▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『【光の宴】夢の国へ‥‥ 』
秋霜夜(ia0979)

 夜の光は、どこか寂しい。
 ゆっくりゆっくりと廻る観覧車の中で、一人、秋霜夜は地上を眺めていた。
 くるりくるりと反転する光、小さく瞬く光、かと思えば自分を十二分に主張しすぎる光もある。やがて闇の中、光は海のように地上を覆った。うねるように各々が点滅する様が、どこか波のようだ。
「やっぱり、観覧車に1人は哀しいです‥‥」
 呟くと、いっそ寂しく思えた。だが自分達もこの光の洪水の中に、先ほどまで居たはずなのだ。地上から見ればただ美しいだけの光が、今は自分を飲み込むように手招きするようにうねっている。
「あれ‥‥? あそこだけ光が違う‥‥?」
 地上の光と空の光。比べてみたくなって見上げた彼女の目に、赤い光が飛び込んできた。どう見ても、空中だ。空中に光がある。頂上まで上った観覧車から見ても、まだ少し上方にそれはあった。
「もしかして、あれが‥‥」
 呟いたが、今の自分にはそこまで行く手段がない。窓を開け、両手でしっかり窓枠を持って少し身を乗り出した。ぐらりと僅かに入れ物が揺れる。
「‥‥せんせーっ!」
 思い切り冷たい空気を吸い込み、出来る限りの声で叫んだ。
 地上と空の光が、そんな彼女を見守る。

●序
「せ〜んせっ。今日はどんな格好にしましょ〜か?」
 くるりんと軽やかに少女が回った。逆立ちしてもその愛らしさに勝てそうに無い先生こと探偵、エルディン・アトワイトは神父服を着ている。本職が神職者であるから勿論自前だが、この季節はそれなりに忙しいのではないかとは訊いてはいけない。
「そうですね。霜夜君は何でも似合いますよ」
 余り親身になっていない返答を返した師匠に、霜夜はうーんと首を捻った。
 ここはテーマパーク『キツネーランド』。時節毎のイベントで色を変える遊園地である。今はクリスマスシーズン。園内は華やかな赤、緑、白、金銀などで埋め尽くされている。あちこちに緑色のツリーと元の色が見えないくらいごちゃらと飾られた装飾品が立ち、係員達も礼服であったり赤いサンタの姿であったりした。さすがにトナカイやソリの格好をしている者は居ないようだ。又、クリスマスに因んだ仮装も出来るそうだが、今の所すれ違う他の来園者達は仮装はしていないようである。2人はハロウィンシーズンの頃に一度、ここを訪れていた。その頃と比べれば、衣装を貸し出す店なども数が少ない。
「じゃあ、どんな格好がお好きなんですか?」
 メインストリートのアーケードを歩きながら、霜夜はきょろきょろと店を探した。
「そうですね。例えば‥‥あのような」
「寒いですよね」
 弟子の突っ込みは的確だった。自分は絶対に着ませんというニュアンスさえも含んでいなかった。その前に一刀両断だった。
「‥‥えぇ。ですがお洒落というのは寒暖を耐えてこそと聞きますし」
「仮装はお洒落なんですね?」
「お洒落で‥‥霜夜君!」
 さすがメインストリート。人の波が2人の間に分け入り、2人の間の距離が一瞬大きく開いた。だがエルディンが手を伸ばし、何とか霜夜の手を掴む。
「大丈夫ですか? 霜夜君は小さ‥‥いえ、まだ少し若いのですから、注意して歩かなければなりませんよ」
「ふぁ‥‥大丈夫です。有難う御座います」
 引き寄せられて大きく白い息を吐いた霜夜は、ふと周囲を見回した。
 既に陽は沈み、辺りはすっかり暗くなっている。だが眩いばかりの光が園内を覆っており、暗さの中にも楽しさを保っていた。この時間ともなれば家に帰る人々も多いのだろう。アーケード内は人で溢れかえっている。
「夜の遊園地も、お客さんが沢山ですねー‥‥」
「えぇ、そうですね。本来ならば神に感謝と祈りを捧げ大人しく家で過ごすものなのですが、これも又、ひとつの楽しみ方なのでしょう」
「‥‥理解しました〜」
 不意に弟子が手を挙げる。
「あぁ、勿論、霜夜君と家でささやかなパーティを行う事もやぶさかではありまっ‥‥!」
「せ〜んせっ。迷子防止で、こうするんですよね?」
 ぴとっ。
 弟子が、師匠の腕に自分の腕を絡めた。身長差があるので周囲の人々ほど上手くは行っていない。
 が。
「‥‥あぁっ‥‥! 何たる事だ‥‥! 我が主たる神よ! 決してこれは疾しい心ではないのです‥‥! 弟子のっ‥‥! しかも少女にそのような事など‥‥ありえません!」
 師匠は思い切り身悶えた。
 一頻り体を捻った後、不意に師匠は真面目な顔つきになる。
「霜夜君」
「はい」
「いいですか? 人を見る時は、上目遣いで見ない事。しかも両手でしがみ付いた状態など言語道断です。分かりましたね?」
「ダメなんですか〜?」
「それです! その上目遣いがいけません! ダメです!」
「上目遣いって、ど〜やってするんですか?」
「そんな事は私に聞かないで下さい」
「分かりました」
 とりあえずいつもは冷静で穏やかで知的な師匠が身を捩って訴えるくらいなのだから、余程の事なのだろうと弟子は納得した。
「じゃあせんせ〜。どうして周りの人達はみんな、腕を組んで歩いているんですか〜?」
「後2年経ったら教えてあげます」

●起
 2人は園内をのんびり回ったが、すぐに何かの気配を嗅ぎ付けた。
「魔女が何か悪巧みをしているとタレコミがありました。これは、阻止せねばなりません」
「エルディン先生、事件ですか?」
 エルディンの双眸がきらりん☆と光っているように、霜夜には見えた。しかしそんな霜夜の双眸もきらきら輝いている。似たもの師弟だ。尚、霜夜曰く、『綺麗なお姉さんを見つけた時のきらりんよりも事件を見つけた時のせんせのきらりんはとっても鋭いのです!』だそうだ。
「えぇ、事件ですよ。これは事件です」
「先生の目に狂いは無いのです。でも『魔女』って何でしょう」
「以前、ここに来た時、多分私は会っています。彼女に」
 そう答えながら、エルディンは思い出す。魔女の仮装をした女性の事を。
「二人で手分けして探しましょう」
「手分けして魔女さん探しです?」
「えぇ。手分けしたほうが早いでしょう」
「分かりました」
 別行動は寂しいですが‥‥とは言わず、霜夜は頷いた。こういう時は師の意見を聞くべきである。
「では、気をつけて。霜夜君」
「はい。先生も」
 思えばこの師は、いつも彼女の父親とは違っていた。彼女の父は筋骨隆々の拳士である。この世界的に言うと、拳で語るタイプである。そんな父の強さに憧れ尊敬しているが、一方で、父とは真逆とも言えるエルディンの事も、尊敬していた。穏やかで知的、かつ寿命が長いという特性を持つエルフであるこの師の事を、第二の父とも思う事がある。
 そんな彼の役に立てれば。
 そして彼と共にこうして事件を解決しようと動く事が、何より楽しかった。
「でも、聖夜に魔女さんですかぁ‥‥。お祝いが嫌いなんでしょうか」
「祝いと呪いって似てますよね」
 不意に声を掛けられて、霜夜は反射的に身構え振り返る。
「どちら様ですか?」
「この素敵な夜に、貴女に贈り物を持ってきた者ですよ」
 相手は、赤い帽子を被っていた。だが黒のタキシード服にステッキ、懐中時計を持っている。そして白い手袋をした手の平の上に、リボンが掛かった小さな箱をのせていた。
「『エルディン神父の事件簿』だと、こういう怪しすぎる展開はずばり、こうです。『犯人が変装している』!」
「おやおや‥‥」
 男は笑って赤い帽子を取る。
「何の事件の犯人なのでしょう?」
「魔女さんの共犯‥‥又は、魔女さんの変装‥‥と見たです。先ほどまでに得た情報によると、魔女さんはサンタさんが子供たちにプレゼントする贈り物の箱を狙っているらしいのです。子供たちの夢を壊すような行い、断じて許せません!」
 早くも佳境な展開で、霜夜はびしぃと男を指差した。
「成程、成程‥‥」
 男は指摘されて僅かに楽しげな笑いを浮かべる。
「『狙っている』‥‥まだ、事件は起こっていないわけですね? なのに犯人扱いとは困りましたねぇ‥‥」
「その杖も時計も、中を見せて下さい」
「おやおや‥‥何か仕込まれていたとしても、使わなければ罪ではありませんよ?」
「いいえ、危険物を所持している事は、それだけで罪なのです」
 杖と時計を借りて入念に中に何か仕込まれて居ないかチェックしていると、不意に頭が暖かくなった。
「‥‥あれ‥‥?」
 赤い帽子が頭に乗っている。慌てて周囲を見回したが、もう男は居なかった。
「‥‥これ、どうしましょう‥‥。忘れ物係りさんに渡すべきでしょうか‥‥」
 結局何も仕込まれてはいなかったのだが、返すべき相手を見失って霜夜は途方に暮れた。

●承
 高い場所から観察が良いだろうと観覧車に乗った霜夜は、空を見上げていた。頭には赤い帽子、手にはステッキと時計という姿である。
「‥‥魔女さんの魔法‥‥?」
 又少しずつ降りていく箱の中で、霜夜は辺りを見回した。
「‥‥空にのぼる汽車があるって言ってたですね‥‥。本当にあるなら、それに乗っていける場所かもしれないのです‥‥」
 観覧車を降り、霜夜は園内を廻る汽車の駅へと向かう。夜である事もあって客は少なく、並ばずに乗る事が出来るようだった。
「あの。あの空に行きたいのですけど‥‥」
「お空です?」
 霜夜が指差した先を銀髪の係員は見上げる。
「お星様ぴかぴかですね。じゃあ、たくさんの魔法が必要なのですよ」
「はい‥‥?」
「空に行く為には、通常のチケット以外に必要なものがあるんだ」
 金髪の係員が霜夜に向かって手を差し出した。
「けれど君は、まだ‥‥聖夜のプレゼントを貰っていないね」
「あ、はい。まだ誰からも貰ってないですけども‥‥」
「サンタさんからプレゼントするですね」
 少女のほうがにこと笑って小さな箱を彼女に渡す。
「‥‥えと‥‥いいんでしょうか」
 貰った箱に丁寧に掛けられたリボンを解き、彼女は箱を開いた。穏やかな光が箱の中から溢れ出し、ゆっくりと彼女を包み込む。それは蝋燭やランタンがぼんやりと光るような、そんな落ち着いた色合いをしていた。
「何も入ってない‥‥?」
 一体どんなプレゼントだったのか尋ねようとして、彼女は思わず絶句する。
 何時の間にか、その汽車は空へと駆け上がっていた。開いたままの窓から冷気が入り込み、喉を凍らせるように冷やす。口を閉じて眼下を見下ろすと、先ほど観覧車から見た光の海が更に小さくなって見えた。その外側‥‥園の外を見ようとして、霜夜はふと時計の針が動く音が気になり目をそちらへ向ける。
「10時‥‥」
 それきり、彼女は眼下を見下ろさなかった。代わりに空を仰ぐ。徐々に赤い光は近付いていた。

●転
『終わり無き駅』と看板には書かれていた。
 駅に降り立った霜夜は、端から端まで歩き魔女を探す。だが彼女以外、そこには居なかった。
「終わりなき駅‥‥。終わりなき‥‥」
 看板を見つめ、考える。
「終わる事が無い駅‥‥。終点じゃない、って事ですよね。終わりが無い‥‥」
 呟きながら駅の窓から外を眺め、あ、と思わず声を上げる。
「せ〜んせーっ」
 少し下がった所に、二人、対峙していた。窓を無理やり開けて、窓枠に乗り思い切り飛ぶと、霜夜の体はくるりと綺麗に1回転して空中に下りた。
「‥‥わっ‥‥せんせっ‥‥空の上に浮いてるですっ‥‥?!」
 彼女の足は何物も踏んでいないように見える。思わずあわあわとなった霜夜に、エルディンが声を掛けた。
「無事でしたか‥‥。良かった」
「はい。無事なのです」
 言いながら、彼女はエルディンの傍に立っている女性を見る。先ほどはそこまで接近していなかったが、何時の間にか霜夜のほうがエルディンから離れた位置に立っていた。
「せ〜んせは、聖夜に必要な方です! 返してもらいますよ?」
「貴女は‥‥それ、誰から貰ったのかしら?」
 魔女は、霜夜が持っている時計を指差す。
「知らない人からです!」
「霜夜君! 知らない人から物を貰ってはいけないとあれほど教えたでしょう!?」
「貰ったんじゃないのです。預かったら持ってた人が居なくなったのです」
「同じ事ですよ! どんな危険物を押し付けたか分かりません。ちょっと私に渡しなさい」
「ダメです、先生」
 霜夜はぱかっと懐中時計を開き、時計を二人のほうへ向けた。
「この時計を動かす事が嫌なら、せんせ〜を返して貰います!」
「印籠のような使い方をするのね‥‥」
 魔女は笑いながら、ゆっくりと霜夜へと近付く。
「遊園地に魔女さんが出る理由、教えて下さい」
「‥‥私? 私はここの主よ。ここは私の家‥‥。私が居るのは当たり前でしょう?」
「何故遊園地が家なのです?」
「貴女の家はどんな家なのかしら。貴女の家を他の世界の人が見たら、不思議に思わないのかしら?」
「思うかもしれないです。でも、どうして『家』の中でサンタさんに意地悪をするのです?」
「広い家には使用人が必要だもの」
「では質問を変えます。貴女は‥‥この時計を持っていた人と、同じ人、ですよね?」
「いいえ?」
「でも同じ香水の匂いがするのです」
 霜夜の話に、魔女は声を上げて笑った。
「それはね‥‥。あの男が、私と同じ種類の生物だからよ」
「どんな生物なのです?」
「そうね‥‥。この家を取り合って争っているような‥‥そういう生物?」
「つまり、今貴女はこの家の主だけれど、この時計の持ち主はそれを奪おうとしている、って事ですね」
「貴女はどちらの味方になってくれるのかしら」
「どちらの味方でもないです。せ〜んせを返してもらいます!」
「彼ならすぐそこに‥‥」
「返して下さい!」
 霜夜の手が、時計の針に触れる。同時に、魔女の傍に居たエルディンの体が揺らいだ。
「仕方ないわね‥‥。それを使おうとした子は、貴女が初めてよ」
 魔女が持っていた杖を振る。すると、魔女の傍に居たエルディンがその場に座り込んだ。
「せんせーっ」
 駆け寄ると、師は苦笑する。
「よく、あの偽者を間違えませんでしたね‥‥。私の分身のようにそっくりだと思ったのですが」
「せ〜んせは、もっとおしゃべりですから。それに理由を説明する事無く、誰かが持ってる物を欲しいと言ったりしません」
「そうですか。霜夜君は本当に良い子ですね」
 その頭を撫でながら、エルディンは立ち上がった。
「さて‥‥。では、解答編に移りましょうか」

●結
「せ〜んせが、魔女さんをミサに誘うとは思ってなかったです‥‥」
「そんなにしょんぼりしないで下さい。断られてしまったのだから、どちらにせよ同じ事ですよ」
 きらきらと輝く園内を抜け、二人はそこを後にしようとしていた。
 花火が空を彩る中に、もう、あの赤い光は見えない。
「ところで、霜夜君に時計をプレゼントした男‥‥。そちらと直接会えなかったのは残念でした。恐らくデビルの中のデビルに違いないと思っているのですが」
「お祓いしたら成仏するでしょうか?」
「デビルは成仏しませんよ。そもそも本体は地獄に‥‥」
 言いながら、ふとエルディンは門へと振り返った。同じように見上げた霜夜に気付き、エルディンは微笑む。
「そう言えば、私を助けてくれたお礼を言っていませんでしたね。有難うございました」
「えへ‥‥助ける事が出来て、ほっとしたのです。今度はやっぱり二人で捜索しましょうね?」
「そうですね」
 師弟は穏やかに話しながら、ゆっくり園を去っていく。

 その後方を、淡い色をした光がゆらゆらと通り過ぎ、弧を描くように空へと昇っていった。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
   ia0979/秋霜夜/女/13/泰拳士
ec0290/エルディン・アトワイト/男/32/神聖騎士


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛
二度目のご発注を頂きありがとうございました。遅れて申し訳ございません。
今回は、お師匠様のほうと別行動と言う事で、別々に書かせて頂きました。こちらが表、お師匠様側が裏となっております。お師匠様側は解決編となっておりますので、こちらから読んで頂きますと幸いです。少し内容が走っていますが‥‥。さりげなく霜夜様のほうは仮装をさせて頂きました。可愛い仮装というものが思い浮かびませず‥‥。
それでは、又、機会がございましたら、宜しくお願い致します。
WS・クリスマスドリームノベル -
呉羽 クリエイターズルームへ
舵天照 -DTS-
2010年01月08日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.