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『 I wish you happy 』
リゼット・ランドルフ(ga5171)

 シアン・マクニールからクリスマスの買い物に付き合ってくれと誘われたリゼット・ランドルフ。
 快諾した彼女だったが‥‥待ち合わせの場所と時間のみを指定され、詳細を説明されぬままであった。

 その当日――LH内、ショップが立ち並ぶ一角にて誘いの張本人‥‥シアンはリゼットを待っていた。
 女性を待たせるのはいけないと思い早く出てきたが、いささか早すぎたのだろう。待ち合わせ時刻までは十数分ほどの余裕がある。
 オレンジ色の紙袋を下げ、黒いコートという若干目立つ服装。そのまま見やすい位置に立ち、着飾った街をぼんやりと眺めていた。
 毎日任務をこなし、武器を手に取り‥‥いつしかそれが当たり前になってきた生活。
 能力者になる前は、どう過ごしていただろう――‥‥そんな思いを巡らせているときのこと。
「中尉‥‥!」
 横断歩道を渡りながら自分に向かって手を振り、慌てて駆けてくるリゼットの姿を認める。と、その回想は霧散した。
「ごめんなさい、お待たせしたでしょうか‥‥?!」
 リゼットも時間より早目に着いているというのに、遅れたと詫びているような顔をするのでシアンは『問題ない』と言いかけて、止めた。
「‥‥来たばかりだ」
 声も態度も微妙にぎこちない。思わずシアンの表情を伺うリゼットだったが、しばし見つめた後くすりと笑う。
「中尉、本当は来るの早かったんですよね? それに眉の皺、寄ってますよ」
 自分の眉根に指を当てて彼女は指摘した。思わずシアンが自分の額に手をやったが、再びリゼットに笑われて『嘘です』とからかわれた。
「君は意地悪だな」
「先に中尉が嘘をつくから、お返しです」
 微笑んでいた彼女は、それで、と切り出した。
「クリスマス用の買い物をなさるとか。ええと‥‥その」
「ああ、内容を話していなかったな。両親にプレゼントを渡そうと思っているのだが、兄が仕事で出れないというので俺が買い物に行くことになった。しかし‥‥」
 そこまで言って、シアンは困ったように再び眉を寄せる。
「商品選びは毎年兄に任せていたから、どんな物がいいのかわからない。君ならきっと、そういうことにもいいアドバイスをくれるのではと思って」
 どうやら彼の中では一大事のようだ。リゼットも『うーん』と考えながら顎に手を置き‥‥視線をシアンへと戻した。
「プレゼントは、贈る方の心が込もっているものが嬉しいんじゃないかと思います。でも、込めるだけじゃなくて、それが伝わってこそ喜ばれる‥‥って」
 どうでしょうかという視線を送ってくるリゼットへ、シアンは成程と呟いて軽い笑みを見せた。
「実用性に長けたものがいいのかと思っていたが、君が言うと尤もらしい。どうだろう、一緒に選んでもらえないだろうか?」
「はい、喜んでお手伝いさせていただきます」

 よろしくとお互い言い合って、肩を並べて雑貨屋や服飾小物と手頃な店へ入っては商品を眺め。
 数件目に立ち寄った時計店で、リゼットが男性向けの腕時計を差し出して見せる。
「中尉、これなんてどうでしょうか?」
「ん? 文字盤が珍しいな。‥‥しかし中尉と呼ばれると、いつもの任務みたいだ」
 反応する俺も俺なのだが、と言いながら差し出された時計を手にとって見つめているシアン。
 リゼットは少々悩み、少し戸惑った後に『シアンさん』と呼んだ。
 思わずそちらへ視線を寄越したシアン。しばしリゼットを見つめた後、すぐに視線を逸らす。
「‥‥それはそれで、落ち着かない」
「そう、ですか‥‥」
 時計に目を落とした彼女は、若干しょんぼりとしたようにも見える。
「悪い意味にとらえないでくれ。うまく言えないが‥‥くすぐったいような心境だ」
 彼は時計を店員に返しながらリゼットに誤解無きよう伝えるのだが、早口に言ったせいかリゼットが意味を理解するまで少しの時間がかかった。
「私もなんだか、そんな気持ちになりました」
 リゼットは頬を紅潮させて恥ずかしそうにした後、にこやかに笑ってくれたのだが――シアンは咳払いを一つした。


「しかし、焼き型というのはいろいろあるな。ローズは知っていたが、まさかキャセドラル(大聖堂)もあるとは思わなかった。菓子の世界は深いものだ」
 見て回って決めたプレゼントというのは、父親にブラウンのブーツ、母親にケーキの焼き型をいくつか。
 大きな紙袋を下げ、人通りが多いのでぶつからないよう、それでいてリゼットとの歩幅を少し気にしながら歩く。
「ちょっとお手入れが大変ですけれど、焼きあがりは感動しますよ? 完璧に焼きあがったら楽しそうですね。私も小隊の皆さんにケーキを送ろうかな」
 と、さもうきうきした顔で語るリゼットへ、それは羨ましいと眼を細めるシアン。
 それをどう捉えたかはリゼット以外知るところではないのだが、彼女も小さく微笑んだ。
「あの、シアンさん。私のお買い物にも付き合ってもらいたいのですが‥‥」
「無論構わない。どのようなものを買うかは決めてあるのか?」
 だいたいは、と言ったリゼット。『ですが男性の好みが分からないので、アドバイスが欲しいです』と言った。
「ふむ‥‥人によるだろうが、実用的なものがいいのではないかと思う。尤も、間柄によっては気持ちだけで十分、とも思うが」
 なんともアテにならない回答である。
「実用的なもの、ですか。うん、ありがとうございます。何となく浮かびました」
 ぱむ、と胸の前で軽く手を打つリゼット。どうやらあのアテにならない情報が、彼女の心にヒントをもたらしたようだ。
 先ほど入った紳士用品を扱うショップ目指して踵を返す彼女。何を買うつもりなのかと聞くのは気が引けたので、シアンは黙ってついて行く。
 木製の看板が印象的なショップへ再び入ると、棚に陳列してあった商品‥‥マフラーを嬉しそうに手に取った。
「父と叔父宛に、暖かいものを選ぶつもりです。マフラーならこれからの季節に関して実用的ですよね?」
 あの二人はどんな顔をして受け取ってくれるのだろう? そして、雪降る日にも彼らを寒さから守ってあげられる――それを思うと、胸がほんわりと温かくなって。
「その表情を見るだけで、君の想いが十分に伝わると断言できそうだ」
 さぞ喜んでくれるだろう。そう告げれば、リゼットは会心の笑みを向けて、『シアンさんのお墨付きなら、絶対大丈夫です』と頷いた。


 買い物を終え、落ち着いた雰囲気のあるカフェに入って茶を楽しんでいる二人。
「君に付き合ってもらって有意義な買い物ができた。礼を言う」
 そして有意義な休日でもあったのだが、それは言わずブレンドコーヒーを口にする。
 他愛のない談笑をしつつ、ふと時計を見れば‥‥既に夕刻を過ぎて午後六時。
「こんな時間なのか。夜までは拘束しないという約束だった。そろそろ帰るとしよう」
 お茶くらいで申し訳ないが是非ご馳走させてくれと伝票を片手に席を立ったシアン。
 店を出て、暖まった体へと吹きつけてくる風の冷たさに思わず身を縮めた。
「今日はありがとう。とても楽しかった」
「こちらこそ、いいプレゼントが選べたことも幸運に思います」
 ぺこりと頭を下げたリゼットは、ごそごそと何かを取り出し、シアンの前へと見せた。
 淡い色の包装紙に包まれた――細長い形のプレゼントだった。
「‥‥日頃御世話にもなってますし、受け取って頂ければ幸いです」
 気恥ずかしいのだろうが、それを我慢してシアンへと差し出してくれている。
 受け取ると、布地のように軽くて柔らかい感触があった。
「中身はグローブです‥‥いつも使っていらっしゃるようでしたので」
 リゼットとプレゼントを交互に見つめてから、小さくありがとうと言ったシアン。
「俺もいつ渡そうかと思っていたのだが、良ければこれを」
 と、オレンジ色の紙袋をやや強引にリゼットの手へ持たせた。
「‥‥嫌でなければ使ってくれ」
 勝手に持たせておいて何を上から申すのかと思いきや、『そうじゃなくて』といきなり弁解をし始める。
「女性は、髪が命というから。戦場だと火器も使用する。埃も、いろいろと‥‥つまり、痛むと知り合いの美容師に‥‥聞いて。その、髪が傷むのは、勿体ない」
「ええっ、と。つまり、この中身はヘアパック‥‥ですか?」
 額に手をやったり、早口だしカタコトで一人しどろもどろのシアン。見ていて面白いだろうリゼットが笑いを堪えつつ中身を聞くと、シャンプーやトリートメントも入っていると訂正する。
「そんなにたくさん‥‥ありがとうございます。嬉しいです」
 深々とお辞儀をして、リゼットははにかむ。
 恐らく第三者のほうが見ていて恥ずかしくなるような光景だろうが、少しの間を置いてからシアンが『それでは、また』ときりだした。
「貰ったグローブは、次の依頼から着けるとしよう」
「そう言ってもらえると贈って良かったって思います。では、シアンさん、MerryXmas!」
 大きく手を振るリゼットに、シアンも『MerryXmas』と返す。

 先程のやり取りのお陰か――あまり寒いと感じなかった。
 つかの間の休息と、確かな喜びを抱えて、彼らはそれぞれの家路へと戻っていくのだった。

-END-

━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga5171 / リゼット・ランドルフ / 女性 / 18歳 / ファイター】
【gz0296 / シアン・マクニール / 男性 / 27歳 / フェンサー】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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少しでもリゼットさんらしさというものが出ていれば嬉しく思います。
シアンとの買い物、いかがでしたでしょうか。
所所口調に違和感があった場合、申していただければ修正いたしますので!
それでは、MerryXmas&良いお年をお過ごしください。

WS・クリスマスドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2009年12月25日

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