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『『記憶の眠る砦』 』
リルド・ラーケン3544)&(登場しない)



 人が滅多に近寄らない山岳地帯に響き渡るは、リルド・ラーケン(りるど・らーけん)只一人の足音と呼吸の音のみ。その目的は、かつてこの山岳地帯に消えたとされる、アルタジアの侵攻部隊に届くはずだった石版の伝言を届ける為である。
 いや、本来の目的は、この地域にあるとされている砦で消息を絶った、アルタジア国の指揮官が持っていたと伝えられる、国の遺産を入手するためだ。その遺産が何なのかはリルドもわからないが、遺産というからには高価なものと予測される。
 その遺産を持ち帰れば、依頼主である貴族から魔法の剣をもらえる事になっているのだ。
 山岳地帯に向かったリルドは、この地で何が起こったのか、過去の出来事に触れる事となった。捜索している途中、ある洞の一角で発見した人骨は、アルタジアの部隊に届けるはずだった撤退命令を持っていた。
 だが、その人物の不慮の事故によりその伝言は伝えられなかったのだろう、リルドが知る限り、アルタジアの消えた舞台が、2度とその歴史の表側に出てくる事はなかった。



 リルドは伝令係と思われる人物の持っていた地図を広げ、山岳地帯を進んでいった。高い地域であるので、植物も高山植物がほとんど多く、背の高い細長い葉を持つ樹が、色気のない花を咲かせていた。
 岩場が多く、茶色の大地はむき出しになっており、湿っている所がぬかるんでいたが、それをうまく避けて進み、リルドは道とも言えない道を進んでいった。
「あれは?」
 視線の先に、灰色の崖が見えてきた。一見、ただの崖のように見えたが、視線を下にずらしていくと、石作りの建物が崖に埋まるように作られていた。
 どれぐらい前の建物なのかはわからないが、おそらくは崖の斜面を利用して作られたのであろう。崖に作られたから上空からは見つかりにくく、また頑丈そうな岩壁がこの砦がどれぐらいの敵の侵入を防いでいたかを物語っていた。さらに砦として使われていたのに相応しく、斜面に砲台と思われる穴がいくつも開いていた。
 地図が指し示すのがこの砦であると確認したリルドは、遺跡に入る前にそばの岩に腰掛けて、砦に入る前に一呼吸置く事にした。
 ずっと歩いていて腹が多少空いてきたのもあったが、あの砦の中に入れば何かが待ち受けているかわからないというのもあり、準備を万端にしておきたかったのだ。
 巨大要塞というほどの建物でもないし、中に入って後は遺産を探して帰るだけなのだが、一筋縄ではいかない予感がしていたのだ。理由はわからないが、これまで色々な依頼をこなして来たベテランの冒険者としての勘の様なものだ。
 手持ちのドライフルーツと硬いパン、そして甘い味をつけた水を飲みながら砦を見上げた。
 この砦はいつからあるのだろう。アルタジア国のものではないだろう。軍施設なのだから、それなりに大きな国のものではないかと推測出来る。この人気のない山岳地帯も、かつては人が行き来していたのかもしれない。いや、様々な種族が共存するこの世界だ、人間とは限らないかもしれないが。
 食事を終えると、リルドは剣をいつでも抜ける様に携えて、砦の中へ入る前に周囲の様子を確認した。自分の目で見える範囲に異常なものはないが、罠などが仕掛けられている事もあるし、魔法技術のある文明のものなら、魔法生物が砦を守っている事もあるだろう。
 特に異常な様子を感じられない為、リルドは呼吸を整えて砦へと足を踏み入れた。



 入り口から入ると、すぐに暗闇に包まれた。入り口は泥がこびりついており、人がまるで入ってきていない事を示している。
 リルドはランタンに火をつけた。柔らかい炎の明かりが壁を照らし、初めて砦の内部を確認する事が出来た。
 砦の内部は、石の飾り気のない壁が続いていた。砦だから、造りも頑丈でなければならないのだろう。すぐ目の前に2階へと続く階段があり、それより先はさらなる暗闇で覆われていた。
「何もないわけがないな」
 リルドに気づいているのかそうでないのかはわからないが、何かの音がする。まだ遠くの様だが、金属がこすれ合う様な音で、砦に入り込んだ動物でない事は明らかだ。リルドはその音を意識しながら、さらに先へと進んだ。
 とにかく、依頼されたアルタジアの遺産を探せばいいのだ。それさえ見つかれば、この砦で不要な時間を過ごす必要はない。
 入り口からまっすぐ奥へ進むと、木の扉が見えてきた。廊下には赤黒い染みが転々とついており、ここで何か悲惨な事が起きたのではないかと、リルドは思えてきたのであった。扉はかなり痛んでおり、蝶番は完全に外れて、扉を開けるというよりも、どかすという形で部屋の中へと入った。
 その部屋には木製の長いテーブルに、木の椅子が並んでいる。机の上には割れた皿やフォークが散らばっており、まわりの木の箱にはすっかり水分が抜けて干からびた果物が入っていた。
 それから考えると、ここは食堂なのだろう。かつては沢山の人々が、ここで戦場のつかの間の休息を取っていたのかもしれない。この部屋でどんな会話が交わされたのか、すでに今となっては知る由もないが。
 あの金属音はまだ続いていた。実は誰かが住んでいた、という可能性はないだろう。こんな何もない廃墟に住む人がいるとは思えない。あまり歓迎したくない何かに違いないだろう。
 リルドは入り口からこの食堂に来るまで、壁に剣で切った様な傷跡や、焼き焦げた後がついている事に気づいていた。それに、床には破れた衣服の破片が散らばっている。砦が使われていた時から残っているにしては痛々しい。ここで何か起こった事は間違いないだろう。
 リルドは食堂を出て、入り口付近にある階段を上がった。かなり入り組んだ構造になっているので、1つ1つ、安全そうなところを調べていくしかなかった。
 狭い廊下があり、砦の正面になる壁には、小さな窓があいている。見張りの窓かもしれない。そこから外を覗くと、先程リルドが腰掛けて食事を取った岩が見えていた。
「あの音」
 金属音がさらに近くなり、しかもその数は増えている。もしかしたら、リルドの存在に気づき、何かが集まってきているのかもしれない。
 リルドは剣を抜き構えの姿勢を取ったまま、次の部屋へと移動した。
 その部屋はレンガ作りの部屋で、武器庫の様であった。錆びてしまった金属の盾や剣が置いてあり、剣術を得意とするリルドには、その剣がかなり昔使われていたものだと推測出来た。
 リルドは倉庫から出て、奥へと進んだ。砦の2階に広い部屋があった。部屋は広いが壁が崩れている箇所がいくつもあり、中央の大きなテーブルには、この周辺のものと思われる地図が散らばっており、壁には掲示板の様な板が打ちつけられている。
 ということは、ここは司令室だったのだろうか。憩いの場ではないだろう。司令室と思われる部屋の壁や床や天井には、かなり多くの傷跡が残されていた。それに、赤黒い染みが床に大量に染み付いている。ここで戦いがあった事は明らかだ。
 リルドは、これまで見てきたものを頭の中で思い返した。この砦に、消息を絶ったというアルタジアの軍が、かつていたのだろう。国から、調査を止めて撤退する様に命令が出ていた事も知らず、彼らは魔獣がうろつくこの不毛な山岳地帯を進み続け、滅んでいったのだ。
 彼らはとても真面目で国思いだったのだろう。だからこそ、この過酷な環境にも負けずに突き進んでいったのだ。それが命取りになったとも言える。彼らはこの砦で戦う事になり、そして滅んだ。
 その原因は何だったのだろう。壁などの傷跡を見ると、剣で切った後のそばには、鋭い鍵爪で引っかいた傷がついている。まわりには、人間の武装と思われる防具が落ちているが、ひどくゆがんでおり、かなりの力でこの金属の防具を捻じ曲げてしまった何かがいたのだろう。壁には大穴もあいており、人間の力を凌ぐ何かがこの砦にいたのかもしれない。
「やっぱり、金属音はあんた達か」
 壁の様子を調べている時から、何かが近付いてきていることは気づいていた。
 リルドの前に、10人前後の人骨が立っている。いわゆる、スケルトンと言われる魔物だ。金属の防具を身に着けており、剣を持っているので、それがスケルトンが動くたびに硬い骨に当たって音が鳴っていたのだ。
「俺は、アルタジアって国の遺産を取りにきたんだ。あんた達に用はないんだがな」
 そんな説得を聞き入れてもらえない事は、リルドもわかっていた。
 一番先頭にいたスケルトンが、リルドに向かって剣を突き刺してきた。その動きがある程度予測出来ていたリルドは、攻撃をかわしスケルトンに向かって、逆に剣で切りかかった。
「数が多すぎるからな」
 リルドは一人であるが、スケルトンは10体前後はいる。多勢に無勢であり、遠慮して戦っていればリルドですら危険な状況になるだろう。早いうちに有利に流れをもっていくことが先決と考え、リルドは短剣から電撃を放った。金属を伝い、スケルトンの体に電撃がほとばしる。
 しかし、スケルトン達は一瞬ひるんだものの、すぐに立ち直りリルドへ立ち向かってきた。もう神経がない体だから、電撃で臓器を圧迫する事も出来ず、電撃ショックを与えることが出来ないのだ。それならば、スケルトンを砕いて、再生不可能な状況にしてしまうしか勝ち目はないだろう。
 竜化して一気にスケルトンを潰す事も考えたが、リルドにとって竜化はかなり体力を消耗してしまうので、最終手段として使いたい。例えスケルトンを全て竜化で倒すことが出来ても、このスケルトンと同じ様に果ててしまうかもしれない。
 右側からスケルトンが槍を持って突いてきた。リルドはかわそうとしたが、死角となった足場に瓦礫の山が出来ており、そこに足を取られて、左肩に槍が突き刺さった。すぐに身をかわして槍を払ったが、肩に強い痛みが走り、服には赤い染みが広がっていく。
 足場がかなり悪く、またランタンをテーブルに置いたため、そこから離れると一気に視界が悪くなった。スケルトンが大きな棍棒の様で武器で両側からせめてきたので、リルドはその攻撃をかがんで避けたが、石板の重さもあって闇の中から放ってきた矢がリルドの背中に突き刺さった。矢はすぐに抜いたが、あまりの痛みに意識を失いそうであった。
 それでもリルドは自分を振るい立たせて、剣を大きく振って、一番近くにいたスケルトンの小刀を叩き落し、その腕をつかんで体ごとと叩ききろうとした時であった。
 スケルトンの胸に、今は肋骨だけになってしまった腕に、木の実で作ったペンダントを見たのだ。町で売っているようなものではなく、子供が作ったと思われる、手作りのものだ。その証拠に、木の実の小さな字で「おとうさんへ」と書かれている。
 リルドはスケルトンを切るのに躊躇した。このスケルトンは、かつては人間で大事な人がいたのだろう。
 薄々は気づいていたが、このスケルトンはもしかしたら、アルタジア国の兵士達の成れの果てかもしれない。ここで最後を向かえ、そのままアンデットとなって蘇ったのだろう。
 この木の実のペンダントを贈った家族達は、大事な家族が見知らぬ土地で命を落とし、今アンデットなっている事は知らない。いや、その家族も今は生きてはいないかもしれない。彼らはこの骸骨の兵士となった者達が戻ってくるのをずっと待っていたのだ。その無念さを思うと、リルドはどうしても、切ることが出来なかったのだ。
 リルドに攻撃を仕掛けてくるのは、リルドが侵入者であるからなのか、または別の理由があるのかはわからないが。
「俺も甘いな」
 リルドはそのスケルトンから仰け反って離れたが、何も思わず切ってしまった方が良かったかもしれない。自分が不利なこの状況は打開出来ていない。どうやってこの大量のスケルトンを相手しようかと考えているとき、リルドは背中に燃えるような熱さを一瞬感じた。
 振り返ると、そこにスケルトンとは違う、鋭い目つきの魔獣がいた。リルドに向かって炎を吐き出したのだろう、服は焼き焦げてしまったが、水の魔術で水の幕を背中に作り出したので、大きな怪我はなかった。
「こんどは変な魔獣か。まったく、どんどん最悪な方向に向かっていく」
 すでにスケルトンの攻撃を何度も受け、余裕がなくなってきていた。その状況で、今度は魔獣が出てきたのだ。
 この魔獣が、もしかしたらアルタジア軍を滅ぼしたのかもしれない。より一層悪くなったこの状況を回避するのは、他でもリルド自身だ。
 夜が来て暗くなる前に、この危険を全て回避しなければならない。リルドは、剣を再度持ち直して、どうするべきかを考えるのであった。(終)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
朝霧 青海 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2009年11月27日

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