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『+ ララ香辛料店隊商護衛―取引とアルフォランス村散策― + 』
ルド・ヴァーシュ3364)&ザド・ローエングリン(3742)&マーディー・ララ(3755)&(登場しない)



 歓迎会の翌日。
 ララ香辛料店隊商が張ったテントの周りには朝早くから臨時の市場が出来上がった。
 農家はそれぞれ自分達が丹念に作り上げたアルフォランスの加工品を持ち寄りマーディー達に売り込みを開始する。
 持ち寄ってきた物の種類は数多く、農家によって特徴が違う。
 乾燥させたアルフォランスの花、葉、茎を袋詰めにして持ち寄ってくるところが多いが、中には「道中の食料としてどうだ」とアルフォランスを使用して製作された干し肉や簡単なスープなどを持ってくる者もいる。
 多少なりとも帰りの食料品にも不安を覚えていたマーディーは有り難くそれらを買い取っていた。


「ん、やっぱりアルフォランスは香りが良い。乾燥させた花の上品な甘い香りはお客さんにも人気なんだよ。葉や茎は香りは弱めだけど噛むと甘みが感じられるのが隠し味に丁度いい。昨日の料理も本当に美味しかったしね」
「姉さん、それならあっしのところの花も負けねぇぜ。こっちはそっちのアルフォランスよりも高級品だ!」
「何を言うか! それならうちのだって!」
「待って、わたしのところのも見て頂戴よ」
「ああ、全員の品物を見させて貰うよ。出来栄えを確認させて貰って価格交渉。互いに納得した上で買い取らせてもらうから喧嘩しないでおくれよ。そっちのお嬢さんはそこの変な顔したうちの商人に見てもらって良いかい。そっちの兄さんはあっちの男だ」


 マーディーはてきぱきと村人と商人に指示を下す。
 早く早くと急かす村人を宥めつつ、商人に列を振り分ける。商人の中にも花の選別に特出した者、葉や茎の知識が豊富な者と分かれているためだ。
 マーディー自身も気になったものは積極的に口にし、花の大きさや風味を確かめながら値段を決めていく。
 花の袋を開けば甘い香りがふわりと漂う。
 茎や葉の袋を開けば爽やかな草の香りが鼻を擽る。
 今年のアルフォランスの出来栄えは見事なもので、マーディー達の機嫌も凄く良い。口にするもの全てが質が良く、店先に出した時の客の反応がとても楽しみだ。


 村人と談笑しつつ進む取引はいたって良好。
 ルドとザドも隊商達と村人達を見守りながら取引が終わった荷を馬車へと運ぶ手伝いをする。
 袋に詰め込まれた花は潰さぬように優しく抱きかかえ手前に、葉や茎の入った重い荷は奥の方へと積み込んでいく。


「ザド、それはこっちじゃなくてそっちだ」
「え、こっちだよー」
「そっち」
「こっち!」
「はは、二人とも違うね。その荷物は向こうの馬車だよ」
「「……え」」


 時々間違った場所に荷を乗せそうになるがその度に他の商人に訂正され正しい場所へと運んだ。
 そんな風に取引は進み、午後になれば村人も減り手が空いてくる。
 ザドは少しだるくなったらしく腰に手を当てて身体を捻ったり手を組んで上に伸ばして筋肉を解した。


「二人とも、私は農家を回ってくるけれど一緒に来るかい?」
「いくー!」


 他の商人に先の取引を任せたマーディーに誘われ、二人は一緒に村の中を散策する事にした。
 道中、村の人達に今年の村の様子を聞けば自然災害や野生動物に荒らされる事無く、収穫も滞りなく終えられたとの事。だからアルフォランスも上等な物が収穫出来たという。
 畑も見せてもらうと殆どの畑は刈り入れされており、平面な地が多い。収穫していない部分は村の分であろう事は直ぐに予想が付いた。


「はな、あまいにおい。おいしそう!」
「確かにアルフォランスは生花の香りが一番心落ち着くよ。だから私は畑に来るのが好きだよ。ほらあそこに花に口付けている村の子供達がいるだろう。実はアルフォランスの花の蜜も甘くて美味しいんだ。花が蓄える蜜は少量だから商売にはならないけど、蜜を一つ口にすると病み付きになるとか」
「かといって花を毟り過ぎると商売上がったりだろう」
「そこは子供達だって分かっているだろうね。だから私達商人が来た後にほんの少しだけならって大人から許しが出るのさ」


 屈託のない村人達や遊ぶ子供達の姿を見詰めるザドの眼差しはとても優しい。
 それはマーディーやルドも同じ。長閑な田園風景に心を和ませながら巡り歩くのはこの村に来るまでの疲労を忘れさせてくれるかのよう。
 情報交換と交流を兼ねて村人に話しかけるマーディーの後ろに立ち、空を見れば青色。そしてそれに映える花のオレンジ色がとても綺麗。
 夕方になればきっともっと色が混じり合って青から橙へのグラデーションが掛かった綺麗な景色になるのだろう。


 不意にザドは遠くの空を眺めるルドの姿に気付く。


「どうしたの? なにか見つけた?」
「――ああ、いや……空が」
「そら?」
「流れる雲が好きなんだ」
「く、も?」


 空を見れば確かに青の中に広がる雲。
 風に吹かれ自分達の知らぬ場所へと消えていく白色。それはいつも当たり前の様に自分達の上にあるものだ。


―― ルドの好きなものはじめてきいたかもしれない。


 ザドの心の中に湧いた小さな感情。
 驚きと……そして嬉しさ。
 それなりに一緒に居るようになったけれど、まだまだ彼の事を知らない。だからもっと知りたい。もっと彼の好きなもの、嫌いなもの、嬉しいもの、楽しいこと、怖いもの、――なんでも知りたい。
 他愛のない発見に心が揺れる。


 吹き抜ける風が草や花を揺らし。
 小鳥のさえずりが聞こえ。
 子供達の笑い声、村人達の談笑も届く村。


 穏やかに過ぎていくひと時の休息。


「ね、ルド」
「ん?」
「ぼく、ここにこれてよかったっておもう」


 きゅっと相手の指先を握り込み畑へ視線を向けながらザドは伝える。
 ルドもまたザドを見やり、同様に畑へと目を向け――指は折り曲げられ、僅かに絡めた。



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 夜になれば空にはまんまるお月様。
 静かな夜に夜鳥が鳴く。


「皆、買い付けは成功し旅も残り半分だ! さあ、帰りも油断せずに頑張って帰るよ!」
「「「おー!!」」」


 マーディーが掲げた杯を合図に皆も手をあげる。
 明日の朝、隊商はエルザードに向けて岐路につく。その前に気合入れと取引の成功を祝って本日も村人から頂いた手料理や茶などを頂く。


「ルドとザドも帰路の護衛を宜しく頼むね。二人には他の仕事も手伝ってもらえて本当に助かっているよ」
「おてつだい、できてるならぼくもうれしいです!」
「思っていたより事が進んでいる様でこっちもほっとしてる。これで後は盗賊やモンスターが出てこなければ良いんだがな」
「はは、それは私達も祈ってるよ。これで荷をおじゃんにされたんじゃ堪ったもんじゃないからね。もし何か荷を荒らすようなやつが出てきたときはその時は二度と隊商に手を出す気なんて起こらないほど遠慮なく叩きのめしておくれよ」
「自分からは仕掛けないって話じゃなかったのか?」
「『正当防衛』なら私は二人が何をしようが口を出さない――なんてね」


 冗談も交えながら宴は続く。
 肩を竦めウィンクしたマーディーの発言にルドは思わず口元を緩めた。


 ザドは何気なく空を見上げる。
 昼間ルドは「流れる雲が好きだ」と言った。
 今見上げる空は満月と星、そして薄い雲が在る。時折雲が月を隠すがそれもまた風情のあるもの。ザドは首が痛くなるのではないかと思うほど長い時間空を見つめ続ける。


「そら、きれい」


 その一言は思わず口から出たものだ。だが茶の入った杯に口付けたルドはその言葉を聞き取り、静かに頷く。
 ザドはその行動には気付かない。


 雲が流れ時間の流れを教える。
 やがてぐぅううっと腹の音が鳴り空腹を知ると、ザドは慌てて御飯を食べだした。





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3364 / ルド・ヴァーシュ / 男性 / 26歳(実年齢82歳) / 賞金稼ぎ / 異界人】
【3742 / ザド・ローエングリン / 中性 / 16歳(実年齢6歳) / 焔法師 / レプリス】
【3755 / マーディー・ララ / 女性 / 25歳(実年齢25歳) / 冒険商人 / 人間】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、毎度発注有難う御座います。
 村での出来事――取引+散策編です。長閑なひと時……そして+αを付け加えさせていただきました。穏やかな時間を感じていただけたら幸いです。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年10月06日

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