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『一日巫女さん☆アルバイト』
広瀬・悠里0098

年明けで、最も忙しい存在とは、どんな立場の人だろう?
あちらこちらの寺院で人々は願いや祈りをかけ、それを受信…つまり、受け取る側である神が一番忙しいのではないか。それもひとつの答えである。
では、忙しい人間、に条件を絞ったらどうなるだろう?
これは、そんな疑問に対するひとつの答え。多忙に正月を過ごす人達の物語である。

●巫女さん急募!
「はいっ、恋愛成就のお守りはあちら、学業関係はこちらで受け付けておりま〜すっ」
この土地では珍しく、八百万の神を奉っている、珍しい神社があった。
それだけお守りの種類も多く、それだけたくさんの願いを持つ参拝客が、大勢押し寄せる。
特に、正月の忙しさは半端じゃない。
中でもひときわ活発に動き回っているのは、この神社の巫女さん総元締め。
「って、普段通ってくれている子達だけじゃ、手が足りなぁいっ! こうなったら最終手段、バイト募集するわよっ! 募集基準? そんなものないわよっ、猫の手も借りたいくらいなんだからぁ!」
シフト表のファイルとにらめっこしながら叫んでいる。
「早速募集の手配をして頂戴っ! 報酬? そんなの後回しよぉっ!」
そういうわけで、巫女さん、大募集。

●種族国籍年齢性別学歴不問。sideファイリア
『急募、販売その他雑用スタッフ!』
そう書かれた手元のチラシと、この現状は、どういった事なのだろうか?
確かに、これと同じポスターを街で見つけたとき、なぜか呼ばれている、そんな気がしたのは確かなのだが。
『報酬応相談、物資貸し出しあります。貴方のその身一つでOK!』
お給金は自給制だが悪くない額だったし、希望すれば御守りなどの追加もあると説明された。物資…つまり制服や道具も、サイズなどの問題を気にしないでよいくらい、数多く準備されていた。
改めて、渡されたチラシを未ながら、考える。
募集のチラシには、致命的な落とし穴があったのだと思う。
呼ばれているという感覚も、ただの錯覚なのだと思いたい、そんな気がしてきている。
「まさか、巫女の真似事だとは思わなかった…」
「あら、『神社』で『販売』ときたら、巫女さんしかいないでしょっ、常識よ? ここまで来て、『勘違いでした』なんていわないでよね? 人手が足りないのは事実なんだもの」
広瀬・悠里(ひろせ・ゆうり)の言葉はただの呟きだったのだが、総元締めは細かく突っ込みを入れてきた。しかも良心まで攻撃してくる。侮りがたし。
共に説明を受けていた面子からもいくらかの声が飛んだが、それらもしっかりと切り替えしているようだ。
どうにもその中の声のひとつが引っかかっているのだが…それは違うだろう、と頭の中が本能的に可能性を排除しているため、真実がどうなのかは分からない。
「やるしかないわね」
別にいかがわしい仕事というわけでもないものね、と心の中でつぶやきつつ、悠里は巫女の案内に従って更衣室へと向かうのだった。

●ドレスアップ
きゃいきゃい、そんな声が聞こえそうな女性用更衣室。
巫女さんのコスチュームプレイ大会。その控え室をのぞいてみました! …と、実況中継でも入ればしっくり来るような、そんな事務所の中の一角であるわけだが。
悠里も例に漏れず、一人の巫女さんになっていた。
うっすらと(まだ若いからそう分厚くする必要も無く)頬に白粉はいて。小さな唇にはほんのり紅をのせ。基本に忠実な巫女服とあわせ、白と赤のコラボレーションが彼女を彩る。
髪もひとつに纏め、専用の髪飾りも結いつけて…ソレこそ本格的に。
年のわりに落ち着いた物腰や仕草が顔にも表れているのか、彼女自身の顔立ちは大人を感じさせる。
確かに一人の「巫女さん」がそこに居た。
「…意外に、悪くない…かもしれない?」
全身を映せる鏡台の前で、くるりと一回り。体の動きに合わせて、袴部分もふわりと揺れた。
時を同じくして、同じようにくるりと回った人影。
どこか同じようで、同じではないような。そんな気配を感じ、女2人、互いを見つめあう。
あれは…
「貴女も同じバイトだよねっ? 良かったら一緒にお仕事しないかな? これも何かの縁だと思うしっ」
脳内パルスが答えをはじき出す前に、当の本人が声をかけてきた。どうしよう…でも、迷いは一瞬。
「そうね、貴女が良ければ一緒させてもらいたいわ。 私は…悠里。貴女は?」
本名を名乗るべきか、一度戸惑ったが…名前だけなら問題ないだろう。
「ファイはファイリアだよっ♪ よろしくね、悠里ちゃん」
ファイ…広瀬・ファイリア(ひろせ・ふぁいりあ)は、満面の笑顔で答えた。



●もみくちゃに平手の一喝を!
「いらっしゃいませ。何をお求めですか? 御守り? でしたら学業、恋愛、金運、健康…等いくつも種類があります」
予想通りとでも言うべきか、売り場は御守り、破魔矢、ダルマ等、思いつく限りの神社グッズが売られており。
それらを求める客足も少なくなかった…むしろ、多すぎる。
それでもいつものペースを崩さずに対応できているのは、悠里の性格上のなせる業だろう。
横ではファイリアが、無駄な動きやらうっかりミスやら、少しずつ頻度を上げていっている様子が伺えるが…いくら悠里と言えども、自分の前の列で精一杯だ。
チラリチラリと心配を込めた視線を向けつつも、目の前の客が去らない限りは助けてやる事もできない。
そんな状態が続いたところで…
「わきゃぁっ!?」
ドンガラガッシャーン!
素っ頓狂は叫びと共に、何かが崩れて転がり出す音。
「何事?」
慌てて視線をやれば、予想通りというべきか、ファイが倒れた拍子に、ダルマの在庫の箱も蹴倒してしまったようだ。
彼女から自分の位置まで数メートルはあるはずだが。硬い感触に足元に目を向けると、ダルマが数個、コロリ。
流石に客の対応を他の巫女に任せ、すかさずダルマを拾い集める。二次災害は食い止めないといけないだろう。
「立てる? 足元気をつけて、また転ばないようにね」
近くの数個を拾ったところで、ファイリアに捕まって、と手を差し出す。
「ありがと〜 …よっ、と」
ファイリアが、自らの服についた埃をはらいおとし手いる間、ふと、販売所の表の様子を眺める。
人混み、人、人、人…ごった返して…いや、ぎゅうぎゅうの、すし詰めのような。
「大丈夫そうね。 じゃあ、しばらくこの場、任せたわ」
気がつけば口からはそんな台詞が出ていた。
「えぇっ!? まだいっぱいお客さんいるよぅ」
「わかっているわよ、その客達の列を正すのよ、そのほうが貴女も混乱しなくてすむでしょう?」
もう決めたの、とばかりに言い切って、悠里は販売所を出て行く。

「本当に、ものすごい人混みね…これは、ちょっとまとまってもらったほうが早く片付くかも…」
どう並ばせれば綺麗に収まるか、そう考えながら人混みに向かう。一息大きく、息を吸い込んで。
「落ち着いて並んでくださ〜い!順番は守ってくださいね〜!」
出来る限りの大声で叫んだ。息が白く吐き出され、寒さも一塩。客達の意識が自分に向いた事を確認し、次の指示を出す。
「対応は三人で行っていますから、こちらに寄って、三列に並んでくださ〜い、ご協力お願いします! …きゃぁっ!?」
ならばとばかりに押し寄せる人々、そのどさくさに紛れて違和感を覚えた悠里。
「どこ触ってるのよぉっ!」
パシーンッ!
すかさず平手打ちが決まった。
「…あ、すいません、つい…」
すぐに謝り体裁をつくろおうとするが、時既に遅く。
あの巫女さん怖い、逆らったらあの親父の二の舞? いや、あの潔さがかっこよく…と人々が思ったかはともかく。列は綺麗に三列に並び、販売所の対応…ファイリアも混乱する事もなくなるだろう。
「…まぁ、結果よければ…あら」
販売所の対応者が四人になっていた。
四人目…阿佐人・悠輔(あざと・ゆうすけ)だ。

●報酬は?
忙しさにも、いつか終わりは来るもの。
参拝客も数えるほどになった所で、今日はお開きとの合図。
身支度を整え、顔も洗い再び皆が集まったところで、お待ちかね、お給金の配布タイム。
「はいこれ、悠里ちゃんの分♪」
ポンポンポン、と三人にも手渡していく総元締め。
渡されたのは茶封筒。妙に厚さがあるのが不思議だ。
「働きに応じてボーナスを上乗せしたのよ。…と言うのは冗談で、おまけでうちの絵馬を一緒に入れただけよ」
疑問が顔に出ていたらしく、そう答えが返ってくる。
「何なら、この後奉納していく? もう人も少ないし、貴方たちの分くらいはあたしが対応してあげるわよ」

それならば、と三人、それぞれが願いを込めて、絵馬に想いを連ねる。
「どちらの世界も平和になりますように…」
書き終えたところで巫女に預ける。お互いに願いは聞かない、きっと、口にしたらいけない雰囲気があったから。
誰からともなく誘い合い、改めてお参りも済ませ…忙しい一日が終わりを告げた。

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┏┫■■■■■■■■■登場人物表■■■■■■■■■┣┓
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┗━┛★PCあけましておめでとうノベル2007★┗━┛

【5973 / 阿佐人・悠輔 (あざと・ゆうすけ) / 男 / 17歳 / 高校生】
【6029 / 広瀬・ファイリア (ひろせ・ふぁいりあ) / 女 / 17歳 / 家事手伝い(トラブルメーカー)】
【0098 / 広瀬・悠里 (ひろせ・ゆうり) / 女 / 17歳 / 神聖都学園高校生】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、そしてあけましておめでとうございます。桐島めのうです。
一月も中旬に差し掛かってからのお届けになってしまいました。遅れましたことをここでお詫びいたします。

改めまして、ご発注ありがとうございました。
3名様同時発注と言う事で手がけさせていただきましたが、全てをひとつに纏めるのではなく、リンクノベルという形にさせていただきました。
一度で三度美味しい、と言う結果を目指しましたが、お口に合いましたら幸いです。

それでは、またご縁がありましたときにはよろしくお願いいたします。
新年がよい年になりますように。
PCあけましておめでとうノベル・2007 -
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東京怪談 The Another Edge
2007年01月11日

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