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『夢の欠片 』
ライディン・B・コレビア(ha0461)


 ハロウィンは死者の霊が家族を訪ねてくると言われている日。
 精霊や魔女が嬉々として空を飛び交い、どこか異世界と通じるような気配が街を覆い尽くす。
 ふわり、空から舞い降りた女性が手を伸ばす。

 ――異世界の扉、開けませんか?
 そこは願いが叶う世界。
 ただ一日だけの、夢の世界。
 いつもは言えないわがままも、伝えられない想いも、幼い頃に抱いていた大きな夢も、たった一日だけ叶う世界。
 目が覚めてしまえば、それは全て夢になってしまうけれど――

 そして、手を取ったのはライディン・B・コレビア(ha0461)――。
「‥‥よし、仕込み終わりッ!」


 静まりかえった店内が妙に広く感じるのは、店が休みというばかりではなく、妻が出かけているからなのかもしれない。
「仕込みも終わったし‥‥外にでも行くかな」
 休みとはいえ料理の仕込みは欠かさずあるが、それが終われば時間を持て余してしまう。妻がいれば彼女との時間を過ごしたりもするのだろうが――。
 ライディンは上着と帽子を手に取ると、喧噪の溢れる外の世界へと踏み出した。そして、自身の店を眺めてみる。
 木造三階建ての店は、所々微妙に色が違っていて、それがたまらなく温かい。入口両脇の植え込みからは、芸術なのか、失敗なのか――しかし個性的な樹木がその存在を主張し、付きたてられた棒には焼き文字で店名が書かれた一枚の看板がぶらさがっている。
 ――INN G.H.O.S.T
 こんな場所を持てるなんて。沢山の仲間に囲まれて笑う、こんな穏やかな日常があるなんて。そして、自分が家族を持てるなんて――。
 ライディンの顔に、思わず笑みがこぼれる。
「行ってくるよ」
 そう言って、ライディンは軽く手を振った。


「南瓜多いなー」
 オープンカフェで一息つきながら、ライディンは行き交う人々に目を細める。ハロウィンの仮装をした人々の多いこと。
「次、どこ行こうかな」
 いい天気だし、のんびりと散策したいところだ。ここに来るまでも随分と街を満喫した気がするが、いつもよりも時間が過ぎるのを遅く感じるのは、ひとりで行動しているからなのだろう。
 つい、左側を見て、いつもそこにいる存在を探してしまう。
 いつもいるはずの存在を探すのは、それが当たり前の風景になっているからで、それを与えてくれた存在が愛しいからだ。
 夜の闇の中、心に一瞬落ちる暗い影や遠い記憶に、呼吸が止まりそうになることもある。
 消せない過去に捕まるのではと、震えることもある。
 それでも、繋いだ手を離さないように、今を大切にしたいという想いは膨れあがる。
「さて、行こうかな。奥さんへのお土産も探そう」
 ライディンは軽く背伸びをしてから席を立った。
 その瞬間、体が凍り付く。
 どこからか感じる殺気。
 背中に流れる冷たいものを感じながら、瞳だけを動かした。そして、彼の者の姿を見て全身が総毛立つ。
 全身を覆う黒いローブには、控え目に銀のラインで模様が入っている。羽根をモチーフとしたナイフを持ち、仮装する人々の中に紛れている。
 あれは、かつてライディンが所属していたアサシン団の衣装だ。
 見間違えるはずはない。忘れられるはずも、ない。
 その時、黒いローブの男は意味深な笑みを浮かべ、流れるように裏路地へと消えていった。


 昼間だというのに闇の支配が強い細い路地を、ライディンは駆ける。闇は嫌だ。しかし男を追う足はその動きを止めることを知らない。
 ひゅっ、と風を切る音と共に、頬を冷たい針が撫でていく。やがてそこは熱を持ち、鼓動を孕んで赤黒い液体を吐き出し始めた。
 ――危険だ。
 本能が告げる。既に戦闘は始まっており、敵が優位であることは明らかだ。ライディンは短剣をホルダーから抜くと、意識を集中する。
 頬を伝う液体が、地に落ちた。
 それを踏みつけてライディンは闇へと疾走する。微かに差し込む陽光を受けた短剣が、薄い光の軌跡を残す。
 その軌跡に絡むもう一本の軌跡が金属の擦れる嫌な音を響かせた。衣服が裂け、新たな液体が迸る。どこからか鉄臭い雨が降るが、これは自分のものとは違う。
 黒衣の存在は闇に紛れ、揺れる銀のラインが現れては消え、消えてはまた現れる。
 ライディンは感覚を研ぎ澄まし、擦れ合う金属音の果てにある呼吸音と衣擦れの音、放たれる殺気の源へと自らの殺気を抉り込ませていく。それらは狭い裏路地の中、建物に反響してあらゆる方向からライディンを包み込んでいた。
 タンッ。
 ライディンの耳がひとつの音を捉える。
 考えるよりも早くライディンの足は地を蹴り、右手の壁を踏み切って宙に舞った。
「終わりだッ!」
 逆手に持った短剣を脇に引き、下段から一気に上段へと振り上げる。弧を描く軌跡が途中で消えた。
 衣が裂ける感触、肉を断つ感触、刃に絡まる筋肉と血管と。
 やがて硬いなにかにぶち当たると、ぎしりと擦れる音と共に再び軌跡が現れた。
 直後、何かが地に激突する音が響く。ライディンは宙で体勢を整え、静かに着地した。
 ぱしゃり、水溜まりを踏む。
 その水溜まりは、どす黒く、徐々にその範囲を広げていった。


 先ほどの戦闘の場からそれほど離れていないだろうか、ライディンはまだ裏路地の闇の中で膝を抱えて座っていた。
 人の命を命と思えない自分が、また表に出てきてしまった。
 手に残る感触はひどく現実的で、血が止まった傷達は未だ熱を持つ。
 心がこの闇の中に堕ちていく。
 どこまで堕ちるのだろうと自嘲気味に笑みを零した時、「おい」と上から声が降ってきた。
「‥‥ギルド長」
 聞き慣れた声に見上げると、そこにいたのはオールヴィル・トランヴァース(hz0008)。彼は何も言わずにライディンを担ぎ上げる。
「何を‥‥っ」
 肩の上、驚いて暴れるライディンを気に留めず、ヴィルはライディンを担いだまま大股で歩き始めた。

「これ、飲め」
 ヴィルはライディンに淹れたてのコーヒーを差し出した。
 連れてこられたのはヴィルの家だ。彼の娘は出かけているらしく、他には誰もいない。ヴィルはライディンの衣服を剥ぐと、彼を強引に風呂場に突っ込んで体を洗うように指示した。そして出てきた時にはヴィルの若い頃の服が置かれていた。
「服は俺の懇意にしてる仕立屋に頼んで修復して貰う。嫁さんには俺と手合わせしていて湖に落ちたとでも言っておけ」
 正面に座り、笑う。ライディンは息を呑んだ。ヴィルには何も言っていない。だが、悟られている――?
「――アレは始末しておいた」
 悟られて、いるようだ。ライディンは唇を噛む。
「ま、ゆっくりしていけ。何も心配はいらんから」
「‥‥あの」
 にこりと笑うヴィルに、ライディンは躊躇いがちに顔を上げる。
「過去って‥‥向き合うべきですか。それとも、忘れるべきですか」
 真っ直ぐにヴィルを見据え、言葉を紡ぐ。コーヒーカップを持つ手が震えた。
「んなもん、答えなんてねぇな」
「‥‥ない?」
「あったら、俺が訊きたい。だがな、その過去があるから今のお前がいることを忘れるな。お前、まだ十八だろ。これから先のほうが長いんだ。その長い時を共に過ごす相手もいて――なあ、お前は何が一番大切だ?」
「ギルド長?」
「嫁さんとの未来を選んだんだろう? 過去と向き合うことも、忘れることもできんヤツは、未来を選んだりはしねぇな」
 その言葉に、ライディンは思考の渦に落ちていく。
「‥‥とにかく、だ。答えなんてない。過去より未来を選んだお前自身が答えなのかもしれねぇな」
 ヴィルは笑いながら、ライディンのまだ少し濡れた髪をがしがしと撫でた。
 されるがままになっていたライディンは、髪を撫でるヴィルの手が傷だらけであることに気付く。
 そして自身の手をじっと見つめ――同じであることに、気が付いた。
 その傷が目に見えるものであっても、そうでなくとも。
「‥‥俺、彼女との未来、見たい」
 自然に口をついて出たライディンの言葉に、ヴィルは満面の笑みを浮かべた。


 帰宅したのは夜になってからだった。
 あれからヴィルと他愛もない話で盛り上がり、新作MPの馬鹿話で盛り上がってすっかり遅くなってしまった。
 店の奥、窓から明かりが漏れている。
 妻が帰ってきているのだろう。そういえば、お土産を買ってくるのを忘れてしまった。次の休みには彼女を誘って、一緒に買い物に出ようか。そんなことを思いながら、ライディンは扉に手を掛ける。
 温かい料理を食べて、妻と沢山の話をして、そして一緒に眠りにつこう。
 今日も平和に終わったと――全てに感謝しながら。
「――ただいま」
 ライディンは笑顔で扉を開けた。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ha0461 / ライディン・B・コレビア / 男性 / 18歳 / 狙撃手】
【hz0008 / オールヴィル・トランヴァース / 男性 / 32歳 / ウォーリアー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■ライディン・B・コレビア様
いつもソルパにてお世話になっております、佐伯ますみです。
「パンパレ・ハロウィンドリームノベル」、お届けいたします。
PC様の日常ということで、色々書かせていただきましたが、イメージに近いものになっているといいのですが……。
戦闘シーンにつきましては、普段とは違う描写をしております。どこが違うのか比べてみてくださいね。そして、MPもこっそりと(笑)

この度はご注文下さり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
これから本格的な冬がやって参ります。また、年の瀬の慌ただしさに体調を崩しやすくなりますので、お体くれぐれもご自愛下さいませ。

2009年 11月某日 佐伯ますみ
パンパレ・ハロウィンドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2009年11月26日

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