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『JADE 〜interval〜 』
鳳凰院・アマンダ8094)&鳳凰院・麻里奈(8091)&アトロパ=アイギス(NPC4866)



「ただいまー」
 帰宅した鳳凰院麻里奈は不可思議な者を見た。
 場違い、としか言いようのない様相の少女が居間に座っていたのだ。
「おら、おかえりなさい、麻里奈ちゃん」
 おっとりと、理想の母親のような微笑みを浮かべる鳳凰院アマンダははっきり言って視界に入っていなかった。
 長い黄緑色の髪の一部だけを後頭部で結い上げて、他は背中に垂らしている少女はアジアの衣装を身につけていて、どこか小汚い。
 彼女は立ち上がり、アマンダに目配せした。アマンダはすぐにうんと頷いて麻里奈を紹介した。
「うちの長女、麻里奈ちゃんよ」
 な〜にが「麻里奈ちゃんよ」だ。と、内心麻里奈は思ってしまう。
「で、こっちがアトロパちゃん」
「アトロパ=アイギスだ。この家に世話になる」
 端的にそう言って、ぺこり、と優雅もなにもない、頭を下げた動作をした。
(え? なにこの子。変な子)
 一瞬、中国雑技団でもやって来たのかと勘違いしてしまいそうになってしまったではないか。いや、それは大げさか。
 しかしこの母親があっさりと他人を家にあげるとは……。
 驚いて何度か瞬きを繰り返すが、どうせ母には逆らえまい。麻里奈は「そう」と呟いて鞄をソファに放り投げ、アトロパに近づいた。
「よろしくね、アトロパ……えっと、ちゃん?」
「呼び捨てでよい」
 尊大な喋り方をするが、アトロパは近づけば可愛らしい顔をしていることがわかった。
(あれ? あれれ? 笑うと可愛いかも)
 不思議な子だ。
「じゃあアトロパね。私は麻里奈よ」
「ふむ。麻里奈か。アマンダにそっくりだ」
「……どこが?」
 やや声に棘が混じってしまうのはべつに反抗期だからじゃない。あの母親とどこが似ているのかちょっと納得がいかなかったのだ。
「胸がでかいな」
 さらりと、しかも平然と言われて麻里奈は目が飛び出しそうになった。そんなことをさらっと言うようなタイプには見えなかったからだ。
(……ま、まぁお父様も文句言わないだろうし、いっか)
 くよくよ悩んでいたら逆にこちらが参ってしまいそうだ。
「そうそう麻里奈ちゃん、帰ってきたところだからちょうどいいわ。アトロパちゃんをお風呂に入れてあげて」
「えっ!?」
 赤ん坊じゃあるまいし、なぜそこまで面倒をみなければならないのだ?
 頭の上に疑問符が舞い踊る娘に、アマンダは再び優雅に微笑んだ。
「入れてあげてちょうだい」



「麻里奈はアマンダが苦手なのか?」
 浴槽のすぐ横、小さな丸いすに座らされたアトロパの体は、びっくりするほど綺麗ではあったが……びっくりするほど汚かった。
 いや、表現がおかしいことに麻里奈は気づく。汚いから、この綺麗な肌が見えなかったのだ。
 背中をスポンジでこすってやっていると、泥が落ちて、シャワーのお湯と共に流れていく。
「べつに苦手じゃないわよ。
 あのババァはね、すごく優しいけどああ見えて私に対しては鬼よ鬼」
「鬼? アマンダは鬼なのか?」
「そうよ。鬼ね。まさに般若だわ」
「ハンニャ? よくわからんの」
「あれ? お面とか見たことない。ほら、こうここに角を生やして、口をカッと開けてて」
 説明しつつ、身振りをつけていた刹那、背後の浴室のドアが無遠慮に開いた。
 ぎくっとして身を強張らせる麻里奈の首が、ぎぎぎ、と奇妙な音をたてて背後を見遣る。
「麻里奈ちゃん?」
「お、お母様!」
 まずい!
 今の話を聞かれていたら後でどんな仕返しをされるか!
 麻里奈は咄嗟に「相変わらずお綺麗で」とお世辞を「ほほほ」と笑い混じりに言い、アトロパの背中に湯をかける。
「それで、麻里奈、話の続きは?」
「え? あ、いや、いいのよ。それは。それより学校の話しましょ」
「あら。それは興味があるわ。普段麻里奈ちゃんがどんな学校生活を送っているのか知りたいわね」
 うふふと微笑む母親は、自身の身体をさっと洗うと浴槽につかって気持ち良さそうにしている。
「そういえばアトロパって幾つなの?」
「16だ」
「えっ! 私より2つも下なの?」
 この細くてまな板な身体……もっと年下かと思っていた。いや、逆に豊満すぎる自分のほうが変なのかもしれない。
 同級生たちには羨ましがられることもあるスタイルではあるが、いくらなんでも18歳で自分は成熟し過ぎではないかと、年相応には悩んでしまうのだ。
 学校には「同級生」という名の比較対象がごろごろいて、その中でも目立つとやはり……なんとなく、「どうだろう?」と微妙な気持ちになってしまう。
「……てことは、高校一年?」
「? アトロパは学校には通っていないからよくわからんな」
「んん? 学校に通ってない? 中卒ってこと?」
「違う」
「ま、まあまあ」
 質問攻めをしていた麻里奈をなだめるように、珍しく母親が会話に割り込んできた。
「アトロパちゃんには色々事情があるってことなの。だから、うちで預かることにしたのよ」
「ふーん」
「麻里奈が嫌ならアトロパはすぐに出て行くから安心しろ」
「はっ!?」
 いきなり言われて思わず身を引く。
 アトロパは肩越しにこちらを見てきた。暗い金色の瞳が、じっと見つめてくる。
「アマンダにもそう言ったのだ。迷惑なら帰ると」
「嫌じゃないわよね?」
 有無を言わせぬ声がまたも割り込んできた。母のアマンダである。
 硬直している麻里奈は「えと」と、やっとそこで声を出せた。
「い、嫌じゃないわよ、べつに!」
 なんだかやけになって言ってしまった。だっておかしいのだもの!
(なにあの目。自分のこと、どうでもいいみたいな言い方……)
「嫌じゃないのか?」
「嫌じゃないわよ!」
「なぜ怒鳴る?」
「ど、怒鳴ってなんか……」
 反響する浴室で、麻里奈はしょんぼりと肩を落とした。同級生や知り合いにはいないタイプだ。どう接したらいいのか迷う。
 奇妙な少女、アトロパは今晩はアマンダと同じ寝室で眠るそうだ。
「床で寝るぞ」
 と言い張る彼女に、アマンダも麻里奈もかなり困ったという。



 深夜零時。
 動きやすい革製の戦闘服に着替え、麻里奈は自室を抜け出した。アトロパがアマンダと同じ寝室というのは、ある意味ラッキーだった。
 母親に気取られると、何を言われるかわからない。

 目的は廃工場に潜んでいる凶悪な吸血鬼の集団だ。
 そのためにここ数日は情報を集めたりと忙しく、大変だった。
 今日やっと、決行までこぎつけたというわけだ。
 そしてそろそろ――――仕上げもいい頃合だ!
(あと、少し!)
 両手にブレードを出現させ、次々と敵を灰へと帰す。
 最後の一人がなかなかに手強い。麻里奈はバイオアーマーを装着し、武器もツインブレードへと変えた。
「この!」
 勢い任せではない一撃を食らわせた時だ。視界に白いものが過ぎった。
(嘘!)
 アトロパがひょいっと壁の向こうからこちらに顔を覗かせたのである。ここに居るはずもないのに!
 意識が逸れた刹那、追い詰めた吸血鬼は一直線にアトロパのほうへと走る。麻里奈は舌打ちし、それよりも速くアトロパへと追いついた。
 庇うべく、アトロパに背後を向けた瞬間、バイオアーマーがぼひゅっと気の抜けた音と共に消失したのだ。
 絶対絶命……!
 と、背後から気をまとわせた拳が吸血鬼に一撃を与え、そいつは灰へと成った。
 振り向いた瞬間、怒った顔で、腰に両手を当てている母親の姿が視界に映った。
「あの程度の相手に苦戦するとは修行が足りないわよ!」
 厳しい母の言葉に、麻里奈は言い返せない。
 油断したのは自分で、それは自分の責任なのだ。
 もう子供じゃない。自分一人でなんでもできると思っていても、結局こうやって思い知る。情けないことだった。
(ん? でもなんで変身が解けたんだろ?)
 眉間に皺を寄せて考えていると「聞いているの!?」と母の叱責が聞こえて「はい!」と背筋を伸ばした。
 実のところ、娘を叱りつつ、なぜ娘の変身が解けたのかアマンダにもわかっていないのだが……。



「それで、麻里奈はあそこで何をしていたんだ? 格闘技か?」
 がくっ、と肩から力が抜けてしまう。あの状態でよくそんな平和なことが言えるものだ。
 溜息をついてから、麻里奈が口を開いた。
「人に仇なす存在ってわかる?」
「ぬ? 迷惑をかける者のことか?」
「……えーっと、ま、まぁそうね」
 なんだかすごくかる〜い表現になっているけど。
「そういう、人間に害のある魔物を狩るのが私たちの使命なの。私と、お母様のね」
「使命……。アトロパにもあるぞ」
「え? あるの?」
 ありそうになかったので、麻里奈は素で驚いてしまった。アマンダが視線をあちこちに彷徨させ、なんだか迷っているようだったが……。
「なに? アトロパもやっぱり何か特殊なの?」
「アトロパは、世界を救うのが使命だ」
「……………………」
 ???
 麻里奈は思わず母親を見上げる。母親は鉄壁の笑顔で「なあに?」と返してきた。
 視線をアトロパに戻して訊く。
「世界を救うのが使命なの?」
「そうだ。このままでは世界は滅亡する。それを防ぐためにアトロパはいる。麻里奈と同じだ」
 同じ? じゃないと思う。
 口にはしなかったが、「やっぱり変な子」と麻里奈は認識したのだった。
 多少の奇妙キテレツな発言には目をつむり、耳をふさごう。あまり関わると母が般若になりそうだ。
「でもなんでアトロパがここにいるのよ?」
「いや、アマンダに連れて来られたのだ。一緒にいないと危ないと言われてな」
「なにやってるのよお母様! アトロパを連れて来るほうが危ないじゃない!」
「一人にしておくほうが危ないのよ!」
 三種三様の言葉に、互いが視線を遣り合う。
 アマンダはアトロパが狙われているのを知っている。だから一人にできない。だが娘は心配だった。
 麻里奈はアトロパが狙われているのを今は知らない。だから母の行動が許せない。
 アトロパは、なぜ二人が互いを睨んでいるのかがさっぱりわからなかった。
 三人は歩調を合わせて、帰宅することにした。とりあえず、今夜の物語はここで幕を閉じる――。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2010年05月13日

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