▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『どっきどき☆雨宿り 』
西村・千佳(ga4714)

 連休も真っ只中、こんな日和に家でじっとしているのもつまらないよね。
 特に予定も決めていなかった面々だが、今更当日になってから暇を持て余してみると物足りなさに気が付く。
『じゃあ、今からピクニックにでも行けばいいんじゃない?』
 何処かに泊り掛けで、宿にお弁当なんか作って貰っちゃったりしてさ。緑に囲まれてちょっとゆったりなんかいいよね。
 幸いな事に?いや半ば強引に伝手を利用して急なプランにも関わらず手頃な民宿を確保。
 そんな無計画っぷりだが行動力溢れるメンバーの中に西村・千佳と笠原 陸人が混ざっていた。

 ところが宿に向かう初っ端からの大雨である。
 駅からかなりの距離、丘陵地帯の田園風景を楽しみながら遠足気分でいたのだが。
 集落が途切れて、物寂しい細い林道を歩いている真っ最中。後十五分も歩けば宿に着くのに何と残念なタイミング。
「走るにゃ〜」
 もう宿まで行ってしまうのが一番だ。競争だ!とその状況すら楽しんで突っ走る面々。
 互いの声も掻き消してしまう程の滝のような雨音。
「うにゃっ!?」
 低く伸びていた木の枝に引っ掛けてしまったリボンが外せずに、困惑してしまう。
 すぐ傍を一緒に駆けていた笠原だけが気付いて動けなくなった千佳を助けに戻ってきてくれた。
「ごめんなさいなのにゃ〜」
 もうみんなの姿が見えない。急いで追いつこうと並んで駆ける二人。
「あれ?」
 予定の道順を辿ったつもりだったが、いくら進めどいつまでも合流しない。
 途中で曲がるとこを間違えちゃったかな。でももう暗くて道が判らないね‥‥。
 そう思いながら駆ける二人の前に大きな影が現れた。林の向こうに何かあるみたい。
「うに、建物があるみたいにゃ〜っ」
 とりあえず雨宿りだけでもさせて貰えれば、と玄関の戸を叩く。
「すみませ〜ん」

 ◆

 反応が無い。よく見ればガラスも破れているし表札を外した形跡がある。
 古そうだけれど瓦葺きのしっかりとした造りの日本家屋。引っ越した農家の跡なのだろうか。
 どうしようかと顔を見合わせた瞬間。
 互いの背後の空が純白に染まる。何拍か置いて伝わってくる雷鳴と共に地響きが。かなり近い感じだ。
 遠慮などしていられない。玄関の戸に手を掛けるとそれは簡単にカラカラと開いた。
「ここで一旦休憩にゃ。雨がしのげる場所があってよかったにゃ」
 二人の身体から床に滴る大量の雨水。着ていた服はずぶ濡れ。ぐっしょりと下着まで浸透してしまっていて冷たくて心地悪い。
 このままでは間違いなく風邪を引いてしまいそうだ。
「荷物もほとんどびしょびしょにゃ〜」
 かろうじて一番下に入れていたバスタオルだけが無事。その上にあった敷物がビニール製なので良かった。
 二人とも無事だったのはタオルだけ。どうしようか着替えもないし。
「囲炉裏がありますね」
 幸いな事に薪や古新聞も部屋の中に。親どころか祖父母の世代感が漂うようなデザインの大箱マッチも一緒に置いてあった。
「二十年も前の日付だにゃ〜。ずっとこのままだったんにゃね」
 タオルで濡れた髪と身体を拭って肩に羽織ってはみたものの、やはりそのままではちょっと。
「こ、こっち見たらダメにゃよ!」
 かぁ〜っと湯気が昇りそうな程に首から上を真っ赤に染めた千佳。
 お互い背を向けて脱いだ衣服。バスタオル一枚の姿では恥ずかしいけど仕方ないよね。
 炎に見えるお互いの姿。照れながらも二人で雨上がりを待ちながら過ごして。

 夜半になっても叩き付けるような土砂降りは一向に止む気配がない。

 火が消えた囲炉裏の傍に温もりの残る床。最初は挟んで離れて横になっていた二人だが。
「まだ起きているかにゃ?」
「ん‥‥起きていますよ。どうしました?」
 暗闇の中だと案外近い声。
「寒いにゃね‥‥そっちに行ってもいいかにゃ?」
「いいですよ。でも真っ暗で危ないから僕がそちらに行きますよ」
 今は見えないけれど、あの気遣いに満ちた優しい微笑みが千佳の脳裏に浮かぶ。
 薄ぼんやりと白くふわりとした影が迂回して傍にやってくる。自分で言っておきながら実際近くに来るとやっぱり恥ずかしい。
「‥‥っ!?」
 目測を誤ったのか床へ伸ばした笠原の掌が千佳のタオルに包まった肩に触れてしまう。
 今ものすごく真っ赤な顔をしているだろう。見えなくて良かったかな。
 せっかく傍に来たんだからくっついちゃった方が温かいから。ね、くっつこうよもっと。
 寄り添う少年と少女の影。屋根瓦に叩き付ける雨の音が、気恥ずかしさの漂う沈黙をごまかしてくれる。
 うとうとよりもドキドキが強くてなかなか眠りにつけない。一言、二言たまに交わしては何度もおやすみと言い合って。
 暫くして千佳が動き出した。
 ぎゅっと笠原に抱きついて。急の行動に驚いた笠原、でも突き放すなんて失礼な事はしない。
(えっ?だって僕は紳士ですから)
 誰に向かって言い訳をしてるのか。それはともかく。
 タオル越しに女の子の柔らかい身体の感触が。ん‥‥温かいね。
「は、恥ずかしいけど風邪引かない為なのにゃよ!」
 熱くなる頬。そう言いながらも固い胸板に顔を押し付けて、安心したような気持ちになる千佳。
 こうすると爪先と爪先が同じ高さだね。触れた足の甲が男の子らしい骨格を伝えてくるのがまた心臓を高鳴らせる。
 逆に笠原はといえば顔と一緒にしっかりと押し付けられた千佳の胸の感触の方が気になってしまうわけだが。
 だって年頃の健全な男子ですから僕。
(こんな事バレたら後でみんなに怒られますかね〜)
 宿に戻ったみんなは二人の事を遭難したのではないかと心配しているかもしれない。
 まさかこんな状況になってるとは想像もしていないだろうなぁ。
「うに、何か眠たく‥‥」
 何だか幸せな気分と心地よさにようやっと眠りの予感が訪れて。
「ん、にゃ〜‥‥か‥‥勘違い‥‥しないで‥‥にゃ」
 もにょもにょと既に寝言と区別がつかないような呟き。その声の可愛さに思わず微笑みが洩れてしまう。

 ‥‥眠れそうにないんですけどね。

 ◆

 翌朝しっかりと乾いた服に着替えて、晴れ上がった空の下を宿へと向かった二人。
 どうやら見当違いの方角に降りちゃったようだけれど、通りすがりの農家のおじさんに聞いてみれば意外と場所は近かった。
 ふらふら〜と歩いている笠原は何だかお疲れ気味。うっかりすれば増水した用水路に落ちてしまいそうだ。
 歩き疲れて雨にも打たれと困憊ぶりもピークに来ていた上に結局丸々徹夜なのだから仕方あるまい。
(あ〜)
 ふと見やった千佳の表情はといえば赤いながらも何だかとても満足げである。
 それを見て笠原も顔を赤らめてしまう。
「大丈夫ですか、身体は冷えなかったですか?」
 初夏の丘陵に来ている事を実感させる爽やかな風が吹き抜ける。
 照れ臭げに背けた顔の鼻腔をくすぐって‥‥。
「くしゅんっ‥‥ふっくしゅ」
「二回続くのは誰かが噂してるんだにゃ〜、みんな待ってるにゃきっと」
 早く宿に向かわないと駆け出す。髪を飾った大きなリボンが元気よく揺れている。
 朝陽の下にきらめくような千佳の姿を眩しげに見て、笠原はその後を追っていったのであった。

 〜 了 〜



■登場人物■
【ga4714】西村・千佳/女性/外見年齢18歳/にゃんこ魔法少女
【gz0290】笠原 陸人/男性/外見年齢16歳/生徒会事務部雑用係
■「連休…そうだ、旅行へ行こう」ノベル■ -
白河ゆう クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年05月19日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.