▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『上京物語 』
藤王・真木8199)&桂・翡色(8198)&東・サツマ(8200)&因幡・恵美(21歳)(NPCA033)
●連絡は突然に
 人間、基本的に休みの日というものはのんびりと過ごしたいものである。早く起きて自分のためにたっぷりと時間を使おうとする者も居れば、とりあえず普段よりはゆっくりと夢の世界に留まろうとする者も居る。この日、店の定休日であったアロマセラピストの桂翡色の場合は、後者を選択していたのだったが……。
「……ん……んんっ……?」
 翡色が夢の世界に留まることを、邪魔する輩があった。突然の電話である。
「あふ……朝早くから誰やのぉ……?」
 小さく欠伸をしながら起き上がった翡色は、テーブルの上に置いてあった携帯電話を取りに行くと、眠い目を擦りながら発信者を確認した。そこには翡色の姉の息子――すなわち甥の名前が表示されていた。
(え、真木ちゃん? 朝早くから……何事やの?)
 よもや姉の身に何か起こったのかとドキリとし、ともあれ翡色は甥からの電話に出た。
「――もしもし」
「あ、オッサン?」
 電話の向こうから聞こえてきた甥、藤王真木の声は非常に明るいものであった。瞬時に悪い話ではないと判断した翡色は、ほっと胸を撫で下ろしたのだが……。そうなれば、いったいこれは何の電話であるのだろうか?
「もうっ、オッサンって呼ばんといて、真木ちゃん。で……どうしはったの今日は?」
 念のため言っておくが、翡色は25歳で年齢的には未だオッサンなどと呼ばれるような年ではない。おまけに風貌が女性的かつ、本人も非常に若作りしていることもあって、外見的にはなおさら呼ばれるようなものではないのだ。もっとも血縁的に考えれば、翡色の年齢うんぬんなどは一切関係なく、真木にしてみれば叔父だからそう呼んでいるだけのことに過ぎない訳で。
「ああ、それそれ。実はオッサン、俺さぁ……」
「うん」
「東京着いたから」
「へぇ、東京に……えっ? もしもしっ、今何言いはったの? 東京に……着いた?」
「ちゃんと聞こえてんじゃねーかよ。そう、今さっき着いたんだよ。ほら、聞こえんだろ?」
 そう真木に言われて耳を澄ます翡色。確かに真木の後ろの方で、何やら賑わいに紛れて列車のアナウンスが聞こえている。つまり……この場所は東京駅だ。
「ちょ、ちょっと真木ちゃん! どうして東京に……」
「あ、そうだ。サツマも一緒に来てっから」
 翡色が皆まで言う前に、真木がしれっと言い放った。
「あっ、おはようさんっす! 翡色さんっすか? どうもお久し振りっす!」
 電話の向こうから、明るさと怠さが入り混じった喋りが聞こえてきた。翡色にも聞き覚えのあるその声は、確かに真木の友人である東サツマのものであった。
「ばーか、オッサンでいいんだよ、オッサンで」
 笑いながらサツマに言っているらしい真木の声が耳に入ってくるが、翡色はそれに突っ込みを入れる所ではなかった。どうして甥と友人が2人して東京に来ているのか、そっちの方で頭が一杯だったのである。
「と、とにかくウチ今からそっちへ行くから! ちゃんと動かんと待ってるんよ?」
 とりあえず直接会って話をしてみないと、寝起きの頭では何が何やら分からない。翡色は急いで東京駅に向かうことにした。
「分かってっよ、オッサン。俺らも子供じゃねーんだから。んじゃ、改札出た所で待ってっから」
 と言って真木が電話を切ると、翡色は身支度を始めるべく携帯電話を放り投げて洗面所へとダッシュしたのであった……。

●ある過程
「この辺で待っときゃいいよな」
 サツマともども改札を抜けた真木は、すぐそばにあった柱の陰に陣取った。とりあえず、流れる人波の邪魔にはならないようにしたのである。
「で、念のためオッサンにメールを……」
 居場所を知らせるため真木が携帯電話を取り出すと、何やら辺りをきょろきょろと見回しているサツマの姿が視界に入ってきた。
「お前何探してんだ?」
「マッキーは喉乾いてね?」
 真木が尋ねるや否や、サツマからそんな答えが返ってきた。どうやらサツマ、どこかで飲み物を売ってないか探していたようだ。
「そう言われると、ちょっと乾いてっけどな」
「じゃ俺ちょっと買ってくるべ。マッキーは何?」
「お前に任せるけど……俺を目印にちゃんと戻ってこいよー」
「はははっ、冗談きついっすマッキー。ほんのそこまで行くだけだろー」
 笑いながらそんな言葉を交わす真木とサツマ。そして足早に飲み物を買いにサツマの背中を見てから、真木は翡色に送るメールを打ち始めた。
 さてそのサツマであるが、すぐそばに駅構内のコンビニがあったのでまずはそこに入ってまっすぐに飲み物の置いてある場所へと向かった、が。
「うーん……これってのがないべ」
 ぼそっとつぶやくサツマ。地元とあまり代わり映えのないラインナップだったので、何となくピンとこなかった様子であった。
(せっかくだし、他の所も探してみるかな)
 という訳で、そのコンビニを出たサツマはさらに遠くへ、遠くへと探して歩き……気付けば、駅の外までもう少しという所まで来てしまっていた。しかしながら、未だ気に入ったのが見付からない。
「……ないっすね」
 ふう、と溜息を吐くサツマの視界に駅の外の景色が入ってくる。そこにはもちろんコンビニがあった。それも、駅構内にあるのとは違う系列の。
 サツマは後ろを振り返った。真木が待っている場所からは、だいぶ離れてしまったことは自分でもよく分かっている。けれども、このまま手ぶらで戻るのも何だか自分で納得出来ない。だが、駅の外――すぐそこには、今までとは別の系列のコンビニがある。系列が違うということは、きっと品揃えも違っているはずだ。
「買ってすぐに戻れば大丈夫かな……なーに、いざとなれば携帯もあるべ」
 携帯電話の存在が、そんなサツマの考えを後押しした。少々道に迷おうが、真木に連絡さえ取れれば何とかなるだろう……そう考えて。
「よし! パッと行ってパッと戻ってくるべ!」
 かくしてサツマは大きく足を踏み出した。駅構内から、駅の外へと。
 けれども、サツマのその考えには大前提が抜け落ちていた。確かに、系列が違えば品揃えは多少なりとも違ってくるだろう。だからといって、自分が欲しいと思う品があるかどうかについてはまた別の問題なのだ。
 そして……ものの見事に、サツマはそのパターンに嵌り込んでしまったのである。
「あれ? 向こうにも別のコンビニがあるっす……行ってみるべ」
 ああ、東京駅が遠くなってゆく。

●探す者と探される者
「オッサン遅いよな……」
 真木は右足のつま先でタンタンと床を叩きながら、いらだちを口に出してしまっていた。メールを送ってからもう30分以上は経っていただろうか、未だ翡色の姿は見えない。
「つーか、サツマも戻ってきやしねえ!」
 ダン、と右足全体を真木は床に叩き付けた。ちょっとそこまで飲み物買いに行くだけで30分以上かかってるのは、明らかにおかしな話だ。
「……どこまで行ったんだ? たくっ……しゃーねーな」
 軽く舌打ちをしてから、真木は床に置いてあった荷物を持ち上げた。
「俺だけでもしっかりしなきゃな。よしっ、探しに行ってやるか……」
 などとぶつぶつ言いながら、柱を離れる真木。さすがに痺れが切れたか、サツマを探しに行くことにしたようだ。
(オッサンもまだ来そうにないし。ま、それまでには戻れるだろ)
 そして、サツマの向かった方へと歩き出す真木。近くの駅構内のコンビニにはサツマの姿はない。となれば、さらに先へ向かったに違いない。先へ、先へ、サツマが辿ったであろう道を同じく真木も歩いてゆく。それはつまり、駅の外へと繋がる道な訳で……。
 一方その頃のサツマはというと、未だ駅の外でコンビニを巡っていたのである。
「うーん、これぞ東京っていうのはないのかな? どっか1軒くらいあってもいいと思うべ」
 ついつい愚痴り出してしまうサツマ。まあ、そんな基準で探しているのであれば、これといった品がなかなか見付からないのも仕方のない話で。
「それにしても……」
 ふと足を止め、ぐるりと周囲を見回すサツマ。ひっきりなしに人々は行き過ぎてゆく。東京に住む者には相変わらずの光景だが、サツマみたく地方から出てきた者にとってはそういった光景は物珍しく。
「……人が多いべ。東京は今日、祭りか何かなの……公民館でもこんなに集まらん」
 このサツマのつぶやきは、地方から出てきた者たちの感想としては結構聞かれるものである。あと、渋谷のスクランブル交差点を見て驚いた者は決して少なくない。サツマでなくとも、祭りなのかと思っても仕方のないことだ。
「……ひとまず深呼吸でもするっす……」
 人の多さに酔い始めていたサツマは、大きく息を吸って吐き出した。そして真木に連絡すべく携帯電話を取り出したのだけれども……。
「へ? 何で電源入ってないんだべ?」
 サツマの顔に困惑の色が浮かんだ。何ということか、いつの間にやら携帯電話の電池が切れていたのである!
「うわ、どうするべ……これじゃマッキーに連絡出来ないっす……」
 昨今では友人などの連絡先は全て携帯電話に入っている。つまり電池が切れればどうなるかは自明である。まあコンビニに入れば、緊急充電用の品などが売っていたりもするのだけれど、今のサツマみたく軽くパニックに入った頭ではそこまで考えが至る訳もなく。
「……ああ、どうするべ……」
 悩み始めるサツマ。その時、背後から声をかけてきた者が居た。
「ねえねえ君?」
「へっ?」
 サツマが振り返ると、そこには茶髪でこざっぱりした格好をした青年が1人立っていた。
「君、背が高いよねー。今、ちょっと暇ある?」
「あ、あるっすけど……」
 暇かと言われれば、とりあえず忙しくはない訳で。頷きながら青年に答えるサツマ。
「君さ、髪型変えてみたいと思わない? 大丈夫、モデルになってもらうだけだから、無料だよ」
「……無料っすか」
 無料という言葉にサツマの心が揺れた。
「興味あるんだ? じゃあさ、立ち話もあれだし、うちの店もすぐそこだから、おいでよ」
 そう言い、青年はサツマの先に立って歩き出した。
「あのー」
「何だい?」
 サツマの呼びかけに振り返る青年。
「充電……お願いしてもいいっすか?」
 サツマは携帯電話を取り出し苦笑いを浮かべた。

●やってきたはいいけれど
 翡色が東京駅にやってきたのは、真木が電話をかけてから1時間半は過ぎた頃のことであった。本当はもっと早く来たかったのだが、いざマンションを出ようとした段になって宅配便が来たり、仕事関係の電話があったりと、そちらの方で時間を取られてしまったのだった。
「メールではここって書いてたやんねぇ……?」
 翡色の姿は、改札を出てすぐの所の柱の前にあった。真木やサツマの姿はそこになく、翡色は狐に摘まれたような表情を浮かべていた。
 携帯電話を取り出し、真木からのメールの文面を確認する翡色。改札の場所も間違っていないし、柱の所に居るというのも間違っていない。だのにどうして、2人の姿はここにないのだろうか?
「もうっ! 住む場所すら決まってないのに、どうしてふらふら動いたりしたんやろ……」
 はあ、と溜息を吐く翡色。実はタクシーで東京駅に向かっている最中に姉に連絡を取っており、真木とサツマが上京してきた理由などを聞いていたのである。
 何でも真木は都会の暮らしに憧れたのと、反抗期の延長もあって親元から離れたかったらしい。そしてサツマの方はといえば、いわゆる田舎っぺを脱してお洒落になりたかったようで……。その理由だけでも少し呆れたのに、2人とも住む所が決まっていないとも聞いて、翡色はなおのこと呆れたのであった。
 ともあれ、真木の居場所をつかもうとメールを打って送信する翡色。それからおもむろに、何処かへと電話をかけるのであった……。

●ヘルプ!(色々な意味で)
 サツマを探して駅の外に出てしまった真木の携帯電話に、メールの着信があった。サツマからかと思って見れば、差出人は翡色であった。その文面は『何で動いたりしたん?今どこ〜(;;)』とだけ書かれていた。
「やっとオッサン着いたのかよ……」
 真木はぼそり言うと、すぐに翡色に向け返信を送った。『うっせーよオッサン!なよなよしやがって!林檎ぶつけんぞとりあえず迎えにきて助けて』という文面で。最後の『助けて』という3文字が、今の真木の心境を見事に現していると言ってもいいだろう。普段からオッサンと呼びつつも、翡色のことを頼りにしている訳で。そもそもそうでなければ、上京して早々に電話すらかけもしないだろうし。
「……んで、駅どっちだ……?」
 眉をひそめ、ぐるっと辺りを見回す真木。ビルに遮られ、どっちに駅があるのか分かりゃしない。迷子のサツマを探していたつもりが、いつの間にやら自分もまた迷子になっていたのである。
「サツマにゃ全然電話繋がんねーし!」
 当たり前だ。電池切れてて繋がったらそれは怪奇現象である。
 それでも少し時間経ったから、もう1度かけてみるかと真木は考えた。しかしそんな真木のことを、コンビニの前でたむろしていたヤンキーたちが先程からちらちらと見ていたのだった。
 さすがにその視線に気付かぬほど真木も鈍感ではない。だが多勢に無勢、おまけにヤンキーたちがいかつい顔付きをしていることもあって、真木は内心ビクビクしていたのである。
 そんな時だ、ヤンキーの1人が真木に声をかけてきたのは。
「おうっ!!」
「ひいっ!? 見てねっすぜ、全然見てねっす!!」
 慌てて首を横に振る真木。ところがそのヤンキーは、少しきょとんとしてから、真木にこう告げたのだ。
「……いや、社会の窓が開いてんだけどよ」
「あっ! ど、どうもっす!」
 慌ててジッパーを上げ、頭を下げる真木。そして恥ずかしさをごまかすようにコンビニに背を向け、サツマへと電話をかけた。
 するとどうだろう、そのコンビニの自動ドアが開いたかと思うと、聞き覚えのある着信音が真木の耳に聞こえてきたのである!
「あ?」
 反射的に真木が振り返ると、そこにはサツマが居て、ちょうど電話に出た所であった。おまけに、髪型もお洒落に格好よくなっていて……。
「はい、もしも……あれ、マッキー?」
「マッキーじゃねぇぇぇぇぇっ!!!」
 真木はサツマに駆け寄ると、その頭に向かって思いっきり平手を叩き付けた。まるで、今さっきの恥ずかしさを隠すかのごとく。
「いきなり何するんだべ!? せっかく俺、イケメンになっ……」
「いいから黙ってろー! んで、何いきなり髪変えてんだーっ!!」
 真木はしばしの間、サツマの頭を平手で叩き続けたのであった……。

●可愛い甥(とその友人)のために
「それで、新しく入居されるのは……こちらのお二方ですか?」
「ええ。お手数おかけしますけど、どうかよろしくお願いします」
 そう言って翡色が頭を下げたのは、あやかし荘の管理人である因幡恵美であった。実は翡色、東京駅で真木にメールを送ってすぐにあやかし荘に電話をかけ、入居の手配をしておいたのだ。
「ほら、2人とも。これからお世話になるんやから、ちゃんとご挨拶せんとあかんよ」
「お世話になります……」
「よろしくお願いしまっす!」
 翡色に促され、恵美に頭を下げる真木とサツマ。ちなみに真木が若干沈んでいるのは、無事に合流してからあやかし荘に連れて来られる前に、翡色からひとしきり説教されたのが堪えているようだ。
「しばらくはウチがお金の面倒みたるから。2人とも、早く仕事探して、ここのお家賃くらいは払えるようになるんよ?」
 そう翡色が言うと、真木とサツマは無言で首を竦めた。まさに返す言葉がない、という奴である。
「まあ、うちはそう高くはありませんし、お部屋だけはありますから。……ただ、色々と『騒がしい』かもしれませんけれど」
 と、何やら含みのあることを言って笑う恵美。まあちょっと頑張れば、ここの家賃はどうにかなるだろう。
「東京でどんなことが待っているかは2人次第やよ。良くも悪くも……」
 翡色が真木とサツマの顔を交互に見た。この顔がこれから東京の暮らしを経験して、果たしてどのように変わってゆくのであろうか。
「分かったよ、俺ら頑張るからさ……。見ててくれよな、オッサン」
「だから真木ちゃん! オッサンって呼ぶんは……!」
 翡色がそう真木を窘めると、4人の居る部屋は明るい笑い声に包まれたのだった。

【了】
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年12月14日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.