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『なんでも屋〈サバイバルツアー〉 』
桐月・アサト6735)&ルーク・ロビン(8133)&(登場しない)

 ファー付きフードの付いた緑のブルゾンに青いジーパン姿な浅黒い肌の兄ちゃん――桐月アサトと。
 初対面時に巨大な青い鷹からあっさり当然の如く青髪金眼な十二、三歳程度の少年に変化した、明らかに人外なルーク・ロビンの二人は。
 対面早々、仕事が無い、腹が減ったと意気投合、貧乏で金もないけど新鮮な肉と魚が――と言うか美味いものが食いたい! と思い立ち。

 ――…結果、二人で連れ立って、豊かな自然がまだ残っている何処ぞの山奥にまで分け入っていた。
 具体的に何処だかはあんまり考えていない。
 取り敢えず交通費を節約する事を考えて近場にしてみた。…と言うか、徒歩で来たのだが。
 それでも結構サバイバルに適していそうなそれらしいところが見つかる辺り、満更捨てたモンでもない。
 持参していたなけなしの甘いもの――飴玉を舐めつつのほほんと立つアサトの傍らで、ルークはわああと喜びの声を上げつつ、きょろきょろとあたりを見回している。
「この辺まで来ればなんか居そーだね。美味しそうなの居るかなー、わくわく」
「おー。んじゃ始めるか」
「鷹狩りだね。よーし、頑張るぞっ」
「…」
「ん? どしたのアサト?」
「いや…よく考えれば鷹狩りと来りゃあ…鷹が要るよなあと」
「そうなの?」
「そうなの」
 要は鷹狩りと言うのは鷹を使役して何か獲る訳で。
「んじゃボクが鷹探してくる! …って、ん? それだと直接鷹の肉でもういいような? …うーん。じゃあ鷹無しで鷹狩りをしよう! とにかくボクに任せてっ♪」
 何か獲ってくるから!
 言い残し、ルークは凄い勢いで走って行く――暫く走ったかと思うと、ぴょん、と明らかに人間業ではない軽い身のこなしですぐ側にあった木の上に飛び上がり、飛び上がったその方向にあった枝葉がわさりと揺れ、それに伴い枝葉が鳴るがさがさ言う音が暫くしていたかと思うと――もうルークの姿は見えない。
「…」
 殆ど置いて行かれた形なアサトは、ルークに何か呼び掛けようとしたそのまま、暫し停止。
 反射的にルークを呼び止めようと差し出し掛けていた手をそのまま頭に持って行き、こめかみ辺りをポリポリと掻く。
「…まぁいいか。…おーい、ルークー、デカい獲物待ってるからなー!」
 聞こえるかどうかは不明だが、一応、呼び掛けるだけ呼び掛けておく。



 程無く。
 張り切って何処ぞへ駆け去って行ってしまったルークは、あっさりと謎の猛禽類を捕まえていた。
 …バタバタと暴れるその猛禽類が鷹であるかどうかは――実はあまりよくわからない。
 でも取り敢えずそれっぽい姿の鳥が偶然見付かったので、折角だから確保してみた訳で――その時点できょろきょろと辺りを見渡し連れであるアサトの姿を捜してはみるが――見当たらない。
 どうやら結構離れてしまっているらしい。
 うーん、とルークは暫し思案した。

 …鷹?は捕れたけど、これで鷹狩りってどうやるんだろう、と。

 よくわからない。
 手許では鷹?がバタバタ。
 よくわからないながらも考える。
 何となく周囲の様子も見渡してみる。
 と、視界の隅に何かが見えた。

 ――…低い位置、動く褐色の尾羽。

 思った時にはルークはそこに飛び付いていた。
 が。
 同時に殺気。
 自分同様、獲物に狙いを定め飛び付こうとした瞬間――のような。
 そんな気配に気付く。
 気付きながらも油断無く尾羽の持ち主――喜ばしい事に雉だった!――を確保し、捕まえたままルークは一気に飛び退った。殺気の源から間合いを取るつもりで。
 それで、殺気の主を確認する。
 と。

 そこに居たのは、デカい虎縞の猫だった。
 …否、猫と言うにはデカ過ぎるかもしれない。
 むしろ、模様の通りに、虎と言った方がしっくり来る佇まい。
 その虎?はルークの姿を――ルークの確保した獲物を認めると、改めてルークに狙いを定めたようで、ゆっくり堂々と体躯を揺らして態勢を変えている。

 …。

 ………………ここは日本、それも都内から徒歩圏内になる山の筈である。一応。



 飴玉が終わって口寂しくなったところで――持参していた煙草を何となく吹かしつつ、アサトはルークと別れたその場でのほほんと暇潰し。
 …これからの方針も確り定めない内にルークが行ってしまった以上、自分まで下手に動いてしまうとお互いはぐれてしまう可能性もある訳で。…渡してあるウエストポーチの中に地図も入っている事は入っているが、この状況、この場ではあまり使いようもないんじゃないかと思う。
 なので、そこからあまり離れないように気を付けつつ、食用可な草や茸、薪に良さそうな枯れ枝、落ち葉を集めたり――適当な枝を削って箸や焼き魚用の串を作ったりしながら、のほほんとアサトはルークを待っている。
 一応、すぐ近くに釣りに持って来いな川も見付けた。
 少し手持ち無沙汰になったところで、これからルークと共にやる事になるだろう釣りの――釣り道具の点検や用意もしておいてみる。ルークの方であまり時間が掛かるようなら、先行して自分が釣りをしていても良い。
 と。
 …何やら妙な気配がした。
 背後の方。と言うかルークが去った方、と言った方が正しいか。
 思ったところで、実際に気配どころでなく何者かがこちらに突進してくる足音――などと言う生易しいものではなく、殆ど地響きのような重い音が断続的にずんずんと近付いてくる。
 アサトは何事かと振り返った。…その直前までやっていた作業である釣り用の餌を捏ねりつつ。
 途端。
 その目の前に。

 ………………虎?が突進して来ていた。

 アサト、唖然。
 ここは日本だったよなと些か呑気な事を思いつつ一時停止。…いきなりの予想外極まりない事態に反応していられる余裕が無い。
 が。
 そんなアサトの目の前、虎?の正面に立ち向かう形で、ずざっと青い影が走り込んで来る。走り込んで来たかと思うと、その青い影――ルークは自分から虎?に向かって地面を蹴り突進。
 瞬時に虎?の懐に入り前足を掬い取ったかと思うと、そのままルークは華麗にあっさり一本背負い投げ。
 虎?は、ずしぃんと重そうな音を立てて背中から地面に落下――激突する。…何となく、投げられたと言うより地面に力尽くで叩き付けられたと言う方が近かった。
 虎?はそのまま目を回しているようで動かない。
 ふぅ、とばかりに息を吐き、ルークは手の甲で自分の額を拭うような仕草を見せている。
「危なかったぁ…大丈夫、アサト?」
「…。…あ、ああ。…て言うか…虎か?」
 これ。
「よくわかんない。でも虎っぽいよね? …ねぇアサト、コレどうしよっか」
 一応聞いて来つつも、ルークの目の色を見る限りはこの虎?の事もまた食糧にしか見ていない気がする。
 …アサトはどう答えるべきかちょっと迷った。
 と、迷っているその間に、ルークは得意げに二羽の鳥を掲げてアサトに見せ付けている。
「そうそう、鷹?と雉もちゃーんと獲れたよ♪」
 ルークに足が掴まれた状況のまま、二羽ともまだバタバタと騒いでいる。
「…お。おう。…んじゃ取り敢えず…」
 雉鍋用に雉は捌くとして。
 鷹は…折角だから今後の?鷹狩り用に調教してみようか、とか。
 で、この虎?については…取り敢えず目を覚まさない内に縛っておくなりしないと物凄く不安なんだが。



 結局。
 何処からか蔓を見付け出しそれを縒って作った縄で虎?と鷹を捕らえておき、アサトとルークは先程アサトが見付けた川辺に移動。そこで、アサトはサバイバルナイフで雉の方を絞め、手慣れた様子で捌き始める。
 興味津々でルークはその様を見ている。
「うわあ…綺麗に分けて切ってる。ボクこんな丁寧な事した事無いよ!」
「鍋に入れるにゃ食い易い大きさに切り分けとく必要あるからな。あ、鍋の方用意してくれるか?」
「うん、わかった…って、用意って、この鍋をどうするの?」
 そう言い、ルークは空の鍋を取り上げ示す。
 アサトは頷いた。
「水汲んで来てくれ。…んで、今ここまで持ってきた薪の上に倒れないように固定するんだけど」
「で、薪に火つけるの?」
「そう。…でもそこまではいいか。取り敢えず水ね」
「りょーかい!」
 元気に残して、ルークは川へと駆けて行く。
 それを見送りつつ、アサトは取り敢えずの手順を頭の中で確かめておく。
 …水を汲んできたら後は倒れないように鍋を固定して、火を起こして、最低ラインの調味料と採ってきた食用可な草や茸、そして捌いた雉肉を鍋に入れて煮込む。
 沸くまでに少し時間が掛かるから、その間に釣りと言うのも良い。
 確かめている間に、ルークが鍋に水を汲んで来た。



 ガンガンに火を焚きつつ、雉鍋の完成を待つ。
 その間に、釣り。
 先程、ルークを待っている間にアサトが殆ど準備を仕上げていたので、そのまま川に釣り糸を垂らせば良いような状況になってはいる。…釣りと言うのは魚との駆け引き。まずは魚に食い付かせる事が出来るか。食い付かせられたらその引きにどれだけ合わせて釣り上げられるか。…餌を獲られるか、こちらが魚を獲るか。
 一通り遣り方の説明をした後、折角なので競争してみようか、と言う話になった。
 それで、二人並んで川に釣り糸を垂らしている事になる。

 …そのまま、暫し。

 ルークの竿から垂れている糸の周囲に、ぽつんと軽い波紋が浮く。浮いたと思ったそこで、すかさず竿を上げる――釣り上げられ、びちびちと跳ねているマスの姿。
 やったあ! と喜ぶルーク。
 おおー、とこちらも素直に喜ぶアサト。
 ビギナーズラックって奴だな、と零しつつ、次の獲物を待つ。

 …また、そのまま暫し。

 するとまた、ルークの竿から垂れている糸の周囲に軽い波紋――引きが来ている。
 逃がさず引き上げると、また、釣れた。
「やったあ! また釣れたよアサト!」
「…お、おう。まぁ、ビギナーズラックがいつまで続くかな…」

 …更にそのまま暫し。

 また、ルークの竿から垂れている糸の…以下略。
 そして、とりゃっとばかりに上げられたルークの竿から垂れた糸の先には、びちびち跳ねる活きの良い魚がまた…。
 対して、アサトの方には全然まったくぴくりとも引きすら来ない。
「…」
「…アサト?」
「…いや、いいんだ。そういう事もあるさ。…魚ってのァ気まぐれなもんでな…」
「…このまま釣れなかったらボクの釣った分分けてあげるからね?」
「…」
 ほろりときた。
 …競争どころか、気のせいかアサトは何だか自分の視界が霞んできた気がした。
 泣。



 …取り直して、そろそろ雉鍋が良い具合に煮立ってきた。
 と言う訳で釣りはそろそろ止めにして、釣果の魚を串に刺して、鍋の横に立てて焼き始めている。
 釣れたワカサギ――やっぱり釣ったのはルークだったのだが――は素揚げにしたいと思ったが、鍋が無い。
 なので、雉鍋後に実行しようとアサトは思い、ルークにも伝える。

 ともあれ、雉鍋。
 …夢にまで見た、肉がいっぱい入っている鍋である。出汁も確り出ている豊潤な香りが温かな湯気に混じって鼻孔をくすぐる。
 こんがりと焼かれている焼き魚の匂いもまた、食欲をそそる。
 …ルークはその様子をじーっと見ている。
 だー、と口端から垂れそうになる――いやもう垂れているか――涎。
 待て待てもうちょいだ、とアサトの声。
 魚の焼け具合を見、浮いてきた鍋の灰汁をざっと取り、よし、いいだろうとのアサトの宣言。
 で、うわーいっ、とアサト作な箸を片手にルークが鍋に飛び付いた。
「鍋鍋鍋ー♪」
「おー、食え食えー」
 勧めつつ、アサトの方でも鍋を突付いている。
 まず肉。
 箸で取って、口に運ぶ。
 確りと噛む。
 じんわりと、肉汁。
 …思わず、感涙。
「美味しいよ〜!!!」
 堪らないとばかりにバタバタと腕を振り全身で喜びを示すルーク。
 アサトの方は鍋に箸を付けても何も言わないが、その実――じーんと感動して胃の腑に滲み渡る温かさを味わっているので声すら出ないと言うのが正しい。
 そして二人は、ひたすらに鍋の中身をがつがつ食べつつ、鍋の脇に立ててある程好く焼けた焼き魚を取り、齧る。齧ってはしみじみ感動、次第にルークの方からも声が聞こえなくなってくる。…口は喋るより食べる方で忙しい。
 と、そんな幸せな――野趣溢れる食卓を囲んでいたところで。

 不意に二人の背後から影が射した。
 文字通り、影。
 手許が――目の前が暗くなる。

 何事なのか一瞬思い付かない。陽でも翳ったのかと呑気な事を思いつつ、空を見上げるアサト。同様に空を見つつ、ルークはくるりと背後をも何となく確かめてみる。
 と。

 ………………毛むくじゃらで巨大な黒い影が居た。

 え? とアサトもルークも一瞬停止する。
 停止している間にも、毛むくじゃらの巨大な影の上の方――頭部の目の辺りと思しき位置に、きらーんと不穏に輝く一対の眼。
 自分たちの座っている位置に影を落とす毛むくじゃらのその形。

 熊。

 …の、ようだった。
 そんな毛むくじゃらの姿がすぐ間近に居る。
 雉鍋や焼き魚の匂いにつられてきたのか何なのか、明らかに殺気立っている。
「げ」
「うわ」
 さすがに、慌てた。
 アサトは咄嗟に鍋を守ろうとし、ルークもまた鍋を守ろうと――こちらは熊に立ち向かっていく。立ち向かってくる少年の姿に気付いたか、熊も少年――ルークを視界に入れ、平手打ち――と言うか、遠心力で片腕を放り投げるようにしてルークを狙い薙ぎ払ってくる。ルークもそれを黙って受けてはいない。直撃する直前に飛んで避け、飛び上がった先――熊?の頭の上から背後に回ると両手を組んで合わせた拳で思い切り一撃をぶちかます。
 その拳の勢いのまま、熊は一気に地面に叩き付けられ勢い良く一回バウンド。
 熊?はそのまま、ダウン。
 一件落着。

 かと思いきや。
 …そうでもなかった。



「あああああ…」
 結局、無残にもぶちまけられた鍋に、ぐちゃぐちゃになった上に薪と混ざってしまった焼き魚を前にしたアサトの情けない嘆きの声が続いている。
 勿論、アサトは自分で取れる最前の行動――咄嗟に身を挺して鍋を庇いつつ、どんな攻撃も無効化できる防御壁を張ろうとは思ったのだが、思っているだけでまだ実行しない内にルークと熊?との決着はついていた。…ルークと熊?との対決はほんの一瞬、そのくらい短い間の事だった。反応速度が間に合わなかった。
 とにかくその結果。
 ………………ルークに叩き付けられた熊?が鍋を直撃していた。
 うわぁびっくりしたぁ、と熊?の出現にぼやきつつ元通り食事に戻ろうとして――そこでやや遅れてルークも気付く。
 目の前にあるのは、鍋も焼き魚も台無しな惨状。
「えええええ…」
「…鍋が…魚が…」
「嘘…まだいっぱいあったのに…もっと食べたかったのに…」
 その場に中身がぶちまけられてしまった訳で、物は無くともやたらといい匂いがするだけ生殺し甚だしい。
 うわああんと二人は嘆くだけ嘆いておく。

 が。
 それでは終わらない。
 めげない。
 …一頻り嘆いた後、アサトとルークはどちらからともなく視線を見交わす。

 二人の目の前には倒れている熊?のような獣。
 そして、こうなれば先程別に取り置いていたワカサギ――そちらは無事――もまた好都合と言え。
 よくよく考え直せば鷹?も虎?も少し離れた場所に捕らえてあった筈だ。
 …アサトは目を回している熊をじーっと見ている。
 それから、おもむろに、ぽつり。

「…熊鍋って…ありだよね…?」
「…。…あ、うんうんっ! 雉よりたくさん食べられそーだし」
「…ただ…熊肉だと臭みが出そうだからその辺どうするかが問題だよな…どうするんだったっけか…どっかで聞いた気はするんだが…」
 アサトは微妙に悩み出す。
 そんなアサトをルークは励ましてみる。
「大丈夫だよ、雉肉あんなに美味しかったんだから何とかなるって。鷹?だって虎?だってまだあるし。あ、全部入れてみてもいいんじゃないかな?」
「…いや、それは止めた方が良いと思う」
 さすがに。
「そうなの?」
「…そうなの。…うーん。そう簡単に行くとも限らないんだが…ま、何とかやってみるか」
 熊鍋。
「うん!」
 ルークも思い切り頷く。
 その反応を受け、アサトはサバイバルナイフを取り出し、改めてちゃきりと装備。
 真っ直ぐ見ている先は、目を回している熊らしき獣。

 ………………いや、ここまで来たら、折角なので。

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2009年12月18日

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