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『●上海遊楽 』
シーヴ・王(ga5638)
「うは〜っ、凄い眺めです。ユリア、こっちに来るといいです」
「シーヴ‥‥あんまり‥‥身を乗り出すと‥危ない‥です」
 ウェルカムシャンパンのグラスを片手に大きく開いた窓から身を乗り出すシーヴ・フェルセン(ga5638)にユリア・ブライアント(gz0180)が心配そうに言う。

 黄浦江を一望できる高級ホテルの宿泊券を手に入れたシーヴは、上海でユリアにも息抜きが必要だと連れて来たのだ。

 人気のホテルという事しか調べてこなかった為にホテルのフロント一面が黒大理石が張られ、そこかしこに金を基調とした調度品が並んでいるアダルトな様子に当初、緊張していたが、
「流石、高級ホテルです。ベットもふかふか、です」
 今では小さい子供のようにピョンピョンとベットの上でジャンプをしたり、片っ端から引き出しを開けてみたりと、あちらこちらを珍しそうに見学している。

「ユリア、こんなのがありやがったですよ」
 見た事もないような高級アメニティグッズやホテルのキャラクターになっているぬいぐるみを見つけ、嬉しそうに持ってくるシーヴに、くすりとユリアが笑う。
「あれ? ユリアに楽しんでもらうはずが、シーヴが楽しんでやがりました‥‥」
 思わずがっくりとするシーヴ。
「シーヴ、ユリアも‥楽しんで‥います‥‥よ。ただ‥‥ユリアは‥こういう‥‥高級なホテル‥生まれて‥‥初めて‥です‥‥から‥」
 圧倒されてしまっている、と言う。
「それを言ったらシーヴも、です」
 でもここまで来てしまったら楽しむしかないのだ、と言うシーヴ。
「普段出来ない。非日常を楽しむ、です」
「‥‥そう‥ですね」

 では、その非日常を楽しみには何をするか? とホテルのパンフレットと睨めっこをするシーヴとユリア。
 ホテルには、色々な設備が揃っており、とても1日では見て回れない様子である。
 では、何かに絞って行こうという事になった。

「ここのスイーツは絶品らしい、です」
 フランスの有名店で修行をしてきたパティシエがいるというカフェを指差すシーヴ。
 店内の様子は、明るく若い女性にも入りやすそうである。

「あとは、この『貸切スパ』は、外せねぇです!」
 ビシリ、と言うが、
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥シーヴ、一人で決めていねぇですか?」
 静かにしているユリアを心配そうに見るシーヴ。
「‥‥ユリアも‥いいと‥思いますよ?」
 ボディマッサージを頼んだら楽しそうだ、とユリアが言う。

 10代に見える二人だが、共に20代である。
 エステやマッサージ、女の子磨きは、気になるお年頃である。

 お茶をして、スパに入ってリラックス。
 ディナーに行くには、丁度いい時間だろう。

「そうと決まれば、いざ、出陣です」
 オーっ! と二人で気合を入れて、カフェへと向かう。


 ***


「むむ、む‥‥どれも美味しそうでやがるです」
 チョコやフルーツ、飴で飾られたケーキに混じって、オーソドックスな定番デコレーションケーキやフルーツケーキ、焼き菓子が並ぶ。
「どれに‥するか‥‥悩みますね」

 新作も捨てがたいが、敢えてオーソドックスなケーキにするか?

「定番ケーキを出されると、勝負されているような気がしやがるです」

「こういう‥時‥‥家で焼くと‥難しい‥‥パイやシュゼットに‥すると‥‥良いって‥聞きました」
「たしかに家で焼くパイは、お店のパイとサクサク感が違ぇですが‥‥」

 パイを綺麗且つ優雅に食べるのは至難の業である。

「シーヴ‥‥デートの席ならば‥‥気を‥使いますが‥‥女同士‥です」

 二人で顔を見合わせる。

 バニラが効いたカスタードクリームとホイップクリームを優しく混ぜ合わせたクリームとイチゴが層を成すミルフィーユと、クーベルチュールチョコとイチゴが入ったサクサク焼きたてパイに色とりどりのフルーツが添えられアイスクリームサンデー付きプレートを注文する。
 プレートに飾られたミントグリーンとストロベリーレッドが、テラスに差し込む初夏を思わせる日差しに映える。

 ドキドキしながら一口を食べる二人──

「「!、♪♪♪」」

 思わず美味しさによく似た赤い頭が揺れる二人。

「やられた、です」
「美味しいです‥‥」

 ハァ、と思わず二人揃って溜息を漏らす。

「それ‥一口‥‥良い‥ですか?」
「勿論です。行儀悪ぃかもですが、交換です」
 ウェイターが他所を向いている隙にこっそりとお皿を交換する。
「「こっちも、美味しいです」」
 思わず再び同時に言ってしまい、二人で笑いあう。


 ***


 ジャグジーやミストサウナ、薬湯を楽しんだ二人が、プライベートスパコーナーへとやってきた。

「これはベトナム風‥‥っていうんですかね?」

 南国リゾート風に仕切られた部屋を見回して言うシーヴ。

 浴槽は屋外に面していたが、白いサテンのパラソルがある為に外からは見えないので、安心して備え付けられた籠に水着を脱いでいく二人。
 四角い木の枠に囲まれた湯船に足を伸ばして浸かる。

「微妙に日本の温泉、お風呂っぽいです」
「足の伸びる‥お風呂‥‥最高です」

 側には冷たいライムウォーターが用意されているので、幾らでも長湯が出来る。

「こうやってユリアと一緒にお風呂に入るのは、兵舎に皆で泊まりに来てくれたぶりですね」
「そうですね‥‥」

 あの時は楽しかった、と言うユリア。
 あれから1年半が経過している。

「振り返れば短いように思えて早ぇです‥‥その間、色々ありやがったですね」
 ほぅ、と火照った体を冷ますようにシーヴが息を吐く。
「シーヴは‥‥胸が少し‥大きく‥なった‥‥気が‥します。旦那様の‥‥愛情一杯で‥幸せで‥大きく‥なりました?」と笑っていうユリアに、赤面をするシーヴ。

 シーヴは、新婚さんである。
 ユリアはシーヴの夫に会った事はなかったが、ラブラブの新婚さんであると聞いていた。

「ユリアは、そういう人はいねぇですか?」
「ユリアは‥‥いいです‥」
 素敵だと思う人はいても、恋とか、愛とか、そういう気持ちにならない、と微笑むユリア。

「まあ、お手本にならねぇ人が側にいるですから‥‥」
 ユリアの周りには、愛妻家の中年率が高く。
 独身だと品行方正から程遠い人物しか思いつく男性がいなかった。

「今度、合コンとかした方がいいんじゃないですか?」
 真顔で言うシーヴに、
「その為にも‥マッサージを‥‥頼んで‥女を‥‥磨かなくては‥ですね」と笑うユリアであった。


 ***


 赤いバラの刺繍の入った黒のチャイナドレスのシーヴと白いチャイナドレスでドレスアップしたユリアが、ディナーへとやって来た。

「上海といえば上海蟹ですが、季節外れです」

 むむ? とメニューを睨むシーヴ。

 食が細く偏食の多いユリアの希望を聞いてしまったらディナーが「スープとデザートのみ」で終わる可能性大であるので強制的にコースである。
 それでもユリアが食べれそうなものが多く入っているものをシーヴは選んだのだが、運ばれてきた前菜に苦手な野菜が入っているのを見て、思わず眉がへの字になるユリア。

「ちゃんと食べねぇとシーヴ、心配するですよ?」と難しい顔をしてみせるシーヴ。
「駄目ですか?」
「駄目です」

 元々細いユリアだが、前よりも細く見える。
 知り合いの紹介で太極拳を始めたばかりなので締まったのだとユリアは言ったが、ならば余計食べないと駄目だ、と言うシーヴ。

「医食同源。食べなきゃ体力はつかねぇです」

 運動をする為に必要な筋肉をつける為にちゃんと食事をするように言うシーヴ。

「それにきちんと食べないと食事を作ってくれたシェフや野菜を作ってくれた農家の人、魚を獲ってくれた漁師さんに悪いです」
 親バグアの一掃、治安回復が急激に進んでいる上海だが、裏ではまだ飢えから犯罪に走る人がいる。
「そうですね‥‥食べれる‥事を‥‥感謝しなくては‥」
 ユリアは苦笑して箸を取る。

「苦手なモノは無理をして食べる必要ねぇですが、バランスよくです」
 肉や魚を食べたら、野菜を食べる。
 頭を使ったり、運動するエネルギーには、熱になりやすい炭水化物を食べる。
 食べれないものが多いならば、食べる工夫が必要だ、とシーヴが言う。
「ふふ‥‥前は‥お料理が苦手‥って‥‥シーヴ‥は、言っていましたが‥‥良い奥さんを‥しているんですね」
 ユリアに茶化されて真っ赤になるシーヴであった。


 ***


「夜景、凄ぇですね」

 レストランからの夜景も凄かったが、階下の部屋では夜景が迫ってくる感じがする。
 何か飲むか? と尋ねるシーヴに紅茶を煎れると言うユリア。

「折角、ポットも‥‥あります‥から‥‥」

 温めたポットに茶葉を入れる。
 茶葉が落ち着くまでの間、茶碗が冷めないように湯を注ぐ。

 窓を開けていても街の喧騒は、部屋まで届かない。
 遠くの汽笛だけが届く──。

「紅茶、煎れるの上手くなったですね」
「そうですか?」
 嬉しそうに答えるユリア。

 初めて会った頃のユリアは何も出来な子であった。
 それがシーヴと一緒に買い物をしたり、料理を作ったり、段々と色々な事が出来るようになった。

 だが仲良くなれば成る程別な一面も見えてくる。
 ユリアは、UPC・ULTに属さない別の組織のスパイである。
 UPCとULTと敵対関係ではないのでシーヴのいるラストホープに来ることは可能であるが、今、上海を離れる訳に行かなかった。
 シーヴとてユリアが上海を離れられない理由を知っていた。

 ラストホープと上海、会えない間の出来事をお互いに話し合う。

「‥シーヴが‥幸せそうで‥良かった‥です‥‥」

「ユリアは、少し変わった感じがするです」
 シーヴの中のユリアのイメージは、いつも悲しそうに泣いているイメージが強かったのだが、
「‥‥多分、ユリアは‥今のままだと‥ずっと‥‥『いらない』子だと‥自分で思った‥‥から‥です‥‥‥‥」
 あのままでは、探しものもきっと見つからないままだと、笑った。
「そうです。シーヴも協力します、です」

 ぎゅっとユリアの手を握るシーヴ。


 ──上海の夜の帳は、善人悪人関係ないく深く落ちる。
 太陽に変わり輝くのは、地上の星々。
 強すぎる人工の光は、強い影を落す。

 公安の手を逃れ深く沈んだ上海の親バグア派、
 力を求めて狂気を彷徨う男を上海で探すユリア──。


 シーヴにとって上海は、遠い。

「ユリアは大事な友達でありやがるんで、何かあったら何時でも呼べです」
 それだけは約束だ、と繰り返す。
「ありがとう‥‥シーヴ‥」


 ありがとう──シーヴの手を握り返し、そうユリアは繰り返した。








■登場人物■

―― Catch the sky 〜地球SOS〜 ――

【ga5638】シーヴ・フェルセン/女性/外見年齢19歳/燦華なる紅姫
【gz0180】ユリア・ブライアント/女性/外見年齢16歳/傭兵
■「連休…そうだ、旅行へ行こう」ノベル■ -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年05月14日

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