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『彼女がくれたもの 』
大泰司 慈海(ga0173)

 起動して16時間しか存在しなから。
 だから。
 だから、彼女といたかった。


*〜*〜*


 彼女が慈海の前に現れたのは、突然の事だった。
 AKI。黒い髪をツインテールにし、やや偉そうな視線で扉を開けた慈海を見上げているこの少女である。
「ちょっと、いつまで待たせてるのですか。いきますよ」
 玄関先で拗ねた視線で早々と文句を言うと、問答無用とばかりに慈海の腕を引っ張り外へと連れ出そうとする。
「わわ、待ってね。サンダルで出かけたらこの季節だったら転んじゃうよ?」
 振りほどきもせず、ただ視界に移った外の景色をみて状況を転機させる。
 外は、雪。ホワイトクリスマスだった。


◇◆◇

 大泰司 慈海は44歳の中年である。44歳といっても、それはあくまでも推定年齢であり、彼本人は過去の消失と共に自信の事も理解はしていない。
 過去の記憶が消えたとき、慈海は家族を捨てた。何を思ったのかは知らない。ただ、捨てたということだけは、理解していた。
 それはある日のことだった。
 慈海はいつものようにパソコンをつけると、何の気なしにホームページを巡る。
 それはニュースだったり、動画だったり、何かのサイトだったり。
 ボーっとした様子で、ビールを片手に画面を見つめクリックしていく。
「もうすぐ、クリスマスか‥‥」
 仕事の時、覚醒の影響で見える黒髪の少女が脳裏にふと思い出される。
 何故だろう、彼女達がクリスマスをどう過ごすのかが気になって仕方ない。
 実際存在するかもわからないのに、気になって仕方ないのだ。
「はぁ、年かねぇ」
 普段仲間達に見せる顔とは違い、やや真剣な面持ち。
 僅かに見せたのは、何に対しての苦痛の表情だったのだろうか。

「ん?」
 何の気なしに巡るサイトは、ある一つの広告で指が止まった。
  『SECOND』
 第二人類と呼ばれる人間型有機生命体のサービス広告だった。
「‥‥クリスマスの時間、暖かなぬくもりを――か」
 今のままで行けば、きっと傭兵仲間とパーティで騒いで終るだろう。だけど‥‥。
「――あ」
 画面に映し出されたのは黒髪の女の子で。いつも脳裏に出てくる彼女達と何故か面影が被った。





「いやぁ〜。すっかり寒くなっちゃたねぇ」
 しっかりと防寒具を着込み、ぬくぬくといった感じで慈海は隣を歩くAKIを見つめる。予定通りに進んでないのか、チラチラと時計を確認しつつAKIはプチプチと文句を口にしていた。
「ごめんねぇ。ほらほら、あそこにいい物があるよ?」
 彼らが来たのはちょっと大きめのショッピングモールだ。流石にクリスマスとあり、店内は人で賑わっている。慈海が指した店のショーウィンドウにはかわいいぬいぐるみやら小物、女の子がまさしくほしがりそうなものが所狭しと並んでいるファンシーショップであった。
「〜!!」
 AKIの視線が一つの大きなぬいぐるみに釘付けになった。フリルをたっぷりとあしらったドレスに身を包んだうさぎだ。食入る様に見る彼女の行動に満足したのか、慈海はふらりとお店の中に入っていく。
「ちょ、ちょっと! 誰がそのお店に入るって言いましたか!」
 慌てた様子で制止するも、既に慈海は店の中へと入っていた。暫し呆然としてたものの、AKIも覚悟を決め店の中へと入っていったのだった。

 店内は可愛いもので溢れかえっていた。一つ一つが興味をそそり、見惚れたと思ったら次の瞬間首を振るAKIの行動に、慈海は思わず微笑んでしまう。
「どれが好きなのかなぁ?」
 ニコニコと笑顔で聞くと思わず先程のぬいぐるみの方向へと視線が動くも、
「わ、わたしはこの様なもの欲しいと言ってません!」
 等と、はぐらかす様子に、尚も笑みが深まるばかりだ。
 そのようなやり取りが暫し続いた後、店を出る時に大きな包みがAKIへと渡される。
「‥‥べ、別に欲しかったわけではありません」
 プイっと横を向くものの、腕の中にはしっかりと収まっていて。
 別の場所へと向う中、その袋に顔をうずめてぽつり、
「‥‥ありがとう‥‥ございます」
 か細い声が聞こえてきた。


 何がしたいだろうか、聞いても出てくる言葉は裏腹なものが多くて。それでも彼女の視線を追えば、答えは見つかる。
 買い物のあとは、映画。もちろんたっぷりのポップコーンとドリンクは忘れてはいけない。
 大きな声で笑いつつ、しんみりと涙を流し、出てくるときには互いにぽつりぽつりと感想を言い合って。その足で向ったレコード店では、映画に流れていた曲を探して、聞きあって。笑顔で、溢れていた。




「さて、ここに一枚のチケットがあるんだよね」
 日が暮れてきた頃、慈海は胸ポケットからチケットを取り出すと、にこりと笑ってAKIに振り返る。そこに書かれていたのは、クリスマスといえばこれといえるクラシックのコンサートだった。
「それが、どうかしたんですか」
 興奮しているものの、それを見せない様に取り繕う彼女にやはり笑みは浮かぶ。
「クリスマスだもの、折角だから聞かなきゃね」
 本当は、昔誰かにねだられたのを思い出して思わず購入したチケット。いつの記憶だっただろうか。コレが聞きたい、聞いてみたいといっていたのは、誰だっただろか。
 隣に居る彼女はその誰かの代わりなのかもしれない、だけれどもそれだけじゃない、そんな事を考えていた。
 チケットに書かれていたホールは大きなところで、やはり集まってくる人もいっぱいいた。親子連れやカップル、友人同士。形態はさまざまだけれども、その中でも慈海とAKIの組み合わせは少し浮いて見える。もう少し寄り添っていれば‥‥例えば腕を組むなんかしていたら親子に見えるかもしれない。だが、最初に買った荷物を抱える彼女の姿、他人行儀な話し方とでは、なかなか難しいものがあった。
「‥‥やっぱ、浮いて見えちゃうのかねぇ」
 ぽりぽりと周りの視線をうけながら慈海は呟く。その言葉にハッとなりつつも、どうすれば良いだろうと戸惑うAKI。慈海はそっと頭をなでた。
「気にしない、気にしない。オレは楽しいんだけど、AKIちゃんはどうなのかな?」
 優しい微笑で、ドキリと胸がなる。
「た、楽しくないわけないです‥‥」
 その言葉に安心しつつ、周りがどうであれ、自分達が楽しければ問題ないんだよと声をかけて。
 そんな慈海の言葉に、AKIは何かを感じ、見上げていた。




 コンサートも終わり、既に遅くなっていたこともあり空腹を感じて近くにあったレストランへと入る。この時期なのに、すんなりとは入れたのは何故だろう。不思議に感じたものの、AKIは声には出さなかった。朝から一緒に過ごし始めて、すでに10時間を越していた。ちらりと気になる時計。残された時間を、思わず頭の中で計算して弾き出してしまう。
「んー、どれがいいかな? たっぷり食べていいからね」
 目の前に出されたメニューはどれもが興味惹かれる品々で。躊躇っていると、お勧めでと言う声が聞こえた。運ばれてきたものはどれも美味しく、会話も弾む。最初より少しだけ親しみが出てきたやり取りに、慈海は嬉しそうに目を細めていた。


「‥‥水族館、行ってみたいです」
 食事が終った後、ふらりふらりと寄るとこなしに歩いていた時にAKIは言った。
 満天の星空の中、キラキラと輝くイルミネーション。今朝から降り始めた雪は、木の上で留まり、緑の中の僅かな白がとても綺麗に見える。歩いた道を少し進めばそこは夜間もやっている水族館。二人の足が向っていた。
 館内に入ると水の中をキラキラと泳ぐ魚達が迎えてくれた。
 天井まで届いている水槽の中で、元々海にいる魚達にとっては狭いのかもしれない、だが、のびのびと泳ぐ魚達がそこにはいた。
 水槽に手を付き、食い入る様に見つめるAKI。そっと後ろから見守る慈海。
 その姿は、限られた空間の中で精一杯に、そして自由にいる魚を少しだけ羨ましく思っているようで。そっと頬を伝う雫が、キラリと光を放っていた。
「‥‥」
 掬い取るように、頬をなでると、最初とは違う、優しい笑みが返って来る。
「‥‥もうすぐ、ですね」
 その言葉は涙交じりで。彼女の存在時間が、残り少ない事を明確にしているものであった。
「‥‥楽しかった、かな?」
 尋ねるというよりも、確かめるように問う慈海の言葉。その言葉に頷くAKI。
「‥‥一つだけ、お願いしてもいいかな?」
 躊躇うように出た言葉に、AKIは笑顔で頷く。もう、残りの時間は少ない。自身の運命を知っている中、彼女は精一杯の贈り物を続ける。
「――――」
 その言葉に思わず顔を見上げる。そこにあるのは、切ない微笑。そっと慈海の背中に腕を回すと、小さな声で、しっかりと言葉を発した。
「‥‥ありがとう、お父さん」
 聞きたかった言葉、それは『お父さん』。失った記憶と共に、封印した二人の娘。だけれども、こんな日は胸の中で蘇る後悔の気持ち。そっと抱き返すと、くすりと笑う声と共に、彼女の感触が‥‥消えていった。


 限りあるものだから、大事にしたい。
 だけれども、それは見えないだけで。
 常に、人は限りある中でしか生きていないことを、思い出して欲しい。
  『SECOND』
 彼らは、何を告げ、何をくれるのだろうか。
 今暫し、思い出の中に浸ることを、許して欲しい。
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年02月04日

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