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『甘いあまぁいお見合いパーティ‥‥?』
楊 浩威0047

 は〜い、元気してるぅ??
 実はさ、ちょーっと困った事になってんのよ。
 あたしが今結婚相談所に勤めてるの知ってるでしょ?
 会社主催のさ、お見合いパーティがあんの。
 お願い、ちょっと人数少ないの。サクラとして参加してくんないかな?
 本当に付き合う必要はないんだって!
 ちょーっと恋人いない事にして、話合わせてくれれば! ね!?

 何なら服もこっちが貸すし! タダで立食パーティ出来るんだよ?
 ね、ここは一つ私を助けると思って! お礼なら何でもするし!
 絶対来てね!?

 カオルより

    ・
    ・
    ・

「‥‥‥‥‥‥」
 楊浩威(やん・はおうぇい)がそのメールを開けた時、出てくる言葉はなかった。
 ──お見合いパーティ‥‥?
 脳裏にへのへのもへじな女性と対面している自分の姿が浮かぶ。顔面蒼白にして冷や汗だんだらな自分のこの上ない情けない姿が。
 ──こいつは‥‥俺が女を苦手としている事を知りながら何故こんなメールを‥‥っ。
 ピンピンに立てた髪に指を突っ込み、ぐしゃぐしゃとかき混ぜる。苦悩した素振りをする一方で、脂肪のろくについてない腹に手をやった。
 ──そういえばここ2〜3日は金にならない退魔仕事が目白押しで、食事に事欠く有様だったからな‥‥。
 ちら、と再度メールに目を通すとそこには『タダで立食パーティ出来るんだよ?』の光り輝く一文。今の自分にはとてつもなく魅力的なお誘いだ。
「うぬぅ」
 頭を抱えて呻く彼のすぐ傍に誰か人が居たならば。きっと一言、言ってやったに違いない。
 だからカオルはおまえを指名したに違いない──と。


●ボーイ・ミーツ・ア・ガール
「‥‥ここか」
 浩威がそこに辿り着いたのは、既に街が夕闇に覆われた頃。仕事を終え、駆け足で駅へ向かっている者が多い。
 そんな雑踏の中、仕事で関わる以外は入りそうもない高層ビル前に突っ立っていた。カオルによると、会場はここの13階らしい。
「何やら見られている気がするが‥‥」
 目の色を隠すためにしているサングラスが原因だろうか、それとも黒一色の服装をしている為か。
 ちらちらと自分を見てくる女性の心理が全く以て分からず、浩威は胃に負担を感じつつホテル内のエレベーターに向かう。その段になってようやく自分がどんな場所に来ているか把握した。
「あの‥‥パーティに参加される方ですか?」
「うぉう!?」
 女性とは不可思議なり。皆目気配を感じなかったそこに、しかも視線を下にしなければ見えぬそこに、小柄な女性が立っていた。
 コートから靴に至るまで黒一色の浩威に反し、白いワンピースに淡い紫のショールを羽織った女性が男の反応を待つ。基本個人参加のパーティな為、マンツーマンで話せる機会があるなら今の内に知り合っておこうという乙女心というやつだったのだが、生憎浩威には通じない。
 見詰め合う蛇と蛙──もとい年頃の男女の間にやって来たのは、このパーティ参加者、アインホルンである。
「‥‥エレベーターは既に降りてきておるようだが?」
 パーティ前から何を見詰め合っておるんじゃ?

「ほほう、ご婦人は既にこういう『お見合いパーティ』に幾つも参加されておるのか」
「はい、初めは友達の付き合いだったんですけど。会社はずっと年上の既婚者の男性しか居ないし、出逢いが全くないから」
「まだ随分お若いようにお見受けするが?」
「えっ。や、やだ私もう26ですよ‥‥」
「‥‥‥‥」
 エスカレーターならばともかく、エレベーターには逃げ場がない。
 第三者が入った事で微妙に安堵しつつも会話に入れない浩威は微妙に居心地の悪さを味わっていた。
 それにしても老獪じみたしゃべり口調なこの男、素なのか計算か、まだ名前も聞いていない女性相手によく喋れるな、と思わずにいられない。
 チン、と可愛らしい音を立てて13階に到着した。丁度扉が開いた正面に受付がある。
「こちらでアンケート用紙をお受取下さーい」
 ──アンケート?
 手馴れた女性はさくさくアンケートとボードを受け取っている。が、本日初参加な二人は戸惑った。
 ──ナニをどう聞かれるのだ?

 お見合いパーティとは男女が出会いを求めてお知り合いになる場である。
 出会いの少ない生活のため、恋人を求めてやって来てもいいし友人を得るだけでもいい。しかしバックに結婚相談所が控えているように、多くは結婚を視野に入れている。そのため年収や経歴詐称がないか、また自分の希望に沿った男性かアンケートを取られてしまうのだ。
「まぁ、傭兵‥‥」
「あまり東京では見んかもしれんな」
 小さな丸いテーブルに向かいように一脚ずつ椅子が据えられている。それが横一列に並んだ状態で、男女向かい合わせに座る。
 いきなり女性に正面から見つめられ、浩威はがまがえるのように脂汗を流していたが、同じサクラである筈のアインホルンは僅か五分の時間制限付会話を楽しんでいた。
 ──とはいえ十数人分質疑応答か‥‥やれやれ、腰を落ち着けて話せぬものじゃな。
 会話終了の笛が鳴る。
「残念じゃがご婦人との楽しい語らいは終わりのようじゃ。また後ほどお話する事にしよう」
「あらっ」
 目の前に座っていた黒髪長髪の女性が、ぽっと頬を染めた。

 ──何故だ‥‥俺は正直に書いただけだ‥‥なのにあのやり手刑事と犯罪者のような問答は何だ‥‥?
 職業が退魔師だからそう書いた。そしたらもれなく全員の女性参加者に追究された。仕事の内容は? 休日の有無は? 危険は? 年収は? 職務体系は?
 追究の手は一向に緩まない。果てはサングラスの下の目を見てみたいだの退魔の方法を教えてくれだのメールアドレスを教えてくれだの個人情報の入手に躍起になりだす。女性ってこんな怖かったっけ、と空腹も霞むほどの謎が渦巻いた。
「何じゃ。もう疲れたか?」
 ぽん、と肩にかけられた手は男のもの。あっちへ行けば女、こっちへ行けば女が草食動物のように少し離れたところでこちらを伺ってる。まるでサバンナに放り込まれた一頭のライオンのような気持ちになりながら浩威は振り返った。
「ああ‥‥エレベーターで会ったか」
 そこに居たのはアインホルンであった。席が近かったので薄っすらと声も自己紹介も聞こえていた。
「まぁそんな虚ろな顔をするな。この後食事も始まるようじゃし‥‥」
「あっ」
 食欲がすっかり失せてしまっていたが、そうだ今日はこれがメイ‥‥んんんごほっ、げほん、断じてタダ飯に惹かれてきたわけじゃないぞ、これも付き合い、しかし顔が笑う。
「ほう。人気者じゃの」
「ん?」
 一気にぐるると腹を鳴らした浩威に、アインホルンが背後を指す。
「ん?」
 女性数名が徒党を組み、あのライオンを見つめる瞳でこちらに近づいていた。

「へぇ〜、じゃあ傭兵さんはお仕事の定休日ってないんですね」
「仕事内容によるわけじゃな。泊まりの日もあるぞ。‥‥ああご婦人、失礼、麗子殿? こちらのジャンパンも甘くてオススメじゃ」
「あ、ありがとうございます‥‥」
 アインホルンが数名の女性に乞われ、仕事内容を話してやっている。しかも合間合間に女性を気遣う発言。自分にゃ出来ない、と黒衣の男は五日振りの牛肉に齧り付いた。
「あ、あのこっちのスパゲティも美味しいですよ?」
「‥‥っふご!?」
 またしてもいつの間に。身長の高い自分を取り囲むように、数人の女性達が集まっていた。しかもよほど飢えていると思われたか、それぞれ小皿を差し出して。
 ──か、囲まれた!? い、いい何時の間に‥‥こいつら何者だ‥‥??
 女性である。
「えと、ナポリタンとシーフードサラダあるんで良かったら」
「ふぐ‥‥ぐむ」
「飲み物は取ってないんですね。ソフトドリンクもたくさんありますけど、浩威さんはアルコールの方が良かったですか?」
「んぐむほはっ!?」
 気付けば浩威を中心に輪が出来ていた。自分より低い位置に出来た越えられない壁。逃げられない。囲いの向こう側にいるアインホルンに助けを求める。
『ウッハウハじゃのー』
 彼には見えるものが違うらしい。

●お持ち帰りされますか?
「ぬ‥‥八人までか」
 思う存分美しい女性陣(中には肉体のみ女性でない方もいたようだが、丁重に密告させて頂いた)との会話を楽しみ、食事もデザートまで食べ終えると今度は再びアンケートが待っている。
 小さなカードに書くべき事は、相手の番号と口説き文句である。女性に甲乙付けるつもりはないが、『かっぷりんぐ』を作るという事で、サクラとして最後まで仕事は果たさねばなるまい。
 カードは回収され、数分ほど沈黙が降りる。パーティも終わりだというのにこの緊張感。サクラのアインホルンは暢気に会場を見回したが、それぞれの男性陣・女性陣はちらちらと視線を交し合っていた。
 ──生涯の伴侶が見つかるならば嬉しいが‥‥本命として呼ばれたのではない以上、しょうがあるまい。
 苦笑するアインホルンは番号同士が呼ばれていくのを黙って聞いている。ちらりと自分の番号を確認したがまさか呼ばれるとは
「四番と十三番さん」
 呼ばれてしまった。
 ちなみに男性陣が先に退出し、女性陣が集団で出てきたところを捕まえる事になっている。食事をたらふく食った割には顔色が一向に良くならない浩威もついでに引きずって出た。
「終わった‥‥ようやくシマウマから解放される‥‥」
 ついでに意味不明な事を口走っていたが、廊下で落ち合った女性の連れが、浩威を呼んで引き止めた。エレベーターで会った白い女性だ。
「あ、あのっ、カップリングにはなれなかったんですけど、帰りご一緒しませんか?」
「ほう」
 若いご婦人は積極的だな、と暢気に関心したが、壁に張り付いた浩威の反応はない。自分と『かっぷりんぐ』になった女性が提案する。
「そ、それじゃあ明日は日曜ですし、今からカラオケにでもどうですか?」
「からおけ? とは?」
「えっ、知らないんですか!?」
 歌を歌うお店なんですよ、と言われ好奇心が勝った。
「面白そうじゃのう」
 一度行ってみるか、と答えたところで四方か『なになに、カラオケ!?』と声が上がった。いつまでも帰らず廊下で喋っていたのがよくなかったらしい。
「私も行っていいかしら?」
「あら浩威さん、これからカラオケ? 人数多い方が楽しめるんじゃないかしら?」
 どんどん人数は増えていく。
「さあ、それじゃカラオケ行きましょうか!」
「うお!?」
「まだまだ聞き足りない事もあったし‥‥」
 うふ、と流された視線にサー、と蒼くなる浩威。カップリングは出来なかった筈が、二次会のようになってしまっている。
「浩威さん、ご自宅はどの辺なんですか?」
「携帯番号教えて頂けます?」
 再度始まった取調べ‥‥もとい、女性達の誘惑。
「あ、あ、アインホルン!」
 必死に首だけこちらに向ける浩威に、大きく頷いて見せた。

『ウッハウハだな』



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0047 / 楊 浩威 / 男 / 34 / 退魔師

 a7191 / アインホルン・フェアリーテイル / 男 / 40 / 傭兵


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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楊 浩威さま、ご依頼ありがとうございました!

バレンタインの一時をお見合いパーティで過ごして頂きました。
年齢については全くの無問題、むしろ黒一色の格好に危険な仕事、それでいて女性に慣れてないギャップにやられてしまった女性参加者が多かったようで。お腹の方も満足頂けたみたいですね。良かったです。

‥‥え? どこがウッハウハ? むしろ地獄じゃないか?
大丈夫、女性は噛み付きませんよ、多分。カラオケボックスでは熟練刑事のように誘惑されるかもしれませんが、大丈夫ですよ、多分。襲われたりなんかしませんって、多分。

頑張れ、浩威様!!(爽笑)

今後もOMCにて頑張って参りますので、ご縁がありましたら、またぜひよろしくお願いします。
ご依頼ありがとうございました。

OMCライター・べるがーより
バレンタイン・恋人達の物語2007 -
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東京怪談 The Another Edge
2007年02月14日

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