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『おみくじ売ります 』
玖堂 鷹秀(ga5346)

 お正月、恐らく多くの人間達が初詣に行く事だろう。
 神社に宿る神様に様々な願いを頼み、僅かばかりの気持ちを賽銭として残していく。
「お正月だってぇのに暇なモンだねぇ、この神社は」
 ふわぁ、と屋根の上でお世辞にも行儀良くとは言えない格好で寝転がりながら欠伸をするのは狐耳にふさふさの尻尾を持つ金髪の男性。
 男性とは言っても中性的な顔立ちで女性と言っても疑う者はいないくらいだった。
「だって、神様がそんなサボり魔じゃ誰も来たくないでしょ」
 人のいない境内を竹箒で掃除しながら巫女である柳(やなぎ)が屋根の上で寝転がる狐――この神社に祭られている神狐を睨みつける。
「だってさぁ‥‥こんな時ばかり来る奴の願いなんか叶えたくないっつーの。調子いいんだよ、せめて普段から油揚げでも持ってきやがれ」
「‥‥神様の台詞に聞こえないよね、ちょっとは隣町の神狐さんを見習って人間に貢献したら〜?」
 隣町の神社は多くの人で賑わっており、神狐も色々な困っている人間を助けていると噂では聞いている。
「あっちはあっち、こっちはこっちだって。人がいない方が俺もゆっくり出来るし、ありがたいね」
 ごろり、と屋根の上に寝転がった後――かつん、と靴音を響かせて石段を登ってくる人物がいた。
「こんにちは、うちのおみくじはよく当たりますよ、おひとついかがですか?」
 営業スマイルで柳はおみくじの入った箱を差し出しながら話しかけたのだった。

視点→玖堂 鷹秀

 お正月、新年の始まりを迎える特別な日。
「さてと、準備はこんな感じでいいかな?」
 土浦 真里は自分の着物姿を見た後、腰に手を当てて満足そうに呟いた。本来ならば今日も彼女は記事編集の仕事をする筈だったのだが『お正月くらいは旦那と過ごしなさいよ!』という記者仲間の言葉があり、マリの旦那である玖堂 鷹秀と初詣に行く事になったのだ。
「あけましておめでとうございます、真里さん。今年も1年よろしくお願いしますね?」
 鷹秀も初詣の準備を終えて自室から出てくる。服装はいつもの白衣姿ではなく、濃紺の着物と羽織に地下足袋というお正月らしく由緒正しい服装だった。
「何か‥‥意外。いつもの格好で行くのかなって思ってたから」
「流石に初詣にまで白衣で行くほど無粋な人間ではありませんよ?」
 マリの言葉に鷹秀は苦笑しながら言葉を返し「それじゃ行きましょうか」と手を差し出しながら言葉を付け足したのだった。
「あ、その前に‥‥」
 玄関を出ようとした時、玖堂がマリの方を振り向いてにっこりと笑顔で「着物姿、とても素敵ですよ。和装もよく似合うんですね」と言葉を投げかけた。
「な、い、いきなり何を‥‥! ま、マリちゃんは何でもよく似合うんですー!」
 顔を真っ赤にして照れ隠しで可愛くない言葉を返すのだが、鷹秀はマリの素直じゃない言葉が照れ隠しなのだと言う事を知っているので「そうですね」と言葉を返した。
「‥‥‥よ」
「え?」
「鷹秀もカッコイイ、惚れ直したって言ってんの! ほら、早く行こう!」
 りんごのように真っ赤にした顔で予想しなかった事を言われて鷹秀はきょとんとするが、すぐに笑顔になり「ありがとうございます」と言葉を返したのだった。
「新婚のせいかラブラブねぇ‥‥こっちは完璧に徹夜決定だって言うのに」
 鷹秀とマリが出て行く姿を見て、マリの記者仲間達はため息混じりに呟き、再び仕事へと戻っていく。

 クイーンズ編集室から少し歩いた所にその神社はあった。別の神社に行っても良かったのだが結構遠い事から、近くの神社に行く事にしていた。
「あれー? 全然人がいないねー。お正月の神社ってもうちょっと賑わってるイメージがあったんだけど‥‥違うのかな?」
 神社に到着したマリが最初に呟いた言葉がそれだった。しかし疑問に思うのも無理はない。お正月の三が日中に来ているというのに神社にいるのは境内の掃除をしている巫女さんのみ。他の参拝客はきょろきょろと辺りを見渡しても見つからないのだから。
「ふむ‥‥穴場、と言う事でしょうか?」
 苦笑しながら鷹秀は呟くのだが『ヒマそうな神社だな‥‥』と心の中では思っているという事に屋根の上で寝転がっている狐しか知る者はいない。
「柳、結構失礼な参拝客が来たぞ」
 狐は鷹秀の思っている事が分かるのか屋根の上からぶらぶらと足をぶらつかせながら巫女である柳に話しかけていた。勿論マリと鷹秀には狐の声など聞こえる筈もない。
「ま、いいや。人がいない方がゆっくり出来るしね。鷹秀、お参りしよ」
 からん、と下駄の音を響かせながら鷹秀とマリは賽銭箱の前に立ち、賽銭を投げ込んで手を合わせ、願い事を心の中で呟いた。
(「去年は鷹秀と結婚も出来たし、すご〜く幸せな1年でした。今年はもうちょっと記者活動を頑張ろうと思うんだけど、能力者の皆が『危ない事はするな』って煩いから、今年はあんまり皆が煩く言いませんようにっ――あと、鷹秀とずっと幸せでいれますように」)
 手を合わせて真剣に願い事をしているマリだが、実際に願っているのは能力者を困らせるような事で、きっと鷹秀が聞いたら黒い笑顔を浮かべて怒る事だろう。
(「今年は怪我や病気が無く、何より真里さんの暴走が少しでも減りますように‥‥あんまり暴走されると胃がもちません」)
 対する鷹秀は『マリが暴走しないように』と願っており、2人の願い事が聞こえている狐は苦笑しながら2人を見つめていた。
「お互い逆の事を思ってるなんてねぇ、男の方はまだまだ苦労するだろうさ。俺としても願いは叶えてやりたいが、本人がああ思ってちゃ無理だねぇ」
 苦笑しながら狐が呟き「ま、男の方の賽銭500円は感心しておこう、大抵は10円とか5円だからな」と言葉をつけたし、再び寝転がって眠り始めたのだった。
「真里さんは何をお願いしたんですか?」
 2人の参拝が終わり、好奇心から鷹秀はマリのお願いを聞くのだが数秒後に『聞かなければ良かった』と後悔する事になる。
 なぜなら「私が無茶な事しても皆が煩く言わないようにってお願いした!」と満面の笑みで言葉を返してきたのだから。先ほど鷹秀が願っていた事とは真逆の願いに鷹秀は盛大なため息を吐いた。
 そして予想通りに黒い笑顔で「後で話し合いをしましょうか」と言葉を投げかけようとした時‥‥「あとね」とマリが呟き、言葉を続ける。
「あと、鷹秀とずっと幸せでいれますように、ともお願いしたかな」
 その言葉を聞いて、怒ろうとしていた鷹秀は毒気を抜かれてぽかんとした後、苦笑した。
(「そんな事を言われたら怒るに怒れないじゃないですか」)
 ふぅ、とため息を吐いた後に「鷹秀は?」とマリから言葉が返ってきた。
「そうですね、怪我や病気が少なく、真里さんの暴走が少しでも減りますように、とお願いしましたよ」
 にっこりと言葉を返されて「え」とマリはギクリとした表情で呟き「あ、お、おみくじ売ってるよー」と話を誤魔化すようにおみくじ箱を持っている巫女の所へと向かったのだった。
「うちのおみくじ、よく当たりますよ」
 巫女の柳がおみくじ箱を差し出しながら鷹秀とマリに話しかけると「それじゃ、2つ」と鷹秀が代金を支払い、それぞれ箱の中に手を入れておみくじを引く。

 鷹秀のおみくじ・末吉
 健康運・病気は縁遠いけれど、怪我には注意せよ。
 恋愛運・問題なし、何事も寛容に対応せよ。

 マリのおみくじ・吉
 健康運・怪我に注意せよ、無理すれば命なし。
 恋愛運・問題なし、相手の気持ちになって行動せよ。

 それぞれが的を射た事を書いてあり、鷹秀は苦笑しながら「今年も‥‥暴走するんですかねぇ」と小さな声で呟いたのだった。
「それじゃ初詣も終わりましたし、帰りますか? たまにはのんびりと過ごすのもいいでしょう?」
「そーだね、のんびり帰ろっか♪」
 鷹秀とマリはおみくじを木にくくりつけた後、手を繋いでクイーンズ編集室へと戻っていく。

 そしてその夜、本当ならマリは終わらせようと思っていた仕事があったのだけど、折角鷹秀と過ごしているのだから、と後日に回す事にした。
「何か今日は久々にゆっくりまったりした気がするなぁー」
 ご飯も食べて、お風呂も入った後「うーん」と大きく伸びをしながらベッドにコロンと転がる。
「ねぇ、鷹秀‥‥」
「はい? なんですか?」
「私は楽しかったけど、鷹秀は楽しかった?」
 マリの問いかけに「勿論、何でそんな事を?」と鷹秀が言葉を返す。
「だってさ、いつも鷹秀は私に合わせてくれてるでしょ? だから鷹秀は楽しかったのかなぁと思って」
 少し不安そうなマリの言葉に鷹秀は「ふ」と笑って「楽しくなければアナタと一緒にいませんよ」と言葉を返したのだった。
「そうだ、もっと私が楽しくなる日本の伝統行事があるんですよ」
 鷹秀の楽しそうな声にマリは「?」を頭の上に浮かべながら「何?」と言葉を返した。
「個人的に初詣と並ぶ日本の伝統行事と言えば姫「大却下!」‥‥おや、残念ですね」
 鷹秀の言いたい事がマリにも分かったのか顔を真っ赤にしながら手をクロスさせて「その要求はのみませんっ」と叫んでいる。
「それではそろそろ寝ましょうか、おやすみなさい」
 鷹秀の言葉にマリは「うぅ」と唸りながら「ねぇ」と鷹秀に言葉を投げかける。
「え?」
 鷹秀がマリの方を向いた瞬間、頬にマリの唇の感触があった。その感触はすぐに離れてしまい、マリは顔を真っ赤にしていた。
「こ、今年も宜しくの挨拶だからね、おやすみなさい!」
(「これって誘っているんでしょうか‥‥? 無自覚なら相当タチが悪いですね」)
 苦笑しながら鷹秀は「おやすみなさい」と言葉を返し、眠りについたのだった。

END

―― 登場人物 ――

ga5346/玖堂 鷹秀/26歳/男性/サイエンティスト

―― 特別登場人物 ――

gz0004/土浦 真里/22歳/女性/破天荒突撃記者

――――――――――

玖堂 鷹秀様>
こんにちは、いつもマリがお世話になっています。
今回はお正月ノベルにご発注頂き、ありがとうございました!
甘い感じ、という事でしたので出来る限り甘くしてみましたっ!
あ、甘くなってるでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、書かせて頂きありがとうございました!

2010/1/5
 
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2010年01月05日

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