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『【Story that White Moon saw/Spear of Sculd】 』
なつき(ga5710)

●白き願い

 白い月と赤い月が煌々と照らす世界にも、白い季節は変わらずやってくる。
 街に点る明かりに、心は仄かに浮かれて揺れて。
 信心深くなくても、信じるものすらなくても、何かに願いを託したくなる。
 ――例え、それが子供じみた夢想でも。

 雪の降らぬ、希望の島。
 白い世界に包まれた、どこか懐かしく古い街並み。
 多くの人々が集まり、賑わう都市。
 いずれの地にも、等しく聖夜が訪れる。
 それだけは、人知及ばぬものの奇跡かもしれない。


●見上げるは同じ白の月
 どこかでラジオのボリュームが上げっぱなしのまま放置されているのか、ノイズ混じりの音楽が聞こえてくる。
 どこか弾むような曲調だったり、落ち着いたバラードらしき旋律だったりするが、意識しないそれらは耳をすり抜けて。
 夜の町を、ただ黙々となつきは歩いていた。
 どこか浮かれた人々とすれ違い、明かりの点るスーパーへ入る。
 カゴを取るとその足で真っ直ぐ缶詰やレトルト食品の売り場へ向かい、保存の効く目ぼしい食べ物を放り込んだ。
 それから飲料系の棚へ足を運び、水のペットボトルを何本か突っ込む。
 後は何が必要かを考えながら、ぐるりと店内を見回して。
 今更ながら、やけに浮かれた店内の装飾と放送に気がついた。
「……クリス、マス……?」
 思い出したように呟いてから、惣菜の売り場へ向かう。
 ローストチキンや唐揚げなどのパックに印刷された日付を見て、やっと今日が何の日かに気づいた。
 12月24日、クリスマス・イブだ。
 そこから逆算して、『ラスト・ホープ』を去ってから約半年の時間が過ぎていたことを再認識する。
 ……つまり『彼』の元を去ってから約半年、ということだ。
 つきりと、胸の芯に微かな鈍い痛みを覚える。
 だがなつきは僅かに眉をひそめただけで、引っ掛かりを振り払うかのように、勢いよく惣菜売り場へ背を向けた。

 微かな鈍い痛みと共に、一瞬だけ記憶に浮かんだのは『彼』……空閑 ハバキの笑顔。
 しかし、すぐさま記憶の笑顔から意識をそらす。
 思い出したくないのでは、ない。
 あの思い出すのは、自分に許されないことだから。
 それでも、胸の奥深くに沈めていた記憶が一度意識の表面へと上がってしまうと、連鎖的に様々な思考が湧き上がってくる。
 まるで水底から空気の泡が、ひとつふたつと浮かんでくるように。
 今、どんな思いで、今日という日を過ごしているのか。
 どこにいるのか、誰かと一緒に過ごしているのか……あるいは一人でいるのか。
 ……全く気にならないと言えば、それは嘘だ。
 胸の片隅で、いつも引っ掛かっていることを……いっそそれならと引っ掛かりごと閉じ込め、忘れようとしている。
 自分なんかがいなくても、彼ならきっと大丈夫だから。
 今日だってきっと、おおかた彼にとって親友の……アンドレアス・ラーセンの部屋に居させて貰ってるだろう。

 ――アスさん。何となく少し、自分と似た部分をもっている、人。
 色んなものに手を伸ばして、足掻いている……その姿が少し、羨ましい。
 もしも、私が――。

 一瞬だけ頭に過ぎった『仮定』を、ふるりと髪を左右に振って追い払った。
 必要なものを突っ込んだか確認すると、重くなったカゴを持ち直して、足早にレジへと向かう。
 無神経に垂れ流されるやたらと明るいクリスマス・ソングが、酷く耳障りだった。

   ○

 一度、意識をしてしまうと、あちらこちらで見られる浮かれた風景に改めて気付かされた。
 窓辺の控えめなクリスマス飾りや聞こえてくるメロディ、どこからか漂う料理の香り、街角で人々が交わす会話。
 それらを避けるように、足は自然と人が少ない方へ進む。
 どこへ行くのか、自分でも分からない。
 どこへ行けばいいのか、そして何をすれば良いのか。
 周囲が敷いたレールからは外れ、繋いでくれた手も振り解き、切り離して。
 風に流された風船のように、自らが行く先すらも分からず彷徨い、行き交う人の間をすり抜けて、人ごみに紛れ、目立たぬよう影に溶け込もうとして。
 ただただ無言のまま、紙袋を抱えて人の気配が少ない方へと歩き続ければ。
 突然ぽっかりと、目の前に闇が広がった。
 カツリと乾いた音がして、気付かずに蹴った瓦礫が転がる。
 背後からの明かりを頼りにゆっくりと周りを見れば、崩れた建物があちこちで傷跡を晒していた。
 おそらく以前に、ワームの攻撃かキメラによる襲撃があったのだろう。
 こういう場所は、あまり治安もよくない。
 一見すると、非力な女性一人……だが、もし何かあれば覚醒すればいいだけの話だ。
 普通の人間なら、相手が複数だったとしても彼女には敵わない。
 そんな打算や計算が、躊躇なく再び足を動かした。
 ……でも、もし傍にいたら、なんて言っただろう。
 凍結させた感情の外側を、僅かにそんな思考の欠片が滑り落ち。
 気にせず、彼女は再び歩き始めた。
 暖かなクリスマスの光に背を向けて、ただ静かに一人で夜を過ごす場所を探すために。

   ○

 廃墟地帯に近い一角で見つけた安ホテルを、なつきは今夜の宿とした、
 どうせちゃんとした宿を見つけても、クリスマスに心躍らせる者たちで騒々しいだろう。
 それならば多少は寒々しい場所でも、一人で静かに過ごすことを、彼女は選んだ。
 サンドイッチと紅茶で、ささやかな夕食を始める。
 後はベッドに潜り込んで眠れば、けだるい今日は終わるだろう。
 ここにいる人たちは、誰も彼女を知らない。
 誰も、彼女に気付かない。
 そして、誰とも関わらなくてすむ。

 ……クガさん、も。

 気が緩んだせいか、出来るだけ意識することを避けていた名前がふと蘇る。

 ……私に関わらないことで、そのまま私を忘れてくれればいい、のに。

 それが、姿を消した彼女の理由。
 大切で……大切過ぎて、自分のせいで傷つけることが怖くて。
 彼の苛立ちや、不安から――逃げた。
 彼の前から逃げることで、彼の前から『原因』がなくなることで、彼が傷つくことがなくなるならば。
 それでいい。
 それが、一番なんだ。

 ……こんなことを考えてしまうのは、きっと今日がクリスマス・イブだから。

 ケーキもなく、シャンパンもなく、一人っきりで静かにいつもの夕食を終える。
 部屋の明かりを落とし、ぼんやりと窓の外へ目を向けた。
 そこからは、通り抜けてきた廃墟の風景が見える。
 安い部屋代にも関わらず空室だったのは、こんな『ロケーション』が原因かもしれない。
 逆に何もないこんな殺風景な景色の方が、今のなつきは落ち着いた。
 もしも暖かで賑やかなクリスマスの空気に彩られたモノならば……きっともっと、いろいろ思い出してしまっただろうから。
 そうして、やることもないまま外を見ていると。
 ひらりと、白い何かが落ちた。
 気のせいかと思って見ていれば、遅れてまた一つ二つと落ちてきて。
 おもむろに立ち上がり、窓を開けて空を見上げる。
「雪……」
 降り始めたそれに、意識せず、ぽつりと呟いた。
 雲に隠された白い月が薄く浮かぶ夜の奥から、白い雪がひらひらと舞い落ちてきている。
 その光景を、ただなつきは見上げていた。
 雪は、好きだった。
 彼女が覚醒した時に現れる、その身を包み込んで隠すような、熱を持った白い靄(もや)。
 あの靄のように、段々と色んなものを遮断していってくれる気が……する。
 積もるかどうかは分からないが、積もってくれたならと思い。
 そして、目を閉じた。
 彼女自身はクリスチャンという訳ではないけれど、この夜のこの雪に、密かに祈る。

 ……願わくばどうか、彼が。
 彼らが――。

 そうして、月から剥がれ落ちたような雪は、静かに降る。
 暗くて昏い夜のソコを、淡く照らそうとするかのように――。



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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【ga5172/空閑 ハバキ/男性/外見年齢22歳/エクセレンター】
【ga5710/なつき/女性/外見年齢21歳/エクセレンター】
【ga6523/アンドレアス・ラーセン/男性/外見年齢28歳/サイエンティスト】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 大変長らく、お待たせしてしまいました。「WS・クリスマスドリームノベル」が完成いたしましたので、お届けします。
 三人を通して一本のノベルというパターンもあったのですが、やはり個々の主観を重視した結果、今回は少し特殊な感じの構成となりました。

 二人と完全に独立した形のソロでのノベルになりましたが、如何でしたでしょうか。
 イメージ的には、「競合地域のどこかの町」としてみました。何となく安全な町よりは、あえて競合地域のような少し混沌とした危うい場所を選びそうなイメージが降ってきましたので。
 もし例によって……キャラクターのイメージを含め、思っていた感じと違うようでしたら、申し訳ありません。
 その際にはお手数をかけますが、遠慮なくリテイクをお願いします。

 最後となりましたが、ノベルの発注ありがとうございました。
 そしてお届けが大変遅くなって、本当に申し訳ありませんでした。
(担当ライター:風華弓弦)
WS・クリスマスドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年05月12日

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