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『 一面の白色は、何よりも近寄りがたいものだった。 』
大泰司 慈海(ga0173)


 降りしきる雪は、様々な姿で幻想を物語る。
 それは、一つ一つの結晶が異なるのと同じで、幻想もまたそれぞれであった。

―― この冬、何が起きるのだろう‥‥

 そんなことを思いつつ、吐かれるのもまた白い息。
 白が織り成す物語は、今宵何を見せてくれるのだろうか。

 それは、紅? それとも‥‥黒?

 白く染まった世界の中、それは色を魅せ始めるのだった。


◇◆◇

 慈海にとって、白とは若者。
 無垢な若者そのものだったのかもしれない。

 大泰司、その名は偽名である。
 彼にとって、過去はない。
 記録には残っているのかもしれない、だが、探そうとは思わない。
 記憶にないことだ。
 自分には不要と感じた物である、そう思っていた。




 任務は極寒とは言わないものの、寒い地域だった。
 日が傾き、薄暗い中。
 街の灯りに照らされゆっくりと舞い落ちる、白銀の天使の欠片。
 コレは、彼らの羽なのかもしれないと、少しばかりいつもと違う感想を思ってみる。
 傭兵になって早2年が過ぎ、もう3年目になって‥‥。
 記憶の逆戻りが、能力を使うたびに引き起こる。
 苛立ちを抑えるために口にする、紫煙の苦味。
 記憶はなくても、身体は覚えている。
 迷わず手に取った時、酒の味とは違い、だが懐かしく口内を犯す苦味に思わず安心感を覚えた。
 目の前で言い争う自分と年齢がかけ離れた世代を見ると、時折激しく求めてしまう。
 それを踏み弄りたくなる苛立ちを、苦味がそっと押さえていた。

 何故だろうか。
 白が、憎い。

 普段とはかけ離れた感情に際悩まされ、それを周囲には隠しながら。
 慈海はそっと街灯の下へと移って行った。
 この、胸に沈ませた黒く、汚い感情が。
 目の前の白い雪を黒く染めていく。
 悪魔に堕とれた天使が染まるように。
 そんな事を気取らせずに、紫煙で覆い隠す。

 若者が憎いのか。
  そうではない。
 記憶が辛いのか。
  そうではない。
 記録が欲しいのか。
  そうではない。


 だけど、一度抱いてしまった感情は何故か深く深く浸透していって。
 天使の羽を、毟りたくて仕方がない。
 コレは幻覚だ。幻覚だと思うのに‥‥。
 幻覚を振り落としたいのに、落としきれない。
 そして天使は時折見る記憶の中の幼い少女と重なって。
 黒い、長い髪の。
 いつも記憶の片鱗で彷徨う、黒髪の、笑顔の、幼い少女。
 重なって、重なって。
 優しく微笑む、無垢な天使になって。
 次第にその表情は歪み。
 体中に紅い点を生じていく。
 腕も、肩も、足も、腿も、腹も、胸も、顔も。
 紅く、紅く、表情を歪めながら染まっていく。
 そして紅は‥‥黒に変わっていく。


 自分は、何がほしいのだろう。
  自分は、何がしたいのだろう。
   自分は‥‥。



 捕らえたのは、雪の白さ。
 捕らわれたのは、己の見えなかった感情。
 考えてこなかった想いが、何故か沸き起こる。
 それは白が起こした魔力なのだろうか。



 白いコレを、紅く、黒く‥‥穢したい。
 二度と、白くは戻れないように‥‥。


    穢したい
     穢したい
      穢シタイ
       穢シタイ
        ケガシタイ
         ケガシタイ




 描いてしまった思いが、今、目の前に映し出される。
 雪に、映し出される。
 あの少女が、穢されていく。
 目の前の若者達ではなく、脳裏に住む、記憶の彼女を穢していく。
 彼の、脳裏の中で。
 無垢な笑顔を、哀しみの表情へと変えて。

 雪の精が、慈海を見て‥‥。
 薄く‥‥微笑んだ。




「‥‥ぅ‥‥」
 急に寒気が、全身を襲う。
 思わず震えた身体が、視界を白一面の世界に戻した。
 誰も踏みしめていない、白い雪の世界に。
 深く被っていたフードに積もった雪が、目の前に落ちてくる。
 上を見ると、薄く明りが射してきていた。

―― 夢

 いや、わからない。
 だけど‥‥。

 妙に生々しく脳裏に残った映像は、何なのだろうか。
 心の奥底の‥‥。
「‥‥は、は、は」
 唇から漏れたのは、自分らしくない乾いた笑いだった。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga0173 / 大泰司 慈海 / 男 / 44 / サイエンティスト】



ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は発注ありがとうございました。
 何時もお世話になっております。
 そして、この度もありがとうございました。
 お任せ、とのことでしたので書かれていたワードと、彼の設定から作らせていただきました。
 お気に召すかどうか、大変不安ではあります。
 いつもの彼とは掛け離れた世界と言うことで。
 そして、少しダーク気味という感じにさせていただきました。
 キャラを壊すというより、ギャップが出たらなと思います。


 それでは、またお会いすることを願いまして。


 雨龍一
WS・クリスマスドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年01月07日

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