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『【White memories with you/for Her】 』
シャロン・エイヴァリー(ga1843)

●白き願い

 白い月と赤い月が煌々と照らす世界にも、白い季節は変わらずやってくる。
 街に点る明かりに、心は仄かに浮かれて揺れて。
 信心深くなくても、信じるものすらなくても、何かに願いを託したくなる。
 ――例え、それが子供じみた夢想でも。

 雪の降らぬ、希望の島。
 白い世界に包まれた、どこか懐かしく古い街並み。
 多くの人々が集まり、賑わう都市。
 いずれの地にも、等しく聖夜が訪れる。
 それだけは、人知及ばぬものの奇跡かもしれない。


●そは白く淡い、夢幻の願い
「行っくわよぉ、それ……ッ!」
 掛け声と同時に、ぱっと白い雪片が散った。
 ジャンプ台から飛び出したシャロン・エイヴァリーは、左膝を引き上げ。
 左手でスノーボードのノーズ(先端)を掴み、右手は斜め後ろ方向へと伸ばす。
 トリック『ノーズグラブ』を披露してから、難なくシャロンは着地して。
 コース脇まで移動してからブレーキをかけると、山頂側へ大きく手を振った。
「Hi、硯〜!」
 弾む声で呼びかけるシャロンに、緊張気味な鏑木 硯がぐっと口唇を結む。
 それからノーズを斜面へ向けて、滑り出した。
 スピードをつけると、固めた雪で出来たジャンプ台を真っ直ぐに目指す。
 直前、軽く後ろへ重心をかけてから、テールの反発を利用してシャロンより高く跳んだ。
 そのまま、トゥエッジの左足近くを左手で掴み、身体自体は大きく後ろへ反らせる。
 トリック『ジャパン』をキメると、危なげなく硯も雪へ着地した。
 そしてザァッと雪を切って、シャロンの傍らへボードを止める。
「やるわね、硯」
「身軽さでは負けられませんから……ちょっと、頑張ってみました」
 ゴーグル越しに悪戯っぽい瞳で感心するシャロンへ、少し照れた表情で硯は胸を張った。
 そんな彼を見つめながら、グラップラーである相手に負けず嫌いの虫がちくりと騒ぐ。
「……シャロンさん?」
 そして名を呼んで首を傾げる硯へ、彼女はニッコリと明るい笑顔を返した。
「硯、競争よ!」
「え……」
 びしっと人差し指を突きつけたシャロンからの『宣戦布告』に、意味が分からずにきょとんと硯は彼女を見つめる。
 そして笑顔の中にある不敵な気配に、遅れて言葉の意味を理解した。
「……えぇっ!?」
 改めて硯が驚けば、シャロンは突きつけた指を左右に振る。
「単純に、どちらが早く町まで降りるかで、どう?」
「あの、競争って……」
「ここでなら、足の速さは関係ないからねっ」
 慌てる間にも、次々とシャロンは競争の中身を決めて。
「どう、受けて立つ?」
 細い腰に手を当てると、挑戦的に尋ねた。
 当然の如く硯は逡巡し、おもむろに口を開く。
「分かりました、勝負ですね。手加減は、しませんから」
 そんな彼の反応を楽しげに見届けたシャロンは、満足げに一つ頷き。
「負けたら……そうね、勝った方をロッジまで背負って移動!」
「せ、背負って!?」
「行くわよ、レディ・ゴー!」
 狼狽する彼を尻目に、言うが早いかシャロンは雪を蹴った。
「あぁっ! シャロンさん、ずるいですよ!」
 振り返らずとも、不意打ちを食らった硯が慌てて追いかけてくるのが分かる。
 どこまでも続く白い斜面を、二人のスノーボーダーは風をまき、滑り降りていった。

   ○

 きっかけは、ほんの数日前。
 日々バグアと戦い、世界を駆ける能力者にも休暇は必要……という事で、シャロンは硯と二人、休みを利用してのリゾートを計画した。
 互いに身体を動かす事が得意となれば、向かう方向性は自然とウィンター・スポーツに絞られていき。
「冬のヨーロッパでのウィンター・スポーツは、アルプスが好適地って聞くけれど……どこか、お勧めってあるのかしら?」
「こう、凄い立派で豪華な場所でなくても、ゆっくり出来ればいいんですけど」
 南仏はカルカッソンヌの郊外にあるブラッスリ『アルシェ』を訪れたシャロンと硯は、料理の注文でもする様に、主のコール・ウォーロックへ尋ねた。
「まぁ、肩肘を張ってなきゃならん場所だと、逆に疲れるだろうしな」
 ぷかりと紫煙を吐いて苦笑したコールは、髪を掻きながら少し考える。
「スイスまで行かず、フランス国内がいいのか? それならシャモニを拠点に、観光を兼ねてあちこちを動くか……ゆっくり過ごすなら、一週間ほどメリベルに滞在するのもいいな」
「メリベル、ですか」
 聞き慣れぬ名前に硯がオウム返しに聞けば、おもむろにコールはカウンターの向こう側でゴソゴソと何かを探し始め、やがてローヌ・アルプの地図を取り出した。
「メリベルは、世界最大のスキーエリアと言われる『トロワ・バレー』にあってな。トロワ・バレー自体は有名だが、とにかく広いから混雑は少ない。景色もいいから、滑り飽きる事もないだろう。もっとも……」
 地図を見せながら説明していたブラッスリの主は言葉を切ると、意味ありげに二人を見比べ。
「どこへ行っても、お前たちなら飽きないと思うがな」
「どうせ遊ぶなら、めいっぱい遊ばないと!」
 意味深な言葉を硯が消化しきる前に、シャロンは片目を瞑ってみせる。
「確かにな。ま、メリベルにはホテルもあれば、ゆっくりできるプライベート・コテージもある。景観は保障するから、好きな場所で存分に羽根を伸ばすといい」
「ありがとうございます、コールさん」
 アドバイスするコールに硯は礼を告げ、地図をじっと見つめた。

 そうして二人は、ここへ来た。
 青い空の下、遠くにそびえ立つ白い峰々。
 黒々と点在するモミの森に、遮るもののない雪原。
「凄い……」
 文字通り見渡す限りの銀世界の真ん中で、思わず息を飲んだ硯が立ち尽くす。
 ……隙あり。
「えいやーっ!」
「ほぇわぁぁーーー!?」
 無防備な背中に、弾みをつけたシャロンが思いっきり『ふらいんぐ・ぼでぃぷれす』をぶちかませば。
 そのまま硯を巻き込んで、一緒に柔らかな新雪へ力いっぱい飛び込む。
「ちょ、シャロンさんっ!?」
「あははっ、ごめんね硯!」
 驚いて目を白黒させる硯へ、雪まみれのままシャロンはころころと笑った。
「なーんか、こう……楽しいなぁって」
「いえ、大丈夫ですし……その気持ちも、分かります。確かに、凄いところですよね」
 三つの谷にある、五つのスキー場で構成されるトロワ・バレーには、それなりにリゾート客が滞在し、リフトでもスキーヤーやスノーボーダーたちを見かける。
 だが広大過ぎるゲレンデに出れば、二人っきりも同然だった。
「でも見ているだけも、もったいないですよね」
 雪を払って立ち上がった硯は、おもむろに手を伸ばし。
「せっかく来たんだものね!」
 笑いながら、シャロンが差し出された手を掴む。

 かくしてスノーボードを付けた二人は、無邪気に雪と戯れ始めた。

   ○

 冷たい風が、唯一、外気にさらされている肌へと吹き付けていた。
 雪山の斜面には、当然の如く自然に出来たコブや段差が随所にあって。
 先を行く硯はあえてソレらを回避せず、足をひきつけ、コブを足場に飛ぶ。
「さすがグラップラー、といったところね」
 硯の身軽さに、改めてシャロンは感心し。
「でも、負けないわよ」
 彼を追い抜くとテールに体重をかけ、水面を跳ねるイルカのように軽やかなオーリーで対抗した。
 競争といっても、単純にスピードを競うわけではなく。
 道なりのジャンプで、とっさにトリックを演じ。
 あるいは相手を挑発するように、パウダーへ突っ込んで一面の雪を弾き飛ばした。
 追う側はパッと舞い上がった雪の中へ、あえて突っ込んで、突っ切る。
 そうして戯れるかのように、二人は前へ後ろへと互いの位置を変えていた。
 辺りは、一面の白。
 スピードに乗ってジャンプすれば、そのまま青空の中へ飛んでいけそうで。
 ナイトフォーゲルを駆っている時とは違う、身体全体で感じる疾走感が、もっと速くと背中を押す。
 やがて、モミの森の向こうに町の風景が見えてくると。
 何故か急に、硯のスピードが緩んだ。
 無邪気なレースの名残を惜しんでいるのか、それとも彼女に勝ちを譲る気なのか。
 あるいは……日本人的な配慮というか、控え目な性格なのか。
 常日頃から、例え彼女と勝負をしても、最後の最後で詰めが甘い相手なのだが。
 だからといって、そこで彼女も遠慮はしない。
 逆に、ラストスパートをかける。
 やがて、ゲレンデの傾斜はなだらかになり。
「いっちばーん!」
 雪を切って先に『ゴールイン』したシャロンは、ビーニーの上へゴーグルを引き上げ、満面の笑みで硯へ宣言した。

「ホントにいいの? 無理しなくても、いいわよ?」
「いいんです。勝負は勝負、ですから」
 肩越しに気遣う言葉へ、苦笑交じりで硯は答える。
 約束通り、勝負に負けた彼はシャロンをおんぶして、コテージへの道を歩いていた。
 最初は遠慮がちに気遣っていたシャロンだったが、生真面目に勝負の結果を守ろうとする様子を察したか、それ以上は強く言わず。
 硯の背中で、くすくすと笑う。
「……なんですか?」
「ううん。硯の背中、少し広くなったかなって思ってね」
 手をかけた少し広い肩へ、何気なくこつんと頭を持たせかけた。
「えぇと、そうだ、夕食! 今日はどうします?」
 慌てて硯が話題を変えれば、もたれたままで「う〜ん」とシャロンは考え始める。
 リゾート地だけあって、選択には事欠かない。
 ホテルのレストランで食事を取りながら、見知らぬリゾート客と話に興じるのもよし。気になった地元の店にぶらりと入るのも、楽しみ方の一つだ。
 またコテージにはキッチンもあって、食材を買ってくれば自分たちで料理を作ることも出来るが。
「じゃあ……」
 考えた末にシャロンが選択を告げれば、硯は快く頷いた。

   ○

「な・に・を・食べようかなーっと」
 メニューとにらめっこしながら、シャロンは楽しげに悩む。
 ウェアから着替えた二人は町へ繰り出し、何となく雰囲気が気に入った小さなレストランに落ち着いていた。
 あれこれと悩んだ末に注文を決めれば、やがて生の肉や野菜が運ばれてきて、最後に二人の間に焼いた石の板が置かれる。
「これが、ピエール・ショード?」
「だって。石の上で焼いて、好きなソースで食べるみたいね。コッチがきのこ味のソースで、これがペッパー風味……と」
 物珍しそうな硯へ、四種類ほどのソースを指差しながらシャロンが説明した。
「なんだか、日本の焼肉を思い出すなぁ」
 微妙に懐かしく思い出しながら、石の上へ肉を置けば。
 ジュッと焼ける音がして、香ばしい香りが立ち上る。
 野菜と一緒に並ぶ肉も牛肉一辺倒ではなく、鴨肉や兎肉、ソーセージと、種類も豊富だった。
「焼肉と違って焼き過ぎて焦げたりしないのは、助かるわね。慌てなくていいもの」
「兵舎の皆と一緒なら、きっと焦げる暇もないけど……」
「それもそうね」
 思い出し、顔を見合わせた硯とシャロンはくすくすと笑う。
 そんな他愛もない会話をしながら焼けた肉を皿へ取り、新しい肉を置いた。
「トマトチーズフォンデュも、美味しそうよね。この辺りは、チーズでも有名なのよ」
「じゃあ、明日はそっちにします?」
 別のテーブルから漂ってくる香りに、それとなく誘惑もされてみたりする。
 いつもと違う場所と雰囲気で、いつもと違う料理に舌鼓を打ち。
 冗談を交えながら滑ってきた風景と、明日はどこへ向かうかの相談をすれば、時間はあっという間に過ぎていった。

 店を出ると外気は冷たく、寒そうな硯の腕をシャロンは両手でぎゅっと掴み、身を寄せる。
 そうして二人、風を避けるように寄り添いながら、雪を踏んでコテージまで戻り。
 リビングで燃える暖炉の前に置かれたソファで寛げば、疲れたのか硯がすぐにうつらうつらと眠気に誘われ始めた。
「硯? ここで寝たら、風邪を引くわよ?」
 肩へ手を置いて呼びかけてみるが、くてりと頭が背もたれへ仰け反り。
 苦笑しながらシャロンは黒髪を撫でると、席を立った。
 二階の寝室へ戻ると予備の毛布を引っ張り出し、両手で抱えて階段を下りる。
 足音を忍ばせて戻れば、ソファの硯は離れた時と変わらない姿勢で寝こけていた。
 寝顔を見ているうちに何となく悪戯心がわいてきて、シャロンは頬を指でぷにとつついてみる。
 それでもやっぱり、起きる気配はない。
 ちょっと考えてから、額に手をあてるように前髪をかきあげて。
「……いつも、ありがと」
 無防備な額へ、そっと口唇で触れてみる。
 やっぱり起きない硯から離れると、遅れてシャロンは頬が火照ってくる感覚を覚えた。
 起きなくてよかったという安堵と、のん気に寝ている相手への八つ当たり的な気恥ずかしさが半々で。
 それを誤魔化すように、硯の肩を覆って毛布をかける。
 ……いつから、だろう。
 依頼で何度も顔を合わせていた日本人の少年が、これほどまでに近しい存在になったのは。
 いま思い返しても、自分でははっきりと覚えていないのだけれど。
 いつの間にか、傍にいるのが当たり前になって。
 ――俺はシャロンさんを一人の女性として好きみたいです。
 夏のあの日に、打ち明けられた言葉。
 その後の恥ずかしげな、それでいてほっとした表情は、今でもはっきりと思い出せる。
 驚きもあったが、気持ちはとても嬉しくて。
 でもこの戦いが終わるまでは、どうしても想いを全部そのまま受け入れるという答えは、出せなくて。
 出した答えを、自分よりもずっと緊張した表情で聞いてくれた硯は、これまでと何も変わらずに接してくれている。
 そんな心遣いが、とても……嬉しい。
 思い返す間もずっと相変わらずな寝顔は変わらず、シャロンは毛布の端っこに身を滑り込ませた。
 そのままソファの上を移動して、硯へもたれかかる。
「ありがと、硯」
 小さく礼を告げ、規則正しい寝息を聞きながら、彼女は目を閉じた。

   ○

 目を覚ませば、いつの間にかシャロンは自分のベッドで眠っていた。
 覚め切らぬ頭で記憶を辿り……無意識に戻ったのでないのなら、おそらく硯が運んでくれたのだろうという結論へ行き着く。
「何か、お礼をしなくちゃね」
 悪戯っぽく呟くと、彼女はごそごそと起き出した。
 着替えて身なりを整えてから、朝食の支度に取り掛かる。
 朝のメニューは、イングリッシュ・ブレック・ファースト風。
 ベーコンとソーセージを手始めに、、トマト、マッシュルームを焼き、ベークドビーンズを盛り、トースターでパンを焼き。
 残る料理は目玉焼きとなったところで、紅茶の蒸らし時間の合間にシャロンは階段を駆け上った。
 そうしてノックもせずに、扉を開け放つ。
「おっはよう、硯!」
 明るく、弾む声と共に。
 勢いをつけたシャロンはまるで子供の如く、ベッドの上で丸くなる硯へ、ぼすんっと飛び乗った。



━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ga0280/鏑木 硯/男性/外見年齢19歳/グラップラー】
【ga1843/シャロン・エイヴァリー/女性/外見年齢21歳/ファイター】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変長らく、お待たせしてしまいました。「WS・クリスマスドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 WS……くりすます……もう初夏ですね、今……(がくり)

 じっくりとお二人を書く機会をいただけて、ありがとうございました。
 じゃれるのは決して、苦手という訳ではないのですよ? ないのです、たぶん。
 ……改めて問われると、ちょっと自信がなくなるのですが。
 むしろこう、他愛もないやり取りを書くのは好きなのですが、リプレイでは扱わなければならない『本題』があるため、どうしても真っ先に削る対象になるのが残念なところ。
 ぐいぐいと引っ張っていくシャロンさんは、書いていて楽しいのですが……むしろ、引っ張り過ぎになっていないかとか、心配もしてみたり。
 そんな訳で、リクエストしていただいたイメージにノベルが合っていますようにと、祈っております。
 もしキャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。

 最後となりましたが、ノベルの発注ありがとうございました。
 そしてお届けが大変遅くなって、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
WS・クリスマスドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年05月10日

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