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『クリスマスキャロル 』
来生 十四郎(ea5386)

「はぁ、結構街の中もクリスマス一式だなぁ‥‥」

 小さく呟きながら寒さを凌ごうと手に息を吹きかけながらキラキラと輝くイルミネーションを見る。
 クリスマス――それは一年の中で最も聖なる日、特別な日。
 恋人達は甘い雰囲気に酔いしれながらその日を過ごす。

「あ、この遊園地――クリスマスの日は夜までしてるんだ‥‥」

 ふと目に入ったのは遊園地の案内広告、いつもは6時で閉園となるその遊園地はクリスマスの日だけ夜の11時まで営業するのだとか。

「あ、でもこっちのクリスマスライトショーも捨てがたいかも‥‥」

 別の広告には植物園をクリスマスっぽくライトアップするという案内もあった。
 それぞれの場所は正反対、両方に行く事は無理なのだが――あなたはどちらにいきますか?

視点→来生 十四郎

「せっかくのクリスマスに男からの誘いで悪いんだけど、一緒に遊園地に行かない?」
 それは突然とも呼べる誘いだった。来生 十四郎に誘いをかけてきたのはライル・フォレスト。彼が駆け出しの頃に冒険者の事を色々教えた後輩であり、技量などは追い抜かれてしまったものの心情的には未だに手のかかる弟のようなものだった。
「ね、行こうよ」
 ライルの言葉に「まぁ、別にする事もないしな」と十四郎は言葉を返し、彼の誘いに乗る事にした。先ほど自分で言ったようにライルが誘ってくれなければ普通に1日を1人で過ごしていただろうから、暇を持て余さなくてすむかな、と心の中で呟きながらライルが言っていた遊園地の所在地などを確認する事にした。

 ライルと十四郎が遊園地へとやってきたのは日が暮れかけた夕方だった。折角綺麗なイルミネーションがあるのだから、と夕方から来て閉園ぎりぎりまで遊ぼうと2人で決めていた。
「そういえば、俺ってこういう所に来るの初めてだからあそこの人に入り方とか聞きに行こうよ」
 ライルの視線の先には案内係のような男性が立っており、その服装は遊園地の派手な雰囲気に合った服を着ていた。
 ライルは「入場券とかフリーパスとか買えばいいのかな?」と呟きながら入場口に立っている少し派手な服を着た男性へと話しかける。
「ねぇ、どうすれば遊園地で遊べるの?」
 ライルが男性に問いかけると「まずは、あちらの窓口で入場券を購入して下さい」とにっこりと営業スマイルで言葉を返される。
「入場券だけでも幾つかのアトラクションは楽しめますが、フリーパスの方をご購入されると園内の全てのアトラクションに入る事が出来ますので、フリーパスの方がお得かもしれませんね」
「それじゃ、フリーパスの方を買うか」
 十四郎が財布からお金を出そうとすると「ストップ!」とライルに止められてしまう。
「な、なんだ?」
 勢いのある言葉に思わず十四郎は驚くように目を丸くしながらライルに言葉を返した。
「十四郎の分の代金は、誘った俺が払うね」
 ライルが自分の財布から2人分のお金を出して窓口でフリーパスを二つ購入してきて、そのうちの1つを渡される。
「気を遣わなくてもよかったんだぞ」
 十四郎の言葉に「いーの、さ、楽しもう!」と十四郎とライルは遊園地の中へと足を踏み入れたのだった。

 遊園地の中へと入ると同時に2人の視界に入ってきたのは大きなクリスマスツリーだった。赤、青、白、黄、色々なライトが明滅を繰り返してオーナメントも通常のツリーより数倍のものが使われていた。
「出来れば、こういうのに乗りたいんだけどいいかな?」
 ライルがきらきらとした表情で見せてきたのは園内の案内パンフレットに載っているアトラクションの1つ、見るだけでもかなり怖いと分かるジェットコースターだった。
(「‥‥よりにもよって最初からコレか、きっと怖いんだろうな‥‥」)
 ライルに見せられたパンフレットを見ながら十四郎は心の中で呟く。十四郎は動きの早い乗り物や高い場所は苦手であり、出来れば避けたいジャンルの乗り物だった。
 しかしライル1人で乗せて何かあっても困るので、ここは1つ十四郎が我慢をして乗る事を決意する。
「あ、もし嫌なら別に無理して乗らなくていいよ?」
 黙ったままの十四郎にライルは少し心配になったのだろう、慌てて言葉を撤回しようとするが「いや、大丈夫だ」と十四郎が言葉を返すと、どこか嬉しそうな表情を見せた。
「それじゃ、乗ろっか♪ えぇと、何処かなー?」
 ジェットコースターを探しているのかライルはきょろきょろと周りを見渡している。
(「あぁ‥‥周りをちゃんと見ないと人とぶつかるだろうが」)
 はぁ、と小さなため息を漏らした後で十四郎が注意をしようとしていると「えぇー、何処にあるんだろ、この辺のはずなんだけどなぁ」と呟き、そして人とぶつかってしまう。
(「予想通りの行動で本当に素晴らしいな、お前は‥‥」)
 はぁ、と二度目のため息を吐きながらライルがぶつかった相手に「すまない」と言葉をかけて「ほら、こっちに来い」とライルの腕を引っ張る。
「あんまりうろちょろするな、そんなにうろうろしなくてもジェットコースターは逃げないだろうが」
 十四郎は呆れたように言葉を投げかけるが、ライルは楽しそうに「ごめんごめん」とあまり悪いと思ってない言葉を返してきた。
 そして2人が目的のジェットコースターの所へやってくると、乗り終わった女性だろうか、泣きながら「もうこんなの乗らない」と涙声で呟いている。
「へぇ、結構面白そう。ほら、早く並ぼう」
 楽しそうにライルは呟いているけれど、十四郎としては少しだけ並びたくない気持ちになった。
(「‥‥うわぁ、凄い回転してる‥‥」)
 少し先で物凄いスピードで動くジェットコースターを目で追いながら十四郎は心の中で呟くのだが、ぐいぐいとライルに引っ張られてしまい、列へと並ばせられてしまう。
 そして10分後、ライルと十四郎の番がやってきて一番後ろの席へと案内される。
「ちゃんとベルトをした後に安全装置を下げてくださいね」
 女性係員がジェットコースターに乗り込んだ客全員の安全を確認すると手を軽く挙げ、その後に『ブー』と音が響き渡り、ガコン、と音を立ててジェットコースターが動き始める。最初に高い所まで上った後に急降下して、その後には回転が二回連続でやってきて、再び急降下。隣のライルは楽しそうに笑っているけれど、十四郎はそれどころではなかった。ジェットコースターが終了した後「あー、面白かった♪」とライルは大きく伸びをするのに対して十四郎は放心状態になっており、漫画的な例えをするならば魂が半分以上抜けかけている、そんな感じだった。
「次は何に乗ろうかなー」
 パンフレットを見ながらライルが楽しそうに呟いていると「悪いが、少し休憩させてくれ」とげっそりとした表情の十四郎が話しかけてきた。
「いいよー、時間はまだまだあるし、ちょっと休憩しよっか」
 ライルが呟き「何か買ってくるよ」と歩こうとすると「いや、俺が買ってくるからいい」とライルに座っているように促す。
「誘ってもらったお礼に飲み物くらいは奢らせてくれ」
 十四郎はそれだけ告げると飲み物や軽食の売っているフードコートへと歩き出したのだった。
「さて、何を買うかな」
 フードコートには様々な人間が列を作っており、買う為には少しばかり時間を要するかもしれない事に十四郎は小さなため息を吐いて自分の番がやってくるのを待っていた。10分程度待っていた所で十四郎の番がやってきて2人分の飲み物と軽く食べられるものを買ってライルの所へと戻っていく。
「少し待たせたな」
「ううん、パンフレット見てたから」
 ライルの言葉に十四郎はパンフレットが開かれているページを見ると、そこには絶叫系のコースターばかりが載っており思わず苦笑してしまった。
「ねぇ、次はこれに乗ろうよ」
 ライルが見せてきたのは先ほどの絶叫系が載っているページ、ここまで来れば最後まで付き合ってやろう、十四郎はそう思って「だったら早く食っていくか」と言葉を返した。
 それから2人は空中ブランコ、ウォータースライダーなどありとあらゆる絶叫系に乗りつくした。その度に十四郎は放心状態となっていたのだけれど。
 その後、閉園時間も迫ってきた事から最後に観覧車に乗る事に決めた。
「俺‥‥こんなに遊んだの、生まれて初めてかも。今まで賑やかな場所には縁がなかったし一緒に遊んでくれる人もそういなかったし‥‥」
 窓に手を当てて外を見ながらライルがポツリと呟く、その表情から今日は本当に楽しかったと感じている事が十四郎にも伺えた。
「うわ、それにしても綺麗だな‥‥まるで宝石箱を見下ろしてるみたいだ」
 ライルの言葉に十四郎も外を見る、確かにきらきらと明滅を繰り返すイルミネーションが宝石のように綺麗で見とれるのも理解できる。
「今日は一緒に遊んでくれて、遊園地に付き合ってくれてありがとな!」
 にぱっ、と笑ってライルが言葉を返すと「こっちこそ誘ってくれてありがとな」と十四郎が言葉を返し、観覧車から降りた後、それぞれ家へと帰っていったのだった。楽しい思い出を胸に秘めて。


END


―― 登場人物 ――
ea9027/ライル・フォレスト/26歳(52歳)/男性/レンジャー

ea5386/来生 十四郎/34歳(34歳)/男性/浪人

――――――――――

来生 十四郎様>
初めまして、今回執筆させていただきました水貴透子です。
今回はご発注をありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださるものに仕上がっていれば嬉しいです。

今回は書かせて頂き、ありがとうございました!

2009/12/27
WS・クリスマスドリームノベル -
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2009年12月28日

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