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『 M.os.i2-Love 』
七海・露希8300)&七海・乃愛(8295)&(登場しない)

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 乃愛と露希が通っている学校には、学生寮がある。
 入寮に関して特に必要とする料金や条件などはないようで、生徒であれば、誰でも入寮することができるそうだ。
 普通に生活するぶんには申し分ない広さの部屋であり、かつ、家具なども一式揃っていることから、
 親元を離れて学生寮で生活している生徒も多い。一人暮らしに憧れて入寮を希望する生徒もいれば、
 一日も早く自立したいと意気込んで入寮を決意した生徒や、ただ単に実家が遠いからという理由で希望する生徒など、
 学生寮への入寮と、そこでの生活を希望する理由については、生徒によって様々。
 まぁ、乃愛と露希の場合、彼等には実家というものがないため、入学と入寮が同時に決定したわけだが、
 部屋は違えど、みんなと一緒に生活できるということから、二人が寮生活に不満を抱くことはない。
 ちなみに、乃愛と露希は、本人達の希望により、他より少し広めの部屋をもらい、二人で生活している。
 今までも、これからも、二人は、この生活を満喫していくことだろう。

 さて。今日は、日曜日。
 土日は学校がお休みで授業を受けることができないため、
 生徒達は、街へ出掛けたり、夕方までぐっすり寝たり、友達と遊びに行ったり、お休みを満喫している。
 週末だけ実家に帰ったりする生徒もいるようだが、学生寮で生活している生徒の大半は、
 それぞれ、自分の部屋で趣味に没頭したり、来週の授業の予習をしたりしていることが多い。
 露希は、朝早くに買い物に出掛けたきり、まだ帰ってきていないが、乃愛は部屋にいる。
 最近、彼女は童話に夢中だ。あらゆる世界の童話を読み耽っている。
 すっかり冷めた紅茶を見れば、どれだけ夢中になっているかが窺えるだろう。

( …… あれ。もうこんな時間ですか)

 ふと時計を見やった乃愛は、六時間経っても帰ってこない露希を心配し始めた。
 外に出掛けてしばらく帰ってこないのはいつものことだけど、外出してから一度も連絡がないなんて初めてのことだ。
 いつもは、買ったものの写真を添えたメールやら、この服、どっちの色が似合うかなぁ? などと意見を求めるモーションコールやら、
 そういった連絡が、割と定期的に入ってくるんだけど …… 今日は、メールも電話も一切ない。
 読書に夢中になるがあまり気に留めていなかったが、大丈夫だろうか。
 もしかして、どこかで事件に巻き込まれたりしているのでは。
 今更ながらと不安になった乃愛は、読んでいた本を閉じ、いそいそと上着を羽織った。
 具体的にどこに行ったのかまではわからないけれど、街のどこかにいることは確かだ。
 露希の趣向を知り得ている乃愛ならば、彼が行きそうな場所や店を予測することも容易い。
 何事もなければ良いんだけど。
 とりあえず、部屋を出る前に、こちらから一度連絡しておこう。
 ただ単に時間を忘れるくらい買い物に夢中になっているなら、余計な心配は迷惑だろうし。
 そんなことを考えながら、乃愛は、携帯電話の着信履歴をスクロールした。
 露希の名前が表示されたところで指を止め、通話ボタンを押す。
 と、そのときだ。

「お、お姉ちゃ〜ん。開けてぇ〜〜〜 …… 」

 扉の向こうから、露希の声がした。
 露希が大好きなアニメの軽快なオープニング曲の着信音も聞こえてくる。
 良かった。何事もなかったようだ。ホッとしつつ、乃愛は、パタパタと扉に向かった。

 ガチャ ――

「た、ただいまぁ〜〜〜 …… 」
「 …… おかえりなのですよ」

 扉を開けた先、露希の姿を見て乃愛は苦笑した。
 いったい何事かと目を丸くするくらいに、大量の荷物を抱えて帰ってきたのだ。
 両手、両腕におさまりきらないゆえに、床にもいくつか転がっている。
 フラフラとよろめきながら部屋の中へ入っていく露希。
 乃愛は、クスクス笑いながら床に落ちた荷物を拾い上げて扉を閉めた。

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 どうして一度も連絡してこなかったのか。
 乃愛は、露希が持ち帰ってきた荷物を見て、すぐに理解した。
 露希が持ち帰った荷物は全て、可愛らしいラッピングが施されている。
 さらに、それら全てから、甘い香りも漂ってくる。この匂いは …… チョコレートだ。
 そう、今日は、バレンタインデー。
 露希は、寮を出るやいなや、女の子に囲まれてもみくちゃにされてしまった。
 買い物に行きたいんだよ〜どいてよ〜と言っても、女の子の数は増えるばかり。
 埒が明かないと判断した露希は、全力疾走で逃亡することで、それを回避しようと試みた。
 だが、学校を出てもなお、女の子たちはキャーキャー言いながら追いかけてくる。
 そればかりか、学校を出たことで、他校の女の子たちまで一緒になって追いかけてくる始末。
 こういうときに女の子が発揮するパワーは凄まじい。普段から積極的な子のパワーはいわずもがな。
 普段はおとなしい女の子のほうが、その迫力は勝る。いつもは隠している恋心を、
 ここぞとばかりに発散してぶつけてくるのだ。まぁ、それだけ想いが強いということでもあり、
 その気持ちは有難いのだけれど …… 露希は、それらに対して "嬉しい" という感情を持ち合わせない。

「チョコは好きだし嬉しいんだけどさ〜 …… そういうのは、よくわかんないんだよね〜」

 女の子に貰ったチョコレートを適当に口へ放りながら呟く露希。
 バレンタインデーというイベント自体は知っているし、女の子の目的もわかる。
 でも "好きです、付き合ってください" という気持ちに対して、露希は応じることができない。
 露希自身 "好き" という感情を、いまだに把握しきれていない部分があるからだ。
 姉である乃愛のことは大切に思っているし、そこに大好きだという感情もあるけれど、
 それは、乃愛が、かけがえのない "姉" という存在であるからこそだ。
 恋人同士は、デートをしたり、手を繋いだり、キスをしたり、抱き合ったりする。
 乃愛とも手を繋いだり一緒に遊びに行ったりはするけれど、さすがにキスをしたり抱き合ったりはしない。
 そういうことをしたいとも思わないし、兄妹でそういうことをするのは、常識的にちょっと変だとも思っている。
 要するに、乃愛に対する気持ちは、愛情こそあれど、一般的な "恋愛" とは別物なのだ。
 こんな言い方をするとアレだが、結局、好きだと伝えてくる女の子は、みんな赤の他人。
 一緒にいることの多いクラスメイトならまだしも、何の関わりもない他校の女の子に想いを告げられても反応に困るだけ。

「全てを知った上で想いを伝えるわけではないのですよ」

 目を伏せ、淡く微笑みながら諭すように言った乃愛。
 露希は、次々とチョコレートを口に放りながら難しい顔をした。

「ん〜? どういうこと〜? ぜんっぜん、わかんない〜」
「アンだって、露希の全てを知っているわけではないのですよ」
「ええっ、そんなことないよ。だって、ロンのお姉ちゃんだもん」
「じゃあ、露希は、アンが今、何を考えているか、はっきりとわかるです?」
「ん〜〜 …… あっ、わかった! お姉ちゃんもチョコを食べたいと思ってる!」
「 …… ふふ。思ってないのですよ。はずれなのですよ」
「えぇぇぇ〜〜〜? ウソだぁ〜?」

 気心の知れた兄妹という間柄でも、お互いの全てを知り尽くすには至らない。
 露希の言うとおり、確かに、好きだと伝えてきた女の子たちは、赤の他人。でも、他人だからこそ、想いを伝える。
 好きですっていう気持ちを表現することは "あなたのことをもっと知りたい" という気持ちを表現するのと同じこと。
 わからないからこそ、知りたいと思う。この人のことを、もっと知りたいという欲が出てくる。
 ちょっと病的なくらい "知りたがり屋さん" になってしまう症状。いつだって恋の始まりは、そういう感じ。
 すぐに理解しろだなんて言わないけれど、いつまでも "わかんない" とは言っていられない。
 いつか露希にも、もっと知りたい・仲良くなりたいと思う女の子が現れるはず。
 その時 "わかんない" って逃げちゃって後から後悔しないように、
 好きだって伝えてくれる女の子の気持ちを理解してあげることを心掛けるべきだと思う。
 全ての想いに応じろって言ってるわけじゃなくて、女の子の気持ちに "ありがとう" っていう感謝の気持ちを持てってこと。
 人を好きになる、誰かに好かれるってことは、とっても幸せなことなんだから。
 好きになってくれて、ありがとう。
 そういう風に言われれば、例え恋が実らなくても …… 女の子は、幸せな気持ちになるはずだよ。
 露希のことを好きになって良かった、好きになった人が露希で良かったって。そう思うはずだよ。

「 …… お姉ちゃん?」

 諭すように長々と呟いた姉の横顔に、露希は異変を感じ取った。
 気のせいなんかじゃない。姉に起きた異変を察知できないはずもない。
 呟く姉の横顔から、溢れんばかりの優しさ。
 それは、恋愛に疎い弟を案じる姉の優しさとは少し違うものだった。
 何というか …… そう、まるで、自分自身に対して呟いているかのような …… そういう感じがした。
 首を傾げる露希にハッとし、乃愛は咄嗟に目を逸らす。そして、そのまま時計を見やり、

「あっ。そろそろ、アンも出掛けるのです」

 そう言って、お気に入りの帽子をキュッと被り、身支度を始めた。
 露希を探しに行こうとしていたから、既に外出する支度は整っていたのにも関わらず、
 どうして、別のコートを羽織ったのだろう。しかもそのコートは、乃愛が一番気に入っているものでは?
 いつもは、汚れちゃ嫌だからって言って、なかなか着ようとしないのに。

( …… あっ)

 そこまで考えたところで、露希は、とある可能性を見出す。
 恋愛について教えてくれたときの、あの優しい横顔、慌ててパッと目を逸らしたこと。
 疑問を覚えさせられたそれらも、見出した可能性に結びつければ、あぁ、なるほど! って納得に至る。
 つまり、あれだ。要するに、乃愛には …… 想いを寄せる "好きな人" がいるのではないかと。
 露希が見出した可能性は、そんな感じの予測だった。

「ねぇ、お姉ちゃん」
「何です?」
「お姉ちゃんは? 誰かにチョコあげるの?」

 部屋を出ようと、乃愛が扉に手をかけた瞬間、露希は、その背中に質問を飛ばした。
 何となくわかっているくせに聞く。その行為は、ちょっとしたイタズラ心によるものだ。
 ニコニコ笑いながらチョコレートを頬張る露希。乃愛は、振り返らないまま小さな声で返した。

「 …… 内緒なのですよ」

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 内緒って。それ、ちっとも上手くないよ。はぐらかせてないよ。
 っていうか、寧ろ 「うん」 って言ってるようなものじゃん。
 クスクス笑いつつ、窓の外を見下ろす露希。
 露希が見下ろす先には、お気に入りのコートに身を包み、キョロキョロと辺りの様子を窺いながら歩く乃愛の姿がある。
 ぷぷぷ。キョロキョロしすぎ。何をそんなに警戒しているんだか。そんな風に近付いたら、相手の男の子びっくりしちゃうよ。
 一人、部屋でケラケラ笑いながら、露希は、そのまま自分のベッドにポテンと寝転んだ。
 全てを知ってるわけじゃない。乃愛が言ったとおり。露希は、知らなかった。
 まさか、乃愛に好きな人がいるだなんて。まぁ、普段、そういう話をしないからってのもあるだろうけれど、
 それにしても、ちょっと驚いた。何に驚いたかって、乃愛が照れくさそうにする、その仕草に驚いた。
 こんな言い方するとちょっと失礼かもしれないけれど、さっきの乃愛は "女の子" そのものだった。
 いやまぁ、見たことないその仕草を可愛いなとも思ったわけだけれど。

 大好きな姉が遠くへ行ってしまったような寂しい感じがないとは言い切れないけれど、
 実際、あんなにも可愛らしい乃愛の姿を目の当たりにしてしまうと、こっちがニヤけてしまう。
 誰に想いを寄せているのかまではわからないけれど、あの姿を見る限り、純粋に想いを寄せていることは明らか。
 いったい、どこの誰だろう。お姉ちゃんに想われている幸せな奴ってのは、どこの誰だろう。
 ベッドの上で足をパタパタさせながら考える露希は、そんなことを考えながら笑う。
 まぁ、いつもどおり無邪気で可愛らしいその笑顔の裏で、

(悲しませたりしたら、ボッコボコにしちゃうぞ♪)

 なんて …… 冗談っぽいけど冗談じゃないことを考えたりもしているのだが。
 何はともあれ、大好きな姉が "恋をしている" という事実に気付いたことにより、
 露希の中で、それまで難しいとか面倒だとか、そういう感覚しかなかった恋愛というものが、
 一気にググッと身近に感じられるものへと変貌を遂げたことは確かだといえよう。
 さてはて。乃愛の想いは …… 相手へ届くのだろうか。

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 CAST:

 8295 / 七海・乃愛 / 17歳 / 学生
 8300 / 七海・露希 / 17歳 / 旅人・学生

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 Thank you for playing.
 オーダーありがとうございました。
 2010.02.08 稀柳カイリ

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東京怪談
2010年02月08日

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