで」
 玲奈からかいつまんで情報を得た綾が、座敷童を説得にかかる。
 一方では、あやこが制御装置の名前を変更するよう交渉をはじめた。

『童は水の眷属ぢゃ!』
「名前だけでもプログラム変更に何億かかると思います?」
 
 座敷童はきっぱりと。制御装置の責任者はやんわりと。
 取り付く島もない返答がかえる。
「だけど、このままじゃ沢山の犠牲がでるじゃないですか」
『譲れんものは、譲れんのじゃッ』
 玲奈が辛抱強く──けれど頬を僅かにひきつらせながら座敷童の考えを改めさせようと言葉を重ねる。
 身長差に負けないように睨み上げる童子と玲奈の間に、ばちばち…と見えない火花が散る。
「あ」
『……?』
「どうしたんですか、綾さん」
 火花を散らして睨みあう二人を見つめ、綾がふと何かを思いついたよう声をあげた。
「そうや燃えや!」
 指を鳴らすと携帯を取り出し、何かを取り寄せはじめた。
「名案が浮かんだんや、ええからウチの言う通りにしいや」
 程なく届いた荷物を手にすると、座敷童を引っ張って奥へと行ってしまう。
 そうして暫くして戻ってくる二人──正確には、座敷童の姿を見て、魍魎達が沸き立った。
『萌え萌え〜っ!!!』
『きゃ〜、恥ずかしいのぢゃ』
 魍魎達の叫びに、顔を赤らめて身もだえる座敷童。
 白いTシャツ、青いブルマに、白い靴下と、白いゴムの運動靴。
 青い昔ながらのブルマからのびた、10代ならではのすんなりとした白い素足が(邪な視点をもってすると)艶かしい。
 いわゆる、華も恥らうぶるまっ娘だった。
「ほら、うほうほ言ってるアンタもや」
 マニア垂涎の姿に喜びをあらわす御鴎様の首根っこをひっつかんで綾が再び奥へと向かう。
 戻って来た時には、御鴎様は黒いタキシードを着用した紳士な姿となっていた。
『うほっこれはいい執事』
「その口癖さえなければ…」
 外見はすこぶる美形の御鴎様──しかし、中身は激しくアレ。
 玲奈が額を抑えるのも無理はない。


 数日後。
「あん☆もふもふっ」
「俺も触らせろ」
「漏れも」
「私も」
「拙者も」
「麻呂も」
 腐った兄さん姉さんが玲奈の鴎に似た翼を触っている。
 その横では、ぶるまっ娘な座敷童がちょこまかと歩き回り料理の補充をしており、玲奈の指導が入ったらしい御鴎様がアルカイックスマイルを貼り付けて予約席の【お嬢様】達のお相手をしている。
 ここは、萌え喫茶『かもめ水産』。
 回転鮨から洋食までしっかりと取り揃えた、バイキング形式のカフェテリアである。
 拘りのネタに、拘りのシェフの手によって作られた料理たちは美味で客の評判も良い。
 口コミで広がり、今は大人気である──…客の99%が、アレな人たちの集まりであることを除けば。
「萌え=燃えや。水から火属性に転向すれば解決や。でもこれでええのんか?」
 煩悩という名の霊力をたっぷり補充された為か、座敷童の伝承どおり商売繁盛である。
 今度新しい萌え事業を立ち上げるときは力を借りようか、等と頭の中でそろばんを弾いていた綾を尻目に、店定番のシャウトタイムが始まる。
『宿敵、ベオウルフふんさいじゃー』
「うぉぉぉ───ッ!」
 お立ち台でぶるまっ娘座敷童が叫べば、訳もわからないままノリで客たちが叫ぶ。
 そのもえ滾るピンクとも紫ともなんともいえない、煩悩オーラが炎となって立ちあがり、異様な霊力を座敷童や魍魎達にあたえるのだった。


 萌え喫茶『かもめ水産』は、今日も萌えている。


─*Fin*─

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2009年09月28日

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