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『秋夜の月宴 』
御神村 茉織(ea4653)

「ようやっと月が出てきたようだな」
 薄く口元へと笑みを浮かべると、御神村 茉織(ea4653)は宿の二階、障子の開け放たれた窓に凭れ空を見上げていました。
 久方振りの、親しい仲でも特にお互い信頼深い者達で集まっての宴に、御神村であってすら僅かにそわそわとその時を待ち侘びるところでもあり。
 今日が慰安も兼ねた気楽な席であることもあってか、忍び装束や探索時の質素で控えめな物と違い、御神村は水浅葱の地に鮮やかな紅葉が彩られた着流しを身に纏い。
「そんなに気になるなら迎えに行けば良かったろうに」
 逢莉笛 舞(ea6780)がその穏やかな風貌に微笑を浮かべて言うと、少々大振りな木箱を指先でなぞるように触れていて、その様子が言った舞自身も来るのを待ち侘びている事を良く現しています。
「お、あれだな」
 ふと、御神村が視線を降ろしていけば、何処か少しうらびれた隠れ宿といった様子の宿から、その垣根越しに見える談笑しながらやってくる様子の青い着物の女性と編み笠の男性を目にしてにと笑って。
 編み笠にゆったり紺の袷を身に付け歩く男性の前を先導するかのように歩く女性は時永 貴由(ea2702)で、宿の主人が迎え入れ進めるままに共に二階へと上がっていくと、既に夕暮れ時。
 襖を開けて入る二人を迎え入れると窓から部屋の中へと居場所を戻した御神村は行灯に灯りを入れて口の端をにぃと持ち上げます。
「旦那、お久し振りってとこですかね。ご無事で何より」
「二人とも、久っし振りだなぁ、おい」
 貴由からある程度現状を聞いてきたのでしょう、元気そうで何よりだと笑う様子は久しい相手に会えた喜びの色が見えて。
 御神村に勧められるままに編み笠を脇へと置き腰を降ろす平蔵、舞は貴由も腰を下ろすのを確認しつつお茶を二人へと勧めます。
「直ぐに料理と酒は運んで貰えるとのこと、一先ずお茶でも飲んで落ち着かれると良いと」
「おう、済まねぇな」
「それにしても旦那も、聞きましたよ、若い頃のやんちゃっぷりを」
「親仁め、余計な事言いやがりゃしねぇだろうな」
「お若い頃のやんちゃ‥‥一体何をされたのでしょうね?」
 舞からお茶を受け取った平蔵がそれを啜っていれば、宿の親仁から話を聞いたかにんまり笑ってみせる御神村に思わず微苦笑を浮かべる平蔵に、ちょっとばかり興味を惹かれ笑みを浮かべて小首を傾げる貴由。
「そらお前ぇ、誰にだって若ぇ頃にやらかしたことの一つや二つ‥‥」
「では我々が聞いたことの他にもまだまだあるよう‥‥もう少し親仁に詳しく聞かないとな」
「その時には私も一緒に、ね。お若い頃のやんちゃというのを是非お聞きしたいですからね」
 平蔵の言葉に舞と貴由が言えば、皆顔を見合わせると笑い出して。
 どうにも四人の間にはただ頭と密偵という関係とはまた違った繋がりが有るようにも見え、宿の親仁が鍋やお酒を運び込み出て行くのを見送ると一同は暫くまた、再会の喜びや近況について語り合うのでした。

 地鶏鍋が程良く煮え、平蔵が酢で締めた鯖を上手そうに平らげている間、貴由が御神村にお酌をしていたり、舞のとっておきのお酒の大徳利を木箱から出せばあまり名は知られていないものの良い品だという話になったり。
「この時期の秋刀魚は堪えられねぇなぁ」
 油の良く載った秋刀魚にたっぷりのおろし大根、ちょいちょいと酢と醤油で味を付ければそれはもう、と言った様子で平蔵が突けば舞の前にはちょうど今出されたばかりの落ち鱸が良い匂いを発していて。
「酒とやはり良く合う味わい‥‥さ、長谷川様、一献」
 鱸を味わい笑みを浮かべた舞が大徳利を軽く掲げれば杯を取りついで貰う平蔵、香りを楽しんだ後にちびりと一口含んでその味わいを楽しみ。
「これは‥‥なるほど、こいつぁ旨ぇ。さ、皆も何遠慮してる、どんどん喰え、呑め」
 笑いながら舞から徳利を受け取るとそれぞれの杯へと酒を注いでにと笑う平蔵、御神村もその酒の味を楽しむと、くいと杯を空ける横で、貴由はそのさらりとした喉越しの酒にほんのり頬を染めて少し驚いたようで。
「随分と呑みやすいお酒ですね」
「前に聞いた話だと、此奴はその年によって出るか出ないか変わる酒でなぁ」
「年によって、ですかい?」
「そうよ、こいつぁあまり沢山作られない酒らしくてな、挙げ句、出来上がって味ぃ見て、駄目だとなったら流しちまうそうだ」
「へぇ‥‥そりゃまた‥‥」
「これは酒造りの大樽一つだけ作られるらしい」
 なるほど、と手の中の杯を見る御神村に舞も酒を売ってくれた親仁の言った言葉を思い出してか告げれば、貴由も貴重なお酒なんだな、と呟くように言って。
 そこへ出されてくるのは鰆の刺身、親仁め腕を上げたかと平蔵が小さく笑う程に、綺麗に皿へと盛られた刺身に身が崩れやすいのにと頷く御神村、新鮮な鰆の刺身は堪えられないもの。
「今日は皆が来ているからだろうが、親仁ぁいつも以上に腕によりをかけていやがる、俺だけだったら適当に鍋出して、ぐだぐだ言わずに喰えと抜かしやがるくせに」
 可笑しげに笑う平蔵にそんなことは、と言いながら出てきた熱燗のお銚子の首を摘むと、貴由はどうぞと勧め、平蔵はお猪口を手にとって受けると、貴由からお猪口をひょいと取り返し同じように促します。
「こうして綺麗どころが揃ってやがると、酒が進むなぁ、御神村よ?」
「へ‥‥確かに。ついつい酒量が過ぎちまいそうな」
 ちょうどぱくりと鱒寿司を口の中に放り込んだ御神村は、平蔵に振られむぐむぐと寿司を噛み飲み込んでからにと笑って頷いて。
「下にいる仏頂面の親父相手に呑むよりよっぽど酒が旨ぇ」
 廊下に出来立ての牡蠣飯と土瓶蒸しを盆に載せて上がってきた親仁が聞こえてんぞと抗議を漏らして襖を開けてお盆を置いていくと、待ちかねていたのか牡蠣飯のお櫃から貴由が茶碗によそって渡すと、すまねぇなと言いながら受け取って嬉しげに箸を口へ運ぶ平蔵。
「しかし、普段から見ていて思うのだが、長谷川様は相当の食通と見うけ‥‥是非色々と美味しい物を是非‥‥」
「俺が食通って言うよりは、周りが、な。何か一つ、旨いもんを出す店を見つけたら、今一番旨い物は何か、って聞くのが確実だろうさ。ここの親仁がだすもんは、どれもこれも旨いだろう?」
 そう言って笑う平蔵ですが、鮃の縁側は脂が載っていてと言う話や、この時期ならば茸も良いがやはり茄子であろうなどと盛り上がり。
「やはり茄子は天麩羅に味噌炒めが良いな。手を尽くし旨い物は幾らでも作れるが、存外人々の間によぅく根付いているのが一番旨ぇもんだ」
 身分が高くなれば高くなる程、素朴にしてその物の味わいを楽しむということは少なくなり、物珍しい物や方法が最善になってしまう、そう微苦笑気味に口元を歪める平蔵、舞は少し考える風を見せるとそうかもしれない、と頷いて。
「重いものばかりでなく、少し軽いものが来たようだな」
 ほれ、と襖が開いて差し入れられた物を受け取った御神村が貴由に渡せば、それは皿に盛ってある皮を剥き綺麗に切り分けられた梨と、もう一つの皿には色合いの美しい柿が一口大に切り分けられて乗せられており。
「これは美味しそうだ。そう言えば庭に立派な柿の木があったな」
 微笑を浮かべる貴由に串を手に取りさくっと刺して梨を味わうとほんのりと頬を染め嬉しそうに食べ進める舞。
 秋の味覚の果物はやはり女性達にとってとても嬉しいもののようで。
「それに茹でた栗か。甘さも良いし、明日は栗飯を期待して良いようだな」
 さっきの牡蠣飯で今すぐに飯はいらねぇが、と笑う平蔵は幾つか器用に栗の皮を剥いて空いている皿へと盛っていき、喰いなと勧めて。
 栗のほくほくと暖かい、それでいて過ぎるわけでもない甘さがつくづくに秋の味覚として実感できるもの。
「しかし、夏に比べればだいぶ肌寒くはなってきたものの‥‥まだまだ涼しい、と言っていい頃合いだ」
「まぁ、だからこそこうして月を見ながらの飲み会ができるってもんだけどな」
 牡蠣飯に舌鼓を打ち、土瓶蒸しに季節をしみじみと感じながら舞が言えば、御神村は自身の直ぐ後ろに広がる、開け放たれた窓の外を見上げて。
 秋空に明るく輝く月は満月と言うには少し欠けており、完全な丸でないのがそれはそれで趣を感じさせます。
「さっきまで曇っていやがったのに、酒に釣られて出てきたか」
「秋の月はやはり明るく、気候もあって趣がありますね」
 笑いながら杯を干す平蔵に、お酌をしながら貴由は笑って言います。
「ほら、酌しているばっかりじゃ、のんびり食う暇も呑む暇もないだろ?」
 そんな貴由に御神村は舞の大徳利を受け取ると、杯を取るように軽く大徳利を振って勧め、貴由も微笑みながらそれを受けると杯を口元へと運びゆっくりと飲み進め。
 気が付けばついつい過ぎてしまう酒量に何だかそろそろ貴由はぽうっとしてきているようで、ほんのり頬は先程から桜色に染まっていて。
「どうにも、少々酒が進んでしまうな‥‥」
 それだけ信頼できる人間の中でも、特に親しい人間との気楽な宴とあっては良い心持ちで、いつも以上に安心して呑んでしまうよう。
 尤も、貴由がお酒に弱いわけではなく、三人が普通に比べて、多分当人達としてはほんのちょっぴりお酒が強いだけなのでしょう。
「あぁ、口当たりは良いが、そいつは特に強い酒だからなぁ‥‥」
「っとと、大丈夫か?」
 ついついくらっと来てしまったのか、ほわっとした表情でお酒を楽しんで居た貴由ですが、御神村にぽてっともたれ掛かり。
「おや、貴由は潰れたか‥‥お休み」
 その様子に微笑を浮かべそっと小さく言う舞。
「いかんなぁ、つい手前ぇで呑むのと同じ様子で勧めちまったか? 明日の朝には親仁になんか、さっぱりしたもんでも用意して貰うか」
 そう軽く顎をさすりながら言う平蔵、御神村は取り敢えず膝枕で貴由を寝かせると、取り敢えず苦しげな様子でもないのを確認してほっと息をつきます。
「ふぅ‥‥しかし宴に良い夜だ。さ、もう一献‥‥長谷川様まさか先に潰れはすまいな?」
「おう、まだまだこれぐらいは序の口よ。舞殿もまだまだいけよう?」
 更にお酒の杯を干すのが早くなっていきそうな二人を眺めながら、御神村は酔って眠る貴由に羽織をかけてやると軽く扇いで介抱しているのでした。

 すっかりとたっぷり入ったお酒で寝入ってしまった貴由を膝枕に、時折様子を見てやりながら酒杯を舐める御神村は、平蔵と舞が何だか何処か微笑ましげに見ていて少々反応というか対処というか、兎に角少し困ったように頬を掻いて。
「まるで亭主が手前ぇの女房の介抱しているみてぇじゃねぇか」
「本当に‥‥全く羨ましい限りだ」
「おいおい、二人とも‥‥」
「いやいや、みなまで言うな、お似合いの二人じゃないか。‥‥それに比べて‥‥」
 更に酒が進み、上機嫌の平蔵と舞のからかいに少し慌てたように話題を止めようとした御神村ですが、既にとっぷりと夜も更け、更に良い具合に酒量も増えた舞は深く溜息をついて。
「まず良い同族男がおらぬ」
「そうさなぁ、家の倅がジャイアントで、もちっとしゃきっとしていればと思うが、あれがまた軟弱で不甲斐ねぇ奴だからなぁ。なかなか江戸の中で同族、しかも良い男っぷりのを探すとなるとなぁ」
 決して酔っているわけではないようですが、月だけが眺めているその酒宴が真夜中に差し掛かっているからか、様々な話題へと派生しているようで。
「それに引き替え‥‥」
「そうさなぁ‥‥」
「いや、本当に旦那も舞もちょっと‥‥」
 貴由の事は確かに気になって居つつも、目の前の平蔵を貴由が慕って居ると思っている為か、妹のように接している御神村としては当の本人にからかわれるのは対処に本当に困ってしまうようで。
 そんな様子をからかいながらもほうと溜息をつく舞は、平蔵と、あれはどうした、これはすでに相手がいる、それは種族が違うなど色々と話は盛り上がるようです。
 そんな様子でのんびりまったり呑みながら話は続くのですが、ふと会話が途切れると。
「だがなぁ‥‥お前達三人共がお互いに良い相手と連れ添う姿が見られりゃ、どれだけ良いことか。俺ぁ、それを見るのを楽しみにしているんだがなぁ」
 ふ、と杯を軽く揺らしそう呟くように漏らして、平蔵は杯に口を付けて。
「旦那‥‥」
「俺にとっちゃ、お前達は息子や娘みてぇなもんだからなぁ‥‥こういった御時世に生きてりゃ、お迎えの方が早ぇからかもしれねぇが」
 今の情勢のごたごたを思えば先が見えない現状に平蔵としても思う所はあるようで、その言葉を舞も御神村も静かに酒を飲みつつ聞いていて。
「どうにも晴れ姿ってぇやつを見てぇと思っちまってな。‥‥どうも年は取りたかねぇな。湿っぽくなっていけねぇ」
 小さく笑うと舞が大徳利を手に取るのにすまねぇなと笑って杯で受ける平蔵。
「ま、しかしそん時ゃ仲人は津村に任せて親父の座る場所にでも勝手に陣取るか」
 にやりと笑うと、平蔵は既にぬるくなった手の中の杯を舐めるようにして呑み干すのでした。
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2009年11月02日

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