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『ホーリー・スノウ【Santa Claus】 』
密原・帝(ha2398)


 街は静かに予感を孕み、行き交う人々は想いを抱く。
 今年もあの人と過ごせますように、今年はどうやって過ごそうか、その日はずっと仕事なんだ――街角で囁きあい、心躍らせる人々。
 特別な、特別な、クリスマスという聖なるひととき。
 舞い散る雪は、手の平ですぐに溶けてしまうけれど、クリスマスに見た夢は醒めることなく心に残る。
 密原帝(ha2398)にとってもまた、この日は特別な夢――。


 世間はクリスマスムード一色で、行き交う恋人達が冬の寒さなんて関係なく熱いオーラを醸し出していた。
 とりあえずそういう恋人達の世界は僕には関係のない世界で。僕は僕なりのクリスマスを楽しもうとブリーダーギルドの扉を開けた。依頼に没頭するクリスマスだっていいじゃないか。そうすることで、誰かのクリスマスを護ることもでき――あ、ララちゃん。
 その瞬間、僕は自分自身を慰めるために言い聞かせていた内容をすっぱりと忘れてしまった。うん、まあ、そういうことだって、あるよね。でもちゃんと依頼は受けるよ。依頼も受けて……ララちゃんの、ことも。ちゃんと。
 受付の奥で楽しげに職員達と歓談するララちゃん――ララ・トランヴァース(hz0031)。
 彼女はどんなクリスマスを過ごすんだろう。きっとお父さんと一緒に過ごすんだよね。それとも友達とかな。
 彼氏は――いない、はず、うん。いない、よね?
 だってまだ十二歳だし……あ、そういえば、ララちゃんはサンタさんを信じているのかな。僕はララちゃんくらいのころはまだ信じていた気がするなあ。幼稚かも、しれないけど。でも、夢があっていいと思うんだ。
「今年はサンタさんにドレスをお願いしたの!」
 ララちゃんは楽しそうに語る。ドレス? ドレスなんて、何に使うんだろう? 僕は耳を澄ました。
「今日はイヴでしょ。明日はクリスマス。お友達の家でダンスパーティーやるんだって! あたし、招待されてるの」
 ダンスパーティー? そうか、そのためのドレスなんだね。
「でもエスコートしてくれる人を連れてこいって言われてて……ちょっとどうしようかなって」
 エスコート……。
「頼みたい人は、いるけど……忙しいだろうし、な」
 頼みたい人って誰! 忙しくしてて……頼みたい、人。きっとギルド長、かな。
 ギルド長オールヴィル・トランヴァース(hz0008)、ララちゃんのお父さん。とても仲のいい親子だから、きっと、うん、そうに違いない。
 まさか他の人……なんてこと、ないよ、ね。
 まあいいや。どうやらララちゃんはサンタさんを信じてるっぽい。じゃあ、今夜、サンタのフリをしてこっそりプレゼントを贈っちゃおうかな。プレゼントは、もう用意してあるんだ。どうやって渡そうか迷っていたから、いい演出かもしれない。
 でも、深夜に女の子の部屋に忍び込むなんて……怒られるかなあ、怒られるだろうなあ……ギルド長に……。下手したら殺されちゃうかも……。
 きちんと許可をもらう必要が、あるよね。許可くれるかなあ、大激怒されるかなあ。
 でも、大激怒されても多分こっそりやるんだろうな、僕。
 だって、やりたいんだもん。いいじゃない、ねえ。本物のサンタだって不法侵入するんだから。
 そういや、ララちゃんの家って煙突あったっけ。なかったらドアか窓! 開いてなかったらポストか入口にそっと置いておこう。
 とにかく、直訴あるのみ。僕は鼻息荒く、ギルド長室に突撃を仕掛けた。


「断る」
 そ、そんな、まだ何も言ってないのにひどいよギルド長!
「お前が俺に何かを頼みに来るのは、どうせララのことに決まってる」
 うわぁ、見抜かれてるよ。
「そうだな、今日はクリスマスイヴだ。お前のことだから、夜中にサンタさんさせてくれーとか、そういうことだろう」
 ギルド長、アンタ何者や。
「図星か。……娘の部屋に忍び込むなんざ、百億万年早いわっ!!」
 うわあ、冬眠前の熊が怒った――!!
「……と、言いたいが。……なあ、帝」
 は、はい?
「……合い鍵渡してやるから、忍び込んでいいぞ。その代わり、俺からのプレゼントも一緒に置いてくれるか? ドレスなんだが」
 ……は?
「いや、俺、今日はギルドに泊まり込みで仕事でな。ちょっとサンタやれそうにねぇんだ。それで……お前に頼もうと思ってたところだった」
 ……はあ!? ぼ、僕に? 他にも頼めそうな人がいるのにどうして僕!
「ララがお前を信頼しきってるのはわかってるし。どーせお前がサンタやらせてくれって言いに来るだろうと思ってたし。だったら、公認のほうがやりやすいし、俺も逆に安心だ。こっそり忍び込まれるよりは、な」
 にやりと笑うギルド長。……ああもう、この人には敵わないよ……。
「いやいや、いいタイミングだった。そういうわけだから、よろしく頼むよ。ああ、ただし……手を出したら斬る」
 うわあ、目がマジだよ!!


 予想外の展開に、ちょっとまだ事態が掴めていない僕。
 あれえ?
 今日は親子水入らずで過ごしたいだろうし、邪魔しないよう夜の深い時間こっそりプレゼントだけ贈って帰ろうかな……なんて、思ってたんだけど。
 当のギルド長はギルドに泊まり込みだし、しかも合い鍵をもらっちゃってるから堂々と玄関から入れるし。うーん、いいのかな、こんなに上手く事が進んじゃって。
 まあいいや。
 冬眠前の熊は気性が荒いっていうから覚悟してたけど、攻撃されずに済んだんだし。喜ぶべきことだよね、うん。
 ここはさっくりと、僕からのプレゼントと、ギルド長からのプレゼント、置いて帰ろう。
 サンタクロースはいるんだよって……ララちゃんに伝えることができるといいな。でも、僕からのプレゼントだとわからないのは……ちょっと、切ないなあ。
 一瞬、この合い鍵は偽物で、ギルド長の嫌がらせだったりして……なんて思ったけど、あっさりと扉は開いた。
 この静かな家の中、ララちゃんが眠ってるんだ。部屋の場所は聞いてるし、この時間は熟睡してることもギルド長が教えてくれた。さあ、行こう。ちょっと緊張する、けれど。
 ララちゃんの寝顔を見に……じゃなくてっ。サンタのプレゼントを枕元に置きに!

 ここが、ララちゃんの部屋。
 可愛いなあ、扉に「ららのおへや」ってプレートがかかってる。
 中からは静かな寝息。うわあ、緊張するよ。物音を立てないように、そっと扉を開けないと。ララちゃんもウォーリアーだから……下手したら気配とかで気付くかもしれないもんね。息も殺さなきゃ。
 扉を開けて滑り込めば、奥のベッドには幸せそうに眠るララちゃんの姿。うわあ、薄いピンクのシーツ。可愛いなあ。部屋の中もぬいぐるみとか、料理の本とか。とっても女の子らしくて。
 僕はちょっと安心した。年相応の、女の子の部屋だったから。
 ララちゃんは目覚める気配はない。よかった、気付かれなかったみたいだ。
 僕はそっと枕元にふたつのプレゼントを置く。
 僕からは、サンタの服を着た赤目のテディベア。喜んでくれるといいな。
 ギルド長からは、赤いドレスらしい。……誰と、踊るのかな。
 僕は少しの間だけララちゃんの寝顔を眺めて――そして、静かに彼女に背を向ける。長居はしちゃいけない、よね。だって女の子の部屋だから。
 おやすみ、ララちゃん。いい夢を。忍び込んじゃってごめんね。
「――メリークリスマス」


「うわあっ! 寝坊したっ!」
 僕は顔を照らす陽射しに気付いて、慌てて体を起こした。
 カーテンを開けると、もう太陽は真上に来てる。うわあ、完全に寝坊だよ。
 昨夜、夜更かししちゃったからなあ。仕方ない、か。
 ララちゃん、プレゼント見たよね。喜んでくれたかな。
 ダンスパーティーも、楽しんでね。
 そんなことをつらつらと考えながら、どこかで遅い朝食――もう昼食かな――を摂ろうと、着替えて顔を洗う。まだちょっと眠気が残るけれど、外の空気を浴びれば目が覚めるよね。
 上着を引っかけて、玄関の扉を開けると――こつん。何かに当たった。
「え? 何?」
 扉の向こうを覗き込むと、そこにあったのは――大きな犬のぬいぐるみと、綺麗に包装された箱。
 これ、もしかして――!
 僕は慌てて包装を解く。ぬいぐるみの首には「メリークリスマス☆帝さん」と書かれたメッセージカードが提げられていて、そして包装が解かれた箱には――。
「タキシード……!?」
 つまり、これは……。
 僕が呆然とタキシードを見つめていると、塀の向こうからひょこんと赤毛の少女が顔を出した。
 いつものツインテールは下ろされ、とても可愛い赤いドレスを身に纏った少女。
「ララちゃん……!」
 僕がその名を呼ぶと、彼女は少し恥ずかしそうに駆け寄ってきて、そして。
「――一緒にダンスパーティー、行きませんか? サンタさん」
 にこりと笑う彼女の手には、テディベア――。
「エスコート、してくれる?」
 ぽふん。テディベアを僕の胸に軽く押しつけてくる。
「僕でよければ、喜んで――」
 そう言って、僕は彼女の手をそっと握る。
 そのとき、ちらちらと何かが降り出した。
「あ、雪」
 目を細め、嬉しそうに見上げるララちゃん。その笑顔を見てたら、なんか、胸がいっぱいになってきた。
 今日は一杯踊ろう。彼女をエスコートして、しっかりと護って。
 沢山、思い出を作ろう。
 今日はクリスマス。
 雪の舞い散る、ホワイトクリスマス。
 きっと、最高の一日になりそうだ。
「……メリークリスマス」
 僕は、そっと彼女に囁いた。
 彼女は少し頬を染め――。
「メリークリスマス」
 満面の笑みを、僕に、くれた。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ha2398 / 密原帝 / 男性 / 19歳 / ウォーリアー】
【hz0008 / オールヴィル・トランヴァース / 男性 / 32歳 / ウォーリアー】
【hz0031 / ララ・トランヴァース / 女性 / 12歳 / ウォーリアー】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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■密原帝様
いつもソルパにてお世話になっております、佐伯ますみです。
「WS・クリスマスドリームノベル」、お届けいたします。
今回はサンタということで。
なんと熊公認の夜ばい……じゃなくて、サンタを経験していただきましたが、いかがでしたでしょうか。
このあとは、ララと二人でダンスパーティーを楽しんで下さいね。
ちなみに、タキシードは熊の見立てです。ララのドレスと対になるようなデザインですが、ララのドレスと共にデザインは明記していませんので、お好みのデザインをご想像下さい。

この度はご注文下さり、誠にありがとうございました。
とても楽しく書かせていただきました。少しでも楽しんでいただければ幸いです。
お体くれぐれもお気を付けて、良いお年をお迎え下さいませ。

2009年 12月某日 佐伯ますみ
WS・クリスマスドリームノベル -
佐伯ますみ クリエイターズルームへ
The Soul Partner 〜next asura fantasy online〜
2009年12月28日

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