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『『東京湾出発、幽霊船クルージング』 』
エミリー・ライラック(mr0250)

○オープニング

「東京湾発一泊クルージング・参加募集中!」
 夏真っ盛り、夏休みにはどこへ行こうかと悩んでいる皆の前に、こんなチラシが飛び込んできた。
 東京湾から出て太平洋をクルージングしながら一泊二日のクルージングツアーで友達や恋人、家族を誘って遊ぶにはちょうどよさそうだ。
 手ごろな価格のツアーに申込者もそれなりに多く、向かった船は多くの人で混雑していた。賑やかな船旅になりそうであった。
 しかし、楽しいツアーの途中、船で異変が起こる。それは‥‥?



■クルージングツアー

 夏も終わりに近付いたその日、東京湾から出発する客船には、クルージングを楽しもうと色々な地方から人々が集まってきていた。親子連れや、カップル、友人同士等、老若男女あらゆる人々がおり、それぞれがこの船の旅に胸を躍らせている様子であった。
 エミリー・ライラック(エミリー・ライラック)も、そんな船の旅を楽しもうとやってきた1人であった。
 年齢17歳、茶色の髪の毛に、シャツとミニスカートというその格好は、特におかしな点もない、どこにでもいるごく普通の女の子であった。実際には両性なのだが、見た目は女性である。
「これがクルージングの船なんですね」
 エミリーはそう呟き、目の前にある大きな船を見上げた。豪華客船というわけではないので、ため息が出るような豪華で巨大な船がエミリーを待っているわけではないのだが、ツアーの客船は3階建ての品のある白い色の船で、船体にはペガサスの絵が描かれている。おそらくは、船を作製している会社のロゴなのだろう。
 エミリーは待合室へ行き、出航の時間を待った。待合室では多くの人がおり、船への乗船時間を待っていた。
 エミリーの様に、1人で参加をする人はあまりいなかったが、まったくいないわけでもない。のんびりと本を読んでいる人や、携帯ゲーム機で遊んでいる者たちを見ながら、船に乗ったら何をしようかと、エミリーもまた年頃の少女らしく、これから始まる旅に胸を躍らせているのであった。それに、この船で同じ乗船客と友達になりたいとも思っていた。
 エミリーには、普通の人間とは違う部分があったのだが、そんなことは関係なく、色々な人々と友達になりたかった。
 しばらくすると、アナウンスが流れ、搭乗時間になったことを伝えた。エミリーは席を立つと、人々の流れに乗り船の乗り場へと向かったのであった。

■船上で

 エミリーは最初に、スタッフに宿泊の部屋に案内された。それは船の中程にある窓のある部屋で、1人部屋なのもあり、それほど広い部屋ではなかったが、それでも宿泊するには十分な大きさであろう。
 彼女はベットに腰掛けて、船が出港をするのを待った。船室に取り付けられたスピーカーから、癒し系と思われる透明感のある音楽が聞こえてきた。船がわずかに揺れる。いよいよ船が動き出したのだ。
 エミリーは部屋から出て、テラスで景色を楽しむ事にした。すでにテラスには多くの人がいて、それぞれにビデオカメラをまわしたり、写真撮影をしたりして楽しんでいる。携帯電話のカメラで撮影している者もおり、思い思いにこの船の上の景色を残している様であった。
 出航自体が夕方なのもあり、すでに海の彼方はオレンジ色に染まっていた。振り返れば、東京の景色はどんどん遠ざかっており、黒いシルエットに町の明かりが光っているのが見える。
 しばらくその景色を見つめていると、やがてあたりは暗くなってきた。夕食はブッフェスタイルで夜10時まで自由に食べることが出来る為、エミリーは腹をすかせて夕食にいくことに決めた。
 船内には温水プールがあり、さほど大きくはないのだが、泳ぐには十分な大きさであった。
 水着に着替えたエミリーは、プールに飛び込み海の上の水辺を楽しんだ。プールにいると、船が動いている感覚がまったくせず、このプールが海の上を進んでいること自体が不思議な感覚になってくる。
「ねえ、君1人なの?」
 エミリーがプールサイドに腰掛けていると、若い男が3、4人、エミリーに話しかけてきた。
「はい、1人です」
「なら、俺たちと一緒に遊ばない?」
 エミリーは笑顔で男達に返事をした。
 女の子が1人で泳いでいるのは珍しかったのかもしれない。いわゆるナンパではあったが、エミリーは若い男性達と一緒にプールで泳ぐ事にした。ビニールのボールを投げたり、滑り台を滑ったり。たわいもない話をし、プールから出たあとも、彼らと一緒にディナーを楽しんだ。
 食べ放題のディナーの食事はまあまあの味で、エミリーは腹が膨れるほどに食事を食べた。
 夜、若者達に部屋に来てみないかと誘われたが、プールで運動し疲れていたのもあり、早々に自室へ戻って休む事にした。

■異変

 エミリーは、どことなくおかしな気配に気づき、目を覚ました。一瞬、まだ夢の中にいるのかとも思ったが、そうではないようであった。目に見えて何かおかしな事が起きているというわけではないのだが、何か胸騒ぎがしているのだ。
 もしかしたら海を調べることになるかもしれないと、エミリーはパジャマの下に水着を着て部屋の外へと出た。そのまま船室を出て廊下を進んだ。
 不気味な程に部屋の外は静まり返っており、エミリー以外には誰もいない。やがて彼女は、1人静まり返った甲板へと出てきた。
「あの船は何でしょう?」
 エミリーの視線の先には、この時代にはまるで似つかわしくない、中世のヨーロッパの様な巨大な帆船があった。船のまわりは霧で覆われており、帆船に近付くにつれて自分が今どこにいるのかもわからなくなっていた。
 その船はかなり傷んでおり、帆もぼろぼろに朽ちており、まるで幽霊船の様であった。
「あっ!」
 エミリーは、霧の中から沢山の骸骨が近付いてくる事に驚きの声を上げた。次から次へと、まるで霧の中から生まれ出るかのように、骸骨がエミリーに近付いてくる。視界のきかない状況の中、エミリーはすぐに骸骨に囲まれてしまっていた。
「どうして骸骨がこんなところに」
 ついに数時間前まで、人々が楽しく過ごしていた船はどこにもなかった。あの幽霊船のような船がどこから来たのかわからないし、何を目的なのかもわからない。
 しかし、骸骨たちがサーベルや銃をエミリーに向けているところかしらして、友好的とは思えなかった。
 すぐ手前にいる骸骨が、湾曲したサーベルをエミリーに向けて振り下ろしてきた。エミリーはそれを寸前のところで避けたが、気づくのが一瞬遅く、彼女のパジャマの腕の部分が切り裂かれた。
「酷いことを!こうなったら、私も応援します!」
 次々にエミリーに剣を振るう骸骨の間を縫って走りぬけ、あやうく銃で撃たれそうになったのを寸前でかわし、彼女は海に飛び込んだ。飛び込むと同時にパジャマを脱ぎ、海中へと没する。
 溺れる心配をする必要はなかった。彼女はその体を次第に変化させ、本来の姿である巨人の大きさへと変えていった。
 彼女が過ごしていた客船や、幽霊船がおもちゃの船に見えてしまうぐらい、彼女の本来の姿は大きなものであった。今のエミリーには、深い海もふとももぐらいの深さでしかない。
 だが、この大きさもまだまだ彼女にとっては小さいものであり、真の姿はさらに巨大なものである。
 エミリーは幽霊船をつかみ上げると、おもちゃを壊すようにして、幽霊船を破壊した。破壊した船の中から、骸骨がぼろぼろと零れ落ちてきたが、巨大化した彼女には小人の様であった。
 決着はあっさりとついた。その時、朝日が差し込んできて、幽霊船を照らし、蒸気が上るように幽霊船は消えていってしまった。
 この船の目的が何なのか、またどこからやってきたのかはわからないが、エミリーは学園で、海で死亡したさまよえる魂が、生きた人間の魂を集めて生き返ろうとしている、という話を聞いたことがある。
 それは油断は海のどこかをさまよっていて、霧とともに現れて、生者をさらっていくのだとも。
「朝がやってきました。もう、帰らないといけないですね」
「うわー、あの女の子だ!」
 船の方で声が響いた。見下ろすと、昨日、エミリーを船で誘った若い男達が甲板に出ていた。
「どういうことだよ、まるで巨人じゃないか」
「そうです、私は巨人なんです。今、幽霊船をやっつけました」
 若者達はとても小さく、エミリーにしてみれば小人であった。

■巨大な女の子

 若者は、昨日一緒に遊んでいた女の子が、今壁のように自分の目の前にいる事に驚愕していた。夢の中にいるのかと思ったが、現実の様だった。特殊撮影にしては出来すぎている。彼女は水着でいるのだが、巨大すぎて色気は感じられなかった。
 朝日を見ようとして出てきたら、朝日よりも凄いものを見てしまったのである。こんな巨大な人間がいること自体、信じられなかった。
「海をこうしてみるのも楽しいですね。一緒に、遊びませんか?」
 一緒に遊ぶと言われても。若者はそう思ったが、彼女の大きな手に乗せられて、まるでクレーンの様に、海の上空に行き、海を見渡すのはなかなか気持ちが良かった。
 巨大ではあるが、エミリーには小さい時と変わらない可愛さがあった。若者達は、彼女の手に乗せられたまま海を移動したり、上空で景色を楽しんだりと、信じられないような時間をエミリーと過ごした。
 この時間は、エミリーにも若者達にも、忘れられない思い出となる事は間違いなかった。(終)



◆登場人物◇

【mr0250/エミリー・ライラック/両性/17/巨人/超機械科学(超機学)】

◆ライター通信◇

 はじめまして、発注有難うございます。ライターの朝霧青海と申します。

 前半は、エミリーさんが船の旅を楽しんでいるところを、後半は巨人のエミリーさんの戦う姿を描写してみました。ラストはどうもっていこうかと考えたのですが、船を破壊するとありましたので、ラストはかなりあっさりしているのですが、最後にエミリーさんが普通の人間と遊んでいるところを入れてみました。
 巨大なエミリーさんを見た他の人からの描写は、前半に登場した若い男たちからの視点にしてみました。
 楽しんでいただければ幸いです。

 それでは、どうもありがとうございました。
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朝霧 青海 クリエイターズルームへ
学園創世記マギラギ
2009年10月06日

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