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『Un temps de l'amour 〜Golden Dream 』
アンドレアス・ラーセン(ga6523)

 それは、一つの幸せの形だった。
 歪んでしまっているのかもしれない、しかし彼らはそれで幸せなのだ。
 それを誰が咎め様あるのだろうか。
 愛の形は様々で、それでいて、残酷な面を次々と見せ付ける。
 人は誰しも迷うだろう、だが‥‥。
 迷いの末に導き出された幸せを、誰が咎める事ができるのだろうか。


  ◇

 出会った頃などこんな結果になるとは思ってはいなかった。
 まして、自分自身がこんな思いを抱くなど想像ができただろうか。その当時の僕に問いたい。
「えっと、今日の予定は‥‥」
 びっしりと予定が書き込まれたスケジュール手帳を開き、カノン・ダンピールは本日の予定の確認を行う。そこに書かれているのは、金と銀、その文字だけ。それ以外はいたって普通の手帳と変わらないであろう。しかし、彼にとってはその部分が一番重要であった。

 待ち合わせの時間はいつでも朝早く。どちらの時も、迎えに来る場所は同じである。しかし、それでもカノンは確認をする。時間の前に、一度は自分の部屋へと戻り、身なりを整えて。予定に沿って用意するものは、彼にはない。それでも、少しだけ違うのは纏う香りだった。それだけは、ちょっとだけ気をつけていたポイントだった。


  ◇

「お、待たせたな」
 明るい、だけど少しだけハスキーな低音ボイスに懐っこい笑みを浮かべカノンは振り返った。本日のお相手は金。アンドレアス・ラーセンである。
 癖のない髪は、背中へと垂直に落ちつつさらりと風に靡かれる。そして見つめてくる瞳は、透き通った寒い地方の海のように、落ち着きを放っていた。
「いえ、今来たところです。本日はどこに行くのですか?」
 その言葉にくしゃりとカノンの黒髪を撫で上げると、アンドレアスは恭しくお姫様に傅くように腰を曲げた。
「カノンは、何が食べたい?」
 ちらりと上げられた視線は、悪戯好きの小僧の様に輝きながら。

 一週間のうちに3日、一日おきにやってくるカノンと過ごす時間を、アンドレアスはとてもとても楽しみにしていた。理由を聞かれると、戸惑いは隠せない。だが、この至福の時間が、自分ひとりのものだということが彼にとっては大事なのだ。
 仕事がある時はその日程は取れないものの、それでもなるべく選んでしまう短い移動距離。いつの間にか存在意義が変わっていた。俺は、何のために空を翔るのか。今までであったら、その問いに関して救える手を救う為――そんな風に答えていただろう。しかし。
――俺は、こいつがいる空を守りたい。
 今は、そう答える。そんな、存在意義。
 逢った時からなんて言わない、‥‥言えない。だが、いつの間にかその場所に、この俺の心の中に居場所を作ってしまったカノンがいて。そして‥‥それを心地よいと思える俺がいる。
 前にあった少しでも独占したいという思いは、いつの間に手の中で叶っていた。でも、本当は独占ではない。
――ロジー‥‥。
 俺と似たような‥‥いや、同じ想いを持つ銀の彼女。
 彼女の存在が、俺とカノンとの間には存在していた。それは不思議なくらい歪ながら、幸せな空間なのだ。
――そう、歪なのはわかっている。
 得てしまった幸福感とは、人は離せないものである。本当は、何が正しいかなんてわかっている。わかっているのだが。

「アスさん?」
 不意にカノンの顔が近付いた。どうやら考え込んでいたところを下から覗き込んだらしい。
「あ、わりぃ。なんでもねぇよ」
 くしゃりと艶やかな黒髪をかき乱すと、くすぐったそうな笑みを零す。しなやかに伸びた手が戸惑いもなくアンドレアスのシャツの袖へと延び、つかんだ。
「それで、何を食べさせてくれるんですか?」
 少し細くなった紅い瞳は、極め白い面立ちと相まって独特の誘惑へと誘い出す。その表情にゴクリと息を呑みつつ、アンドレアスはしきりに頭の中に描いた絵を降り散らした。
「そうだなぁ、今日は‥‥」
 何も施さなくても紅い薄い唇が、弧を描いていた。いつもながら引き寄せられる。そこに彼の細い白い指先が乗るのを見ると、鼓動が跳ね上がるのを感じる。女だったらまだしも、男相手なのに‥‥そんな言い訳は、カノン以外で通用するんだとばかりに鳴り響く音。言葉詰まるアンドレアスを、カノンは不思議そうに見つめる。
「アスさん?」
 再び固まったアンドレアスに、掴んだ袖を引っ張る。
――この唇が、もっと見えるような‥‥。
「‥‥とりあえず、貝で一杯やるか」
 この唇から舐めるような舌先で味合うムーアール貝とそれに似合った赤ワイン。それを前菜に‥‥つらつらと頭の中に出てきたメニューが、彼の次の行動を決めていた。

  ◇

 アンドレアスは、部屋に戻るとシャツを脱ぐ。そして冷蔵庫から出したビールを片手にキッチンへと入っていった。
 カノンは料理が出来上がるまで無機質なソファーへと寝そべりながら、放りだされている雑誌に手をかける。自分が読む本との違いに、いつものことながらくすりと笑みを零すと、そっと指で辿る。
 キッチンの方から聞こえる鼻歌にそっと耳を傾けると、余計くすぐったくなって視線を本に落とした。
 アンドレアスとの時間は、不思議な時間だ。何をするわけでもなく、ただ彼のいる世界に触れているだけなのだ。それが、すごく心地よい。
 出来上がる料理を待ちつつ、投げ出されている雑誌を読み、何気ない会話をしながら、彼の奏でるギターの音に耳を傾ける。今まで味わったことのない時間を、過ごすのだった。


  ◇

 日が明けると、空虚の時間アンドレアスは心奪われていた。隣には、既にカノンはいない。一日置きの逢瀬はこんな時切なくなる。本日は銀‥‥ロジーの所へと向かっているはずだった。テーブルの上へと投げ出されるように置かれているペットボトルに手を伸ばすと、一気に半分近くを飲み干した。
 髪を掻き揚げる手が、途中で止まる。幸せな時間を思い出し、そしてそっと溜息を付いた。

 仕事を終え、部屋へと帰る。机に向かいパソコンの電源をつけると、眼鏡を手に取り積み上げられた資料に目を通した。
―― ‥‥っ。
 行間に差し掛かるところで、不意に集中力が乱れる。資料を机の上に置くと、頭を抱える様に前のめりになっていた。
 今頃、カノンはロジーの横で笑っているのだろう。昨日、アンドレアスに見せたように、彼は笑うのだろうか。それとも‥‥。
 鈍い痛みを感じながら、アンドレアスは闇色へと変わった空の色をそっと見つめ上げるのだった。


  ◇

 ――日曜日。
 それは、もっとも不思議な時間。
「よっと、待たせたな」
 アンドレアスは両手にアイスクリームを持ちながら赤い車へと小走りで近付いた。
 そこには、優しく微笑みロジーとカノンの姿。街角のアイスは甘く、冷たい喉越しがまた少し熱を帯びた身体に心地よかった。車にはたくさんの荷物が載っている。それは買ったばかりの様々な品物だ。
 少し取りこぼしたアイスがカノンの服についたのを、ロジーは優しくハンカチで拭った。それを少しからかいの口調で眺めているアンドレアス。その様子は、どこか若夫婦とその弟のように人からは見えるのかもしれない。行き交う人々は、そんな幸せそうな三人を暖かい視線で見つめ、過ぎ行く。
 そう、若夫婦とその弟だったのならいいのに‥‥。
 大事な物が全て収まった、この幸せの時間を、アンドレアスは愛おしそうに見つめていた。


  ◇

 ふと身体を起こすと、まるで猫たちが集まって寝ているかのようにそばに黒と銀の姿があった。金は優しく二人の髪を撫でてやると、口元が緩やかに弧を描いた。
 胸を締め付けるのは、なんなのだろうか。
 この不自然な幸せを、いつまでも夢に抱いてはいけないのだろうか。
 ただ、緩やかに過ぎ行く時を、このまどろみの中に浸っていてはいけないのだろうか。
 様々な疑問が脳裏で浮かびながらも、それでも、この時間が愛おしかった。

 だから、ゆっくりと目を瞑る。
 黒の誘惑に、金と銀はただゆったりと身を任せる。


      不自然な幸せに、目を瞑り続けながら。






━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【ga6523 / アンドレアス・ラーセン / 男 / 28 / サイエンティスト】
【ga1031 / ロジー・ビィ / 女 / 22 / ファイター】
【gz0095 / カノン・ダンピール /男 / 18 / NPC:一般人】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 この度は発注ありがとうございました。
 奇妙な三角関係。昔のフランス映画のように。
 そんな言葉にそって、ぐるぐると三人の日常を想像して行き着いた先。


 すみません、とてもじゃないけどイケナイ発想をしてしまいました。

 ので、そこからかなりレベルを落として書き連ねさせていただきました。

 一体彼らはどこまで行くのやら。ノベルの中だけでも、幸せに過ごしてもらいたいものですね。向こうの方では、わかりませんが。
 共通の題名である「Un temps de l'amour」はこの奇妙な関係を表してというよりも、金と銀の想いをのせての部分が大きいです。
 いつか、罪のないその時間がおくれますように。

 それでは、またお会いすることを願いまして。

 雨龍 一
甘恋物語・スイートドリームノベル -
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CATCH THE SKY 地球SOS
2010年05月21日

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