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『「時忘れの館」』
成瀬・霞0081

「ようこそ、今宵は我が館のパーティに」
 そう言って恭しく頭を下げる白ウサギの執事。
「いや、その‥パーティに呼ばれた訳じゃないんだけど‥‥‥。
 いま、ここに子供がこなかった?」
「お子様ですか? お子様ならば、そこにも1人」
 白兎は、あなたを指し示す。
 どこか人を食った態度にモシャモシャ白い毛が生えた手に齧りつきたくなる。
 そんなあなたの思い等知らず、言葉を続ける白兎。
「まあ、外は寒い。丁度、雨が振って来ました。
 当館のパーティは、子供であれば招待状は必要ありません」
「雨?」
 途端にザーっと雨が降り出す、それも雷のおまけつきで。
「見れば、お腹もたいそう空いているようで‥‥‥」
 ぐーっとお腹の虫が鳴く。
「飲み物に果物、ごちそうに‥‥勿論お菓子も沢山もございます。
 お探しの方も当館においでになるかもしれませんよ」
 執事の言葉に誘われて館に入る。

 白いテーブルクロスが飾られた長いテーブルの上には色々な食べ物が並ぶ。
 子供達が楽しそうに喋ったり、ゲームをしている。
 どの子供もハロウィンらしくお化けの格好やら吸血鬼の格好をして誰が誰だが判らない。
「あなた様もゆっくりとお楽しみ下しさい」
 机に置かれたケーキを一つ食べてみるあなた。
「おいしい!」
「おいしいでしょう。
 でも気を着けて、時間を忘れて食べ続けると元の世界に戻れなくなっちゃうから」
 あなたの前に現れた赤毛の少女。
 どこか古めかしいワンピースを着ている。
「ここは『時忘れの館』。
 子供達を集めて、年がら年中パーティをしているの」
「君はだれ?
 なんで子供を集めるの?」
「私はクリス。
 ここの主は子供達の夢を食べて生きているの」
 べつに夢を食べられた子供は死んじゃう訳じゃないけど‥‥‥。
 段々昔の事を忘れてしまうの。
 そう少女は言う。
「あなたは誰かを探しているようだけど、その人を早く見つけてここを出て行った方がいいわよ」


 ***


「‥‥ご忠告有難う」
 小さな魔女の格好をした成瀬・霞がクリスからタオルを受取りながら答える。
「じゃあ服が乾いて探し人が見つかれば早々に立ち去る事にするわ。私の探している人たちが此処にいるって確証も無いし期待もしていないのだけれど‥‥」
 霞の言葉にクリスがくすりと笑う。
「じゃあ、なんでここに来たの?」
「それは‥‥何でだったかしら?‥‥ 思い出せないわ」
 首を傾げる霞。
「きっとあなたは主に夢をちょっとだけ食べられちゃったのね」
 クリスが言う。
「早く探したほうがいいわよ。この館は迷路みたいに広いから」
「そうなの? じゃあ行くわね」
 机に置いた分厚い童話の本を大事そうに抱える霞。
「帽子を忘れているわよ、魔女さん?」
 椅子に置いた黒い魔女の帽子を霞に被せる。

「なんだか、心配な人ね。一緒についていってあげましょうか?」
「──大丈夫、私は覚えているわ」
「一番最初は、その人が夢だって思わない。小さいものから食べるのよ」
 例えば、午後のお茶は紅茶が良いとか、ね。
 そうクリスは言う。
「それにしてもと何故、わざわざ教えてくれるの? それを知ってるって事は私よりも前からこの館にいるって事よね?」
「そう言う事になるわね。まあ、私としては主に嫌がらせがしたいだけなのかもしれないわ」
 そうクリスが言う。
「何故?」
 クリスが霞を1つのドアに案内する。
 ずらりと並ぶ講堂のような広いがらんとした部屋にずらりとベットが並ぶ。
 白い清潔なシーツの上に眠る子供達。
「少し食べられただけなら、少しだけ記憶がなくなるだけなんだけど。夢を食べつくされた子供は、全ての記憶を失くして永遠に眠ったのままなの」
「それにしても子供達が記憶を無くしていくなんて何処かの童話みたいね」
「そうね」
「でも、それなら急いで私は探さなければいけないわ」
「誰を?」
 霞にクリスが尋ねる。
「弟よ。あと、お姉さまを」
「一緒に来たの?」
 私が見た時、あなたは一人だったけど?
 そうクリスが言う。
「いいえ。一緒に来たわけじゃないけど、居たら困るわ」

 長い廊下に並ぶドアを一つ一つ開けていく霞の後ろからクリスが着いていく。
「弟の気配は‥‥やっぱり無いわね」
 溜息を吐く霞。
 弟がいたらいたで説教だが、会えなければ心配である。
「‥‥お姉さまもいないのかしら? さすがに疲れたわね」
 百以上ドアを開けただろうか?
「じゃあ、お茶にしましょう」
 クリスが、ぱちんと指を鳴らすと何処からともなく椅子と机とティーセットとお菓子が出てくる。
「凄いわね。魔女みたい」
「そう? ここではこういう小さな願い(夢)も大事にされるから」
 主がこの夢を食べたら叶わないんだけど。
 そうクリスは笑う。
「クリス、貴方がこの館の主‥‥なんて事は無いわね。もしそうなら忠告なんかしないもの」
 ‥‥私ね、何でも疑ってしまう癖があるの。気を悪くしたのならごめんなさい。
 そう霞が言う。
「私が主かもよ? 探したいと言うもの願い(夢)の1つだから」
 クリスが、バラの香りのする紅茶を霞に勧める。
「あなたは色々夢を持っていそうだから‥‥それに他の子達と少し違うわ。見た目よりあなたは強いのね」
「そうかしら?」
「そうよ。だからしっかりあなたはそれを持っていなくてはいけないわ」
 クリスが童話を指差す。
「この本?」
 そういえばこの童話の本は、何時から持っているのだろう?
「そうよ。これを手放しちゃいけないわ」

 休憩が終わってから更に何個ドアを開けただろう?
「‥‥ねぇクリス」
「なぁに?」
 子供が一人隠れそうな大きなプレゼントボックスの中を覗き込んでいたクリスに霞が声を掛ける。
「貴方は誰を探していたの?」
「え?」
「本当は探す相手さえ忘れてしまった貴方こそが誰かに此処から連れ出して欲しいんじゃないの?」
「私が‥‥ここから出て行く?」
「そうよ。連れ出して欲しいから私に忠告した‥‥違うかしら?」
 吃驚した目でクリスが霞を見つめる。
「思っても見なかったわ。私がここを出るなんて‥‥」
「クリス、出口を教えてくれるわね」

 出口に向かって走る霞とクリス。
「ああ、もう。魔法の箒でもあればいいのに」
 グルグルと歩いて館の奥に入った分、入り口に戻るのも一苦労である。
「それなら、その本に書いてみたら?」
「え?」
 開いて見みれば童話の中身は真っ白である。
「さっき見た時は中が書いてあったのに‥‥」
 お茶をした際、茶葉が開くまでの時間つぶしにパラパラと童話を捲った時には確かに内容が書いてあった。
 だが、今は中が真っ白である。
「これも主の影響?」
「そうかもしれないけど、でも願いが叶うかもよ」
 クリスが鉛筆を渡す。
「貴方がお願いしたほうがいいんじゃない?」
 首を横に振るクリス。
「さっき、自転車が欲しいってお願いしたけど叶わなかったもの」
 そうクリスが言う。
 霞が『魔法の箒に二人で乗って一ッ飛び』と書いてみた。

「早い、早い、素敵♪」
「クリス、早すぎよ! もっとゆっくり飛んで頂戴」
 霞とクリスを乗せた魔法の箒はスピードを上げ、出口を目指す。
 後ろから異変に気がついた主が放った兵士なのだろうか?
 ガチャガチャ音を立て西洋甲冑が二人を追いかけてくる。

 ヒュン!
 音を立てて、槍が二人を掠めていく。
「やっぱり、もっと早く飛んで!」

「これ以上、行かせません。クリスはここから出られないのです」
 白ウサギが、剣を片手に霞とクリスの行く先を塞ぐ。
「そんな事を誰が決めたの? 邪魔をしないで下さい」
 霞が分厚い童話の本を開いて鉛筆で『白ウサギに稲妻が落ちる』と書く。

 ゴロゴロゴロ‥‥。
 かなり近い所で雷の音がする。
 白ウサギが天井を見上げると屋内だと言うのに黒い雷雲が立ち込めている。
「どうやら主は他の人の夢を食べているみたいね」

 ピシャン! と薄いガラスが割れるような音がなったと思うと激しい雷鳴を轟かせ雷が白ウサギに落ちる。
 白い激しい光が霞の視力を奪っていく。



「やあ、キミの食べた夢の飴はどんな味だった?」
 オレンジ色の髪を揺らせてリデルが霞に言う。
 霞は上も下もわからぬ真っ白な空間にいた。
 霞の他には、リデルだけがいる。
「クリスは、彼女は何処?」
 ふと見れば、霞の足元に小さな古びた絵本が落ちていた。
 表紙に描かれた少女の絵を良く見ようと霞が手を伸ばすと、それは風に吹かれた砂の城のように脆く崩れて壊れてしまった。
「夢?」
「そう、壊れた本が見せた夢。誰かに読まれる事を願う本のレジェンド。クリスが、ね。『ありがとう』だって」
 リデルが霞にキャンディを1つ、渡す。
「これを食べたら、弟達の所に戻れるの?」
「一応、予定では。ボクは、この世界も悪くないと思うけどね」
 ボクは試したことがないから。と肩をすくませるリデル。
「いい加減な人ね。でも試して見るしかないわね」
 覚悟を決めて霞が飴を口に放り込む。

 ──飴の甘い味が口一杯に広がり、世界が暗転した。



 ガタン、ガタン──。
 遠くで電車の音が聞こえる。
 暗い道を電灯が照らす。
「元の世界に‥‥戻ったの?」
 見知った家への帰り道である。

 ピピピピ‥‥霞の携帯電話が鳴る。
「はい、成瀬です」
 相手は、アルバイト先の本屋の店主からであった。
「え、明日ですか? はい、空いています」


「Trick and Treat! キミもおひとつ不思議な飴をどうぞ。きっと素敵な一夜の体験が出来るよ」





■登場人物(この物語に登場した人物の一覧)■

――東京怪談 The Another Edge――

【0081】成瀬・霞/女性/20歳/大学生(本屋アルバイト+忍び)

(NPC)リデル/無性/12歳くらいに見える/観察者
(NPC)クリス/女性/10歳くらいに見える/時忘れの館の住人
(NPC)白ウサギ/?/?/時忘れの館の住人
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東京怪談 The Another Edge
2007年10月30日

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