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『『白き石を求めてさまようひとたち』 』
ライル・フォレスト(ea9027)

――その聖なる山には、幸せになるための白き石が宿っているという…

 アンジェリカが、そんな伝説を聞いたのはいつの日だったか、はっきりとは覚えていなかった。
 ただ、ごうごう、と爆(は)ぜる暖炉のそばで祖母から子守歌のかわりによく聞いていたのだ。
「よぉくお聞き。あの聖なる山に白き光がつねに輝く日に頂上には幸せをもたらす石がつくられるという」
 
しかし、その伝説は本当の話だと人々に噂されたされたのはいつだったか。
彼女はもしもの可能性を胸に秘めて、その山の幸せの石を手に入れたいと冒険者を募ることにした。

幸せの石を探してくれる冒険者は、やがて現れた。
彼女は、彼らにその石が眠る山の地図を渡し、くれぐれも気をつけるように念を押して旅立たせる。

 *   *   *

 「……あれぇ?」
 聖なる山へ向かった冒険者の一人である金髪のレンジャー――ライルが素っ頓狂な声を上げたので、同じく共に幸せの石を探しに向かう仲間の浪人――十四郎は思わず前を向いていた顔を振り返る。
 「…どーした?」
 親友の言葉を、ライルはは平然と無視をして、アンジェリカからもらった地図をこれでもかというくらいに凝視する。時たまに「うーん」や「いや、この道だよねぇ」とぶつぶつと難しい顔で言葉を零す。

 「地図の道が…変わってる…?」
それは疑問というより確信の言葉だった。つまり、今すすんでいる山道と地図に書かれている山道が間違っているとうことで――。
 しかし、その地図は――先程までただ道が記されている《ただの一枚の紙》だと思っていたのだが…もしかしすると――

 「この地図、生きてる――?」
地図の中の道がうようよとあっち行ったりこっちいったりしている。ライルはそう結論付ける。その言葉に変な顔をしたのは十四郎だ。
 「はぁ? 地図が生きてるだぁ? 動物が餌を求めて動くみたいにかぁ?」
 「そーだよ。この山は…その白い石を取られるのを、拒んでる」
土地勘にも詳しいライルが、なかなか信用しない彼に口を尖らして、心外だという表情で応える。ライルの子どもみたいに生真面目な顔に十四郎は考える顔になる。
 「するってぇとあれかい? 今まで石を取って帰って来た者はいないっていうのは…」
 十四郎は、出発の際にアンジェリカから聞かれた内容を思い出す。

――幸せの石が眠る山に行って、石を持って帰って来た者はいないって聞くわ。

 だから気をつけてね、と雑貨屋の女主人は二人に念を押していた。
 「そういうことだろうね。この山はその石を取らずに帰ることを強制している。もし石を取れば――」
 山は石を持って行った者を返しはしない、と言外にそう含めるようにふんと鼻を鳴らす。
 「上等じゃねぇか」
十四郎は最近鳴らしてない腕をぽきぽきと鳴らす。そして相棒をみる。
 「そうだろ、なぁ?」
 「ああ、意地でも取って見せようじゃん?」
軽快な口調だが、ライルは真剣な表情をしている。



 ライルはその常に変化していく道に飽きることなく印をペンでつけていく。道の印には十四郎の白い布を使う。
 それでも山の中腹に進むまで何日かかった。夜の山は危険だということで安全な場所を見つけて休息することも何回かあった。
 そしてその何回目かの休息の時間――
 「…ライルお前、食料勝手に取ってたりしないよなぁ?」
十四郎が酒を飲みながら、話の肴に半分冗談を混ぜて、疑いの目をライルに向けた。
 「するわけないでしょ、だいたい君が見逃さないでしょ?」
酒が入ってほろ酔い気分でライルは軽く笑いながら応える。その反応に十四郎はまじめくさって考える顔になる。
 「…だよなぁ。するってぇとこれはこの山の挑戦とみたが」
 「え?」
ライルは目を丸くする。一気に酔いが冷めたように、きょとんとした表情で彼を見つめる。
「食べ物がなくなっちまった。しかも跡形もなく、な」
ライルは大げさに驚いてばっと立ち上がる。
「うっそだぁ―! えぇ? もう全部ないの?」
十四郎は不本意そうに頷く。
「じゃあ、これから空腹のときはどーすんのさぁ」
「仕方ないだろ。この山に生えてる草で毒の無さそうなの採って食べるんだな」
「……頼りにしてるからな」
「――上等だよ」
十四郎は唇の両端をあげる。

 山の中腹まで上ったところに不自然に空いた祠がある。
「なんだこりゃあ?」
「しっ! …」
ライルが人差し指を口に当てながら祠の中に耳をそばだてる。
数刻経ってから彼はそこら辺に落ちている小石を祠の中に投げいれる。
 反応は…こつんという地面に当たった音だけ。
 「…大丈夫みたいだよ。行こう」
 「そうだな。」

 祠の中を、ライルが先頭に立って歩を進めていく。
 目の前をびゅっと何かが掠める。
 「うわっ!」
慌ててライルが後ろへよろける。後ろの十四郎が立ち止まる。
 「どーした?」
ライルは、すぐさま態勢を戻して目の前に飛んできたものに焦点をこらす。そこにいたのは…。
 「おぅ、ウサギじゃねぇか」
十四郎が視線の先にいたもの――薄い桃色の尖った耳に白い毛並み、赤い目の動物であるウサギをとらえて思わず声をあげる。
 ライルも同調する。
 「なんだぁ、ウサギか。…でもウサギってこんな山に?」
当のウサギは突然の闖入者である二人を見て驚いたように固まっていたが、ハッと何かを思い出したようにピョンピョンと踵を返していく。
 「あ、待って! 俺たちは怪しいものじゃないし、君を今晩のおかずにしようなんて考えてないから!」
 「…おいおい、お前そんなこと考えてたのかよ」
十四郎の呟きを途中にライルは、ウサギを追って祠の奥へと入っていく。
 残された十四郎は半目でやれやれと溜め息を吐く。
 「…ったく。あいかわらずなあわただしさだなぁ。レンジャーが罠かもしれない存在にハマッってどうするんだよ。まったく…!」
 腰に携えた煙管に手をかけながら彼も追いかける。


――その祠の奥にウサギはいる。
 「あ、ウサギくんいた! 大丈夫だよなにもしないか…」
あくまで笑顔を絶やさずにナックルをはめたライルがウサギに近づき、ふと彼は違和感を覚える。
 「あれ、君…その持ってるものは…?」
ウサギがその手に抱えているものは、よく見れば白くて丸くて硬そうなものだった。ライルはぴたりと一瞬動きを止める。確かこの山にあるものは白い石で――。
 「あ――っ! 石っ」
ライルは我に返り、無我夢中でウサギを捕まえようとした。しかし、殺気を感じたのかそのウサギもすんでのところで飛び去り、ライルは宙をつかむ。
 「わあぁっ!」
しばらく宙を浮いていたかと思えば、どさっという音を立ててすっ転ぶ。
 「いってぇ、ちくしょぉ…」
上目遣いで見れば、例のウサギがライルを見下げて不敵に笑っているよう。
 しかしウサギは背後に忍び寄った大きな手に首根っこを捕まれる。
 「おっと。ウサギ、捕まえたぜ。罠――とかはないようだな」
ウサギの首根っこを捕まえた十四郎はあたりをキョロキョロと見回しながら何も起こらないことを確かめ、とりあえず息を吐く。
 「罠かどうかくらい見極めろよ――ってなんだこいつ、なんか持ってる?」
十四郎がもう片方の手でウサギの抱えている白い玉を取ろうとする。
 「うわ、痛ぇっ」
白い玉をつかむとウサギが十四郎に指を噛む。そのはずみで、白い玉はすべての手から離れる。

――パリィン…!
白い靄で視界が覆われる。
「うわおっ…何もみえねぇ…!」
「わわっ…あれ、ウサギは?!」


――どれくらい経ったのかは正直わからない。
 白い靄に眠気を誘われてどうやら眠っていたらしい。
 気がつくと、ライルと十四郎は祠の前にいた。
 先に気づいたのは、ライルの方だった。彼は山のまわりにまだ霧がたちこめていたものの、その異変に気づく。
 「あれぇ――? 祠の穴が…ない?」
彼が素っ頓狂な声をあげる。先程までウサギを追って入った穴が、消えている。空洞だった穴は今、固い土で封鎖されていた。
 ライルの声に眠っていた十四郎も目覚めて立ち上がる。
 「なーんか甘い匂いがしねぇか?」
十四郎は、くんくんと鼻を動かす。つられてライルもまわりを嗅ぎ始める。何を思ったか、木の幹のそばまで駆け寄って、指に木の樹皮をこすりつけて舌で舐める。
 「甘い…甘いよこれ! この木、お菓子だ!」
 「なにぃ? どれどれ…お、本当だ」
どれ…っと十四郎も樹皮を指につけて舐め始めて、びっくりした表情になる。ライルは辺りをキョロキョロと見回す。
 「もしかしてこの土も? この草も、この岩も?」
ライルは山にあるありとあらゆるものすべてを指につけて舐めてみる。どうやら彼の判断は正しかったようで、笑顔になる。
 「これは…しばらく食料いらないね」
 「そのようだな」

その日も暮れたのでその場で暖と宿をとることにしたライルと十四郎は、あくる日、山の頂上へ向かって出発する。その山の岩肌、草、花、石ころ…すべてがお菓子でできていたので、それを食材に料理して食事をとり、余ったものは保存食として皮袋に詰めておいている。

 山の頂上へのルートを確認しながら歩いていて、ライルは気づく。
 「あ…あれ?」
 「今度はなんだよ?」
 「道が…あの人からもらった地図に戻ってる…」
 「何ぃ?」
十四郎も地図を覗き込む。あの人とはこの山の地図と依頼をくれたアンジェリカのことだ。
 そうなのだ。ライルはもらった地図と先程までの、変化する地図を見比べてルートを確認してそのことに気づく。
 十四郎も思案する顔つきになる。
 「なんかあったっけなぁ」
 「あれじゃない?」
 「あれ?」
 「ほら、あのウサギ。白い玉持ってたでしょ。あれが割れて――」
 「白い靄がでたやつだろ? それが…どうして」
 「もしかしたら…あの白い玉がこの山を迷わせていたのかもよ…その白い玉を何かの出来事であのウサギが持つことになって、それを俺たちが追って、事故とはいえ割ってしまったから…」
 「俺たちが悪かったとはいえ、そのウサギには感謝しねぇとな。それで迷わずにすんだしなぁ」
十四郎は目を細めて笑う。

 「じゃあ行こうか。この地図だと頂上まであと少しだ――」



 その山の頂上付近に来ると、道の両脇にたくさんの木が植えられ、そこに白い硬そうな石のような実がなっている。
 「もしかして白い石ってのはこの実のことかなぁ」
 「そうだなぁ、おい、これ…硬いぞ結構」
十四郎が拳でコンコンと叩くと鈍い音が返ってくる。
 「じゃあこれを採って帰れば任務完了だね!」
 「…だな!」
二人は皮袋に入るだけ詰め込んで帰途へと着く。


 二人は山を降りるときも十分に注意を払いながら下山していく。ライルは周囲を確認しながら進んだが、登っていく時に見つけた白いウサギにはついぞ再び会うことができなかった。そのウサギを見つけるきっかけとなった祠も土に埋もれてこそなく空洞で進むことができたが、壊れた白い石の破片を見つけられなかった。気づいたことといえば、下山すればするほど、山を覆っていた白い靄が深くなり、地上に着いた時には山の頂上は靄に隠されて拝めなくなっていた。
 一番の不思議なことは、山から去るときに消えていた食料が十四郎の皮袋の中に自然と戻っているということだった――。

 ――Fin――


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【 PC/ ea9027 /ライル・フォレスト/男性/ 52歳(外見年齢 26歳)/レンジャー/ハーフエルフ 】
【 PC / ea5386 / 来生 十四郎 / 男性 / 34歳 / 浪人 / 人間 】

【 NPC / 0736 / アンジェリカ・ランカスター / 女性 / 27歳 / 雑貨屋の女主人 / 人間 】

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 《ライル・フォレスト様》 
 はじめまして、ライターの里乃アヤと申します。
 今回は聖なる山への幸せの白い石探索に参加して頂きありがとうございました!
 幸せの石はいらないとのことで山の探索をメインに、探索は得意だけど慌てるところを出したつもりです。イメージと違っていたらすみません…。楽しく書かせて頂けました。
 またの機会がありましたらよろしくお願いします。
甘恋物語・スイートドリームノベル -
里乃 アヤ クリエイターズルームへ
Asura Fantasy Online
2010年04月09日

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