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『生まれ変わる朝 』
海原・みなも1252)&(登場しない)


 ‥‥‥‥海原 みなもは、自分を“不幸”だと思ったことはなかった。
 人魚だとばれそうになっても、友人知人に仕事を押しつけられても、道端でトラブルに巻き込まれても、その程度ではビクともしない。一時的に驚いたり疲れたりはするが、それぐらいでは不幸だとは言えないだろう。本当の不幸とは、自分自身の力ではどうすることも出来ない、のっぴきならない状況に晒されて初めて言えるのではないだろうか。

(はぁ、さすがに疲れましたけど‥‥‥‥)

 休憩室のソファーに腰掛け、疲れ切った体を解しながらみなもは溜息をつく。
 みなもは、自分を不幸だとは思っていなかった。
 しかし偶に、自分を“不運”なのではないかと思う時がある。
 何と言うか、自分のミスでではなく、他者の策謀に振り回されて厄介事の渦中に身を晒すことがあまりに多く、故意か偶然かは知らないが、常識的には考えられないような事態に巻き込まれることが日常だとさえ言えた。
 ‥‥‥‥だが日常的だと言っても、限度というものがある。

(何でこうなったんでしたっけ?)

 みなもは、自分の置かれている状況を思い起こしながら、体を包んでいる全身タイツを指でなぞった。
 動物園で新しいアルバイトを始めたみなもは、今年の干支である虎を模した格好で接客をすることになった。
 それ自体は何ら珍しいことではない。お正月と言うこともあり、どの商店も多くの客を呼び込もうと必死になってキャンペーンを行っている。大々的に虎の着ぐるみやマスコットキャラクターを使って歌って踊っての大騒ぎだ。
 そんな中で、動物園で虎を模した格好をしていたとしても何ら不思議ではなかった。
 みなもとしても、トラブルさえなければ不満はなかったのだ。たとえ虎柄の全身タイツに身を包み、虎耳、尻尾、手足に肉球付きのミトンとブーツを履き、顔にまで虎柄の化粧が施されてしまったとしても、不満を覚えるようなことはない。これまでの仕事を思えば、むしろ可愛らしいぐらいだ。
 ‥‥‥‥そんな、経験豊富なみなもを戸惑わせ、不満を覚えさせて溜息すらつかせるトラブル。
 全身タイツが接着剤によって体に張り付き、脱ぐことが出来なくなるなどと言う常識では考えられない奇跡的なトラブルに見舞われたみなもは、定期的に溜息をつきながら肌に食い付いているタイツを撫でる。

「海原さん。この度は、本当に申し訳ありませんでした」
「いえ、もういいんですよ」

 雇い主である動物園の園長が、みなもに頭を下げて謝罪する。
 その園長の片手には、みなもの体に接着剤を塗りつけた張本人の頭があった。「うぉぉぉ‥‥」と呻く飼育員は、後頭部を押さえ付けられ、深々と床に向けて頭を下げさせられている。その様は悪戯っ子の娘に無理矢理謝罪させる父親のように見え、みなもは恐縮しながらも微笑ましいものを感じていた。

「ほら、皆さんも見てますから」
「ですが、こいつが変なことをしなければ、海原さんに苦しい思いをさせずに済んだのですから」

 園長は苦々しげに飼育員を押さえ付け、眉を寄せている。
 現在、みなもは数人のスタッフ達と一緒に動物園の休憩室にいた。
 接着剤付きの全身タイツと子供達の襲撃に疲労困憊の体だったみなもは、この休憩室で夜を明かすこととなっている。虎柄の全身タイツは、子供達に破かれてしまっているため、その修繕作業を今夜の内に済ませてしまうつもりらしい。裁縫を得意としている女性スタッフ数人が背後で準備を進め、園長の怒鳴り声を聞き流しながら、何やら大仰な布や柔らかそうな毛皮を用意していた。

「みなもさん。これをどうぞ」
「ああ、ありがとうございます」

 と、準備をしていたスタッフの一人が、みなもに温かいココアの入ったカップを差し出してくる。それを受け取り、一口啜る。冷え切っていた体が芯から温められ、甘い香りが口内に広がっていった。
 みなもが寒風吹き荒ぶ極寒地獄に晒されていたことを気に掛けてくれたのか、動物園のスタッフは事あるごとにみなもを気遣ってくれる。それは同僚のしでかしたトラブルに巻き込まれてしまったみなもへの負い目なのだろう。その気遣いはありがたいのだが、元々“気遣う側”に立つことが多いみなもは、ただただ恐縮するばかりであった。

「本当にもう大丈夫ですから、頭を上げて下さい」
「ほら、園長。海原さんもこう言ってるし、もういいじゃないですか」
「お前が! そんな態度だから頭を下げさせてるんだ!」
「むきゃー!」

 反省の色を未だに見せない飼育員の頭を、園長は力任せに床に押しつける。
 そんな飼育員に当初は憤りを感じていたみなもだったが、園長と飼育員の遣り取りを見ている間にそれも収まり、飼育員を怒鳴りつけている園長を宥めにかかった。

「まぁまぁ、それぐらいにしてあげて下さい」
「むぅ、海原さんがそう言うのであればいいのですが‥‥‥‥こいつは毎回毎回トラブルを巻き起こしているもので」

 こんなトラブルを何回も繰り返しているのか‥‥‥‥
 みなもがトラブルに巻き込まれる才能を持ち合わせているのだとすれば、この飼育員はトラブルを巻き起こす才能を持ち合わせているのだろう。どちらも喜べるようなものではないが、飼育員はさほど気にしていないようだった。

「とにかく、今夜はゆっくりと休んでいて下さい。あ、シャワーとかは‥‥」

 全身タイツは、お湯を浴びせたところで脱ぐことは叶わない。
 当然ながら、シャワーを浴びることなど出来るわけもない。つい数時間前までは寒さに凍えて地獄を味わっていたみなもだったが、汗を掻かない冬場であることに、この時ばかりは感謝した。

「汗もかいていませんし、これを脱ぐまでは我慢します」
「ええ? 臭くなりませんか? トイレにだって行けませんし」
「っ!」
「もうお前は黙ってろ! 海原さんはな、お前の所為でそんなことになってるんだぞ」

 ポカンと飼育員の頭を叩く園長。
みなもは、体内に潜んでいる魔法生物を働かせながら、ドキドキと鼓動を高鳴らせていた。
 ‥‥‥‥園長も飼育員も知る由もないことだが、全身タイツに体を包まれている現状でも、みなもの体は清潔であり健康その物である。
 本来なら皮膚呼吸が出来ないと言うだけでも辛い筈なのだが、みなもの体内で飼われているスライム状の魔法生物が体内の排泄物や老廃物を分解し、疲労に喘ぐ肉体を修復し、体にまとわりつく汗の不快感を取り除いて綺麗に磨いている。
 魔法生物のお陰で、健康を損なうことはないだろう。
 しかし問題があるとすれば、スタッフ達に、その魔法生物のことを気付かれないようにしなければならない点だ。魔法生物のお陰でトイレにも行かずに体を維持出来るのだから、他の人間からしてみれば不自然に見えるだろう。
 飼育員はその不自然さに気付いているのか‥‥‥‥いや、恐らくは何かに気付いての発言ではないのだろうが、突っ込まれれば痛いところを突かれていた。
 園長のお陰で話題が逸れたが、秘密がばれそうになったという危機感でみなもの心臓は跳ね上がり、内心では焦燥と安堵にホッと溜息をつくばかりである。

「海原さん。修繕の準備が出来ましたよ」
「ああ、分かりました。あの、私に手伝えることがあったら‥‥‥‥」

 みなもは振り返り、スタッフ達に手伝えることがあるかを訊こうとする。
 しかし、それも数秒と持たずに停止した。

「あの、材料が多くないですか?」

 スタッフ達は、各々の手に修繕のための道具を持っている。
 黄色と黒の糸に、細い縫い針。ハサミにメジャー、短い毛が生え揃っている綺麗なフェイクファーに、縫いぐるみにでも入っていそうなフカフカの綿が山盛りで用意されている。
 ‥‥‥‥子供に破かれた箇所は、背中に近い脇腹である。
 タイツは薄い布で、どこにも毛皮らしい部分はない。
 毛皮も綿も、使う箇所などないはずなのだが‥‥‥‥

「うん。ちょっと“上”からの指示で、その衣装に手を加えることになったのよ。外は寒いし、このままだと海原さんが風邪を引いちゃうんじゃない勝手思ったらしいわ。別にお客の受けが良いからとか、そう言う理由じゃないから」

 ニッコリと微笑む女性スタッフ。
 つまりは、思ったよりも反響があったためにより力を入れて衣装を整える気になったらしい。

「修繕ではなく改造と言うことですか‥‥‥‥暖かくなるなら、それでも良いですけど」

 明日も極寒地獄の中に投げ出されるのだろうと覚悟していたため、この申し出は願ってもないことだった。
 少々‥‥手をワキワキと動かしながら迫ってくる女性スタッフに不安を覚えはしたが、毛皮の誘惑を退けられるような物でもない。体を盛大に震わせる寒風を避けられるのならば、藁にも縋りたかったのだ。

「それでは、作業を始めますけど‥‥あの、海原さん? 眠たいのでしたら、寝ていても良いんですよ」
「ふぇ?」

 スタッフに言われ、みなもはしょぼしょぼと動いていた目を瞬かせる。
 昼間、お客の相手に追われて走り回っていたために、みなもの体力は限界を向かえていた。
 加えて、トラブルに次ぐトラブルに見舞われたため精神的にも消耗しており、気付かぬうちに疲労が外に出ていたのだ。

「それほど眠くも‥‥ないですよ」

 スタッフに指摘されることで眠気を自覚したみなもは、微笑みながら僅かに頭を揺らしていた。
 眠い。まだ宵の口と言えるような時間だが、度重なる疲労に呼び起こされた眠気が重くのし掛かる。むしろ、それほどまでの眠気を指摘されるまで自覚しなかったことこそが疲れ果てている証拠だろう。
 女性スタッフ達は顔を見合わせ、互いに頷き合うと、黙ってみなもをソファーの上に座らせた。

「横になっていて下さい。出来るだけ起こさないようにしますから」
「いえ、ですから‥‥‥‥」
「あまり遠慮しないで下さい。海原さんには、明日も大変な目に――――大事な仕事があるんですから」

 ニッコリと微笑んでいる女性スタッフに、みなもは何も言えなくなる。
 少々気になる台詞だったが、本当にみなもを心配しているのだと言うことが、女性スタッフの表情からも伺える。やはり同僚の不始末でみなもに被害が出ていることを気に掛けているのだろうか。だとしたら、素直に受け取っておいた方が良いだろう。それは自分のためでもあり、相手のためにもなる。

(‥‥‥‥あまり遠慮していても、失礼ですしね)

 みなもを襲う睡魔は本物だ。抵抗しようにも頭は揺れ始め、軽く頭痛すら覚え始めている。
 無理に手伝おうとしても、これでは邪魔になるだけだろう。いっそ、ジッと眠っている方が、スタッフのためにもなるのかも知れない。

「ううん‥‥‥‥それでは、お言葉に甘えて」

 ゆっくりと体をソファーの上に倒し、目蓋を閉じる。
 そうすると、自然に頭に留まっていた睡魔が全身に広がり、抵抗する力を奪っていく。冬に着るには、薄すぎるタイツのみと言う格好だというのに、震えることもなく睡魔に身を任せて心地の良い世界へと、意識が傾き、外界の音が遠ざかっていく。

「先輩もなかなかやりますね。善意で差し出したと見せ掛けて、ココアに睡眠薬なんて――――」
「しっ! まだ眠ってないわよ!」

 ‥‥‥‥‥‥‥‥耳に届く、外界の遠い声。
 しかし、もはや重い目蓋をこじ開けるような力さえも、みなもには残されていなかった‥‥‥‥


●●●●●


 翌日の朝‥‥‥‥

「ん‥‥‥‥ふはぅぁ」

 ソファーの上で夜を明かしたみなもは、一切の肌寒さを感じることなく目を覚ました。
 ググッと力を籠めるように体を丸め、ソファーの上で小さく欠伸をする。昨日の疲労によるものか、眠気は未だに脳裏に残り、その存在を主張している。
 顔に触れる微かな冷気。それは窓を通して侵入した小さな冷気だったが、それを押し退けるように伸ばされた腕に霧散してしまい、軽くみなもの鼻先を撫でるだけでその役目を終えてしまった。
 フサッ‥‥
 鼻先に触れる柔らかい感触。それは、どこかで抱いた子猫の感触によく似ていた。
いつまでも撫で付けていたい毛皮は、押せば心地良い弾力を持って応えてくる。ふにゃりふにゃりと変形し、顔を埋めるとうっすらと暖かい。
 それが自分の腕なのだと気付くと、みなもは腕を頭の下にまで移動させ、枕代わりにしながら再び夢の中に――――

「二度寝厳禁!」
「にゃっ!」

 ごかんっ!
 みなもの頭に、重い痛みが走る。
 頭を殴り付けられたのだと気が付いたのは、目の前に仁王立ちする飼育員を目にしてからだった。
 頭からは眠気が吹き飛び、目には欠伸によるものではない涙で満たされている。
 目の前の飼育員は、接着剤騒ぎの張本人の飼育員だ。自分の所為でみなもがトラブルに見舞われているというのに、振り下ろされた拳には一切の遠慮も躊躇も見られない。

「うぐぅ‥‥な、何が?」
「何がじゃありませんよ。二度寝なんて許しません」

 母親のように告げる飼育員は、赤く染まっている手をさすりながら、みなもを見下ろしている。

「あ‥‥‥‥すいません。今、何時ですか?」

ソファーから身を起こす。
飼育員は、既に作業服に着替えている。テーブルの上から漂ってくる紅茶の香りは、みなもの朝食なのだろうか。窓から差し込む光は力強く、太陽が順調に昇っていることを示している。

「朝の九時です。開演まで、あと一時間ほどになりましたが‥‥‥‥どうします? もう一度眠りますか?」
「いいえ。すいません。こんなに長く眠っちゃって‥‥‥‥」
「良いんですよ。私達も、楽しみすぎて起きるのが遅れましたから」

 笑みを浮かべる飼育員が、何故か悪魔のように見える。
 キョトンと目を瞬かせるみなもだったが、すぐに自分の身体の異変に気付き、唖然とした。
 昨日から着込んでいた全身タイツが、今では立派な毛皮に変貌し、みなもの体を余すところなく包んでいる。これまでのタイツは虎柄だっただけだったのだが、今では見事に毛並みが揃い、撫で付けるとミトンの肉球越しにも柔らかい感触が伝わってくる。
 フェイクファーにしてはよほど上等な物が用意されていたのだろう。先程頭の下に腕を回して枕代わりにしてしまったが、それだけ触れていて心地が良い。とても全身タイツの上にフェイクファーを貼り付けて作られているとは思えない出来映えで、修繕されたタイツの穴も、跡の一片すら残していない。

「ほら、みんなで頑張って可愛く仕立てたんですよ」

 そう言って、飼育員は大きな姿見の前へとみなもを誘導する。
 鏡の中には、完璧に虎になりきったみなもがいた。毛並みは綺麗に生え揃っていて、触り心地はみなも自身が保証出来る。みなもの全身を毛で覆うためには何枚ものファーを繋ぎ合わさなければならなかったはずだが、その痕跡などどこにも見当たらず、黄色と黒の模様も綺麗に広がり違和感がない。
 これまで垂れ下がるばかりだった尻尾は、どのような改造を施したのか、みなもの意思を通じて柔軟にしなりウネウネと動いている。本来は無いはずの部分があり、自由に動かせるという感覚は実に不思議で、みなもはお尻を振り返りながら、尻尾をウネウネと動かし続けている。

「なるほど。虎ですね」
「虎なんですよ」
「あの、少しだけ恥ずかしいんですけど」

 全身を虎の毛皮に覆われながらも、みなもは恥ずかしげに身を捩らせた。
 顔以外に、みなもの肌が露出している部分はない。しかし全身にピッタリと張り付いている毛皮は、みなもの体のラインを浮き上がらせているために妖しくも艶やかな色気を醸し出している。

「恥ずかしがるようなことはないですよ。凄く可愛いですから」
「そうでしょうか?」
「そうですとも。海原さんの魅力を引き立てるようにと、先輩達が徹夜で可愛がりながら仕立てたんです。これにググッと来ない人はいませんよ」
「か、可愛がりながら?」

 みなもの背中に、ゾクッと得体の知れない悪寒が走る。

(そう言えば、さっき“私達も楽しみすぎて起きるのが遅れました”って言ってましたけど‥‥‥‥まさか)

 何を楽しんでいて、起きるのが遅れたのか。
 みなもは追求しようとして口を開き、やめた。
 この衣装を身に纏うことで動物的な勘が身に付いたのか、それを訊いたら藪から蛇を出すことになると本能が告げている。理屈などではない。たとえ目の前の飼育員が、「是非とも訊いて下さい」とばかりに手をワキワキと動かしながら待ち構えていたとしても、理屈ではなく危険だと察したのだ。

「ふふふ。そうですよ。可愛がりながら、です。具体的にどう可愛がるかというと――――」
「も、もうそろそろ仕事の時間ですよ。ほら、早く行きましょう。私も、朝食を食べたらすぐに外に出ますから」

 昨日までは魔法生物のことで悩んでいたが、今は飼育員達のことに気を配っていた方が良さそうだ。
 隙を見せたら、色んな意味で食べられてしまいそうな‥‥‥‥そんな気がする。虎が人間に食べられてしまうなど、笑い話にもならない。

「むぅ、そうですね。残念ですけど‥‥昨日よりも忙しくなりそうですし、急いだ方が良いかも知れませんね」
「そうですよ。昨日よりも‥‥‥‥忙しくなるんですか?」
「ええ。だって、こんなに可愛らしい虎さんがいるんですから、みんなが集まって来るに決まっています」

 飼育員は「ねっ♪」とウインクを残し、休憩室から出て行った。
 みなもは姿見の前に立ちながら、昨日の悪夢を思い起こす。

(昨日は‥‥‥‥寒かったからですよね)

 毛皮に包まれた今、極寒地獄からは解放されているはずだ。
 しかし、あの子供達に追いかけ回され、抱き付かれ続けた悪夢が再び展開されるのかと思うと‥‥‥‥少しだけ憂鬱になる。

(おっと、これではいけませんね)

 仕事が始まる前から弱気になっていては、乗り越えられる物も乗り越えられなくなる。
 問題は依然として山積みだ。魔法生物のことを隠しながらお客の相手をし、出来れば飼育員達に背後を取られないように気をつけよう。寒風に見舞われても大丈夫なように防備を固めた今なら、乗り越えることも出来るはずだ。

「が、がおーー!」

 内に秘めた不安を振り払うように、みなもは姿見に映った自分に向かって吼え猛る。
 気合いは十分。これなら山積みの問題も、乗り切ることは出来るはずだ。

(ゴールは明日‥‥‥‥今日さえ乗りきられれば良いんです)

 みなもは手早く朝食を食べると、胸を張って園内へと繰り出した。
 動物達の檻の前を通り、開園の音楽を聴き、入場してきたお客を前に極上の笑顔を作り――――

「いらっしゃいませ。皆さん、楽しんでいって下さいね♪」
「虎だ! 虎のお姉さんだ!」
「もふもふだぞ!」
「うわー! かわいい♪」

 声を掛けると同時に、駆け寄り抱き付いてくる子供達。
 昨日の噂が広がっているのか、それとも門の外で元気よく呼び込みを行っている飼育員の熱意が伝わっているのか、開園したばかりだというのに、その人数はあまりにも多く――――

「が‥‥‥‥がおーーーーーーー!!!!」

 咆吼とも悲鳴ともつかないみなもの声は、動物園の外まで響いていた‥‥‥‥



Fin




●●虎は可愛いですよね●●

 虎の赤ちゃんを抱いてみたい。テレビで見るたびにそう思うメビオス零です。
 もはや動物園の動物達を見るためではなく、みなもさんで遊ぶために訪れるお客達。飼育員達も悪乗りしているのか、それとも元から腹黒いのか‥‥‥‥まともな人が全然いない。
 でも‥‥仕方ないじゃない。虎なんだもん。毛皮に包まれていて触り心地が良くて、更に無防備と来れば可愛がりたくなるのが人間というものでしょう。本物なんて触るだけでも命懸けなんですから。

 さて、今回のシナリオはいかがでしたでしょうか?
 時間的にはあまり進んでいませんね。一日目の夕方から二日目の朝までの出来事です。しかも、みなもさんが終始スタッフ達に虐められたりしているだけ‥‥‥‥もう少し会話だけで盛り上げる必要がありますね。色々考えておかないと‥‥‥‥
 またご感想、ご指摘、ご叱責などがございましたら、遠慮容赦なくお送り下さいませ。毎回毎回、読ませて頂いております。もっとご満足頂けるように努力していきますので、どうか、これからもよろしくお願いいたします。
 それでは‥‥‥‥改めまして、今回のご依頼、誠にありがとうございました(・_・)(._.)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
メビオス零 クリエイターズルームへ
東京怪談
2010年01月14日

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