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『夢の国へようこそ〜蒼碧の君へ〜 』
ユリゼ・ファルアート(ea3502)

 雫が、蒼と碧の水面に音も無く落ちた。たちまち音にならずざわめく水面が、ゆらりとうねり波を起こす。
「‥‥久し‥‥ぶり?」
 どうして私‥‥こんな所で待ち合わせしているんだろう。
 その声は呟きにさえならなかった。多分、夢‥‥。ここに居るのは夢だから‥‥。
「どうかな」
 爽やかな笑みを湛えつつやってきた男は、穏やかに答えた。
「これって夢よね。うん、夢。じゃ、そういうわけで行きましょ、フィル」
「自己完結かい?」
 笑う男を見上げながら、ユリゼ・ファルアートも少し笑った。
 これが夢なら、今だけは何も気にしないで楽しもう。
「でも‥‥そうか。夢なら‥‥何でもありだね」
 そんなユリゼの隣で、男は言った。あくまで軽く。
 夢でも‥‥この男は変わらないなと思いつつ、ユリゼは頷いた。


 夢の国、『キツネーランド』の門をくぐると、そこは一面ハロウィン色である。どこを向いても橙と黒に染められ、夜になればさぞ雰囲気良く盛り上がれる事だろう。
 そんな2人の傍を様々な『幽霊や化物』の仮装をした人々が通っていく。
「‥‥仮装か‥‥。何かラインナップが面白そ‥‥」
 思わず呟いてしまってはたと気付き、振り返った先で。
「なっ‥‥何で脱ごうとしているの‥‥?」
 夢の国とはいえ白昼堂々、上着どころかシャツまで脱ごうとしている男を目撃した。
「ん? 仮装だろう? 仮装するなら、やはりきちんと下着から仮装用を身につけるべきだと思うんだ」
「‥‥一応聞くけど。ここ、どこか分かって言ってる?」
「メインストリートの十字路付近、仮装用屋台前?」
 どすっ。
「‥‥痛いよ‥‥ユリゼ‥‥。この痛みは夢じゃないと思うんだ‥‥」
「心の痛みは夢でもあるんじゃない?」
「私は心なんてちっとも痛んでな」
「少しは痛んで欲しいんですけど?」
 夢だからか、タチが悪くなっている気がする‥‥。額を押さえながら、ユリゼは屋台の陳列台を覗き込んだ。
 白に黒に橙に赤‥‥。色合いは多種とは言えないが、一通りの幽霊や化物仮装は揃っているらしい。多くの人がここで仮装用の衣装を借りると聞いて、ユリゼはざっと見て良さそうなものを広げてみた。
「これ‥‥ヴァンパイアよね。オーソドックスで良さそう。ねぇ、フィ‥‥」
「あぁ親父。これを1枚」
「駄目!」
 フィルマンが差し出そうとしてた衣装にがばっと飛びつき、ユリゼはそれを奪い取る。
「河童は却下よ」
「じゃあ、こ」
「埴輪も駄目! 大仏も却下!」
「大仏なんて無いよ」
「とにかく却下」
 自分達が居た国で、この男がどれほどの所業を成してきたのか考えると、ユリゼの言い分は尤もな気もした。当の本人は自覚があるのか無いのか、『何でかなぁ』とぼやいている。
「ほら前髪をあげて‥‥ああ、胡散臭くて凄く良く似合うわ」
 ぼやく男に簡易着替室で着替えをさせ、出てきた所で思わず笑う。
「じゃあ、君の衣装は‥‥私が選んでもいいかな?」
「私? ん〜‥‥フィルに選ばせたら変なもの選びそうよね‥‥。まるごと以外ならそれなりに何でもいいけど‥‥」
「じゃあこれを」
 男は全く迷わなかった。一瞥した衣装を手に取り、女に渡す。
「‥‥」
 逆に不安だった。この上なく不安だ。だが見た感じ、少なくとも『まるごとさん』ではなかったので、とりあえず着替室へと入る。
「‥‥」
「どう? ユリゼ」
「やっぱり別のにする」
「何故。絶対君には似合ってると思うけどな」
「‥‥」
 それは、ウィッチの衣装だった。鏡に映る自分の姿を見て、ユリゼは首を振る。駄目だ、こんな服。スタイルがびしっばしっと決まってて、胸とかしっかりある人じゃないと、こんなの似合うわけない。そりゃあ自分はウィザードですけども。でも実際、ウィザードというのはもっと地味な職業であるからして。
「‥‥似合わない」
「どれ?」
「ちょっ‥‥勝手にカーテン開けて入ってこないでよ!」
「大丈夫だよ。可愛い」
 男は笑い、ユリゼの手を引いた。
「かわっ‥‥て、でもこの衣装、どう見ても大人の女性向けの、スタイルがいい人向けのだと思うんだけど」
「いつもの君の格好も悪くは無いんだけどね。勿論、淑女が肌を露出させるなんて有り得ない事だけれども、ここは‥‥『夢の国』だから」
「夢の国だからって何でも許されないわよ?!」
「じゃあ、このマントを羽織ればいい」
 吸血鬼は魔女へと黒い光沢が輝くマントをふわりと掛ける。
「うん。よく似合ってる」
 言い様額にキスし、吸血鬼は魔女の手をどんどん引いた。
「さぁ、何に乗ろうか? お姫様」


 黒と橙に彩られた世界の中で沢山の幽霊達が動き回っているというのに、何故か世界はキラキラ輝いて見えた。おどろおどろしく飾られた回転木馬だって、光が散って煌いているようだ。
 手を引かれて歩きながら、ユリゼは回転木馬を眺める。
「回転木馬とか、普段馬やドラゴンに乗っているのにどうよって所もあるけど‥‥あれ、どう?」
「いいよ」
 男は向きを変え、係員の所へと向かった。
「どうする? あのかぼちゃの馬車に乗ろうか、それとも」
「馬車ってつまらなくない? やっぱりからくりの大きな木馬に乗っているのが懐かしかったり楽しかったりしそう。今日はお馬さんもお化け仕様だし」
 くすりと笑った娘に、男は一瞬だけ考えて。
「じゃあ、膝の上に乗る?」
「乗りません」
 その一瞬後には撃沈していた。
「そう言えば‥‥かぼちゃの馬車には童話があるよね」
「ん‥‥? あまりよく聞こえない‥‥? 童話?」
 くるりくるり‥‥。ゆっくりと上下に木馬が動く中、それらが乗っている台ごと回転し始める。隣の木馬に乗っているとはいえ、若干距離があるので風の音と混ざり合い聞こえが悪かった。
「そう。0時になると魔法が解けて‥‥夢が終わる話」
「‥‥それは知っているかも? でも、王子様は彼女を探して町に出て‥‥最後はハッピーエンドな童話でしょ?」
「この魔法も0時に終わる。君との思い出も‥‥」
「フィル?」
「思い出は、切ないからこそ尊く美しく輝くものなのだろうね。魔法が解ける瞬間の、その一瞬の輝きのように」
 男の言葉は途切れ途切れで、あまり良く聞こえない。だから男が呟く言葉は、まるで呪文のように聞こえた。
「はい。お手をどうぞ」
 止まった木馬から先に降り、吸血鬼は魔女へと手を差し伸べる。
「胸にど〜んと、でもいいけど」
 一瞬迷っていたら、付け加えられた。
「遠慮するわ。だってこんなに小さい木馬なのよ? 一人で降りられ‥‥」
 言いながらも差し出された手に手を乗せる。何となく無言で降りた後、ユリゼはフィルマンの横顔を見上げた。夜景の中に浮かび上がるその人の顔に、どこか哀愁を感じる。
 本当に。この夢が0時で終わるなら‥‥。
 まるで泡のように、そのまま消えてしまいそうで。


 楽しい時間はあっという間に過ぎていくものだ。
「もう閉園時間? 早いわね」
 満天の星が輝く夜空に打ち上げられる花火を見上げながら、ユリゼは呟いた。この園内には沢山の光がちりばめられているというのに、何故あんなに夜空は綺麗に輝くのだろう。
「そう言えばさっきのキャンドル型のジュースに、ミイラ型のケーキ。あれは無かったなぁ‥‥。いっそ、花火型デザートのほうがよっぽど目にも楽しいのにね」
「それいいわね。でも作るの大変そう?」
 花火は次々と打ち上げられている。それを眺めていると何となく気になる事が‥‥。
「あれ。綺麗だけど、魔法じゃないわよね? 何使ってるんだろ‥‥」
「何となく、煙の臭いがするけど気のせいかな?」
「え? 火事?!」
「綺麗なだけじゃないのかもね」
「どういう事?」
「‥‥苦労がある、って事だよ。派手な演出は、陰で切磋琢磨してるから成功できることなのかもしれないな。君の魔法だって‥‥そうだろう?」
「それはまぁ‥‥修行はしてきたけど‥‥」
 不思議。そっと心の中で呟き、ユリゼは心持ち体をフィルマンに預けた。
 思えば、あまり真面目な事を言う人ではなかった。だから真剣な顔で真面目な事を言われると、それが次に続く冗談の布石ではないのかと身構えてしまいそうにもなる。でも、これが『夢』だからなのかな‥‥どこか憂いを帯びた感じを見せるこの人の事が‥‥。
「ユリゼ?」
「‥‥はい、これ」
 腕に頭をもたれながら、ユリゼはそっとジャック・オー・ランタン型の箱を取り出す。
「‥‥何?」
「お礼。‥‥あげる日、なんでしょ?」
「ありがとう」
 男は微笑み、箱を開けた。中には焼き菓子が詰まっている。
「手作り?」
「‥‥それは‥‥秘密」
 一際大きな花火が上がった。その光に照らし出され、男は壊れ物を扱うように、ゆっくりユリゼを抱きしめた。
「‥‥有難う。君に‥‥幸せが。永遠の幸せが降る事を、祈っている」
「‥‥フィル?」
 最後の花火が上がる。男は離れ、階段を静かに降りて行った。時計の針は12時を指し、女は階段の上で呆然とそれを見守る。その足には、ガラスの靴ならぬ埴輪の脚。その階段を降りきれば、泡のように消えてしまう人‥‥。
「‥‥待って!!」
 叫ぶと同時に、重厚な鐘の音色が辺りに響き渡った。


 雫が、蒼と碧の水面に音も無く落ちた。たちまち音にならずざわめく水面が、ゆらりとうねり波を起こす。
 何故、こんな所で待ち合わせしているんだろう。彼女はぼんやり思う。
 あぁ、そうだ。ここは夢の世界。ここに居るのは夢だから‥‥。
「お待たせ」
 男の声に顔を上げ、彼女は微笑を浮かべる。
「女の子待たせるなんて、貴方らしくないわよね」
「‥‥どうした?」
 問われて、彼女は目をこすった。
「何でもない。大丈夫。だってここは‥‥夢の世界だから」
 だから大丈夫。
 たとえこの先、失う相手であったとしても。
 今、この時が、とても幸せなのだから。


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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
ea3502/ユリゼ・ファルアート/女/24/ウィザード

フィルマン・クレティエ/NPC


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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発注いただき、ありがとうございました。
2人に起こるかもしれない、起こっていたかもしれない世界、未来、から来た相手・・・という夢の世界を書かせて頂きました。現実世界で幸せになって頂ければライターとしては本望でございます。
又、機会がございましたら、その折は宜しくお願い致します。
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2009年11月11日

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