▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『極秘依頼「店主をどうにか驚かせて!」 』
海原・みなも0062


■再会

「……まさかアンタが来るなんてな」
「それはお互い様です」

 海原みなもは、もう見慣れたとばかりに溜め息をついて
依頼人である蒔胡桃兜太と対峙していた。
 依頼、とは言っても久し振りに歩いていた新宿の街中で半ばナンパの如く
声を掛けられただけである。それも、みなもにとってはよく見知った相手。
つまりは、この目の前にいる兜太だ。
 新宿界隈を歩いていれば、多少確率的には難しいとはいえ可能性が無いわけではない。
出会う可能性はゼロじゃない。だからこそ、兜太に声を掛けられたこと自体は、
みなもにとっては驚くことではなかった。

 問題はその見た目だ。

「なんというか……兜太さん、成長してませんね」
「おおいっ!それが久方振りに会った相手に言う台詞か、ああっ?」
「ふふ。ごめんなさい」

 しれっと返され、しとやかにホホホなんてわざとらしく笑われてしまっては、
兜太が勝てる要素なんてコンマパーセントも無くなってしまう。
「良い性格になったもんだな」と兜太はそれでも小さく牙を剥く。

「そりゃあもう。一応世間の荒波ってやつにも揉まれましたから」
「そーかよ。そんで、その世間を渡り歩いてきたみなもさんは、
俺の《依頼》聞いてくれるんですかねー」
「そのためにこうして喫茶店に入って、兜太さんのお金でお茶してるんじゃないですか」
「ぐ……」

 何を今更。
みなもは目の前に置かれたティーカップを手に取り、一口その口元へと運ぶ。
一方、都心の喫茶店は珈琲もホットミルクも高くて敵わんと嘆く兜太は、
言い出しづらい依頼を顔見知りが引き受けてくれるなら……と、
自らも紅茶を一杯頼んではいたが、手持ち無沙汰にカチャカチャと弄り回していたソレは、
既に砂糖も溶けられない紅茶とは呼びがたいものに変異していた。

「……それにしても。見た目も変わらなければ、中身も変わらないとは」
「うっせえ」

 バツが悪そうに兜太はみなもから視線を外して新宿という街を行き交う人の群れを見ていた。
彼からの依頼は極々単純で、分かり易い。
 彼らが妖の生き物だと知っているのはみなもと僅かな能力者達くらいだ。

「本当に、依頼はコレで良いんですか?」
「ああ。俺達みたいな生き物はたまーにこういう刺激が無いとやってらんねえからな」

 ぺろりと舌を出す兜太に、みなもは「仕様がないなあ」と呆れながらも、
その《依頼内容》を聞いて笑わずにはいられないのだった。


■任務遂行!

「うーん……勢い、頼まれちゃったけど。これくらいで良いかしら?」
「既に、良いかしら?っていう範疇超えてる気がするのは俺だけか?そうなのか?」
「でも……」

 コマ劇近くの細い路地をくねくね歩き回り、兜太とみなもは
懐かしい店の前まで来ていた。

《落葉のベッド》

 そう冠した扉は、いつ見ても古くさく、しかしいつ見ても同じような古くささだ。
変わっていない。みなもは久方振りに訪れる店の前でくるりと自分の衣服を確認した。

「……確かに俺はアンタに頼んだ。“落葉を驚かせてくれ”って頼んだ……が!」
「なんですか。不満ですか?」
「う、や、えーっと……。似合ってるとは……思う、ぜ」

 アンタはな、アンタは……と小声で地面とお喋りしている兜太を他所に、
みなもは再び「うーん」と可笑しいところが無いかどうかチェックする。
 兜太からの依頼は、この時節に大変相応しいものだった。
それは、ハロウィン。トリックオアトリートのかけ声のもと、
子供達が堂々と大人達相手にお菓子をせがむことができる……。
 そのイベントに乗じて、兜太は日頃落葉に無賃労働させられている恨み辛み
――決してそんなことを表立って言うこともないし、実際そんな感情を持っているわけではない
ということだけは明記しておく――を、ささやかな悪戯で発散したいというのだ。

 冒頭の、みなもが呆れていた原因はソレである。
蒔胡桃達とは大凡十年来の付き合いと言っても良いが、
見た目が一切成長しない彼は、中身もそのままだった……ということだ。

「兜太さん、これ変じゃないですか?」
「変じゃねーよ。っていうか、この新宿に《四頭立ての馬車》が居る時点で、
可笑しいってことに気付けよ!俺なんて完全に七五三だぞ、おいっ」
「あらあ、自分で自覚あったんですね」
「あんだって?」

 コロコロとシルクの手袋を付けた手が、みなもの笑い声を柔和にかき消す。
その様を見て、似合うと言わずにいられる者が居たら教えて欲しい。
 みなもは純白のウェディングドレスを身に纏い、白馬四頭を従えた馬車の中で
身なりのチェックに余念がない。

??驚かせるなら、アレがぴったりだと思います!??

 みなもの提案を詳しく聞かないままOKしてしまった兜太も兜太だが、
本当に実行する彼女も彼女だ……と、今更ながら兜太は自分の出で立ちを見、
それから彼女がウキウキと準備する背中を見て、言葉にするのは諦めた。
 せっかくのハロウィンである。自分だけが楽しむのは勿体ない。

「落葉さんはまだお店ですか?」
「ああ。っていうか、アイツは日がな一日ずっと玩具と戯れてるよ。夜行性だし」
「へえ、それは初耳……あ、兜太さん。そこのイヤリング取って下さい」
「……あいよ」

 白馬四頭立ての馬車、ウェディングドレス、兜太用にと用意された御者役の衣装諸々。
それらの全てをみなもが知り合いと自らの私物で賄ってくれた。

「思うんだが」
「なんですか?」

 最終メイクとアクセサリーを付けるのに忙しいみなもは、
馬車の中に作った簡易の化粧台――ちょっと行儀悪いが、椅子に大きな鏡を置いて
座り込んで化粧している。兜太曰く「世間の荒波って凄まじかったんだなあ……」だそうだ――
を前にして、鏡越しに兜太へ返事をする。

「こんなもんが用意できるって……どういう知り合いだよ」
「それは秘密です」

 きらきらと光り溢れる笑顔を向けられて、兜太は大仰に溜息をつく。
どうやらメイクもセットも整ったらしい。

「驚かすならこれくらいやらないと!」
「……張りきってんなあ」
「兜太さんがお願いしたんでしょ。さ、行きますよ!」
「あいよっ」

 ブーケを片手に持ち、馬車の中で居住まいを正したみなも。
一方、なんだかんだ言いながら御者役の兜太も乗り気である。
 御者台に腰掛け「はっ」と一声。


――ヒヒヒーンッ……。


■果たして《お菓子》は誰の手に?

 四頭の白馬は性格の良い者達ばかりで、拙い兜太の手綱にも応えてくれた。
流石に新宿の街中を堂々走らせるわけにはいかないので、
本当に店までの僅かなあの細い路地を数十メートル歩かせるだけなのだが。

(ふふふ……落葉さんビックリしてくれるかなあ)

 落葉にもここ数年は顔をあわせていない。
兜太が言うには、落葉という人物が《驚く》という様を見たことが無いらしい。
だからこそ、今回ハロウィンの依頼を思いついたのだろうし、
みなももその事については同意した。落葉は確かに驚かない。
 いつでも沈着冷静な彼が、こんな出で立ちでいきなり現れた自分に対し、
どんな反応を見せてくれるか……とても気になる。と、同時にちょっとだけ不安だった。

(嫌な顔されたらどうしよう)

 落葉に限ってそんなことは無いだろうけれど……。
ゆっくりゆっくり勿体振って馬達は店の前まで歩き、馬車がその足を止めた。
 さあ、トリックオアトリートのかけ声をあげる時だ。

「落葉ぁっ」

 店内にいる落葉を外に呼ぶのは兜太が引き受けた。
そこらに人がいる時間帯は、なかなか出てこないということをみなもも知っていたし、
だからこそ店までの数十メートルでも、兜太が大丈夫と言ってくれるまで近づけなかったのだ。
 次元の狭間とでも言うべきだろうか。十数年の時を掛けてみなもが出したのは
精々がそれくらいの想像による結論で。
 落葉のベッドはそうした時や場所の狭間にひっそりと現れる店なのだった。

 ――からん……ころん。

 懐かしい音色。
 みなもは「まだ出てくるなよ」と兜太が手を此方にかざしているのも構わず、
馬車に作られた小さな窓からそっと外の様子を窺い見た。
 ドアベルの音に遅れること数秒、白い手が扉を開けるのが此処からでも見える。

「外で大きな声を出すなといつも言っているでしょう……どうしたんですか、急に」

 何やら作業中だったらしく、手をぱたぱたとはたいて
件のターゲット、落葉は前掛けで汚れた手を拭っている。
 とぼけたことに、未だ正面で構えている馬車を見てもいない。

「トリックオアトリート!」

 兜太がかけ声を掛ける。

「ん……?」

 そこでようやっと落葉は地面に向けていた視線を上げた。

「…………君の七五三はとうに終わったと記憶していますが」
「ちげえええ!ったく、俺は良いんだよ俺はっ。メインディッシュカモーンッ」

 一瞬。ほんの一瞬だけ兜太と四頭立ての馬車に目を点にしたかと思ったが、
いつも通りの冷静な――若干痛烈な――意見を述べるだけの落葉に、兜太の我慢は限界にきたようだ。
 ぱちんっ!と景気の良い音を指で立て、その合図と同時に馬車の扉が開いた。

「はい?」

 落葉が兜太の言葉を頭で理解するよりもずっと早く、
花嫁姿のみなもが力一杯に馬車から飛び出てくる。

「落葉さーんっ」

 ばふっ!

 純白のドレスが中空を舞うみなもを一層映えさせる。
両手を広げ、落葉の元に向かって駆け寄ろうとしたのだが、
思いっきりドレスの裾をハイヒールで踏んづけてしまい、みなもの意思に反して馬車から
飛び出る形となってしまった。

「あたたた…………」
「っと……大丈夫ですか、みなもさん」
「はい!……あれ、驚いてません?」
「いえ、このうえなく驚いていますよ?」

 あっさりと降参ポーズを取る落葉。その上に乗っかる形でみなもはキョトンと首を傾げる。
飛び出てきたみなもの身体を上手いことキャッチした落葉は、どうやらそのまま後ろに転んだらしい。
 ……つまり、おもいきりクッション代わりになっているのだ。現在進行形で。

「きゃあ!ごめんなさいっ。ごめんなさいっ」
「あはは、大丈夫ですよ。これくらい」
「ちぇーっ!落葉ってば、良いトコ全部持って行きやがってっ」

 御者台から飛び降り、へたりこんでいるみなもに手を差し伸べながら
兜太はやや不満げな表情だった。それはそうだろう。一世一代の悪戯にも、
落葉は柔和に微笑んでいるだけで(しかもみなものピンチ(?)にしっかり対応してしまった)

「蒔胡桃君」
「うっ!ち、違うぞ!依頼したら、みなもが協力してくれたんだぞっ」
「そうですー。落葉さん達に久し振りに会えると思ったんで……」

 じろりと事の発端を睨む落葉に、みなもを盾に逃げ隠れる兜太。
みなもは悪戯は失敗だったか……としゅんと項垂れた。

「蒔胡桃君は中でお茶を用意してください。今回はそれで許しましょう」
「ちぇーっ!!」

 不満を爆発させつつ、それでも口元に笑いを浮かべながら兜太は店内へと入って行った。
長年の付き合いで、その辺りは阿吽の呼吸で通じるところがあるのだろう。
 一方、華やかなドレス姿でどうしようかと視線を彷徨わせているみなもの手を、
落葉はそっと自らの手に取り。

「お怪我はございませんか?みなもさん」
「あ、いえ。ありません……。その……迷惑、でしたか?」
「とんでもない」

 いつでも冷静な落葉なだけに、考えが読めないことも屡々あった。
みなもはもうちょっと打ち解けたいという単純な思考からこの兜太の案に乗ったのだが、
ここまで冷静でいられるとちょっと寂しい気がしてくる。

「…………まさかこんな綺麗なお嫁さんが来てくれるなんて。ねえ?」
「えっ!」

 意味深ににやりと笑う落葉に、みなもは自分がどんな恰好で
どんなことをしでかしたのか、初めて気付いた。いくらハロウィンとはいえ……。
 花嫁姿でわざわざ馬車にのって、男性(と言って良いものか怪しいが)宅まで来る……ということは?

「おーい!そこの二人。いつまでイチャついてんだっ。煮干しと鰹節と酒用意したぜえっ」
「おやおや……」
「そ、そうです!研究所から色々持ってきてるんですよ。マタタビ酒とか如何ですかっ」
「……ふむ。頂きましょうかね」

 店内から外まで響き渡る大声に、みなもはハッと現実へ思考を戻された。

(び、びっくりしたあ……)

 トリックオアトリートは、ひとまず完了したようだ。
みなもの手を取り、店内へと案内する落葉の背中が若干落ち着きがなかったことだけは、
仕掛け人である兜太もみなもも最後まで気付かなかったようだけれど…………。

「最後の最後で水を差されましたねえ……美味しそうな《お菓子》、でしたのに」



閉幕





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・



登┃場┃人┃物┃一┃覧┃

━┛━┛━┛━┛━┛━┛

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】



海原・みなも(0062)/女性/28歳/研究所所員

NPC/蒔胡桃兜太、落葉


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃

━┛━┛━┛━┛━┛━┛

こんにちは。いつも発注ありがとうございます。
この度はハロウィンイベントノベルということで、盛大にPCさんに遊んで頂きました。
依頼というよりも馬鹿騒ぎのノリで楽しんで頂ければ幸いです。
時間のゆったりした玩具屋に活気を運んで下さるみなもちゃんには、いつも感謝しています^^
落葉さんのにんまり笑いを残しつつ……ハロウィンはこれにて閉幕でございます。
ハロウィンカーニバル・PCゲームノベル -
清水 涼介 クリエイターズルームへ
東京怪談 The Another Edge
2008年10月17日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.