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『楽しい休日、戦の準備 』
神崎・子虎(ga0513)&白虎(ga9191)





 ラストホープには大勢の傭兵がいて、彼らのために数多くの兵舎が立ち並んでいる。在籍する傭兵の出自はまさに千差万別であるから、兵舎の一室にみかんの乗ったコタツがあろうとなんら不思議ではない。
 なぜコタツなのか、なぜみかんが乗っているのか。それらも全く重要ではない。注目すべきはコタツにあたっている約二名のほうである。神崎子虎、そして白虎‥‥いずれも愛くるしい少女、ではなく、女装した男の娘達だから困る。誰が困るかはよくわからないが、とりあえず、困る。多分。
「ではでは、会議を始めようかにゃ」
「準備おっけーだよー♪」
 総帥である白虎の言葉に応えて、子虎が両手を天井に掲げる。
 何の総帥なのかと問われれば、今やラストホープ住民の多くがきっと恐れおののく、「しっと団」の総帥だ。その名の通り「しっと」という熱き想いに駆られてカップルどもを突っついたり邪魔したりする集団らしい。テロと称されるほどに活発な活動は、さすがに命のやり取りこそないものの、とんでもない独創性によってかなりのカオスっぷりを披露する。生み出されるのは阿鼻叫喚の図だ。
 一方、想い人のいる子虎はしっと団の団員でもなんでもないのだが、こうしてかもし出されるカオスに惹かれ、自ら協力を買って出ている。そして更なるカオスを撒き散らす。はた迷惑という点では白虎と大差ない。
「やっぱり敵はこのポイントに集まってくると思うんだ。ここには絶好のいちゃつきポイントがあるから」
「それをどうやって一網打尽にするかが問題だにゃー。セオリーとしては挟み撃ち?」
「一塊になっているならそれがいいかもしれないけど、カップルって別のカップルとはある程度離れてるんだよね。誰に言われたわけでもないのに自然と」
「ふんふん。挟み撃ちするための二面がそもそもないわけかー。あ、でも、それなら各個撃破っていう手段もあるよ☆ イベント時のカップルなんてお互いのことしか眼中にないしっ」
 なまじっか本物の戦を現在進行形で経験中であるせいか、カップルという単語をバグアと読み替えてもいいくらいに、本気の目で語り合う二人。本気と書いてマジと読むのは当然である。
 バグアよりもカップルのほうが倒すべき敵なのではないか、と思えてしまうほどに、コタツは緊迫した雰囲気に包まれている。
「囮作戦なんてどうかにゃ」
「その場合、何を囮にするかが重要だねっ」
 むしろこの二人こそが最も恐ろしい存在であるような気もしてくる。だがそれを指摘してくれる者などこの場には存在しない。

 作戦会議は、こうして着々と進んでいった。

 ◆

 作戦が決定したら、次は息抜きを兼ねての衣装選びである。街に繰り出して勝負服を見つけ出すのだ。
「まずはコレ! 記念日にふさわしいちょっぴりゴージャス、でもキュート、ラストホープに咲く一輪の花っ!」
 子虎が読み上げたのは、雑誌に書かれたあおり文句。めいっぱいに広げられた雑誌を白虎が覗き込むと、大切な日に大切な人と過ごすための素敵な衣装が何ページにも渡って特集として掲載されていた。当然、女性向け雑誌である。
 雑誌が訴えているのは愛しい人のハートをゲットするための勝負服であるのだが。
 とりあえず雑誌に示されたショップへ到着してみると、宣伝効果は抜群だったらしく、店内は若い女の子で賑わっている。二人がまぎれていても違和感など全くない。店員すら不思議に思うことはない。女の子に混じって服を選び、姿見の前で体に合わせ、試着室へ入っていく。
 こうまでして誰にも気づかれない二人はもはや男の子ではないのではないだろうか。
「どうかな♪」
 やがて試着室の扉が開き、現れた子虎の装備はなんとホットパンツ。キメの細かいすべすべお肌、すらっとした健康的な太もも。もし誰かが子虎の脚に触れようとしたとして、一体誰が咎められるだろうか‥‥そんな感じ。
 だが白虎にはそれも通用しない。軽く指先を丸めた手を顎の辺りに添えて、渋めの表情をしている。
「んー‥‥外で活動することになるだろうだし、冷えは大敵だよー」
「ううん、ここは勝負をかけないと! 厚手のタイツでカバーすればいけるっ」
「む。タイツ? タイツで行くくらいなら生足なのにゃー! 生足こそ最大の魅力と数えられるひとつ、そこはどうしても譲れない!!」
「そういう風に言われたらこっちも引き下がれないねっ。ニーソやハイソだってあるんだから!」
 雑誌の目的とは真逆の行動を取ろうとしている二人の間で、お互いのこだわりが炸裂する。衣装など作戦に比べれば重要ではない上にしっと団としての活動にはなんら関係のない話ではないかと思われてならないのだが、二人にとってはそうではないようだ。毛糸のパンツを履けばいいだの、それは勝負服にふさわしくないだの、喧々諤々と論争する。店員が苦笑いしていることにも気づかずに。
 いずれの魅力が本当の「最大の魅力」の座を勝ち取ったとしても、ふたりに胸がないことは火を見るより明らかであるので、脚より胸な方々には興味を抱きかねる話かもしれない。だがそんじょそこらの女の子よりも可愛らしい二人だからこそ、トータルコーディネートによってそのような不利はどこかへ飛び去ってしまう。
「あの、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので――」
 とはいえ、可愛いから何でも許されるなどというのは大間違い。見かねた店員がおずおずと二人に声をかけた。はっと我に返る二人。周囲には人だかりができている。
 二人はカオス大好き上等万歳ではあるが、現状は好ましくない。なぜなら女の子オンリーだから。しっと団はあくまでしっと団。カップルの邪魔をしてこそのしっと団であり、それ以外のカオスなど二の次以下。
「「ごめんなさいっ」」
 素直に頭を下げるのであった。

 ◆

 というわけで場所は武器庫へと移る。
 決して店員に追い出されたからではない。しっと団としてのトータルコーデの最終章が武器であるからだ。二人が両手に下げた大きな袋の中身にぴったりしっくりくる、それでいてどんなカップルもカオスの渦中にぶち込むような、そんな素晴らしい武器がエックスデーには欠かせないのである。
 武器庫といっても、倉庫と称するほどではない。かといって部屋とは呼びにくい程度の広さである。それなのにど真ん中には笑えるほど大きなタンクが陣取っているのが邪魔で仕方ない。
 白虎は、一抱えもある本格的なフォルムの水鉄砲を棚から下ろし、手に取った。機械でできているわけではないので見た目ほど重くはない。本来であれば水を入れるべきパーツを外し、その注ぎ口をタンクから突き出ている蛇口に押し付ける。栓を開けると、パーツはみるみるうちにどす黒い液体で満たされた。
 ほのかな生臭さが香るようになったパーツを元の位置に取り付ける。次に、ポンプを十数回スライドさせて空気を圧縮する。そして銃口を壁――的として描かれた何重もの円に向け、発射。円は一瞬で黒く塗りつぶされてしまった。
「これぞ、イカ墨発射用超大型水鉄砲にゃー!」
 通常の水鉄砲は水以外のものに長く耐えられるようにはなっていないという。白虎はそれに満足できず、自分で試行錯誤を繰り返して、とうとうイカ墨用の水鉄砲を開発した。
 ――そう、生臭さの香る黒い液体は、イカ墨だったのだ。
 負けじと子虎も棚から風呂敷包みを取り、床に広げる。ごろごろとヤバそうなフォルムの物体がいくつも現れた。
「おめかしカップルになんという嫌がらせ! イカ墨地雷っ!」
 やはりイカ墨を使用しているらしい。地雷ということで自分ではさすがに実演できないため、先程白虎が黒くしたばかりの的に投げつける。外殻がはじけ、内側に閉じ込められていたイカ墨がべしゃっと飛び散った。白い服など着ていようものなら涙目必至だろう。
 ちなみにイカ墨発射用超大型水鉄砲にもイカ墨地雷にも殺傷能力はない。当然である。嫌がらせなのだから。カップルの邪魔をしてカオスが生まれるのならそれで万事OKというわけだ。
「しかーしっ!! 僕にはもうひとつのとっておきアイテムがあるのだー!!」
 天井から垂れる紐を子虎が思いっきり引っ張ると、的が描かれた壁の上から縦長の幕がガーッと下りてきた。それはなんと、子虎の想い人が映った写真を大きく引き伸ばしたものだった。作成者はもちろん、子虎である。そしてこの場に登場させたのも子虎であるのに、「そんなに見つめられたら照れちゃう」等と言いながら頬を朱に染める。
 だが、乙女のごとく恥じらう子虎の手には、いつの間にやらライフルらしきものが握られていた。
「嫁には絶対僕がなるのだ! 他の人にはあげないのだー♪」
 構え、放つ。至極まっとうな結果として、想い人の笑顔にびちゃっと広がる黒い液体。イカ墨狙撃銃の精度はなかなかのものであるようだ。
「どんな風になっても、僕は大好きだよー! ‥‥なーんて、なーんてっ」
 そしてまた照れる子虎。恋、いや、愛に生きる者の何というゴーイングマイウェイ。なぜ愛しい相手を的にせねばならないのか。本人以外には理解の及ばぬところである。
「さすがはボクが背中を預けることのできる数少ない存在のひとりなのにゃー!」
 そんな子虎に感心しきりの白虎も、やはりカオスの伝道師。今目の前で生じているカオスに臆することなく、温かく受け入れ、更なる高みへと登らせようとしている。
 ――ああなんと恐ろしい。抑え役の不在はこれほどまでに恐ろしい事態を生み出すのか。


「これで準備OKだねっ」
「あとはバレンタインを黒く塗りつぶすだけにゃ♪」
 生まれ持った性別などお構いなしに誰もがその愛らしさを肯定するだろう彼らの、屈託のない、まるで赤ん坊のような無垢な笑顔。
 新調した衣装を着て、開発した武器を手に、考え抜いた作戦を実行に移し、カップルをカオスの沼に叩き込む。二人の歩む道はいい具合に洗練された「お騒がせ」であり、彼らとしっと団の名を、ラストホープの歴史に深く刻み付けることとなる。
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2010年03月23日

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