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『おみくじ売ります 』
レイン・シュトラウド(ga9279)

お正月、恐らく多くの人間達が初詣に行く事だろう。
神社に宿る神様に様々な願いを頼み、僅かばかりの気持ちを賽銭として残していく。
「お正月だってぇのに暇なモンだねぇ、この神社は」
ふわぁ、と屋根の上でお世辞にも行儀良くとは言えない格好で寝転がりながら欠伸をするのは狐耳にふさふさの尻尾を持つ金髪の男性。
男性とは言っても中性的な顔立ちで女性と言っても疑う者はいないくらいだった。
「だって、神様がそんなサボり魔じゃ誰も来たくないでしょ」
人のいない境内を竹箒で掃除しながら巫女である柳(やなぎ)が屋根の上で寝転がる狐――この神社に祭られている神狐を睨みつける。
「だってさぁ‥‥こんな時ばかり来る奴の願いなんか叶えたくないっつーの。調子いいんだよ、せめて普段から油揚げでも持ってきやがれ」
「‥‥神様の台詞に聞こえないよね、ちょっとは隣町の神狐さんを見習って人間に貢献したら〜?」
隣町の神社は多くの人で賑わっており、神狐も色々な困っている人間を助けていると噂では聞いている。
「あっちはあっち、こっちはこっちだって。人がいない方が俺もゆっくり出来るし、ありがたいね」
ごろり、と屋根の上に寝転がった後――かつん、と靴音を響かせて石段を登ってくる人物がいた。
「こんにちは、うちのおみくじはよく当たりますよ、おひとついかがですか?」
にっこりと営業スマイルで柳はおみくじの入った箱を差し出しながら話しかけたのだった。

視点→レイン・シュトラウド

「よし、こんな感じかな」
 レイン・シュトラウドは自分の格好を大きな姿見で見ながら呟いた。
 今日はレインの彼女である室生 舞と一緒に初詣に行く事になっており、折角だからとレインも紺色のシンプルな着物を着ていく事にしたのだ。
「そろそろ迎えに行かなくちゃ」
 レインは時計を見て、舞に「迎えに行く」と言った時間が迫っている事に気づき、少し慌しく家を出て行ったのだった。

「あけましておめでとうございます」
 レインがクイーンズ編集室に到着する頃、既に薄桃色の着物を着た舞が外で待っていた。
「あけましておめでとうございます、中で待っていてくれて良かったんですけど‥‥」
 レインが苦笑しながら舞に話しかけると「外の雪を見たくて」と舞も眉を下げて言葉を返してきた。
 昨日の夜から朝方にかけて雪が降り、外は一面の雪景色――だから今朝は見事なほどに雪が降り積もっていた。
「だからって長く外にいると風邪を引いちゃいますよ?」
「今度から気をつけます、それより早く初詣行きましょう」
 レインと過ごすのがよほど嬉しいのか舞はにこにこと笑顔で言葉を投げかけて、神社へと向かい始めたのだった。
「あんまり、人はいない‥‥っていうか、全然いないですね」
 舞が不思議そうに呟く。確かに巫女さんが境内を掃除しているだけで他の参拝客は見当たらない。
「おや、可愛らしい『かっぷる』の2人だな。この神社に初詣に来るのも珍しい、のう? 柳」
 けらけらと笑う声が聞こえてレインがちらりと視線を声の方へ向けると狐耳に狐尻尾の男性とも女性とも見えるような人が屋根の上に寝転がりながら可笑しそうに笑っている。
 柳、と呼ばれた巫女はレイン達の手前か狐に言葉を返す事はせずにじろりときつく睨んでいるのが分かる。
「こんにちは、うちのおみくじはよく当たりますよ、おひとついかがですか?」
 巫女さんがおみくじ箱を2人に見せながら話しかけてくる。
「はい、お参りが終わった後にさせていただきます、舞さん、お参りしましょう」
 レインは舞の手を引きながら大きな鐘が釣り下がっている所まで歩いていく。狐はそんな2人を見ながらにやにやとからかうような視線を送ってきていたけれど、レインは気づく素振りを見せずに歩いていく。
 新年という事で2人とも賽銭を少し奮発して、舞は手を合わせて願い事を心の中で呟き始める。
 そしてレインは願い事の前に『新年あけましておめでとうございます』とこの神社を守る神様に心の中で挨拶をする。
(「去年はボクにとって凄く良い年でした、感謝します」)
 レインの心の声が聞こえているのか狐は少し目を丸くして驚いたような表情でレインを見ていた。
(「どうか舞さんが今年1年間幸せに過ごせますように、それと舞さんとの仲が深まるといいな‥‥あ、でも願い事が1つだけなら最初の方を優先でおねがいします」)
「面白い子供だなぁ、自分勝手に願い事を言うだけかと思ったら『がーるふれんど』が優先か」
 くっくっ、と狐は笑いを堪えるかのように呟き、巫女である柳はレインの心の声など聞こえないので「何言ってンの」と小さな声で狐に話しかけていた。
「レインさん、何をお願いしたんですか?」
 お参りが終わった後、舞がレインに問いかけるけれど「内緒です」と少しだけ顔を赤くしながらレインは言葉を返した。
「そういえば‥‥その大きな風呂敷はなんですか?」
 首をかくりと傾げながら舞が呟く。彼女が指したのはレインが持っている少し大きな風呂敷。
「あぁ、ちょっとお渡しするものがあって‥‥」
 レインは少し曖昧に言葉を濁しながら「おみくじ引きましょう」と巫女・柳がいる場所へと歩いていく。舞はまだ納得していないのか首を傾げたままレインの後ろをついていく。
「2つ下さい」
 レインが柳におみくじ2つの代金を支払うと「あ、あの‥‥ボク、自分の分は払いますよ」と慌てて財布を出そうとする。
 しかしレインはそれを止めて「いいからボクに払わせてください」と言葉を返した。
「あ‥‥そ、それじゃ‥‥ありがとうございます」
 照れたように俯きながら舞はおみくじを引き、続いてレインもおみくじを引いたのだった。
(「‥‥ドキドキしますね」)
 レインは引いたおみくじを開いて『恋愛運』のところを見る。顔には出さないけれど、やはり恋愛運――舞との今後の運勢が気になって仕方がないのだろう。
「わぁ、レインさんは大吉ですか、凄く幸先いいじゃないですか。ボクは中吉でした」
 舞は苦笑しながら自分のおみくじを見せる、確かに中吉だけど運勢の欄は大吉並みに良い事が描かれていた。対するレインは健康面などに気をつけるようにと書かれており、彼が気にしていた恋愛面は『進展あり、焦るなかれ』と書かれていた。
「あ、そうだ――‥‥」
 レインはおみくじを舞と木に結んだ後、持って来た風呂敷に包んだそれを柳に渡す。
「え?」
「すみませんが、其方の神狐様に渡していただけませんか?」
 レインの言葉に狐も柳も舞もきょとんとした表情を見せた。レインは霊感が強いので霊や神様の類が見えているのだ。恐らく狐は見えているとは気づかなかったのだろう、寝ていた体を慌てて起こすと匂いを嗅ぐような仕草をして「中身は稲荷寿司か」と嬉しそうに呟く。
「あなた‥‥神狐が見えるの?」
「はい、昔から霊感は少し強くて」
 苦笑しながら「宜しくお願いします」と言葉を残して舞と共に神社から出ようとする。
「あの、レインさん? 霊感って‥‥神狐って」
「あぁ、この神社を護っている狐の神様ですよ、先ほどからボク達を見てました。ボク、そういうの見えるんです」
 レインの言葉に舞は驚いたように目を丸くするが「凄いですね、神様が見えるなんて」と言葉を返したのだった。
「童、馳走になる礼だ――2つ目の願いも聞いてやろう、楽しみにしておけよ」
 神社を出る間際、レインの前にひらりと狐が現れて不敵に微笑む。対するレインは『2つ目のお願い』という言葉に顔を赤くしながら、軽く頭を下げて神社から出て行ったのだった。
「あらまぁ、美味しい」
 ぱくり、と稲荷寿司を食べた柳が呟くと「それは俺が貰ったモンじゃねぇか、俺より先に食ってんじゃねぇ、バチ当てるぞ」と稲荷寿司が入った重箱を引ったくり、再び屋根の上へと戻っていったのだった。

「舞さん、寒くないですか?」
 レインが心配そうに問いかけると「寒いですけど、大丈夫です」と舞は鼻を赤くしながら言葉を返してきた。
「こんなに冷えちゃってますね‥‥」
 レインは冷たくなった舞の手を自分の手で温めながら呟く――が、それと同時に頬に柔らかな感触が舞い降りる。
「――え?」
「えへへ」
 柔らかな感触は舞の唇であり、舞からほっぺにキスをされたのだ。
「何となく、したくなったんです」
 顔を真っ赤にした舞が呟く。その時にレインは先ほどの神狐の言葉を思い出し、舞よりも顔を赤くしたのだった。
「そ、そういえばつきたてのお餅でおしるこを作ったんですけど、良かったら食べにきませんか?」
 レインが自宅へ誘うと「行きたいです」と舞が嬉しそうに笑い、レインの手を握り締める。
 その後、レインの自宅へと向かい、お正月を舞をレイン、そしてレインの家族と過ごしたのだった。
「舞さん、今年もよろしくお願いします」
「ボクの方こそ、宜しくお願いします」


END

―― 登場人物 ――

ga9279/レイン・シュトラウド/15歳/男性/スナイパー

―― 特別登場人物 ――

gz0140/室生 舞/15歳/女性/オペレーター訓練生

――――――――――

レイン・シュトラウド様>
こんにちは、いつもお世話になっています。
今回はお正月ノベルのご発注をありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
少しでも面白いと思ってくださると嬉しいです。

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!


2010/1/4
WS・新春ドリームノベル -
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2010年01月04日

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