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『Daemon's holyday』
赤羽根灯0166

 クリスマス。12月25日にイエス・キリストが生まれ、その生誕を祝う日である。
 しかし、キリストがその日に生まれたと言う記述は聖書にも存在せず、どこからそんな伝承が来たのかは定かではない。
 クリスマスはキリスト教においての祝日。
 では、クリスチャン以外祝ってはいけないのだろうか?
 現代において、宗教は曖昧なものになっている。
 その疑問すら、忘れ去られている時に、この事件は起こった――。

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 街はクリスマス一色。ツリーやリースに彩られていた。
 ツリーを時折目を細めて見つつ、赤羽根灯は首を傾げていた。
 12月に入ると人々はシックな服に変わる。
 黒や紺、茶色のコートに、ワンポイントに赤やチェック柄のマフラーを合わせる中、灯の服は華やかだった。白く短い丈のダウンジャケットにピンク色のミニフレアスカート、キャンディーを束ねたようなカラフルで太い毛糸を編み込んだマフラー。若さがなければ無謀とも言える格好を、灯はたやすく着こなしていた。
 クリスマスムード一色の街では、連続少女誘拐事件が横行していた。

『穢れし聖夜に 乙女の血と引き換えに 救世主(メシア)は復活する』

 匿名掲示板にはそんな物騒な文章が上げられている。その文面だと、誘拐された女の子達が無事なのかは分からなかった。
 しかし、生きているのなら助けたいし、もう亡くなっているのなら、せめて遺体だけでも家に返してあげたい。灯はそう思って、こうして自分も引っかかるんじゃなかろうかとこうして女子高生らしい格好で囮捜査を続けているが。なかなか思うようには行かないのであった。

「単純に女子高生を誘拐しているって思っていたけれど、何かを見落としているのかしら……?」
『どうやらその通りだな』

 灯の中の朱雀がそう答える。
 灯は四神の一柱、朱雀を司る巫女であり、その身に朱雀を宿している。
 朱雀は面白そうに町並みを見ていた。

「どう言う事?」
『この街はおかしい。気の流れが変だ』
「気の流れ……?」
『ああ』

 朱雀の指摘に、灯は考え込んだ。
 事件のあらましを考える。
 誘拐されていたのは皆、少女だった。落ちていたのは、十字架。
『穢れし聖夜に 乙女の血と引き換えに 救世主(メシア)は復活する』と匿名掲示板にはあったけれど、これは推理に加えていいのかしら……。
 普通に考えたら聖夜はクリスマス、12月25日だけれど、『穢れし』が気になる……。

「あ」
『分かったか?』
「これはもしかして、キリスト教以外の宗教の人の反抗?」
『普通はそう考えるな』
「日本じゃあんまり宗教の事をとやかく言う事はないから」
『日本ほど客神に優しい国もないからな。全ての神を許す国だ』
「茶化さないで。でも、気の流れが変って言うのが分からないけど?」
『それは、これから歩けばおのずと分かるだろう』
「……歩くのは私よ?」
『今まで少女が誘拐された場所と言うものは分かっているんだろう?』
「ええ……」
『行ってみればいい』
「……ええ」

 灯は朱雀に促されるまま、渋々と歩き始めた。
 気付けば息が白くなっている。夜がもうすぐ来るのだ。

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 夜の街は美しい。イルミネーションが瞬き、街1つが星の海にも感じられる。
 何故人が寄り添い合いこれを見るのかがよく分かる。
 1人だと寒いのだ。それは心境的なものもそうだが、誰か隣に人がいた方が風除けになる。
 などとどうでもいい事を考えながら、何箇所かめの少女誘拐場所に灯は来ていた。
 イルミネーションの光を頼りに地図に点を付ける。

「……どう考えてもこれは」
『分かったか?』
「常識的に考えて、普通誰も気付くんじゃない? 逆に、何で誰も気付かないのかしら? 出来すぎよ。これは」
『思い込みだな。こんな出来すぎな事誰もする訳がない。実際調べだろうし張ってもいただろうが、聖夜も思い込みでずれている事に気付かなかった』
「どう言う事?」
『クリスマスは1日だけないか?』
「1日……もしかして、国ごとに違うと言いたいの? ちょっと待って、ちょっと待って……」

 灯は地図をポケットに突っ込むと、携帯電話を開いた。
 そのまま『クリスマス 聖夜』で検索をかける。
 顔が、みるみる青くなる。

「これ、今日じゃない!?」
『そうだな』
「何で黙っていたの!?」
『日本は外つ国を全て許す。神も文化も全てな』
「殺人までもか!」

 灯は自身の身体に眠る鳥を焼き鳥にできたらいいのに、と苦々しく思ったが、火の象徴の朱雀を焼き鳥にするのは返って元気にするだけだろうと思い考えるのを辞めた。
 そしてそのまま走り出した。
 少女誘拐現場に全て点をつけ、点を全て繋げた先には、東京タワーが存在した。
 そして、今日。
 12月6日は、聖ニコラウスの日。キリスト教において聖人として語り継がれる人物を讃える日である。ニコラウスは、サンタクロースの元祖と呼ばれる人物なのだ。

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 東京タワーをかけ上る。
 展望台を抜け、非常階段を越え、カンカンと音を立てて上ると、妖しげな声が聴こえて来た。

「我らが救世主(メシア)よ、こよい哀れな羊の血肉を喰らい、甦り下さい」

 段下から、鈍い光が見えた。
 その鈍く光るものは、大鎌だった。
 まさか、羊って、誘拐された子達か!?

「止めなさい!!」
「何だ貴様は」

 灯が叫ぶと、黒いベールを被った集団が振り返る。
 男も女もいれば、老人や子供も混じっているようにも思えた。
 その集団の奥には、円陣が描かれ、年若い少女達が縛られて転がされていた。一瞬生きているか死んでいるか分からなかったが、夜の冷えた空気に震えて鳥肌を立てる姿を見て安堵の息を吐いた。

「巫女よ」
「邪神のものか。去ね」
「自分の神様以外は皆邪神?」
「当然だ。我々は信仰も神も奪われたのだ。それを怒らず、どこで怒ればいい」
「ますます馬鹿だわ……」

 灯は苛立った。
 こう言う事か。キリスト教に迫害されたどこかの宗教がキリスト教の祝日に盛大に嫌がらせとか、そんな事か。

『神は誰も差別しない。差別を勝手にしているのは人間であろう』

 朱雀は既にあくびをしそうな位につまらなそうな顔をしている。
 煽ったのはどこのどいつだ。灯は苛立ったがぐっとこらえた。

「その子達を解放しなさい。今だったら見逃しても構わないわよ?」
「この数で勝てると思うか? 邪神の巫女」
「邪悪なるものに天の裁きを」
「天の裁きを」

 黒いローブの者達は、皆同じ顔に見えた。
 虐待に虐待を重ねた結果、歪んでしまった顔だ。皆、銘々に大鎌を構えていた。
 灯はちっと舌打ちした。
 男共だけだったら朱雀の炎で焼いて捨ててしまえば何も残らないが、女子供が混ざっているのが厄介だった。

「朱雀、力を貸して」
『御意。生け捕りか?』
「できればね」

 灯の手が炎を纏った。

「この邪神の巫女、炎を使うぞ!!」
「抜かせ、所詮我らが神が邪神などに負けはせぬ!!」
「……だから、誰も貴方達の神様を邪神なんて言った覚えはない」

 灯は左手を振るった。
 炎は赤く火の粉を吹き、吹いた火の粉は翼に変わった。
 灯が右手を振るうと、炎が変形し、それは弓矢に変わった。
 灯は翼で空を飛ぶと、弓矢を黒いローブの者達に打ち放った。

「邪神の巫女が空を飛んだ!!」
「ひるむな!! 当たらなければ意味はない!!」
「……怪我はさせないわ。大人しくして」

 矢は全て床に刺さった。
 黒いローブの者達は、矢が当たらないと分かった瞬間、安心して大鎌を振り回した。
 灯は大鎌をすれすれで避けつつ、矢を打ち続けた。

「馬鹿め! 空を飛べたとて、当たらなければ……!」
「いいから黙りなさい。朱雀」
『御意。封印』

 翼が広がり、大きく羽ばたかせ大量の火の粉を吹く。
 それが大量に床に降り注いだ。

「熱っ……く、ない?」
「くそっ、まやかしか?」
「あれ?」
「どうした!?」
「出れない!?」
「まさか……」

 矢が打たれた場所。
 それは五行星を描いて円となり、火の粉を浴びて結界と化していた。
 黒いローブの者達は一網打尽に結界に封じられたのだ。

「卑怯者!! 我らを倒した所で、第二第三の……」
「うるさい。いいから眠りなさい」

 灯が冷たく言い放った。
 火の粉の色が赤から青に変わる。
 その途端、結界に封じられた者達はバタバタと倒れた。

「……一体、この人達どうしようか」
『人間は難儀なものだな。白黒をつけ、善悪を付けなければ生きていけないのだから』
「日本は全てを受け入れる国、だったっけ? どう言う事?」
『今のこの国の神は外つ国の神も土地神も含めて存在する上、なおも他の国の神を祝う国はそうないからな。我らも元は大陸からの客神だ』
「そう言えばそうだったか……」

 東京タワーから見たこの街の風景。
 イルミネーションの1つ1つの下に人が息づき、きっとここを見ている。
クリスマスは、全ての人が諍いを忘れて許し合える日だといいのに。
 灯はあたかも日本人らしい事を考えて、寒さも忘れて星の海のように見える街の風景を楽しんだ。

<了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0166/赤羽根灯/女/20歳/赤羽根一族当主&大学生】

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■         ライター通信          ■
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赤羽根灯さんへ。

ハッピーホリデー、ライターの石田空です。
WS・クリスマスドリームノベルに参加して下さりありがとうございます。
ロシアのクリスマス(1月7日)に間に合わせたかったのですが、力及ばず申し訳ありません! 過ぎた分だけ楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、よろしければ通常依頼やシチュエーションノベル、聖学園でお会いしましょう。
WS・クリスマスドリームノベル -
石田空 クリエイターズルームへ
東京怪談 The Another Edge
2010年01月12日

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