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『Keep one's mind 』
キョーコ・クルック(ga4770)

「空を彩るは、硝煙か‥‥」
 遠くで、争いの報せを聞く。
 どうせ彩るのなら、この身を焦がすほどの情熱の華がよいと。
 そんな事をそっと心の中で呟きながら。


◇◆◇

―― どうして、こうなったのだろう。

 そんな想いに捉われつつ、キョーコは荷物をテーブルの上へ遠くと、その身をソファーへと投げ出した。
 浴衣に描かれた菊がふわりと舞い、沈んだ。
 先程まで一緒だった夫も、今は自分の部屋へと入っている。
 静かに流れ落ちる透明の雫が、先程まで外の熱気を浴びていた肌には冷たく感じていた。

 楽しみだったはずの夏祭り。
 いつもの通りにはしゃいで、そして熱い夜を過ごす予定だった。
 だけれども‥‥。
 期待していたはずのその時間は、何故か虚しく。
 一緒に歩いているのに、感じる距離感。
 傍にいるのに、誰よりも傍にいるはずなのに。
 感じられない、想い。
 何が原因だったのだろう、いつからだったのだろう。
 楽しいはずのものが、純粋には喜べなくなってしまっていた。

『前は、あんなに楽しかったのに』その言葉が頭の中を駆け巡っていく。

 一通り出た涙を、そっと拭い取り着崩れを正す。
 一人の問題ではない、だけど‥‥。
 揺れ動く想いに、キョーコは思わず溜息を漏らしていた。

 帰ってきてから、既に時間はたっている。
 恐らく、もう寝てしまったに違いない。
 それでも‥‥。
 キョーコは電気も点けずに暗い廊下へと歩き出した。


 短い道のりのはずなのに、何故か遠く感じる。
 一歩一歩が、まるで枷をつけた囚人のように重いのだ。
 それは心が枷なのか、それとも‥‥。
 冷たい廊下、熱い想い、閉ざされた扉。
 静まり返った部屋の前で、そっと額を扉に押し付けて。
 期待したのは、なんだったのだろう。
 だけれども、それは夢のまた夢‥‥。
 決めた言葉が、僅かに開いた唇から零れることを嫌がっていた。

 乾いた喉に無理やり潤いをきたすと、押し付けた額を隠すように手を押し付けて。
 それは、閉じ込めたいから? それとも‥‥。

 自らの心に問いながらも、再び唇を開ける。


「ねぇ、考えたんだ‥‥」

 すべり出た後は、もう止まらなかった。
 溢れるのは言葉ではなく、透明な雫。
 頬を伝わったそれは、やがて顎へと到達し。
 首筋に流れてくるものと、床へと吸い込まれるものとに分かれていく。
 もう、止まったはずなのに。
 先程よりも流れるのは何故なのだろうか。
 それでも、もう言葉を止める手立てにはならない。


「いつからだったか‥‥薄々気がついてはいたんだけど、あたしたちってすれ違いが続いててろくに話もしてなかったよね‥‥?」

 思い出されるのは、最初の、最初の一ページ。
 立ち向かう戦場で、交わされた友情。そして視線。
 そこから生まれた、一つの感情。
 2人の間で生まれた出来事が、走馬灯のようにキョーコの脳裏に舞い踊る。
 最初は偶然、それでもそれが重なればいつしか必然に変わり、それが当然へとなっていく。
 だけれども‥‥。


「きょうのお祭りも楽しかったけど、どうしてかギクシャクしちゃって昔みたいにはしゃげなったし‥‥」

 若い2人にとって、はしゃぐ時は早々に過ぎていく時間。
 物足りない、そういう想いが取り巻く時。
 でも、いつしか当然へと変わってしまったその時は、急に味気ないものへと変化をきたす。それを乗りれるのは、2人の絆、いや‥‥努力と言う引力が必要であって、すれ違いが生まれるのはもはや重力のなす事なのかもしれなく。


「それでよく考えてみたんだけどね?
 あたしたちは出会ってすぐに付き合いだして、半年で結婚。
 あの時はとっても楽しかったけど、いま思えば相手をちゃんと知らないまま【結婚】っていうものに憧れてたんじゃないかな?
 だから、お互いの本当の姿が見えて戸惑ってる‥‥」

 互いを知る努力をしないまま、得られてくる情報は戸惑いで。
 モノクロだったものが、カラーへとなることによって見える隠された現実。
 それは色鮮やかであると同時に、過酷なものもあり、知りたくないことであったりもする。
 あふれ出てきた情報を整理せず、放置することによって生まれるすれ違いは無常にも彼らの絆にすらも影響をきたし、いま‥‥


「だからさ‥‥
 一度別れて距離を置いたほうがいいと思うんだ‥‥勝手な事だとは思うけど」

 告げた言葉は、闇へと溶け込む。
 静けさの中、響く声。
 嗚咽は、自分からのもの。
 決して、扉の向こうからは聞こえない。
 そう、確かめなかったのは不安だから。
 自分の答えが、即答されるのが。
 怖かったから。
 願いは、出来ればこのまま。
 だが‥‥。
 既に、心は疲れ始め。

 まさに、壊れ落ちるかもしれない不安定なままであるから。




「‥‥ごめん」

 それは、我が侭で?
 それとも、わかりきれなくて?
 思いの丈が、応えれるものは少なくて。
 得られるものが、全てとは限らなくて。
 何よりも、掛け替えの無かったもの。
 それが、大事にしたくって。

 選んだのは、別離。

 あなたが悪いわけじゃない。

 だけど‥‥。






 もう少しだけ、夢、見ていたかった。




 想いは、変わらない。
 胸に抱いた想いは、消えない。
 だけど‥‥。
 貴方のためにも、あたしのためにも。


 心の枷、緩ませましょう?





 それが、あたしが出来る、貴方への愛だから。



 崩れ落ちる膝が床へと着いた時、キョーコの決意は固まっていた。今度は、きちんと崩れずに言える気がする。きっと、扉の向こうには聞こえていない。だから‥‥。

 もう日が昇る時刻だった。
 明けるのは何からなのか。
 二人の仲に新しい風が吹くのは‥‥もうすぐだと感じる、そんな暑い朝の始まりだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga4770 / キョーコ・クルック / 女 / 20 / ファイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は発注ありがとうございました。
 いつも明るい彼女に何が。そんな事を思わず思ってしまった発注でした。
 でもその想いを任せていただけた、それに感謝させていただきます。
 発注時点で中々難しいとは思いつつ、これが自分で表現するとしたらどのような言葉で綴ればいいだろうか、そのように考えさせていただきました。
 改めて見ていくと、堀下がれる人物像は中々深く、とてもこちらも勉強になったと思います。
 少し変わった形となってしまいましたが、再び二人が明るく羽ばたく様子を見てみたいと想い、このように仕上げさせていただきました。

 Keep one's mind、想いを持ったまま。
 誓った愛を、忘れずに。
 できれば‥‥そんな願いも込めまして。

 それでは、またお会いすることを願いまして。

 雨龍 一
なつきたっ・サマードリームノベル -
雨龍 一 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2009年10月23日

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