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『あぶない競泳用水着の秘密 』
海原・みなも1252)&海原・みあお(1415)&碇・麗香(仕事)(NPCA005)
●水着姿朝一番
 朝の陽の光が差し込む室内プール。時刻は朝の6時、普段であれば誰も居ないはずなのだが、その朝はいつもと違っていた。
「もー、何恥ずかしがってるの!」
 呆れたような少女の声が室内に響き渡った。見れば声の主は小学校低学年といった様子であるスクール水着に身を包んだ白銀の髪の少女。その視線の先を見てみると、何やら物陰に隠れて顔だけ出している青い髪の中学生らしき少女の姿があった。
「だ、だって……これ……」
 青い髪の少女は恥ずかしそうにそう言うと、ひょこっと顔をも隠してしまった。
「ほんとにもう! みあおたちしか居ないんだから、恥ずかしがることないのに!!」
 スクール水着の少女――海原みあおは隠れている少女に向けてそう声をかけ、早く出てくるように促した。
「でもこれ……身体の線が……」
「競泳用水着だもの、線くらい出るよっ!」
 未だ隠れる少女の訴えを、ばっさりと斬って捨てるみあお。
「碇だってそれ着てたんだよ! お姉ちゃんの倍以上生きてるのにっ!」
 何てこと言いますか、みあおさん。本人――月刊アトラス編集長である碇麗香がもし聞いていたら、目を三角にするような発言だ。
「ば、倍以上生きてるから……着こなせたんじゃあ……?」
 お姉ちゃんと呼ばれた少女――海原みなもがそんな反論をする。……何気にこっちも酷い発言のような。
「倍以上生きてても着こなせない人は着こなせないよ!」
 いや、みあおさん。論点が少しずれてきてます。
「倍以上倍以上ってうるさいわねっ!!」
 その時、みなもの隠れている場所から、別の女性の怒りの声が割り込んできた。そしてその声の主が押し出したのだろうか、物陰からみなもがようやく全身を露にした。
「ひゃあっ!」
 驚きの声を発しながら現れたみなもの姿は、その身を黒の競泳用水着で包んでいた。胸元がU字で背面がY字、特に何か模様なりが入っている訳でもなく、非常にシンプルな競泳用水着である。しかし確かに、みなもが言う通り身体の線がぴったりと出ている。だがそれだけ、みなもの身体にフィットしている証なのだろう。
「たく……あなたたち相手なら、倍以上になるのは当たり前でしょ。子供と大人なんだから」
 そしてぶつぶつ言いながら、同じ物陰から出てきたのはワインレッドのビキニに豊満な身体を包んだ麗香であった。もっとも腰回りはパレオで覆い隠していたけれども。
「貸し切ってるって言っても、時間ないんでしょう? 早く済ませましょ」
 と麗香はみあおに向かって言うと、小さな溜息を吐いて眼鏡を外した。
「あ、うん。営業時間までには終わらせる約束になってるもんね」
 みあおはそう答えると、みなもの方に向き直ってにっこりと笑顔を見せた。
「そういう訳だからほら、お姉ちゃん。諦めて早く終わらせよ?」
 それを聞き、みなもはがっくりと肩を落としたのである。何故こんなことになったのだろうかと、思い返しながら……。

●きっかけ
 それは数日前のことだった。みあおが何やらみなもに対してプレゼントがあると言うのである。それが今現在みなもが着ている競泳用水着だった。
「……水着?」
 前後左右表裏と、手に取ってじっくりと観察するみなも。別に生地が薄い訳でもなく、デザインが過激ということもなく、黒だから透ける心配もない。みなもにはごくごく普通の競泳用水着に見えた。
「もらい物なんだけどー。似合うかと思って〜」
 にっこり笑って言い放つみあお。確かに、みなもは水泳部に入っているし、何よりも人魚の末裔であるのだから、水には親しく泳ぎも長けてはいる。みあおの言うことももっともだ。
「その代わりと言ったらあれだけど〜……」
 そんなみあおの言葉に、つい身構えるみなも。だが、続く言葉はちと意外だった。。
「その水着を着て泳いだり色々してほしいんだけど」
「えっ?」
 当たり前のことに、みなも一瞬意表を突かれた。
「実はね〜」
 みあおはそのまま一気に事情を説明する。この競泳用水着には何やら謎の機能があるらしく、その検証をみなもに手伝ってもらいたい……と。
「それくらいなら……」
 みあおのペースに乗せられたか、承諾するみなも。そして今3人が居る室内プールを父親に頼んで営業時間前に借り切ってもらい、件の水着の当初の持ち主たる麗香をも誘って、現在に至るという訳だ。

●一目瞭然
 そして現在。
「でも……妙ね」
 みなもの姿をしげしげと見ながら、麗香がつぶやいた。
「え、何が?」
 と聞き返したみあおの手には、動画撮影も可能なデジタルカメラが握られていた。さっそく1枚撮ろうとしていた模様である。
「これ、同じのよね?」
「そうだよー?」
 怪訝そうに尋ねてくる麗香の言葉に、みあおは一瞬何を言っているのかと思ったのだが――。
「……あれ?」
 そこで何かに気付いたか、みあおが首を傾げた。
「何かおかしい所……あるの?」
 事情が分からぬみなもには、2人が何を疑問に思っているのかまるで分からない。
「うん、ある! 言われてみればおかしいよ!!」
 みあおは少し興奮した様子で、みなもと麗香を交互に指差しながらこう言った。
「碇とまるで体型が違うのに、何でどっちが着てもフィットしてるのっ!?」
「えっ」
 みなもが慌てて麗香の身体に視線を向けた。そういえば……そうだ。豊満な身体の麗香と、細身な身体のみなもとが、同じ水着を身に着けて同じように身体にフィットするはずがない。明らかにおかしいではないか。
「……本当に得体の知れない水着だわね」
 麗香の視線がみなもの水着へと注がれる。
 さて、この水着に隠された謎は果たしてこれだけなのだろうか。その検証が、今から行われるのだ。

●刺激的
「ひゃああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
 みなもの甲高い絶叫が、室内に響き渡っていた。
「いいよ〜、いいよ〜。声もちゃんと押さえているからね〜」
 と言いながら、みあおが嬉々としてデジカメを向けている先は、室内プールの端の方に設置されているウォータースライダー。今そこを、検証の一環としてみなもに一気に滑り降りてきてもらっていたのだ。
 そんなみなもの絶叫、恐怖心からくるそれではなく、どうも恥ずかしさと気持ちよさが入り混じったような感じのものに思われる。例を挙げるなら、くすぐられている時の悲鳴に近い感じの。
「……まあそうなるわよね」
 しかし麗香は、何やらこのみなもの様子に納得しているようである。
「ん? 碇、心当たりあるの?」
「あー……」
 みあおの質問に対し、麗香は少し思案してから若干照れたように答えた。
「……敏感になるのよ、あれ。刺激に対して」
「ああ〜」
 なるほどと頷き、ぽんと手を叩くみあお。だとすれば、滑り落ちるウォータースライダーは刺激の塊ではないか。
 そこへ全身ずぶ濡れになったみなもが、ふらふらとした足取りで2人の所へ戻ってきた。
「ダメ……一瞬意識が飛びそうに……」
 そう頭を振りながらつぶやくみなもの顔は、苺のように赤く染まっていた。その様子をもみあおが撮影していたのは言うまでもない。

●意外なる性能
 しばしの休憩後、3人は新たな検証を行っていた。といっても、それは1度麗香も試したことのある検証なのだが。
「うーん、やっぱり切れないね」
 みなもの水着の肩紐を少し引っ張り、はさみを入れようとしていたみあおが残念そうに言った。
「特殊な材質なのかしら? でもとてもそうには見えないし……」
 そうつぶやく麗香の手に、みあおからはさみが手渡されそうとした。その瞬間である、麗香がそれを受け取り損ね、はさみが……みなもの腹部目がけてまっすぐに落下したのは。
「「あっ!」」
 麗香とみあおの口から同時に声が出た。みなもは驚き声が出ない。そして、はさみはずぶりとみなもの腹部に突き刺さり……はしなかった。まるで床に弾き返されるように、はさみはみなもに刺さらなかったのだ。
 その信じられぬ光景に、思わず全員が無口になってしまう。次の瞬間、みなもが眉をひそめてそのはさみが当たった場所を右手で押さえた。
「……何だかちくっと……」
 とは言うが、みなもの腹部から血が流れ出てくる様子は見られない。無論、水着には穴1つ開いてもいないし、傷すら見当たらない。
「まさかとは思うんだけど」
 麗香が口を開いた。
「ひょっとしてこれ、防刃なんじゃない……?」
 なるほど、だったらはさみは突き刺さらないだろう。しかし、傷1つついてないのはおかしくないだろうか?
 だいたい、水着を防刃にして何のメリットがあるのかと。けれども、この水着がはさみを通さなかったのは事実である。

●最後にハプニング
 その後もいくつか検証を行ったが、特に成果も得られぬまま、営業時間が近付いてきていた。そろそろ引き上げなくてはならない。
「悪党ね」
 麗香が、傍らに居るみあおに向かって呆れたように言い放った。
「えー何がー? みあおはただ、別の所に入れてたのを忘れてただけだよー?」
 などと笑顔で言うみあおの言葉は、どこからどう見ても白々しい。ちなみに今この場に、みなもの姿はない。
「で、足元のバケツな訳ね」
「うん! たっぷり必要だと思ったからね!」
 元気よく答えるみあお。足元のバケツの中には、粘度を持った無色透明の液体がなみなみと注がれていた。いわゆるローションと呼ばれる代物である。
「……ただいま」
 そこへちょうど、顔を真っ赤にしたみなもが戻ってきた。手にはローションのボトルが入った袋を提げていた。みあおにどうしても必要だからと言われ、恥ずかしい思いをしながら外へと買いに出かけたのだ。濡れた水着の上に、ジャージを羽織って。
「ごめ〜ん。出かけた後に調べ直したらあったよ〜」
「え」
 しれっと言い放つみあおの言葉に絶句し、目が点になるみなも。
「でもまあ、いくらあっても困るものじゃないしー。じゃ、碇お願いね!」
「はいはい」
 ふうと溜息を吐くと、麗香はみなもの背後へと回り込み、まずは羽織っていたジャージを脱がせ始めた。驚き身を捩るみなも。
「ちょ……何をしてるんですかっ?」
「しょうがないでしょう。これ着てたって、脱ぐのに邪魔になるんだから」
「ぬ、脱ぐって何をですか?」
「あら聞いてないの? この水着、1度着るとローションとかでも使わない限り脱げないのよ?」
「そんなぁっ!?」
 みなもが訴えるような視線をみあおに向けた。見ればみあおはデジカメを三脚に据えて、自らはローションのたっぷり入ったバケツを手に向かってきていた。
「さあ、勢いよくかけちゃうよ〜!」
 みあおはそう嬉々として言い、抱えたバケツを後ろへと引いた次の瞬間――ちょうど脱ぎ捨てられたみなものジャージがつま先に引っかかって足を滑らせたのである。
「へ?」
 みなもと麗香の所へとみあおが勢いよく倒れ込み、折り重なって倒れる3人。そしてバケツは宙を舞い、中身は倒れている3人へと降り注ぎ、ローションまみれとなってしまう。たちまちみなもから悲鳴が上がった。
「ひゃあ!!」
「よかった〜、クッションがあって」
「クッションじゃないわよ!」
 みあおと麗香の間にそんなやり取りがなされ、とりあえず離れようとするのだが――。
「ひゃああっ! ちょ……動かない……でっ!」
「わあ、碇って……柔らかいんだね〜」
「こら! どこ触ってるのよ! 早くどきなさい!」
「みあおもどきたいんだけど、滑っちゃって〜」
「ひゃあああっ!! だから動かっ……ない……でっ!! ひゃああああああっ!!」
「だからこらぁっ! そう動くと解けちゃうじゃないのっ!!」
「文句はみあおじゃなく、このぬるぬるに言ってよ〜」
「ひゃあああああああああああああああああっ!!!」
 今日何度目かになるみなもの絶叫が、またしても室内にこだました。

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年10月05日

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