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『【初春夢騒之風景】 』
ブラッディ・D(ia6200)&志藤 久遠(ia0597)&波佐十郎(ia4138)&小野 灯(ia5284)&アムシア・ティレット(ia5364)

●其は初春に騒ぐ夢よと

 ――それは、ある寒い冬の日の記憶。
 新しい年が明け、どこか華やいだ空気に浮かれた神楽の都。
 その一角であった、かくも小さく暖かな……。


●れっつ、雪だるま式
「……暇」
 ぐるぐるごろごろと、床を転がっていたブラッディ・Dが低く唸った。
 天儀は絶賛正月進行形……だからといって、改まって何かをするという気はない。というか、むしろ皆無。
 だが独りでぐだぐだ転がっていても、つまらないコトに変わりもない。
 そう……今は、正月。
 いつもは忙しい開拓者も、神楽へ戻ってのんびりしている者が多い。
 例えば寒くて家の中で火鉢に当たりながら餅を焼いたり、ミカンなんかをちまちま剥いたり、そんな光景が見られる時期とも言えた。
 ……だからこそ。
 ふと良案を思いついたブラッディは、ちらりと小さく口唇を舐め。
 それから手足を伸ばすと、身軽にひょいと身を起こした。
 耳付の赤い帽子をぐぃと被ると、ねぐらを後にする。
 一歩外に出れば、吹き付けるのは冬の風。
 だが冷たさも気にせずに、彼女は歩き慣れた道を、歩き慣れた方へと駆け出した。

「この寒い中、どうしました? 良ければ中で、暖かい茶でも……」
 特に前もっての約束もなく、突然現れた友人の姿に驚きはしたが。
 応対に出た志藤 久遠は、とにかく寒かろうと家へ入ることを勧めた。
 だが赤い頬で白い息を吐くブラッディは、「それよりも」と勢いよく首を横に振る。
「出かけるの、ダメかな?」
 ちょっと遠慮がちに尋ねれば、束ねた青い髪を揺らして久遠は少し考え混んだ。
「そうですね。確かに寒いからと部屋に閉じ篭もってばかりでは、身体も鈍ってしまいます」
 そんな返事に、ぱっと輝く銀の瞳。
「じゃあ行こう、すぐ行こうっ」
 いつになく、真剣な表情で勢い込むブラッディに久遠は小さく笑む。
「分かりました。ですがそう慌てなくても、私は逃げませんから」
 少し準備をしますからと、久遠は中へ引っ込んだ。

「お待たせしました」
 庭の縁側、火鉢に当たっていたブラッディへ、支度を終えた久遠が声をかける。
 といっても仰々しい用意ではなく、風邪を引かぬよう防寒の類を整えた程度だが。
「うん、行こう!」
 待ちきれなさげに立ち上がったブラッディは、さっそく久遠と肩を並べて通りへ出た。
 そこから、数歩も歩かぬうちに。
「あれ? 二人揃って、お出かけッスか?」
 聞き覚えのある賑々しい声が、二人の足を止める。
 嫌な予感を覚えてブラッディが振り返れば、波佐 十郎がひらと片手を上げた。
「あ、ああ。今からちょっと、久遠と二人で……」
「家でじっとしても身体が鈍ってしまうため、二人で少し身体を動かそうという話をしていたところです」
 とっさに誤魔化そうとするブラッディに、久遠は凛とした笑顔で説明を付け加える。
「や、え? 待……っ!」
 その説明に嫌な予感がしたブラッディは慌てるが、時既に遅し。
「一緒に行きますか?」
 止めるよりも先に、明るい声で久遠は十郎を誘った。
「構いませんよね?」
「う、うん」
 誘ってから確認する久遠に、不承不承で頷くブラッディ。
(大丈夫だ。十郎一人なら、途中で理由をつければ……!)
 喉の奥でぐるぐる唸りつつ、頭の中で作戦を立てながら数歩も進まないうちに。
「め! ぶらっでぃと、くおんと、じゅうろう……さんにんでおでかけ、なの?」
「おでかけ、ですねぇ」
 見知った顔が、もう二つ。
 小首を傾げた小野 灯と手を繋ぐアムシア・ティレットに、楽しげな十郎が答えた。
「うん、お出かけッス」
「三人で出かけるから、アムシアたちは……」
「おでかけ、あかりたちも、いい?」
 ブラッディが説明し終わらぬうち、遠慮がちに灯が確認すれば「勿論です」と久遠は即座に快諾し。
「え……って、久遠ー!?」
「構いませんか、ブラッディ殿。多い方が楽しかろう……と、思ったのですが」
 思いっきり快諾してから、おもむろに動揺するブラッディへ問いかける。
(せっかくの、久遠と二人だけでデート出来るチャンスが……!)
 悶々とはするものの、久遠の『好意』を無碍に拒否をすることも出来ず。
「うん、いいや……一緒でも」
 思わぬ『同行者』の増加にブラッディは見えざる涙を流しつつ、半ば投げやり気味で答えた。

●時には、無邪気に
 入り組んだ道に入り込み、混んでいる小物売りの店を冷やかし、人ごみの多い場所を抜ける。
 はぐれやすい場所をそれとなく選び、穏便に三人をまくことで、当初の目的通りに久遠と二人っきりになるシチュエーションを狙ったブラッディだったが。
「ぶらっでぃと、かくれんぼ?」
「むしろ、鬼ごっこッスね」
 見上げる灯と手を繋いだ十郎は、ひょこひょこと器用に人を避けながら、そんな会話をして。
「おっでかっけ、おっでかっけ……♪」
 どこか楽しげに、謎な歌をアムシアが口ずさんだ。
 無邪気でぽやぽやしていても、やはり開拓者というべきか。
 目論見が外れ、むしろ遊び半分でテンションの上がった三人。はぐれるどころかしっかりと、ブラッディたちの後をついてくる。
「あぁっ。もぅ、こうなったら……っ」
 ナチュラルに手強い友人たちを相手に、ついにブラッディはぷちキレた。
 踵を軸にして、ぐるんと勢いよく振り返る。
 いきなりな友人の行動に、賑やかに後ろを歩いていた者たちはきょとんとした顔で立ち止まった。
 微妙に戸惑いながらも言葉を待つ友人たちをブラッディはやぶ睨みで見やり、口の端っこを吊り上げると、ニィと笑みを深くして。
「正月だし、公園で遊ぶぞーッ!」
「「「おーっ!」」」
 半ば自棄っぱちな突然の『宣言』に、今更ながら脈絡もよく分からぬまま、声を揃えて拳を掲げて仲良く答える三人。
「あ、えーっと……おー?」
 なんだか不思議な四人の連帯感に、目を瞬かせていた久遠も折角なので調子を合わせ、倣うように軽く拳を上げてみた。
「じゃあ、何、したい? 私は、ねぇ……凧上げ!」
 頭からすっぽりと被った覆面で表情は分からないが、無邪気にアムシアが提案する。
「おっ、いいッスね。ドッチが高く上がるか、競争するッスか!」
 腕まくりをしてぐるぐると十郎は腕を回し、二人の間で灯が手を挙げた。
「たこあげ、あたしも……!」
「灯殿は下手すると、凧と一緒に……飛んで行きそうな気がしますが」
「あ、飛ぶ飛ぶ。きっと絶対、飛んでく」
 やや心配そうな久遠に、ギャハハとブラッディも笑う。
「おそら、とべる?」
 凹むどころか、逆に幼い少女は年上の二人へキラキラと大きな紫の目を輝かせて。
「早駆いっぱい、使った……ら、高ーく、上がるか、なぁ?」
 ほんわりと、アムシアが晴れ渡る空を見上げる。
「むしろ、上がる前に糸が切れるか、凧が壊れるとみた」
「それは……やってみないと!」
 こちらもやっぱり、凹む前にチャレンジャーで。
 かくして、途中で適当な凧や羽子板といった玩具を確保した五人は、広い公園へと向かった。

   ○

「いいッスか、灯。しっかりと、凧を持ってついてくるッス」
 言い含める十郎に、両手で高く凧を掲げた灯は真剣な表情でこっくり頷く。
「よし、行くッス。どりゃあぁぁぁーーーっ!」
「めぇ〜〜〜っ」
 十郎が走ると同時に、灯もまた気合を入れて駆け出した。

  てってってってってってっ……。

「真後ろを、ついてくるなッスー!」
「でも、じゅうろう……ついてこいって、いったの」
 たるんだ糸に振り返った十郎が『注文』をつければ、頭の上に凧を掲げた灯も懸命に主張する。
「いや、言ったけど。確かに言ったッスけど……そうじゃあなく!」
 そんな微笑ましいやり取りを、長椅子へ腰を下ろた久遠は笑って見守り。
 楽しげな彼女の横顔を、隣に座ったブラッディが窺っていた……のだが。
「お二人とも、凧あげの手伝いは必要ですか?」
 上手く凧があげられない二人の様子を察し、おもむろに久遠が席を立つ。
「くおん〜っ」
 まだ凧を掲げたままの灯が、近寄る久遠へ駆け寄った
「では灯殿は、これくらい離れて……それから十郎殿は……」
 二人へ助言する久遠の姿を、ぼにゃーんと眺めるブラッディ。

  ずぞぞぞぞぞぞぞーーーっ。

 その脇を、何故か骨組みで地面を掘り返しながら、凧が『走って』いった。
「……なにやってんだよ、アムシア」
 凧を引きずりながら走り回るシノビに、ブラッディが頭痛を覚える。
「うん。早駆、使ってるけど……上がらない」
 肩を落とし、心なしかしょげてる様子のアムシアに、「しょうがないな」とブラッディも重い腰を上げた。
「もしかして、教えて、くれる?」
 見えないけれど、どこかキラキラとしたアムシアのオーラを察知して、思わずブラッディは足を止める。
「あー……やっぱ、やめ……」
「ありがとー、ぶらっでぃー!」
 わーいと両手を広げたアムシアは、そのままブラッディへ飛びついて。
「ありがたくないっ!」
 ぽーい、と。
 身をかわしながら、泰拳士は飛びついてきた相手を投げ捨てる。
 ぽーんと投げられたアムシアは、受身を取るかと思いきや。

  どたんごろんべしょ。

 着地というか、落ちた。それも顔から。
「……いたい」
 くすんと鼻の辺りに、すりすり手を当てて。
「ぶらっでーぃ!」
 メゲずにまた、飛びついていく。
「だーかーらー、抱きつくなーっ!」
 再び、ぽーいと投げられるアムシアを「めぇ〜」と灯が見送った。
「……たこあげ?」
「違うから。アレは、すっごく違うから」
 幼くも素朴な疑問に、とりあえず十郎は首を横に振る。
「……たぶんな」
「いえ、多分じゃなく、あれは確実に凧あげではありませんので」
 微笑ましいというか、どちらかといえば苦笑交じりの複雑な表情でアムシアとブラッディのやり取りを見ていた久遠だが、灯が誤った知識を覚えぬうちに訂正した。

 やがて、空には二つの凧が仲良く並んであがる。
「たこー!」
「ああ、あがったなぁ……糸持つか、灯?」
「め! もって、いいの?」
 期待の眼差しを向けながらおずおず尋ねる灯へ、凧糸を持つ十郎はしゃがみんで糸の引き方を教えてやった。
「よーし、次は羽根突きな!」
 あがればそれで良しといった風に、ブラッディが次の遊びを指名する。
「負けた奴は、その後の鬼ごっこで鬼になること!」
「鬼ぃ!?」
 嫌な予感に十郎がブラッディへ視線を向け、灯をサポートする様に糸を持っていた手が緩めば。
「め? め、め、めぇ〜〜!?」
 上空の強風に煽られる凧の糸に引かれて、とっとっと小柄な身体が前につんのめった。
「もしかして、あーちゃん、飛ぶ?」
「ホントに飛びそうだなぁ」
 何故か期待する声色のアムシアに、ケラケラと笑いながらブラッディは転びそうな身体を支える。
「さすがに飛んでしまったら、ちょっと困ります」
「きっと、お二人に怒られるッス」
 ブラッディと同時に手を出そうとしていた久遠もほっと息を吐き、慌てて糸を手繰り直した十郎が苦笑し。
「じゃあ灯が飛ぶ前に、羽根突きだ」
「ぶらっでぃ、ありがと、ね」
 宣言する友人へ、ほにゃりと灯が笑顔で礼を告げた。

   ○

 その後の羽根突きも、久遠とブラディによる壮絶なラリーが展開され。
 一方でナニを間違えたのか、打ち返せるものなら打ち返してみろとばかりに、ぱっかんぱっかんと十郎が力いっぱい羽根を園外へ打ち飛ばし。
 中々に味のある羽根突きの光景が展開されたのは、言うまでもない。
 当然、その後の鬼ごっこでは羽根を一番『行方不明』にした十郎が鬼となった。
 それなりに広い公園でも、五人が本気で走り回れば狭いもので。
「お前ら、待つッスー!」
「めぇ! じゅうろうが、おにー!」
「逃げますよ、灯殿」
 追いかける十郎から、笑いながら灯と久遠が逃げる。
 もちろん灯に対しては、多少なりとも十郎は手を抜いて追いかけるが。
「ここで、じゅーろーと鬼を交代したら……ぶらっでぃに、抱きつき放題?」
「それ、違うからっ!」
 逃げながらも考え込むアムシアへ、不穏な気配を感じたブラッディが先に突っ込んだ。

●安らぐ一時
 全力で遊んだ後は、それなりに腹が減るものだ。
 近くの甘味処の座敷で軽く腹を膨らませていると、さしもに遊び疲れたか。
「あむ〜」
 隣のアムシアに甘えながら、くしくしと眠たげに灯が目をこすり。
 程なく箸を握ったまま、こっくりこっくりと舟を漕ぎ始めた。
「風邪をひきますよ」
 言葉をかけながらも、起こさぬように久遠はそっと自分の外套をかけてやる。
 灯だけでなく、腹が落ち着けば十郎やアムシアもうつらうつらと眠たげで。
「沢山、身体を動かしましたしね」
 眠気に負けた三人に、熱いお茶を飲みながら久遠は目を伏せた。
「久遠は、眠くないか?」
 こっそりと隣のブラッディが気遣えば、こくりと彼女は束ねた髪を揺らす。
「私は、特には。ブラッディ殿も、眠ければ寝てしまってもよいのですよ。店の方には、私から話をしておきますので」
「ううん。俺は、眠くない」
 眠くないどころか、むしろブラッディにとっては願ってもない好機だった。
『障害』となる三人はすっかり眠ってしまい、言わば久遠と二人きり。
 それを意識すれば……嬉しさもあるが、逆に緊張もしてくる。
「それなら、いいのですが……どうかしましたか?」
 何故か強張っているブラッディの様子に気付き、気遣うように久遠は首を傾げた。
「う、ん。なんでも、ない……っ」
「そうですか。今日は、楽しかったです?」
 何気ない質問だが、ちょっとブラッディは複雑な表情を浮かべ、答えに迷う。
 まぁ、開き直って遊びに熱中してしまえば、楽しかった。
 でも本当は……久遠と、二人っきりでデートがしたくて。
 もっとも久遠の方はブラッディの想いを知っているものの、友人以上の関係になるつもりはなくて。
 そんな微妙な距離を、改めてブラッディは認識する。
 灯みたいに、あるいはアムシアのように、ぺったりとくっついて甘えられたら楽かもしれないけれど。
「静か、ですね」
 眠っている三人の寝顔に目を細めながら、小さな久遠の呟き。
 階下からは初詣に行った客が一休みにと出入りする気配が伝わってくるが、今は確かに静かだった。
 湯気が立ち上る、手付かずの湯飲みをブラッディはじっと見つめ。
 やがて意を決したように、そっと手を伸ばす。
 指先に、温もりが触れて。
 思い切って手を握れば、久遠はそれを振りほどく様子を見せず。
「今日は、楽しかった」
 自然と顔が火照るのを感じながら、俯きがちにブラッディが先の問いに答えれば。
 彼女なりの精一杯の甘え方に、久遠の表情がふっと和らいだ。
 それは遊びの間にずっと見せていた暖かく見守る笑みではなく、どこか肩の力を抜いた柔らかな微笑み。
「そうですか。よかった」
 そのまま、しばしの沈黙がおりる。
 何も言葉を交わさなくても、繋いだ手の温もりがただ嬉しい。
 いっぱいいっぱいだけど、今のブラッディにとってはそれでも十分に幸せだった。
「め……くおんとぶらっでぃと、てをつないで、なかよしー」
 どこか寝ぼけた声に、ばくんとブラッディの心の臓が跳ねる。
 恐る恐る、卓の向こう側へ視線を動かせば。
 目が覚めたばかりの灯が、眠そうな笑顔をほにゃりと浮かべていた。
「とーさまとかーさまも、なかよしーだよ?」
「あ、本当ッス! 手ぇ繋いで……!」
 ごすっ、と。
 皆まで十郎が言うまでもなく、泰拳士の拳が寝起きの顔にめり込む。
「きっ、気のせいだからな! 十郎も灯も、寝ぼけてるんだ」
「でもまだ、手を繋いでる……ので、開いた方の手は私が繋いでもーっ」
「開いてないっ、開いてないから!」
 自分もと、じゃれてくるアムシアに赤くなりながらブラッディは慌てる。
「あー、もうっ。皆、忘れろ! 忘れられないなら、力づくて忘れさせてやるッ!」
「あれ、怒ってるッス?」
「にげるのー」
 拳を振り上げる様子に、からかっていた三人はワッと揃って席を立つ。
「このっ。三人とも、待て……ッ!」
「あの、これ、ブラッディ……?」
 ぎゅっと手を繋いだままでブラッディが立ち上がれば、必然的に久遠も引っ張られて。
「今度は、ブラッディが鬼ッス!」
「おいかけっこー、おにごっこなのー」
「逃げるよ、あーちゃん」
 きゃっきゃやんやと、笑いながら三人は逃げていった。
「鬼ごっこ上等、逃がさないからなぁー!」
 犬歯を剥いて凄み、駆け出すブラッディに、笑いながら久遠は手を引かれるまま後をついていく。
「ありがとうございましたぁー!」
 賑やかに飛び出した五人の客の背を、明るい店員の声が送り出した。

   ○

 追う声と逃げる声が、駆ける道に賑々しく。
 初春を迎えた街角は、華々しい。
 見下ろす空は、清々として。


 友とある神楽の都は、今日も今日とて晴れやかだった――。

■WTアナザーストーリーノベル(特別編)■ -
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2010年05月14日

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