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『Un temps de l'amour 〜Silver Dream 』
ロジー・ビィ(ga1031)

 それは、一つの幸せの形だった。
 歪んでしまっているのかもしれない、しかし彼らはそれで幸せなのだ。
 それを誰が咎め様あるのだろうか。
 愛の形は様々で、それでいて、残酷な面を次々と見せ付ける。
 人は誰しも迷うだろう、だが‥‥。
 迷いの末に導き出された幸せを、誰が咎める事ができるのだろうか。


  ◇

 出会った頃などこんな結果になるとは思ってはいなかった。
 まして、自分自身がこんな思いを抱くなど想像ができただろうか。その当時の僕に問いたい。
「えっと、今日の予定は‥‥」
 びっしりと予定が書き込まれたスケジュール手帳を開き、カノン・ダンピールは本日の予定の確認を行う。そこに書かれているのは、金と銀、その文字だけ。それ以外はいたって普通の手帳と変わらないであろう。しかし、彼にとってはその部分が一番重要であった。

 待ち合わせの時間はいつでも朝早く。どちらの時も、迎えに来る場所は同じである。しかし、それでもカノンは確認をする。時間の前に、一度は自分の部屋へと戻り、身なりを整えて。予定に沿って用意するものは、彼にはない。それでも、少しだけ違うのは纏う香りだった。それだけは、ちょっとだけ気をつけていたポイントだった。


  ◇

「おはようございます」
 庭に降りてきたカノンは、薔薇の世話をしているロジーに声をかけた。
 同じ家にいるものの、日によって変わる滞在箇所の為か、ロジーと会うのも毎日ではない。交互に繰り返される、金と銀との交代生活。
 同じ屋根の下に留まりつつも、不思議な約束によって成り立つ、不可思議な三人の生活である。
 ふわりと笑い返す彼女に対し、カノンはそっと傍にある農薬の袋を持つ。
「カノン、そんなの持たなくてもよろしくてよ?」
 慌てるロジーに「僕だってたまには‥‥」と、細い腕で運ぶ。
 頼りなげな彼でも、やはり男である。しかも、好いている異性にはいいところを見せたい年頃であるのだ。
 そんな姿をロジーは微笑ましく見つめると、庭園内に設けていたテーブルでお茶の用意を始めた。用意したのは、この庭で取れた薔薇で作ったローズティである。
 ふわりと漂う、甘い香り。
 テーブルの端に置かれている、古めかしい装丁の本が目に入った。
 どうやらカノンが持ってきたようだ。二人で過ごす朝の一時は、このように庭園で始るのがいつもであった。
「いい香りですね」
 本に注意を引かれていると、不意に耳元で囁かれ、ドキリと心臓が高鳴る。戻ってきたカノンだった。
 ロジーを包み込む様にテーブルへと手を突くと、カノンは本へと手を伸ばした。
 近すぎる耳元が、熱くなるのを感じる。探るために視線を回そうとすると、拒む様に頭を寄せられた。
 淹れられた紅茶の蒸し時間だけ‥‥そう囁きながら、両腕とテーブルに挟まみこみ、ロジーを椅子へと座らせた。
 本は昔の恋物語。その本の表紙を、ゆっくり指でなぞり表題を読む。
 ゆっくりと、一枚一枚ページが捲られる。
 早朝の風邪は優しく、清々しいにおいと共に訪れるが、ロジーはそれを妨げる様に閉じ込めるカノンのおかげか、すっかり違う気分に取り込まれていた。
 囁くように、耳に物語が届いてきた。
 ポットの中では、縮まっていた花びらが綺麗に花開く頃合いだ。
 だけれども、この物語はまだまだ始ったばかりである。
 柔らかな朝の日差しが降り注ぐ中、優しい檻に閉じ込められたお姫様は、その物語に耳を貸していたのだった。

 午後の日差しに差し変わるまで‥‥、ゆったりとした時間に身をゆだねる、そんな銀との一時。

  ◇

 呪縛は不意に解ける。
 
 少し肌寒くなってきた頃、部屋はキャンドルの明かりで照らされていた。
 テーブルの上に敷き詰められたのは、数々の料理たち。無数の花に飾り立てられた部屋に、優しい音楽が流れ始める。
 テーブルの横には、ワインを持ったカノンが部屋に現れたロジーを待ち構えていた。
 用意された料理たちも彼のお手製である。
「カノン‥‥」
 そっと名前を呼ぶと、にこりと振り返った。
 ロジーが育てたバラ達に囲まれながら、キャンドルの灯りに混じりほのかな匂いが立ち込める。
 少し朱の混じった白のワンピースに身を包んだロジーは、少し上背の高いカノンを見上げながら、手を伸ばす。カノンは手に持っていたワインを置きながら、その手を受け取る用に前へと出した。

 花が咲いた。

 白い花が、赤く染まりながらひらりと。
 手が絡まった時、ふと脳裏に浮かんだ金の影。
 その姿にそっと目を伏せ、目の前に居る魅惑の紅い瞳に引きずられていく。
 導かれるままに、手をゆだね‥‥そっと、暖かな体温を感じながら。

「カノン‥‥あたしだけの天使‥‥」

  ◇

 一人だけの庭は、とても広く感じられた。
 薔薇の手入れをしながらも、思いはたった一つへと飛んでいく。一体、いつまでこの気持ちを持ち続けるのだろうかと思いながら。きっと、永遠に続いていくのかもしれない。
 びくりと手が震えた。
 気がそぞろになって生まれた隙に、棘が刺さったようだ。
 そっと硬く小さな棘を抜いてから、指を口に含める。甘い味が口腔に漂った。
「――っ!」
 胸にふわりと漂う、甘い思念。今頃彼は、金の腕の中で‥‥。
 自身を傷つけた薔薇の花びらに、そっと口を寄せつつ思い浮かべる。
 ――笑顔でいてくれれば、あたしは‥‥。
 綺麗なほど醜い気持ちが湧かない心は、唯一気になる彼の過ごし方だけに思いを馳せていくのだった。

  ◇

 ――日曜日。
 それは、もっとも不思議な時間。
「よっと、待たせたな」
 アンドレアスは両手にアイスクリームを持ちながら赤い車へと小走りで近付いた。
 そこには、優しく微笑みロジーとカノンの姿。街角のアイスは甘く、冷たい喉越しがまた少し熱を帯びた身体に心地よかった。車にはたくさんの荷物が載っている。それは買ったばかりの様々な品物だ。
 少し取りこぼしたアイスがカノンの服についたのを、ロジーは優しくハンカチで拭った。それを少しからかいの口調で眺めているアンドレアス。その様子は、どこか若夫婦とその弟のように人からは見えるのかもしれない。行き交う人々は、そんな幸せそうな三人を暖かい視線で見つめ、過ぎ行く。
 そう、若夫婦とその弟だったのならいいのに‥‥。
 大事な物が全て収まった、この幸せの時間を、ロジーは大切に腕で抱えていたかった。


  ◇

 ふと身体を起こすと、まるで猫たちが集まって寝ているかのようにそばに黒と銀の姿があった。金は優しく二人の髪を撫でてやると、口元が緩やかに弧を描いた。
 胸を締め付けるのは、なんなのだろうか。
 この不自然な幸せを、いつまでも夢に抱いてはいけないのだろうか。
 ただ、緩やかに過ぎ行く時を、このまどろみの中に浸っていてはいけないのだろうか。
 様々な疑問が脳裏で浮かびながらも、それでも、この時間が愛おしかった。

 だから、ゆっくりと目を瞑る。
 黒の誘惑に、金と銀はただゆったりと身を任せる。


      不自然な幸せに、目を瞑り続けながら。


━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga1031 / ロジー・ビィ / 女 / 22 / ファイター】
【ga6523 / アンドレアス・ラーセン / 男 / 28 / サイエンティスト】
【gz0095 / カノン・ダンピール /男 / 18 / NPC:一般人】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は発注ありがとうございました。
 奇妙な三角関係。昔のフランス映画のように。
 そんな言葉にそって、ぐるぐると三人の日常を想像して行き着いた先。


 すみません、とてもじゃないけどイケナイ発想をしてしまいました。

 ので、そこからかなりレベルを落として書き連ねさせていただきました。

 一体彼らはどこまで行くのやら。ノベルの中だけでも、幸せに過ごしてもらいたいものですね。向こうの方では、わかりませんが。
 共通の題名である「Un temps de l'amour」はこの奇妙な関係を表してというよりも、金と銀の想いをのせての部分が大きいです。
 いつか、罪のないその時間がおくれますように。

 それでは、またお会いすることを願いまして。

 雨龍 一
甘恋物語・スイートドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年05月21日

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