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『Midsummer Night's Dream−distance 』
緋沼 京夜(ga6138)

 夜空に咲いた華が見せたのは、一時の幻。
 それは、不思議な不思議な時間の流れ。
 硝煙とは、全く関係ないもう一つの物語。


◆◇◆

 ここは聖空学園。
 学園へと続く道は既に夏模様であり、道を彩る鮮やかな青と緑、そして華やかな色取り取りの花達が道を彩っている。ゆっくりと深呼吸をすると、柔らかく、熱い空気が身体に染み渡ってきて少し心躍らせる。校舎のほうからも心躍るような音楽が聞こえてきた。
 そうか、間近に控えている学園祭の準備期間だった。
 カノン・ダンピールはそっと笑みを零しながら人が待っているであろう校舎を目指して歩き始めた。

 ここ、聖空学園では夏の終わり、丁度秋とのさし代わりの時期に学園祭を開いていた。
 3学年から有志で集う実行委員を元に形成され、それは盛大に開かれる。
 体育会系の者達に奪われがちな体育祭とは違い、文科系が華を開かす学園祭での一番の名物はこの学園切っての実力派達が集まっているといわれる演劇部である。そして、何よりも祭りに欠かせない食べ物たちを販売してくれる家庭科部であろうか。
 ここ最近、家庭科部の周りでは素晴らしく美味しそうな匂いが漂い、生徒達を誘惑していた。



 屋上に、アンドリーナのギターが鳴り響く。それは、アンドリーナの心情を物語っていた。どんなものよりも、繊細で正直で。普段の行動とは裏腹に、済んだ音が鳴り響く。
 そんな彼女の音楽に引き寄せられるのはこの学園では数多く居た。
 それは立ち入り禁止の屋上であってもだ。
 隣の特等席は親友とも言えるマチルダの場所で。ニコニコとアンドリーナの音に心を寄せていた。
「――」
 物陰に隠れて、そっと聞いているのは学園の生徒会福会長、蓮杖風華であった。長くたなびく髪に、すっと冷たそうにも見える眼鏡の奥の細い視線。それも今は、穏やかに閉じていて。
 そして、屋上の入り口の上で寝ているのはローズであった。隣には煙を纏いつかせる大津阿澄がニヤニヤと音を聞きいっている。
 そんな屋上近くの非常階段では、凪がその音楽を子守唄代わりにして抱き枕へとしがみつく。
 屋上からの音は、窓を開けていた音楽室へも響きを聞かせ、その音に合わせるかのように小夜はピアノを弾いていた。
 学園の一角に存在する謎の家庭菜園。そんな近くで風紀の腕章を付けつつサボりを決行していた優希は、そっといつも持ち歩いているフルートを乗せて見た。近くで猫と戯れていたケイが聴いてるとは知らずに。
 ほのぼのとソラが作ったお菓子を食べているクロード、そして脇から掠め取っていく幸子。そんな家庭科室にも音楽は流れてきて、京子はそれを鼻歌交じりで聞きとめながら本日の食事を学園内で作っていた。
 夕暮れの中の陸上グランドでは、爽やかな汗を流した真琴が、そっと耳を澄まし。遠くから、そんな真琴を見つめる真仁の姿も目に入る。

 そして、学園の門をくぐったカノンはそんな音楽の競演の様子を聴いて足を再び止めていた。
 自分が、通っているこの学園の不思議な魅力に心が弾む。
 まだ、人と接する事が苦手だけれども。それでもこんな時、ここにきてよかったって、そう感じる。
「‥‥これ、ゆっくり聴きたいな」
 どうせなら、セッションとして。
 ばらばらな場所で織り成された音を、一つの場所に集めて。
 そんな、夢を見たいと願っていた。



「音楽、聴きたいんです」
 ゆっくりと、何かを思い出しながら語るカノンにローズは微笑みながら聞いていた。
 たしか、音楽と行ったらアンドリーナ辺りだろうか。よく放課後に音が届いていた覚えがある。そして小夜。彼女もまた、音楽室で良く奏でていることを知っていた。
 ここではないが、ケイなんかも良い音を出していた覚えがある。
 うまく促せば、実行委員の催し物として出せるかもしれない。
「もう一度、聞きたいなぁ」
「もう一度聞きたい、それなら実現させて見るのも手かもしれませんね」
「え?」
「折角なんです、ステージを作って募集をかけてみればいいんですよ」
「募集、ですか?」
「ええ、舞台が出れば使う人も現れる。ちょうど演劇部でも使うはずです。野外にしちゃいましょ」
 ウキウキ気分で既にローズの中では何かの企画が出来上がっているらしく‥‥。
「それでは、楽しみですね」
 カノンは、それをにこやかに頷いていた。



「凪、また寝てるの?」
 京子はいつものごとく屋上に確保してある隠れ家へとやってきたものの、特等席に用意しておいたお気に入りの枕を抱いた凪がくぅくぅと寝ている姿を見て溜息を付いた。
 いつからだろう、同じような境遇の彼を仲間と言うか、弟のように認識しだしたのは。転向して来て間もない彼は、今だ制服が揃っていなく前の学校のブレザーに黒タイといった姿で校舎を歩いている。そのためか、それでなくても時期外れの転校生で目立つのに余計である。
「阿澄といい、凪といい‥‥ほっとけない子が増えたわねぇ」
 そう言えば、この頃つるむ事が多くなった阿澄もまた転向してきたのだったという事を思い出していた。阿澄は少しだけ突っぱねているようだが、京子からしてみれば自分に正直な子である。そんな彼女は一つ上だけど、同じ教室で学ぶ仲で。
「‥‥ま、いいっか! 眠いし!」
 ウダウダ考えるのは苦手だとばかりに、自分の枕を抱えて寝てしまった凪をさらに抱きしめ、京子は眠りへとついていった。




「実行委員会、ですか?」
「はい、一緒にどうですか?」
 ローズの言葉にカノンは少し驚きつつ、たまにはそういう参加も悪くないのかもしれないと思っていた。
「この学園に来て、少しは楽しんでもらえたらなと思いましてね」
 突然この学園へと入ってきた少年は学校自体が始めてだった。偶然職員室の前を通りかかった時に教師から面倒見てやれといわれたのが切っ掛けで早3ヶ月。学園生活は慣れた様子だが、まだまだ楽しいことは知ってはいないだろう。
「難しくないですよ、騒ぐだけですから」
「そ、それならば‥‥」
 こっそりグッと拳を握り締め、笑顔で後で迎えに来ると告げる。
「学園祭、ですか‥‥」
 もしかしたら、朝の出来事が実現できるのかもしれない。そんな淡い期待を持ちつつ教室へと入って行った。



「それでは、主な活動はどんなことでしょうか?」
 初めての実行委員会の集まり、顔通しが終った直後に質問が飛んだ。
「えっと‥‥国谷さんでしたっけ」
 福会長も勤める蓮杖はまだ話も始まってないのにと思いつつ、にこやかに少女を見つめた。
「はい、国谷真仁です。生徒会主体、そうだと思っていたのですが、有志を集めてということを伺いました。でも、何を始めるのですか?」
「そうね、1年生にとっては不思議なのかもしれないわね」
 そういうと印刷物を配り始めた。そこには主な活動内容、そしてこれから新たに考えていきたい事が記されていた。
「例年、学園祭では実行委員会を立ち上げてます。もちろん、各クラスへの連絡係と言うことも有りますが、それは決定事項になるのでクラス委員がすることです」
 ホワイトボードへと向い、いくつかの事項を書き始める。
「私達は高等部になったことにより先生方からの規制は既に外れています。自分達で作る、それが求められていますから‥‥」
 ゆっくりと周りを見回し、そしてすっと眼鏡を直して微笑んだ。
「皆さん、頑張りましょうね」

「面倒ごとは好きじゃないんだが‥‥」
 壁にもたれながら、ケイはそっと囁いた。
 勧誘された者、不本意ながら拉致された者、自ら立候補した者様々な立場から成り立った学園祭実行委員。一体何が起きるのやら、不安なスタートが今まさに始まったばかりだった。




「‥‥パン」
 凪がぼそりといった言葉に京子は何かと思ったものの、すぐに閃き有無を言わさず手を引き席を立たせた。
「いいから! 早くしないと売り切れちゃうわよ!」
「京子、どこ行く?」
 後ろの席でぐらぐらと不安定さで遊んでいた阿澄が京子の行動を見て不思議そうに尋ねてくる。
「購買部! 凪、この子今日ご飯食べ忘れてきてるのよ!」
「あー、あたしの分もよろしく〜」
「ちょっと! あたしは阿澄の使い魔じゃないわよ! もう‥‥どうしてみんなこんなに手が掛かるんだろう〜!」
「‥‥京子、手‥‥」
「あぁ! 行くわよ! 阿澄は自分でちゃんと買いなさい!」
「はいはい、京子様っと。買うわけないじゃん」
 京子に引っ張られるようにして教室を出て行った凪をみつつ、ニヤニヤとした笑みを阿澄は浮かべていた。

「‥‥あ」
 まだ昼には充分時間があるという中、購買部はいつもの賑わいを見せていた。というものの、この学園の購買部は2時限目と3時限目の休み時間にちょうどパンやオニギリなどの食料品が並び始める。ちょうど成長期の少年少女たちが溢れている学園だ、飛ぶように売れるのはもはや当然であった。体育会系の男の子達に混じって、ちらほらと女の子も参戦しているあたりなんとも見ものであった。
「マコ先輩、負けないんだからっ!」
「ほぉ? マチルダ、勝負するか?」
 ちょうど階段から駆け下りてくる2人がいた。3年の真琴と2年のマチルダだ。真琴は自信があるのだろう、ニヤニヤとくせっ毛で広がるマチルダの頭をクシャッとかき乱す。マチルダはむぅっと脹れながら手を払いのけると、指を突きつけ宣言をした。
「イイデスヨ! 買ったら、ジュースです!」
「いいぜっ」
「二言、無しですからね!」
 そういうとマチルダは手すりに手をかけると、思いっきり跳ね上がった。
「おい!? マチルダ、お前女だろ!?」
「二言、無し!」
 ふわっと舞い上がる制服のスカート共に、マチルダの身体が宙へと舞った。
 凪の目の前に、ふわりと金髪の天使が降りてくる。
 着地をし、勝ち誇ったように顔を上げた途端、2人の瞳が交差した。
 突如赤く染まるマチルダ、天使に見惚れる凪。そして、そんな2人のやり取りを呆然とした様子で見つめる京子。三人の視線が交差する中、真琴はにやりとした様子で購買部へとたどり着いていた。そして、買い終わってもまだ止まっていた様子を見ると、意地悪気にマチルダの頭をパンを乗せる。
「俺の勝ち、おごり決定な!」
「〜〜〜!!」
 金縛りにあっていた身体は、その瞬間から時を取り戻し、凪と京子の繋いだ手を目の端に入れながら、マチルダは半分泣きそうになって真琴の後へと走り出していた。

「演劇部、エースと言ったらさ・ち・こ☆ さっちーに決まってるわっ!」
 ずびしと指を突きつけ、幸子はローズに挑戦的な瞳を向けた。
「屋外? 舞台があればどことでも! いいじゃない? 楽しみよ」
 ふふんと悪戯な瞳を煌めかせ、演技がかって話し出した。
「いいわよ、あたしに任せなさいっ! 舞台装置、貸し出しでしょ?」
「話が早いですね、助かります」
「そのかわりッ! あたしが取り仕切らせてもらうからね」
 にやりと笑うその姿は、まさしく悪戯娘そのものであった。



「まこーっとせんぱいっ!」
 後ろからいきなり抱きついてきた少女に、真琴は思わず前へと倒れそうになった。
「な、何するんだ! 雑賀!」
「いやーん、いけずぅ〜。あたしと、真琴先輩との仲な・の・に♪」
 ハートが飛び交うようにウィンクを見せつつ、幸子はそのまま離れようとしない。
「は、離せッ! 離さないと遊んでやらんぞ」
「ぇー、それはナッシングですよー。せんぱぁい」
 むぅっと頬を膨らませは慣れるも、未練タラタラな瞳で見つめてくる。
「はぁ、それで。何のようなんだ?」
「あ、そうそう。真琴先輩も実行委員ですよね?」
「そうだが‥‥」
「屋外ステージ、あたしが取り仕切らせてもらうので参戦するのです!」
 グッと拳を突き出し、真琴の腹へと‥‥
「まてぇ! お前のそれ冗談にならないしっ!」
 決まる寸前に、手首を押さえとめる。そう、幸子の拳は実は冗談にならないのだ。
 なにしろ合気道の有段者だったりするのだから。



「京子先輩、今日は何を作るのですか?」
 放課後、京子は凪を連れ家庭科室へと来ていた。いつものようにソラと、何か出来るのを待っているクロードが既にいたのだが、そんなことお構いもせず勝手知ったる何とやらといった状況だ。凪はボーっとした様子で導かれるまま椅子についていた。
「あれ? 京子また何か作るの?」
 ガラッと開いた扉から現れたのは小夜。手には楽譜を持っているところから先程まで音楽室にいたのだろう。
 くんくんと、漂い始めた匂いを犬のように嗅ぎ、きらっきらの瞳で見つめる。
「小夜、貴女の分は無いけど?」
 その様子に苦笑を交えながら、包丁を握る手を止めはしない。
「平気よ、味見するだけだもん」
 ぷくっと脹れつつ、それでも視線は京子の手元へと向っていた。
「ソラ、お皿出してくれる?」
「は、はいっ!」
 パタパタと食器棚へと走り出すソラの後ろを、クロードはのんびりとつき従う。
「クロちゃん、これ運んでね」
「おうっ!」
 ふわりと取り交わされるやり取りは、見ているものですら幸せにするのには充分なほど暖かなものだった。
「さてと、本日は新鮮取れたて野菜の‥‥」
 もちろん新鮮取れたてとは学園内の一角に京子が勝手に作った家庭菜園から仕入れたものであり、その食材の豊富さは底が知れない。ありとあらゆるものを作っており、作ってないのは米と小麦‥‥そんなところだろうか。いつの日かもっと広大な敷地で時給規則が補えるようにと企んでいるらしいのだが、それが成功することはとても大変であろう。
「さすが京子。出汁が効いてるわねぇ」
 いつの間に鍋に近づいたのだろうか、小夜はうっとりとした様子で味見をしている。
「小夜、早いわよ。凪、これお前の分よ」
「‥‥美味しい‥‥」
 器に少し口付け、少しだけ目が見開かれた。いつも表情の見えない顔が、少しだけ緩む。その様子に、京子は満足げに頷いたが、それ以上進まない箸にむぅっと頬を膨らませる。
「お前ねぇ‥‥しっかり食べないと口移しで食べさせるよ!」
「‥‥そうなの?」
「〜〜〜!? じょ、冗談に決まってるでしょ! さっさと食べなさいっ!」
 脅しのつもりで言った言葉が平然と返されてしまい、京子は耳まで真っ赤になりつつも食べることを言い含めていた。



「あら、真仁。いい顔するようになったじゃない」
 演劇部の練習中、幸子は共に劇の練習に励む真仁の様子に同姓ながらもドキッとした。 ここ数日、彼女はまるで見違えるような変化を見せているのだ。
「はい」
 にっこりと微笑む姿は、自信に満ち溢れていて。
「私も一生懸命なれること、大好きなもの、見つけましたから」
「ん、よしよし! 何か分からないけど、頑張っちゃおう!」
 バンっと力強く叩かれた肩は、いつもより痛かった。だけど、同時に励ましの言葉が温かく、幸子にも、真仁にもほのかな幸せが生まれてくる。
「‥‥頑張れよ」
 そんな様子を、物陰から眺めていたケイは、くすりと笑いながら呟いていた。
 ここにも、また一つ思いの華が咲いたんだなと。
 手元にあるノートへと、何かを書きとめながら。ケイは、魅力的な声で歌を口ずさんでいた。




「ナギ! ここだよ」
 実行委員会で必要なものがあるからとマチルダのお供に来た凪は、初めて訪れる学芸棟にちょっぴり驚きつつ促されるまま歩いていた。
 この学園は3つの棟からなっている。普段授業で使っている第1棟、第2棟。そして今回案内された学芸棟である。主に第1棟は主要な合同教室や実験室、体育館、職員室等から構成されており、第2棟は1年から3年までの教室、学芸棟は特別教室と各部室が入っている。本日用事があったのは美術準備室であった。学園祭にて足りない資材の調達だったのだが‥‥。
「ナギ〜、ちょっとここ押さえてくれる?」
 目当てのものが中々見つからないほどに散らかっている準備室は、目的物にたどり着くまでに掻き分けなければいけないことが難関であったりする。そのため、普段生徒達はあまりに近付きたくないといったことが有り、この通り資材を調達するのも実行委員が行っているのだが‥‥。
 ガチャッ。
 2人で諸々を動かしつつ進む中、音は虚しく響き渡った。
「‥‥もしかして、今の音って‥‥」
 まさかと思いたい、思いたいけれども。
 マチルダは持っていた資材を慌てて床へと降ろし、扉へと駆け寄った。
 ノブを捻るも、押したり引いたりしてもうんともすんとも動いてはくれない。
「し、締められちゃった!?」
 ぱにくるマチルダに凪はどうしていいのかわからず見つめる。
 既に時間は放課後で、夜の始まりが遅い夏であっても、それは無常にも近付いてきている。衝撃で座り込んでしまったマチルダは、今にも泣きそうな顔をしていて。
「――っ」
 そんな様子に、凪は何故だか胸が痛くなった。
「‥‥だいじょうぶ」
 そっと、髪に伸ばしたては壊れないかと不安げに柔らかな毛に触れ、あまりにも優しい感触にくしゃりとほんの少しだけ力を入れた。
「‥‥ごめん‥‥ネ」
 呟いた言葉に、静かに首を振る。
 声が返ってこないことに不安を覚え、見上げたマチルダは。
 窓から入ってきた夕焼けに照らされた初めて見た凪の柔らかな微笑みに、心の温かさを感じながら耳まで真っ赤に染まっていた。




 ローズは優しくカノンを見つめていた。一所懸命に書類を作成している姿を隣で間違いを見つけたアンドリーナによって注意されている。
「だから、なんでそんなに手間取るわけ? しんじらんない。アンタ、馬鹿?」
 チラチラと視線を逸らしつつ、一つ一つ「ここが違う」「ああ、また!」などと文句を言っているのだ。
「まぁまぁ、アンドリーナ。そんなに怒鳴らなくてもいいじゃないかな?」
 ふわりと笑いながら声をかけてきたローズに気付くと、より一層眉間に力が入り、頬が僅かに膨らむのがわかった。
「怒鳴ってないわよ! ちゃんと出来ないのが悪いんでしょ? 精々二人で仲良く作ってればいいわ!」
 そんな捨て台詞を言い放つと、ドタドタと苛立たしげに足音を立てて部屋を出て行く。もちろん、お約束のように扉の閉め方は乱暴であった。
「うっ‥‥ぼ、僕がきちんと出来ないから悪いんですね」
 アンドリーナが去った扉を見つめつつ、カノンは半分泣きそうな顔で肩を落としていた。そんな様子にローズは苦笑すると、くしゃりと頭を撫で上げる。

「大丈夫、そんなに気にする事無いと思うよ」
 そうでしょうか? と見上げるカノンに、ローズは平気だよと笑顔を返すが、内心はあのお姫様にも困ったものだと首を傾げたくなっていた。


――どうして、どうしてこんなに苛立つのよ!
 部屋を出た後、アンドリーナはいつものように屋上へと駆け上がってきていた。何かあった時、屋上でギターを掻き鳴らすと少し落ち着いてくるのだ。
 でも、今は何故かいつものようにすぐに掻き鳴らす事も難しかった。
 膝の上に抱いたギターに感情を移すことよりも、何故か心の乱れが酷く‥‥ギターごと膝を抱えてしまうのだ。
 あの素直な少年に関わるといつもそうだ。そして、物事を見通しているあの先輩も。
「レナちゃん?」
「‥‥マチルダ」
 いつの間に入ってきたのだろうか。マチルダがアンドリーナを見つけ、少し見下ろす形で見つめていたのだ。見上げると、視線が絡み合う。
「トナリ‥‥いい?」
 こくんと頷くと、人懐っこい笑みを浮かべちょこんと隣に座り込んだ。
「‥‥弾かないの?」
 ギターとアンドリーナの顔を見比べ、マチルダはきょとんとした表情で尋ねてくる。クルクルふわっとした髪が、それに合わせて揺れる。
「‥‥気分が乗らない‥‥」
 拗ねたように言いよどむそんなアンドリーナをマチルダはそっと包み込んだ。
「ムリ、いくない」
「‥‥‥うん」
 何故だろうか。彼女の前では少しだけ素直になれた。コツンと合わさる額。伝わる体温が、優しい気持ちを贈ってくれた。




「募集?」
 廊下に貼られていたのは一枚のポスター。
 そこに記載されていたのは、野外ステージ参加者募集の言葉。
「演劇部主催、音響は貸し出し‥‥」
 この学園の演劇部は、かなりの実力を兼ね備えていることは有名であった。機材も、それなりに揃っているだろう。
「‥‥屋外」
 腕が、疼いた。
 アンドリーナの心に、何かが触れたようだった。


 何かが、動き出した。
 そんな、そんな‥‥青空の下で。


◇◆◇

「んっ‥‥」
 少し肌寒さを感じて朧は目を開いた。
 周りを見ると、そこにはたくさんの友人達がいて。
 手の触れた感触にそっと視線を向けると、そこにはちょっと丸まったままのお日様の友人。桜の彼女にそっと手を伸ばして夢の中に居るようである。
「お、起きたか?」
 声のする方向を向くと、雑音の中が落ち着くと言い張る友人が、紫煙を纏いながら見つめていた。
「ええ、ちょっと寝てしまったみたいですね」
「いいんじゃねぇの? みんな、いい顔してたぜ」
 なんの夢見てたかしらねぇけどな、そんな事を笑いながらOZは足をふらふらとさせながら空を見上げた。
 そういえば、最初の目的は花火だった。
 いつしかそれは夢の狭間へと招待され。
「そうね、真夏の夜の夢‥‥そんな、良い夜じゃない」
 後ろから現れた黒蝶、ケイの言葉に納得をしてしまう。
――あんな、平穏があれば良いですけど。

 見た夢の優しさに、いつかそういう日が訪れる世界になると良いなと、心の中で呟いた。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【ga0187 / 柚井 ソラ / 男 / 16 / スナイパー】
【ga0598 / ケイ・リヒャルト / 女 / 18 / スナイパー】
【ga1031 / ロジー・ビィ / 女 / 22 / ファイター】
【ga2331 / 国谷 真彼 / 男 / 31 / サイエンティスト】
【ga2494 / 叢雲 / 男 / 22 / スナイパー】
【ga3078 / 朧 雪乃 / 女 / 20 / グラップラー】
【ga4015 / OZ / 男 / 26 / スナイパー】
【ga5172 / 空閑 ハバキ / 男 / 22 / エクセレンター】
【ga5710 / なつき / 女 / 21 / エクセレンター】
【ga6073 / 雑賀 幸輔 / 男 / 26 / スナイパー】
【ga6138 / 緋沼 京夜 / 男 / 32 / ファイター】
【ga6523 / アンドレアス・ラーセン / 男 / 28 / サイエンティスト】
【ga6559 / クラウディア・マリウス / 女 / 16 / サイエンティスト】
【ga6931 / 暁・N・リトヴァク / 男 / 24 / スナイパー】
【ga7201 / 不知火真琴 / 女 / 24 / グラップラー】
【gz0095 / カノン・ダンピール /男 / 18 / NPC:一般人】

<夢設定>
*性別変換
*名前変換
・ロジー → ローズ
・真彼 → 真仁
・叢雲 → 蓮杖風華
・雪乃 → 優希
・OZ → 大津阿澄
・ハバキ → マチルダ
・なつき → 凪
・幸輔 → 幸子
・京夜 → 京子
・アンドレアス → アンドリーナ
・クラウディア → クロード
・暁 → 小夜
(他:変更なし)

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 この度は発注ありがとうございました。
 学園物でさらに性転換物ということで、はい。
 なんと言いますか、凄い世界でした。
 内容的には、抜粋したものに成ってしまいましたが、互いに読み比べて補正していただけたらと思います。
 完成版が見せれないくらいの抜粋具合で申し訳なく。
 なるべく設定どおり…と言いますか、いい具合に皆様の丸投げ感が愛情たっぷりと塩で塗り込められた感じに思ったのは、もはやキノセイですよね?
 CTSの中では見られない、そんな物語になっていたらいいなと思います。

 それでは、またお会いすることを願いまして。

 雨龍 一
なつきたっ・サマードリームノベル -
雨龍 一 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2009年10月19日

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