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『夢の欠片 』
イヴリル・ファルセット(ha3774)


 ハロウィンは死者の霊が家族を訪ねてくると言われている日。
 精霊や魔女が嬉々として空を飛び交い、どこか異世界と通じるような気配が街を覆い尽くす。
 ふわり、空から舞い降りた女性が手を伸ばす。

 ――異世界の扉、開けませんか?
 そこは願いが叶う世界。
 ただ一日だけの、夢の世界。
 いつもは言えないわがままも、伝えられない想いも、幼い頃に抱いていた大きな夢も、たった一日だけ叶う世界。
 目が覚めてしまえば、それは全て夢になってしまうけれど――

 そして、手を取ったのはイヴリル・ファルセット(ha3774)――。
「あら、ヴィスター様ったら」


 朝っぱらからブリーダーギルドに響き渡る、ちょっと低くて甲高い声。
 その声の出所はギルド長室。そして、部屋の主であるオールヴィル・トランヴァース(hz0008)は受付で職員達と共に呆然と立ち尽くしている。その隣で涙目になっているのは、エステル・アイヴォリー(hz0021)。
「ヴィスター様が、ヴィスター様が」
 皆の口から、呪文のように繰り返される恐怖の名前。
「素敵なお声だと思いますけれど?」
 うふふと笑うのは、依頼を見に来ていたイヴリルだ。次の依頼をどれにしようか迷っていたのだが、響き渡る声を聞いて依頼を受けるのをやめた。決して、ギルドに突然降りかかった未曾有の大事件をどうにかしようと使命感に燃えたわけではなく、依頼よりも何よりも面白そうなことがここにある、というのが本音だ。
 さて、その未曾有の大事件というのは――。
「ちょーっと! ヴィル! いつになったら出勤してくるのよっ! あたしをいつまで待たせるつもりっ!」
 ――コレ。
「い、嫌だ‥‥誰が出勤するもんか‥‥あんなのヴィスターじゃねぇ‥‥」
 ガクガクブルブル。受付の奥に隠れて小刻みに震えるヴィル。ヴィスターの弟子のエステルも一緒に、「怖いよぅ」と震えている。
「では、代わりにわたくしが」
 イヴリルは軽く挙手すると、非常に楽しげにギルド長室へと向かっていった。勇者だ、イヴリル。
「ヴィルはまだなのっ! ヴィルはっ!」
「おはようございます、ヴィスター様」
 ノックせずに扉を開け、イヴリル突入。予想外の人物の登場に、ヴィスターは暫し固まった。
「あ、あら? イヴリルちゃん? どうしてあなたが」
 きょとーん。体にしなをつくり、右手を頬に当て、しかし服は普段の通りで、化粧をしているわけでもない。男性の姿のまま――話し方と仕草が女性っぽくなっているのだ。
 ヴィスターと言えば泣く子も黙るギルド長補佐。そんな彼がこんな状態になっているのだ。そりゃ誰もが恐怖に戦くのは仕方ない。
「皆さん、お体の具合が悪いそうですので、代わりにわたくしがお付き合いいたします」
 お付き合いという名の「観察」であることは言うまでもない。しかしヴィスターは飛び上がって喜んだ。
「まあ、素敵! いつもむさ苦しい熊と一緒でうんざりしてたの! 若くて可愛い子と一緒にお仕事したかったのよね」
 これはなんだ。もしかしてヴィスターの本音か?
「お仕事もいいですけれど……たまにはお休みして、のんびりと散策ですとか、ショッピングですとか、いかがでしょう」
「‥‥じゃあ、ショッピング、いいかしら。あたしね、その皮鞭とハイヒールに憧れているの。イヴリルちゃん、鞭でぴしぴしやったり、ヒールでぐりぐりやるのお得意でしょう? あたしもやってみたくて」
 ヴィスターは目を輝かせ、イヴリルの腰に提げられた皮鞭と、踏まれるととても痛そうなハイヒールを指差した。
「そういう趣向です?」
「SとMなら、Sかしら」
「Mのヴィスター様なんて想像できません。わかりました、皮鞭とハイヒール、買いに行きましょう」
 イヴリルは笑顔で頷く。
「きゃあっ! 嬉しいっ! 買ったら一緒にぴしぐりしてね!」
 ヴィスターは体をくねくねさせて歓声を上げた。
「そんな危険なことさせられるかっ!」
 怒声と共に、勢いよく扉が開け放たれる。そこには、扉を塞ぐようにしてヴィルが立っていた。その後ろにはエステルもいる。
「どうしてよ。何か問題でも?」
「大ありだ。色々と洒落にならんつーかなんつーか、その、頼むからやめてくれ‥‥」
「そうですよ、ヴィスター様‥‥うぅ」
 想像しただけで頭を抱えるくらい恐ろしい事態なのか、ヴィルとエステルはそれ以上何も言わずにがちがちと震え始めた。
「どいて。絶対に買うんだから。どいてくれなきゃ、キスするわよ」
 冷たく鋭い、しかし妖艶な眼差しを二人に向けるヴィスター。
「す、すみませんでしたっ!」
 ヴィルとエステルは凍り付き、大慌てで道を開けた。
「さ、行きましょ、イヴリルちゃん♪」
 ヴィスターは鼻息混じりに、イヴリルの腕を引っ張って出て行った。


「この皮鞭も素敵! どうしよう、迷っちゃうわあ」
 ショップに並べられた皮鞭を次々に手に取るヴィスター。かれこれ一時間ほど、皮鞭と睨めっこを続けている。ハイヒールはすんなりと決まっていて、その足元には黒く艶のあるピンヒールが輝いていた。
「ごめんね、イヴリルちゃん。待たせちゃって」
「構いませんよ。わたくしとしましては、ヴィスター様に納得のいく皮鞭を買っていただきたく」
「ありがと‥‥っ! 今ね、このふたつで迷ってるの」
 そう言って、ヴィスターは二種類の皮鞭をイヴリルに見せた。
「あら‥‥こちらの、わたくしのとお揃いです」
「ホント? じゃあ、あたしもこれにしちゃおう!」
 ヴィスターは大きく頷くと、イヴリルとお揃いの皮鞭を手にいそいそと会計へと向かった。

 納得のいく買い物ができ、ご満悦のヴィスター。皮鞭を軽く振りながらギルドへの帰路を進む。
「いい音ね〜」
 うっとりと、皮鞭の音に聴き惚れる。その時、裏路地から数名の男達が飛び出してきた。手にはそれぞれ武器を持ち、明らかにヴィスターを睨み据えている。
「お知り合いですか?」
「知らなーい。でもあたし、敵が多いからぁ」
「そうですか、では降りかかる火の粉は払いましょうか」
「うんうん、買ったばかりの皮鞭も使ってみたかったし、ちょうどいいわ!」
 イヴリルとヴィスターはくすくすと笑いながら皮鞭をしならせる。男達は若干頬を引きつらせながらも、ヴィスターに襲いかかった。
 ぴしぴし。
 ぐりぐり。
 ぴしぐりぐりぴし。
 ぐりぐりぴしぐり。
 そりゃもう、耳を塞ぎたくなる音と共に、目を逸らしたくなる光景がエカリスのど真ん中で繰り広げられる。恍惚とした表情で鞭を振るうヴィスター、それを楽しげに観察しながら鞭を操るイヴリル。倒れた男には、二人のヒールでぐりぐりの刑だ。
 うふふ、イヴリルがうっとりする。
 うふふ、ヴィスターもうっとりする。
 エカリスの街に、男達の情けない悲鳴が響き渡った。

「イヴリルちゃん、今日は本当にありがとう! あたし、とっても楽しかったわ」
 ギルドに戻ると、ヴィスターはイヴリルの手をぶんぶんと上下に振る。
「どういたしまして。そうそう‥‥これ、似合いそうでしたので」
 イヴリルはヴィスターの髪に、昼間の散策で買っておいた簪を挿す。ヴィスターは「大切にするわ」と笑った。


 翌日、ギルドではヴィルやエステル達がやはり受付でガタガタと震えていた。
 今日もヴィスターはあの状態なのだろうか。どうやって接したらいいのだろうかと囁きあう。
 そこに、ヴィスターがやってきた。びくつき、身を縮める皆の姿を見て、不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんです? 私の顔になにかついていますか?」
「――いつものヴィスターだっ!」
 わあっ、と湧き起こる歓声。ヴィスターに抱きつくヴィル。
「な、なんなんですか、一体。私がどうしたというんですか」
 ヴィスターは昨日の出来事を何も覚えていないのだろうか。きょとんとして周囲を見渡してばかりだ。
「いや、なんでもないんだ、いつものお前ならそれでいいんだ」
 ヴィルはばしばしとヴィスターの背中を叩き、「さ、仕事だ」とギルド長室へと彼を誘っていく。
 その時、ヴィスターはこっそり様子を見ていたイヴリルに気付いた。そして――。
 ヴィルに気付かれないように簪を出すと、ウィンクしながら自身の髪を軽く束ねてそこに挿す。
 ――また、遊びましょ。
 ヴィスターの口が、そう動いた。
「今度は、ドレス選びを手伝いましょうか」
 イヴリルもウィンクを返し、くすりと笑う。
 ヴィスターの髪に挿した簪が、しゃらしゃらと涼しげな音を立てた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ha3774 / イヴリル・ファルセット / 女性 / 17歳(実年齢34歳) / 魔石連師】
【hz0008 / オールヴィル・トランヴァース / 男性 / 32歳 / ウォーリアー】
【hz0020 / ヴィスター・シアレント / 男性 / 34歳(実年齢102歳) / ウォーリアー】
【hz0021 / エステル・アイヴォリー / 女性 / 20歳 / ウォーリアー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■イヴリル・ファルセット様
いつもソルパにてお世話になっております、佐伯ますみです。
「パンパレ・ハロウィンドリームノベル」、お届けいたします。
三案の中からひとつ、ということで、ヴィスターが一番弾けてくれそうなものを選びました。
折角ですので、一緒にショッピング&ぴしぐりしていただきましたが、いかがでしたでしょうか。

この度はご注文下さり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
これから本格的な冬がやって参ります。また、年の瀬の慌ただしさに体調を崩しやすくなりますので、お体くれぐれもご自愛下さいませ。

2009年 11月某日 佐伯ますみ
パンパレ・ハロウィンドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2009年11月25日

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