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『熱き魂の誓い!〜癒しは戦いの道程に 』
ガイ3547)&(登場しない)

闘技場―それは格闘に生きる男たちが魂をぶつけ合う荘厳かつ神聖な場である。
己の持つ技の全てを巧みに使い、命がけで仕合い、その刹那に生きる喜びを見出す
格闘家たちにとっては何者にも代え難い華麗なる祭典場なのだ。

「ほおぉぉぉっ、こいつはまたデカイ大会だな」
久しく開催されていなかったという、この町最大の闘技場に張られた予告にガイは楽しげに両の手を鳴らす。
―告 大格闘技祭典開催す。 集え、強者たち。熱き魂を余すことなく魅せつけよ!
闘技場に集まった人だかりからも歓声と期待に満ちたざわめきに溢れているのを肌に感じ、さらに気分を高揚させる。
なにせ、ここは格闘家同士の試合だけでなく、人外―いわゆる魔物たちと戦うことも大会の一環とされている。
危険な、という一部の声もあるが、今まで一度たりとも問題は起こっていない。
出場するものたちは皆、戦うことを専門にしているのだ。
組み合わせ上、魔物と戦うことになっても、あっさり返り討ちにしてしまうのが常である。
が、それ以上にこの町に住まう者たちが誰よりも格闘技好きなのだ。
少々の怪我でも『それが男の生き様だぁぁぁぁっ!!』と言われ、負傷した格闘家にはあらん限りの喝采が送られるようなお国柄。
開催されれば、老いも若きも総出で闘技場に集うほどの町で月1度は必ず開催されていた大会が『ある事情』から延期されていた。
そのせいでなんとなく重苦しい空気に包まれていたのだが、ようやく『再開』の予告。しかもそれが『祭典』となれば、大歓喜に満ちていくのは言うまでもない。
この熱気がガイが燃えないはずがない。
「これは出場しなくてはな」
修行の一環だと出場申し込みのため、闘技場へと足取りも軽く向かう。
闘技場は町の中心にあり、目印には事欠かない。万が一迷っても行き交う人々に問えば、誰もが笑顔で道案内を買って出る。
別れ際には必ず『いい格闘技をみせてくれよな!』とか『健闘を祈ってるよ』と心地よい激励を掛けてくれた。
格闘家としてこれほど嬉しいことはない。
出場を拒否する理由はないな、とガイは笑顔を全開で闘技場に踏み込んだ。

「ガイ?……ぅおぉぉぉぉぉぉっぉっぉぉ!!ガイじゃないかぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ふいに名を大絶叫され、振り返った先に見えたのは受付のロビーを大爆走し、重低音をたっぷり聞かせた筋骨隆々の大男。
その顔は好敵手に出会え、歓喜に彩られてはいるが、いかんせん目がものすごく怖い。
どこかで一戦を終えてきたばかりと思わせるような血走りまくった戦いの目。
いかに顔見知りであっても、ガイは一瞬顔を引きつらせ―勢い良く突っ込んできた大男の顔面に右手を突き出し、その爆走を食い止めた。
「おおおおおおおっ!!」
「すげーぜぇっ!!兄さん!!」
「なんつー筋肉だ、見習いてぇ」
その光景を目の当たりにした出場者たちから上がる叫びを横目にガイは大男に視線を送り―瞠目した。

「悪かったな、ガイ。こんなところでお前に会えるとは思っても見なかったんでな」
照れ隠しのように後頭部を掻きながら笑う大男は以前、ある格闘大会決勝で対戦した男。
その実力は相当ものであり、ガイも一目を置くほどの格闘家だった。
「確かにな。俺もここでお前と再会できるとは思っても見なかったな」
「ああ、まぁ格闘技があるところ俺達は出かけるからな。それが宿命みたいなもんだ……と、ガイ」
ふいに大男は表情を引き締め、ガイを真っ直ぐに見る。
「ここに来たって事は出場するつもりだろう?」
「当然だ。格闘大会は絶好の修行機会。遠慮する必要なんてないからな」
妙なことを聞くと怪訝な顔をするガイを横目に大男はしばし考え込み、口を開いた。
「俺は今ここで働いてるんだが……良かったら、お前もここで働かないか?雑魚寝になっちまうが、部屋もある。オーナーもいい人だ」
どうだろうか、と話しかけてくる男の目はいつになく真剣で、容易に無視できるものではなかった。

案内された応接室で出迎えたのは格闘場のオーナーとはかけ離れた小柄で人の良さそうな恰幅の良い男。
自らガイをソファーを勧めると、いそいそとお茶を入れに立ち回る―なんとも親近感に溢れた人物だった。
「あなたのことは存じ上げておりますよ、ガイさん。こんな町の大会においで下さるとは思いませんでしたよ」
吟遊詩人に語られる無類の武道家にして、義に厚き好男子。おごることなく、自らを高めることを旨とする武人の鏡だと大げさに褒めちぎるオーナーの姿はどこか切羽詰ったような、必死さが漂っている。
「持ち上げられても何もでないが、ここで働かせてもらえるのか?」
「ええ、それはもちろん!!そちら様の条件さえよろしければ、ぜひお願いしたい」
探るように言葉を選んで問うとオーナーはテーブルに額をこすりつけ―まさに平身低頭に頼み込む。
大規模な闘技場の主がこんなに頭を下げるなどありえない。しかし、裏を返せば、そこまでしてガイにいてもらいたいという何かがあるという現れだ。
静かに大男に視線を移すと、彼は居心地の悪そうに頭を掻きながらため息を吐き出した。
「かなわねぇな、ガイ。だから信用してんだけどよ……お前、治療師としての腕も確かだったな?」
いきなり話が突拍子もない方向に飛び、ガイは一瞬唖然となりながら、小さくうなずく。
「実はな」
「その先は私が話すよ……オーナーの役目だ。ですが、ガイさん。このことはどうか内密にしてください」
頭を上げたオーナーはすうっと目を細めて、ガイを見ながら大男から言葉を引き取った。
闘技場は格闘家同士の闘いの場であり、その性質から常に怪我が付き物で、どこも闘技場でも必ず専属治療師がつくように義務付けられている
この闘技場も同様に専属治療師がいる―いや、正確には『いた』。
彼は治療師としての腕は良かったが、金にうるさく、かなり強欲。
先代オーナーのお気に入りであることをいいことに、一度の治療で一試合以上の賞金を吹っかけることもしばしあり、毎回問題を引き起こしていた。
ついでに博打に手を出して、山のような借金まで作っていたほど。
先代オーナーを補佐をしていた現・オーナーから見ても良い印象はなかったが、ただ一人の治療師ということで目をつぶってはいた。
だが、ある時、試合中に大怪我を負った闘士を金がないという理由から治療を拒否した挙句、もう役は立たないと先代に言って放り出すという蛮行に出た。
幸い事態に気付いた現オーナーが医者に駆け込み、街中を走り回ったお陰で大事に至らなかったが、これがきっかけになった。
数日後、治療所で先代と治療師は何者かによって暗殺。
ついでに不正経理などが一気に摘発され、先代の一族は追放。闘技場の運営は一時停止。
その後始末をどうにか片付け、ようやく再開にこぎつけたはいいが、次の専属治療師が不在となってしまった。
「後任は決まってるんですが、街道で土砂崩れがあって到着が遅れると知らせがありまして……始まった大会を治療師待ちで遅らせるわけはいかないんです。真に勝手な頼みではありますが、短い期間でよいのです。ガイさん、どうか治療師をお受けいただけませんか?」
「ガイ、俺からも頼む。オーナーはそれさえ引き受けてくれたら、ガイの好きなようにしていいと思ってる。闘士として試合に参加してもいいって言ってくれたんだ。俺もお前とはもう一度手合わせしたいしな」
切々と訴え、再び平身低頭するオーナーにガイは肩を竦めた。
確かにひどい話があったものだ。だが、現・オーナーが詫びることではない。
暗殺された先代達と違って、この闘技場を守ろうとする誠実な人柄は伝わってくる。
でなければ好敵手である大男が親身になって頼み込むはずもない。
何よりも『闘士』としてのガイの立場も理解してくれているなら、言うことはなかった。
「いいだろう。闘士兼治療師として働かせて頂くよ」
にっと人好きする笑みを浮かべて、親指を立てるガイにオーナーは三度目となる平身低頭をして感謝し続けた。


激しくぶつかり合う拳と拳。
流水のごとく滑らかな動きで相手を翻弄しながら、正確に一撃を加えていく者。
炎のごとき闘気をたぎらせ、巨大な魔物に突進していく者。
極限までに練り上げた気を纏わせたケリを受け止め、勢いを利用して拳を繰り出す者たち。
まさに格闘技の演舞。
己の技を最大限までぶつけ合う闘いに怪我は当然の結果である。
「ガイさん、次の患者です。治療を頼みます」
担ぎ込まれた闘士をベッドに寝かせると係員たちはガイに一礼して、駆け足を通り越して爆走の勢いで武舞台へと戻っていく。
これが本戦だからな、と治療しながらガイは苦笑いを浮かべる。

契約が決まったその日からガイは闘技場に泊り込み、修行で怪我をした闘士たちの治療に負われた。
相部屋な上に雑魚寝しかできない部屋で申し訳ないと平謝りしながら、食事などのその他を何かと心配りしてくれるので気にはならない。
大会間近ということもあって、怪我人の数は日を負うごとに増えていく。
手加減も何もない。それこそ重傷という闘士も多数。
「少しは手加減しろ。本戦で戦えなかったら話にならんぞ」
苦笑しながら、傷に手をかざし、痛い痛いと呻く重傷者に自らの気を送り、回復を促す。
天も割れんばかりの(違う意味での)絶叫が治療室内に響き、指先一つ動かせなかった闘士が飛び起きる。
「いてぇ!!じゃねぇ……痛くねえ?ってか、治ってる!?」
全身を締め上げられるような激痛が確かに走ったが、今はまったく痛まない。
それどころか、あれだけの大怪我がほぼ完治しかけていることに闘士は驚愕していた。
「これで大丈夫だろう。さぁ、次は誰だ?」
「……アニキィィッィィィィィィィ!!」
軽く背を叩き、次の患者の下へ向かうガイの背を闘士はしばし見送った後、尊敬の念を込めた絶叫をあげた。
やがて、治療室中に激痛と尊敬の合唱が沸き起こったのは言うまでもない。

手早く正確に終わっていくガイの治療に荒くれ者たちは一様に見ほれたような吐息をこぼす。
これだけの素晴らしい腕前ならば治療費はいくらでも取れるのに、一切費用を受け取ろうとしないガイに誰もが頭を下げ―若い者達はアニキと呼んで慕っている。
しかも格闘の腕もずば抜けていて、ひそかに対戦を願う者も後を立たない。
これもガイの人柄なんだろう、と紹介した大男も苦笑を隠せなかった。
「ガイさん、試合です。後は我々でやりますよ!」
あらかたの治療を終わらせたガイに頬を紅くした年若い係員が駆けこんでくる。
その目にはやはり憧れの色が滲んでいるのが良く分かった。
ガイはその係員に小さく礼をつげ、大きくしっかりとした足取りで武舞台へと踏み出していった。
割れんばかりの熱気と歓声が周囲を包むまで、あとわずか。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年04月19日

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