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『楽しんだ者勝ち!海辺のアルバイト 』
御影 柳樹(ga3326)


「海の家だぁ?」
 『けもののきもち』の強面おばちゃん院長、随豪寺徳(ずいごうじ・とく)は、古馴染みの頼みに露骨に顔をしかめた。
「いくらなんでもベタすぎだろ……あんた、なに企んでるんだい?」
「嫌ぁね徳ちゃんたら、人聞きの悪い」
 ハスキーヴォイスで身をくねらせる織女鹿魔椰(おるめか・まや)は、実はおっさんなんだけれども相変わらずやや薹のたった美女にしか見えない。光沢のある黒いロングドレスのスリットから覗く脚線美には、正真正銘XX遺伝子の保持者として数十年来納得のいかない徳である。
「そりゃ第七診療室はどこぞの浜辺とリンクしてるし盆を過ぎても水温高いしクラゲも出ないがね、なんだってこそこで海の家なんだよ?」
「あたしだって人の子ですもの。一度くらい、海洋汚染エピとか番外編エピとか劇場版エピの引き立て役とかじゃない、正真正銘平和でベタな夏の思い出を作ってみたいの☆」
「次に語尾に☆つけたらぶっとばすよ、この元悪の組織大幹部。どんだけ苦労してあんたらの陰謀を潰してまわったと……まあ昔話はいいや。五万歩譲って貸してもいいけどさ。あそこって結構、半魚人出るよ? 性格単純にして粗暴で身の丈七、八尺あるよ?」
「そんなの、徳ちゃんの人脈でどうにかして頂戴よ!」
「近頃なにかと物入りでね……」
「わかったわよ、ちゃんと日当払うから」
「毎度。そういうことなら求人広告でも出してやろう」
「あ、売店の方もお願いねぇ☆」
 艶サラのストレートヘアをセクシーにかきあげた魔椰は、院長渾身のアッパーで星になった。

 ──そんなわけで、下記の募集と相成る。

■シーサイドハウス☆ルル スタッフ募集!■
 1)浜辺の警備スタッフ(半魚人出没エリアです。追い払えればOK。退治尚可。解決後は自由時間)
 2)売店スタッフ(出店アイディア歓迎。お小遣い稼ぎのチャンス!)


+++++++++++++

 青い空に入道雲。
 照りつける南国の日差しと、椰子の木陰を抜ける心地よい潮風。
 きらめく白い砂を波が洗い、エメラルドグリーンの海には色とりどりの熱帯魚が遊ぶ──
 『けもののきもち』第七診療室の扉の向うは真夏のビーチであった。
 それも人っこ一人いない、まさにプライベートビーチだ。
 やけに大きな太陽は中天にあり、真昼の状態があと十数時間続くという。
 依頼主のおっさん、もとい、魔椰は「ある程度形になったら呼んで頂戴ねえ☆」とのことだったので、各アルバイターは到着順に広い砂浜を踏みしめた。


「海はいいさ〜夏の海は最高さ〜」
 南国に魅せられし道産子好青年、御影柳樹(みかげ・りゅうじゅ)は愛機リッジウェイの傍らに降り立ち、大きな体を更に大きくして伸びをした。琉球弁の怪しさはご愛嬌だ。
「それにしても変な依頼さ〜海の家の見張りって……ここ、バグア支配地域だった気がしたさ?」
 まあUPCを通した依頼ではあるし、細かいことは置いておこう。どうやってここまで来たのかなどという疑問も、辿り着いたんだからいいさ〜と併せて無視だ。
「見張りかたがた荷運びなんかも手伝うさ〜」
 依頼主の部下だという黒服の男達──サングラスはともかく砂浜でダークスーツ革靴はいかがなものか──に声を掛けると、大喜びで寄ってきた。浜辺に車輪の跡を刻みつつKVで資材や物資を運んだ後は、人海戦術での設営に参加する。主体は結構本格的な厨房とバーカウンターを備えた洒落た造りだが、いわゆる海の家なスペースもある。ちなみに調理も黒服連中が担当するらしい。スーツにエプロン姿で鍋の味見をしたりうちわを扇ぐ姿は絵的に微妙だ。
「でも段取りはいいさ〜」
 自他ともに認める家事好きの目から見ても納得の手際である。ついでに言うと、開店までのつなぎにと大皿に用意された天むすといなり寿司はあらかた彼の胃に消えていたりする。
「それにつけても、半魚人はどこ──」
 言いかけて、柳樹は細い目を細いなりに丸くした。波打ち際に、いつの間にか人だかりがしている。否、筋骨逞しい体にマグロの頭の乗っているのだから半魚人だかりと呼ぶべきか……ともあれ、腰に海草を巻きつけた裸族の足元に倒れ伏す人影を見出した瞬間、反射的に体が動いた。
 突如乱入した、自分達とほぼ同じもしくは更に上背のある巨漢に反応する暇さえなく、半魚人どもは次々と宙を舞う。中には彼の動きについて来る個体もあったが、体重を乗せた剛拳の前にあえなく沈んだ。
「……ん〜?」
 腕にものいわせながらも、柳樹は意識の隅に違和感を覚えていた。なにか、いつもと違う……?
 覚醒をすっ飛ばして素手で殴っていたことにようやく思い至ったのは、敵をあらかたぶちのめした後であった。
「フォースフィールドもないし……こいつら、キメラじゃないさ?」
 クリーンヒットを喰らった仲間を引きずりながら海岸線沿いに浅瀬を遠ざかる姿に首をかしげていると、遥か彼方からも同じような一団がやって来た。そういえば銃声を聞いた気がする──他の警備スタッフに追い散らされたのかもしれない。キメラでなくとも数十匹の半魚人をいちいち相手にするのは面倒だ。
「ん〜そろそろリッジウェイの出番な気がするさ……」
「よろしければリッチでニッチな武器をお貸ししましょうか?」
 振り返ると、深緑色のローブの怪しい男がにこにこしていた。歳の頃は柳樹と同じくらい。全身砂まみれだ。先刻倒れていた本人だろうか。東雲緑田(しののめ・ぐりんだ)と名乗ったぼさぼさ頭でぐるぐる眼鏡の男は、しげしげとリッジウェイを眺めやり、
「但し『なんくるないさ〜キャノン』は一発ネタですし『エイサーボム』は負荷が大きいですし『かりゆしビーム』は試作段階──」
 のきなみ問題がありそうだ。
「あー……今回は遠慮しとくさ〜」
「おや、そうですか。では僕は仕込みがありますので」
 断られても別段気にする様子もなく、実は海の家販売員でしてと付け加え、緑田はすたすたと去って行った。
「世の中には色んな人がいるさ……」
 しみじみ呟き、柳樹は愛機に乗り込む。その慨嘆を証明するが如く、半魚人の群れを追いまくっていたのは虎頭の獣人とリボン状の呪符を巻いた黒髪の娘と凶暴なチワワであった。もっとも、先方もKVに驚いているふうなのでお互い様だ。同じく浜辺防衛スタッフだと伝えるべく、椰子林へと逸れた集団に回り込んで薙ぎ払ってみせる。論より証拠とはよく言ったもの、派手に宙を飛ぶ魚頭マッチョ集団はなによりのアピールとなった。
 陸へも行けず浜では挟み撃ちにされ、ことここに至って半魚人の行動は三通りに別れた。
 即ち、一目散に沖へ逃げ帰る──これが最も多かった。
 次いで果敢に向かってくる──獣人が威嚇射撃に止めていること、娘が格闘のみであることを考慮し、柳樹もまた穴を掘る要領で砂ごと掬い取ってはひたすら海原にポイ捨て(という名の全力投擲)してやった。
 最後に、その場にごろんと転がって微動だにしなくなる──逃亡する気力すら喪失したのか単なる習性なのかは謎だ。
「頭だけなら魚市場みたいさ〜」
 暢気な感想と共にリッジウェイから降りる彼に、
「ほう、人が操っていたのか」
 声を掛けたのは獣人である。虎頭人身の男はジェイドック・ハーヴェイと名乗った。
「これって……乗物……?」
 千獣(せんじゅ)という娘はKVを不思議そうに見上げている。その足元で、喋るチワワ、バロッコがきんきん声で問うた。
「で? この大マグロどもはどう料理する?」
「あれ、こいつら食用だったさ?」
 人の(否、犬の)悪そうな口ぶりに敢えて乗ってみせると、十匹ほどの半魚人がビクッと痙攣した。更に、
「バロッコ……さっき、兜焼き、って……」
 と、これは天然であろう千獣の追撃に、人間部分に滝のような汗をかきだした。
「待て待て、あまり苛めてやるな」
 見かねたジェイドックが苦笑混じりで割って入る。
「勝負は完全についていることだし、できたら共存の方向へ……うん、いや、わかったから手を放せ」
 言葉の後半は、思わぬ助け舟に跳ね起きた半魚マッチョ十匹に縋りつかれたせいだ。大きな目がどことなく潤んでいるように見えなくもない。
「ん〜、まあ僕らの仕事はあくまで警備なわけだから、おとなしくしてくれるなら異存ないさ?」
 柳樹の返答に、千獣も同意する。半魚人も了解した旨を身振りで必死に伝えてきた。
「では後ほど雇い主に聞いてから処遇を決めよう」
「そうですね、売店の方も、皆さん準備が整いましたし」
「ちょ、緑田さん、いつ来たさ?」
 またしても柳樹の背後に深緑ローブがいた。まるで気配が読めない。顔見知りらしき獣人達が突っ込まないところをみると、特技の一種なのだろう。まあいい、そういうことにしておこう。先程から漂っているうまそうな匂いの方が、柳樹としてはよほど気になる。運搬した大量の食材を思い出したとたん、盛大に腹が鳴った。
「ふ、この正直者め!……ところで我輩も小腹が空いたぞ、千獣」
 柳樹の腹の虫を揶揄したその口で偉そうに甘える超小型犬を、千獣が抱き上げる。
「うん……何か、食べよう……」
「何かではない。麺である!」
 すると緑田が顔を輝かせた。
「ラーメンはいかがです? 今ならもれなく魔法少女になるチャンスが当たる、サマーマジ狩るキャンペーンもやってます!」
 言葉の意味はよくわからないが、魔法少女はハンティングを嗜むようだ。


「あらまあまあ、素敵じゃなぁい☆」
 シーサイドハウス☆ルルのオーナーこと魔椰が歓声を上げた。ミニ丈のサマードレスからおっさんにあるまじき美脚をさらし、椰子の木陰を生かした南国風のバーや、カレーにおでん、焼きそば等の麺類、かき氷といった定番メニューの並ぶ海の家を上機嫌で見て回る。
「ところで、と。アレはなんなのかしら?」
 ネイルばっちりの指さす先には、緊張ぎみに渚に佇む半魚人がおよそ三十匹。いつのまにか数が増えている。おまけに波間にもマグロの頭が見え隠れしていた。仲間が気になって戻ってきたものとみえる。
 柳眉をひそめるオーナーにジェイドックが説得を試みた。
「魔椰……だったか。もう争う気はないそうだし、売り子かなにかに使ってやったらどうだ?」
「そうねえ……」
 肉食系の美女(ではないのだが)は逞しい獣人をうっとりと眺めた後、可愛らしく肩をすくめた。
「ま、ぶっちゃけ侵入者はあたし達なわけだし? おとなしくしているなら居てもよくってよ☆」
 寛大な処置に礼を述べ、ジェイドックは状況を伝えに立ち去った。
「あっでもぉ、お魚ちゃん皆いいカラダしてるしぃ、ちょっと楽しませてもら……あ痛ッ! しかも熱ッ!」
 くだらない発言のさなかに焼けた砂につんのめって悶絶する魔椰の背後には、拳固をかためた強面のおばちゃん院長がいた。
「踊り子さんには手を触れない!」
「ひどいわ徳ちゃん、軽いジョークじゃないの」
「ん〜でも目が本気だったさ?」
 さりげなく茶々を入れる柳樹の手には、いちはやくゲットした焼きトウモロコシがあった。朝もぎのジューシーな粒に焦げた醤油が香ばしい。
「んまッ憎らしい、こうなったら貴方の可愛いメカを乗っ取って悪用してや……ぐはッ!」
 院長渾身の蹴りが決まったところで、黒服達が魔椰を丁重に引きずっていく。
「敵に回すと案外面倒かもしれないさ……?」
 感慨深げにひとりごち、柳樹は売店巡りを開始する。警備の仕事が一段落したからには腹ごしらえだ。端っから食べてるじゃん、という指摘は却下である。
 カレー、焼きそば、おでん等々、準備中から気になっていた定番メニューを全て腹に収めた後は、半魚人で大盛況の緑田のラーメン屋だ。今回の目玉商品、麺からスープまで昆布尽くしの多分ヘルシーな一品『半魚人さんお袋の味特製昆布メン』を特盛りで注文する。麺もスープもラッコをかたどったトッピングももれなく緑という強烈な物だが、十重二十重にひろがる磯の風味が複雑怪奇でちょっとクセになりそうな味わいだ。現に半魚人の味覚にはジャストミートしており、リピーターが絶えない。
「さて……」
 ここで柳樹はしばし葛藤する。やがて大きく頷いて、
「男は度胸さ、せっかくだから売店コンプリートを目指すさ〜! すいません、『サスカッチ丼』のテラ盛りと『モスマン・スムージー』のラージ、あと『深海バーガー』のトリプルと『鋭角ホットドッグ』のダブルと、あ、『ファラオ焼き』は全種類三個ずつ頼むさ〜、それから──」
 矢継ぎ早に注文しだしたのは、名称の怪しさに避けていたメニューである。
 食べられない物がこんなにいい匂いがする筈がない。帰還後に念の為精密検査を受ければよかろう。なんくるないさ〜。で、未知なる一歩を踏み出したというわけだ。実際、素材がいまひとつ判別しかねる──企業秘密だとかで厨房は見学させてもらえなかった──ことを除けばどれも美味であった。
「この風味、歯ごたえ、喉ごし……なかなかどうして侮れないさ〜」
 浜辺をそぞろ歩きつつ満面の笑みで舌鼓を打っていると、突然、頬をなにかがかすめた。次いで、砂にめり込む重い音と子供っぽい甲高い声。
「そこな大男! 貴様を『へびーちばれー』要員に任命する。疾く参れ!」
 お喋りチワワのバロッコだ。
 唐突かつ高飛車なお誘いに周囲を見れば、いつ準備したものかコートが整備されネットが張られていた。千獣はチワワ組で、ジェイドックは審判のようだ。
「じゃあ、あたしがこっちの男前さんと組むわね☆」
 気づけばどう見ても石の球──飛んできたのはこれか!──を抱えた魔椰が傍らでウインクしていた。要はヘビーなビーチバレー、なのだという。競技名と使用アイテムがそうとう胡乱だが、オーナーの参戦宣言に観客も兼ねる黒服達が拍手喝采する。なんだろう、この異様な盛り上がり。断ったら男が廃る的な雰囲気だ。だめ押しとばかりに、魔椰が囁く。
「賞品は全売店対象フリーチケットだったりして☆」
 それは聞き捨てならない。
「任せるさ〜!」
 俄然やる気の出た柳樹は黒酢味のファラオ焼きを飲み下し、魔椰を伴ってコートに向かった。

 


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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CATCH THE SKY
【ga3326/御影柳樹(みかげ・りゅうじゅ)/男/22歳/グラップラー】
聖獣界ソーン
【3087/千獣(せんじゅ)/女/17歳(実年齢999歳)/獣使い】
【2948/ジェイドック・ハーヴェイ/男/25歳/賞金稼ぎ】
東京怪談
【6591/東雲緑田(しののめ・ぐりんだ)/男/22歳/魔法の斡旋業兼ラーメン屋台の情報屋さん】

NPC
随豪寺徳(ずいごうじ・とく)
織女鹿魔椰(おるめか・まや)
バロッコ

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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御影柳樹様
ご発注ありがとう存じます。
この度は大変お待たせ致しまして申し訳ございませんでした。
KVによる海の家設営応援、黒服に成り代わりまして御礼を申し上げます。
それでは、またご縁がありましたらよろしくお願い致します。
なつきたっ・サマードリームノベル -
三芭ロウ クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2009年10月16日

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