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『 聖夜に贈るサンタクロースの秘密 』
来生 十四郎(ea5386)

 とある郊外の白い雑貨屋で、《聖夜の贈り物》はひっそりと形作られていく。
 店内では、夜も更けたというのに、コンコンと規則正しい物音が絶えず響く。その雑貨屋の女主人――アンジェリカ・ランカスターが注文されたその品物を作っている。
 「…これでいいかしらね?」
 何回も金属製のナイフで削られ、鑢(やすり)にかけられたその人だけにしか存在しえない唯一無二の品物が果たしてできあがった。彼女の掌(てのひら)の中妖しく光っている。
 彼女が作る――あるいは売っている――品物(アイテム)は一見何の変哲もないアクセサリーやインテリアである。しかし、彼女の持つ不思議な能力が吹き込まれているためか何らかの作用――良き効果と悪い効果それぞれ現れる――が知らずに刻み込まれている。それ故、彼女の店をよく知る常連の者は、《不思議な品物(アイテム)》と呼んで愛されているのだ。

 アンジェリカは何度も瞬きをしてその品物を見つめ終わると、白い袋に入れ、リボンで結び始めた。
 「あとは、あの方の出番ですわ」
 そう呟いて店の扉を開けた。

*――*―*――*

――コトコト……。
 山奥の庵(いおり)で、漆黒の暗闇を包むような白い湯気がそこにはあった。
 玄関の御簾(みす)をくぐってみれば、そこで見目麗しい修行僧の青年が美味しそうな匂いを醸(かも)し出しながら調理していた。鍋の中に畑でとれた色とりどりの野菜がお湯に揺られている。
 その異変に、気分よく鼻歌を口ずさんでいた青年――篠崎駿一は敏感に反応し、そちらへ視線を向けた。

 「…おや?」
 来客の主が誰だかわかると言葉を続けた。
 「……どうぞ、お入りになって下さい」
 扉が開くと、吹雪も一緒に吹きつけてゆく。それは駿一の纏う衣一枚と袈裟で凌げないほどに。
 「――なにかありましたか?」
 吹雪とともに入ってきたのは、果たして銀髪の可愛らしい女性――アンジェリカで、柔らかな笑みの表情を浮かべている。
 「ええ、実はお願いがあって参りましたの」
 アンジェリカの言葉に駿一は小首を傾げた。鍋を煮込む火が静かにその中で響く。
 「お願い、ですか?」
 「はい。実はあなたにサンタクロースになってもらってある方にプレゼントを届けて頂きたいのです――」
 その言葉とともに、アンジェリカはひとつの衣装と白い小さな包みと白い手紙一通を駿一に託していく。


 はっと気がつくと、その庵にアンジェリカの姿はなかった。
 次にそれを感じた方向は玄関である引き戸だ。駿一は玄関先に置かれたひとつの小箱を見遣る。その小箱のそばにはひとつの衣装箱と、白い手紙――雑貨屋の女主人の象徴であるユニコーンの封蝋(ふうろう)――がついている。
 駿一が手紙の封蝋を破り、入っていた白い便箋の内容を眺める。そしてゆっくりと頷く。
 「これを、こちらの住所の方に届ければよいのですね」
 急いで彼は、赤と白のその服を身に着ける。それからすぐに彼は右手に力を込める――異界への移動の印を結ぶ。

 駿一の姿は、次の瞬間には消えていた。


 *――*――*――*――*――*


 来生十四郎は真鉄の煙管(きせる)を肩にかけ自宅に向かっていた。

 自宅に戻ると窓の縁(ふち)に小さな包みがおいてあることに気づく。よく見れば、その包みの先端にピンク色のリボンで可愛く結んでおり正方形のメッセージカードに「メリークリスマス!」と流麗な字面で綴られている。
 「そういやあ、指輪お願いしてったけなぁ」
 十四郎は先日、《雑貨屋サティーシュのクリスマス通販サービス》に申し込んだことを思い出す。
 その雑貨屋の通販サービスとは、いくばくかのお金を支払えば欲しいアイテムを不思議な力で作ってくれるという――本当は直に会った人しかアイテムを作らない女主人なのだが、聖夜限定のクリスマスサービスとしてはじめたというものだ。


 包みに残る微かな人の温かさがまだ送ってまもないことを感じて、十四郎はきょろきょろと窓の外をガラス越しから眺める。…が、しかしだれもいなかった。身に凍みる冷たい冬の風がごうごうと鳴るだけだ。十四郎はやれやれと肩をすくめる。
 「…もう行っちまったのかな。まぁいいや」
 十四郎は気分を変えて、小さな包みを開ける。
 はたしてそこにはご希望の品である指輪――銀色の輪に青っぽい小さな宝石がお飾り程度におさまったもの――が入っていた。男性がつけても違和感のないデザインだ。さっそく十四郎は指にその指輪をはめた。
 「ふぅむ、なかなか洒落(しゃれ)てるなぁ」
 しかし問題はそれからだった。
 はずそうとしても自らの手では、はずすことができなかったのだ。
 「な…っ! かてぇなコレ!」


 その指輪は一度はめると嫌いな食べ物を口にするまではずすことはできなかった。
 そして、その指輪をはめたままお酒を口に含めば――
 「いってぇ―!」
 指輪がそのはめた指の骨を折るように締めつけたのだ。そしてそのまま締めつける――。

 「…へえ、こりゃあたまげたなあ」

 指にぴったりとはまっている不思議な指輪をみて、十四郎はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。
 指輪にくくりつけられている説明が書かれた小さな紙を無造作に広げて、適当に目を通す。
 「オレの嫌いなものを口に含めば、取れるってワケね。」
十四郎はひとり呟くに言葉をぶっきらぼうに放つ。
 「しかし、よくできてるなァ…」



 窓の外に目を向ければ、いつのまにか指輪を運んできたサンタクロース姿の駿一がそこに立っていた。
 十四郎は、その人に気づいて窓をガララっと荒っぽく開ける。
 「サンタさん、まだいたのかい? っていうか寒くないのかい…今日は冷えるらしいぜ」

 駿一はしかし、その年齢に似つかしくない笑みを浮かべてそこにいたが、どうやら気づかれたらしく声が聞こえる程度に窓の近くまで寄っていく。
 「いえいえ…このくらいの寒さは修行のうちですよ…おやおや、もうはめてらっしゃるのですねえ。いかがですか?」
 駿一は十四郎の指にはめている指輪に目を留める。
 「いい仕事してるよ、サンタの旦那」
 十四郎は指輪をはめた手をヒラヒラさせながら笑って答える。その言葉に駿一はしかし、頭(かぶり)を振る。
 「残念ながら。その指輪を作ったのは別のお方ですが。そのように言伝させて頂きますね」

 おやそうなんだ、悪りぃなと片手を垂直に立てて、十四郎は謝る仕草をみせる。それからすぐ隣の棚に近寄って細長い包みを取って懐にしまうと、また戻ってくる。
 「おっと、そうだ。あんたにこれをやるよ。これのお礼だ。」
 十四郎はそう言って懐からごそごそと、大きな細長い包みを窓越しから駿一に手渡す。
 駿一はそれを受け取り、きつめの匂いに思わず一瞬だけ顔を顰(しか)める。
 「これは…なかなかの銘柄ですねぇ」
 駿一はそれがお酒だとわかった。しかもこの匂いと色といい……上等な品だと気づいて感嘆の声をあげる。十四郎は、「ああ」と上機嫌で笑いながら親指をくいっと上に向ける。
 「とっておきだ。ここぞというときに飲んでくれるとありがてぇな」

 駿一は苦笑を浮かべた。
 「私は僧籍に身を置いた者ゆえ、これはあのお方に渡しておきますね」
 言葉だけでもありがたく頂いていきます、と駿一は包みを手元に受け取ってから合掌する。
 「へぇ、あんた僧侶か。たしかに女っ気は感じないはずだぜ」

 十四郎は茶目っ気たっぷりに笑う。つられて駿一も愛想笑いを浮かべた。数刻後に駿一はそれでは、と他愛もない会話を二つ三つ花咲かせてから挨拶をして、もとの場所へと踵(きびす)を返していく。

 彼の後ろ姿をしばらく見送っていた十四郎だったが、簡単な挨拶を小さく呟いてから窓を閉める。

 聖夜に訪れたサンタクロースは、その夜遅くこんこんと降り積もる雪の中静かに帰っていく。


 「…ほんと、とってもおいしいお酒ですわね」
 その夜遅く遠き雑貨屋では、銀髪の優しげな風貌の女主人がもらいもののお酒を入れたグラス片手にくすくすと笑っている。
 聖夜の時間は降り積もる雪にまじってゆっくりと過ぎていく。

 ―終―



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 PC / ea5386 / 来生十四郎 / 男性 / 34歳 / 浪人 / 人間 】
【 NPC / 0736 / アンジェリカ・ランカスター / 女性 / 27歳 / 雑貨屋の女主人 / 人間 】
【 NPC / 4677 / 篠崎 駿一 / 男性 / 35歳 / 旅の僧侶 / 人間 】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 はじめまして、里乃アヤと申します。
 このたびはホワイトシーズン・聖夜に贈るサンタクロースの秘密の物語に参加して頂きありがとうございました。
 来生十四郎さんの言動・行動をデータから掘り起こさせて頂きましたが…どうでしょうか?
 一応気をつけましたが、イメージと少し違っていたらすみません。
《酒が嫌いになる指輪》をというわけでこのようになりました。
 来生十四郎さんという方はキャラ的になかなか楽しいキャラでしたので物語はすんなり進めることができました!
 また機会がありましたらよろしくお願いします。

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WS・クリスマスドリームノベル -
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2010年01月20日

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