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『+ 人を呪わば―― + 』
嵐・晃一郎5266)&大守・安晃(7430)&草間・武彦(NPCA001)



 草間 武彦(くさま たけひこ)は少々苦思い表情を浮かべながら目の前に立つ一人の青年、――嵐 晃一郎(あらし こういちろう)を見上げる。
 草間はソファに座りながらタバコを吸い、煙を吐き出しながら彼は後頭部を掻いた。


「実をいうとあまり勧めたくはないんだが」
「そう前置きするって事はまたヤバイお仕事ってやつ?」
「はっきり言えばそうだ。仕事内容を一言で言えば護衛。だがその護衛の相手と内容が少々厄介なんでな」
「いいよ。受けるかどうかは別として話して」
「ふぅ……。相手は企業の役員。何でも殺害予告を受け取ったそうだ。確たる証拠はないが、同じ手口で『まっとうな人間達』が被害にあっている」
「その依頼人も『まっとうな人間』って奴?」
「一応周辺等を洗ってはみたが、綺麗なもんだ。だからこそ狙われたんだろうな」


 もう一本と改めて草間はタバコに火をつける。
 その煙が嵐の方へと流れてくると、彼はなんとなく片手を振って煙を散らした。


「なるほど。いいよ、護衛の仕事なら受ける」
「良いのか? 危険な依頼になる可能性も高いぞ」
「まあ、犯人探しは俺の仕事じゃないからね。で、その依頼人さんの自宅は何処? 折角だし直接逢いにいってくるよ」
「……まあお前がそういうなら、任せた」


 草間は依頼内容が記載された書類とネットからDLしておいた周辺地図のコピーっが入ったA4サイズの封筒を嵐に手渡す。
 それから他のこまごまとした詳細を彼に伝えると、嵐は封筒を手に「いってきまーす」と至って軽い調子でその場を後にする。


 これが始まり。
 後に、彼はある事件に巻き込まれることをまだ知らない。



■■■■



「――と、言うわけだ」


 依頼人である役員の男は重苦しい息を吐き出しながら嵐に事の展開を告げた。
 家に出向いた時は一見警護に向いていないように見える嵐に訝る様な視線を向けていたが、草間の紹介状と念のため草間へと電話を繋ぎ嵐がきちんと依頼を受けた人間であることを確認すると、彼は妻や子供に応接間に入ってこないようにと告げた。
 その警戒の様子から本人の神経が非常に張り詰めていることが分かる。


「なるほど、ある政治家に裏金を求められて、それを断ったら脅しとも取れる言葉を頂いた……と」
「その時はね。ところがその後から色々と嫌がらせを受けるようになってね。……そう、最初は嫌がらせ程度で済んでいた。最初は家に無言電話が掛かってくるようになった。ところが次からは脅しの入った言葉と共に電話が鳴り響く始末。子供達曰く『誰かに常に付けられている気がする』と聞いた時はぞっとしたよ」
「誘拐の可能性も考えられたわけですね」
「……子供にまで手を出すとは考えたくはないが、その政治家はあまりにも力が大きいのでね。警察にまで手を回しかねない」
「で、最終的には殺害予告、っと。この事ご家族には?」
「いや、その予告を受け取った時は幸いにも私一人だった。妻にも話していない。殺害予告が届いてからは電話などの余計な悪戯は収まったからそれは有る意味幸いだったんだが……」
「なるほど、ね。その方が余計な心配をかけなくて良いかもしれない」
「暫くは自宅で仕事をするつもりでいたんだが、まるで狙っていたかのように予告の日はどうしても抜けられない会議が入ってしまった。そこで草間興信所の方に依頼をさせて貰ったんだ。何が起こるか分からないが護衛を引き受けてくれるかね?」


 役員は再度真剣な目付きで嵐を見る。
 何分、自身の命がかかっているのだ。生半可な覚悟で引き受けられては困る、彼はそう考えている。嵐はそのことを経験上すぐに察した。予告の日だけで事が済めば良いけれどと心中思うが、それはあえて口には出さずに……。


「では本日よりその予告の日まで俺が警護につかせて頂きます。この家に来る理由は……そうだなぁ。会社の書類を届けるメッセンジャー的な人間ってことでどうでしょう」
「せめて秘書って言いたまえよ。そして出来ればスーツなど来てくれると嬉しいんだがね」
「最近の会社は結構クールビズだなんだと自由ですよ。数日くらい我慢して下さい。その代わり、俺の方もご家族の前では貴方の部下を演じますから」
「――宜しく頼むよ」


 役員は右手を前に差し出す。
 嵐もまた己の右手を差し出し握手を交わす。その瞬間、彼らの間には確かな契約がなされた。



■■■■



 そして問題の予告の日。
 「どうしても抜けられない会議」の為に役員は身支度を整え、重要書類等入った鞄を手に玄関に立つ。此処を一歩でも出れば、いや、もし相手が本気であれば一歩も出ずに彼は殺されてしまうかもしれない。
 嵐は珍しく黒のスーツ姿で役員の隣に立つ。警護の一環として役員から寄贈されたものだ。本人は動きが鈍くなる可能性があると受け取るのを渋ったが、「家族の目が」と言われてしまえば反論出来なかった。


「先に俺が出ます。貴方は後からどうぞ」
「ああ、……分かった」
「何があっても俺が貴方を護りますから、どうかご安心を」
「それは今日という日が無事に終わってから言ってもらいたい言葉だね」


 やがて意を決して役員は嵐とともに外へと出る。
 ところが何か耳を裂く様な風の音が嵐の耳に聞こえた。


「――ッ!!」


 直後、嵐は役員の前に立ち外部からの攻撃と思われるものから身を呈して護るが、衝撃に耐えることは叶わずそのまま二人して倒れてしまった。
 じわり、じわり。
 やがて地面に広がっていくのは赤。
 鮮血の色が嵐と役員の身体を染め上げていくのをある男が見ていた。役員もぴくりとも動かない様子に任務完了とばかりに男は持っていたライフルを引いた。
 彼の居場所は役員の自宅から遠く離れたビルの屋上。其処からその狙撃手は二人を撃ち殺し、場を去ろうとする。
 殺害予告通り役員の命は絶った。運悪く傍にいた男も巻き添えになってしまっていたがそんな事殺人犯である男には関係ない。
 唇を引き上げ、満足そうにライフルを仕舞う男――だが。


「残念だけど、そうは簡単には終わらない。」


 そんな彼の前に現れたのは先程徹甲弾で標的共々始末したはずだった嵐だった。
 腹一面を赤く染め上げた彼は、明らかに重症といってもいい。だがそれを気にもとめていない様子で彼は笑う。
 犯人は余程今回の仕事に自信があったのだろう。顔を隠す事すらせず、その目を大きく見開き信じられない物を見ているかのような表情を浮かべていた。
 加えて嵐が重症であるのに短時間で男のいるビルを突き止め、やって来た事にも驚きを隠せない。


「簡単には死ねない身体なんでな。それと、あの人に弾は届いちゃいない――よっ!!」


 言うや否や、彼は駆け出し犯人へと拳を振り落とし殴りかかる。
 不意打ちを受けた犯人はあっさりと攻撃を受け、唾液の飛沫をあげながらその場でよろめいた。
 嵐は己の腹がじくじく痛むのを感じながら、腹いせにもう一発くらいお見舞いしてしまおうかと拳を作る。
 だが、その直後。


「ぐぁっ――!」


 犯人の頭上から黒い影が踊り掛かり、そのまま男は倒れて動かなくなった。瞳孔が開き、泡を噴くように唇から唾液が滴っている事から死亡したことはすぐに理解出来た。
 それら全て数秒にも満たない出来事。
 嵐は拳から力を抜くことも出来ず、ただその様子を見ているだけしか出来ない。
 現れたのは短髪の黒ずくめの男。その男もまた顔を、そして狙撃犯を仕留めた武器であろう針を隠す事無く堂々と嵐の前で殺人を犯す。だが、嵐が言葉を失ったのは殺人のせいではない。その男に見覚えがあったからだ。


「……お前、鍼灸所の……」
「コイツは俺達の掟に背いた……で、俺を捕まえるか?」


 非常に淡々とした口調だ。
 敵として認識していないのかもしれない。それとも嵐から逃げ切れる自信があるのか。もしくはその両方か。
 嵐は握り込んでいた手をゆっくり開き、それからひらりと振った。


「俺が頼まれたのは護衛だけだよ」
「……」
「嫁さんが家で待ってるんでな。悪いが帰らせてもらう」


 そう言って踵を返す嵐。
 腹に開いた穴を嫁にどう言い訳しようか考えながら見覚えある殺人犯に背を向けるが、その男――大守 安晃(おおかみ やすあき)は嵐を襲うことは無かった。


「さて、本当にこれで終わりかなっと」


 確かに一つの危険は去ったのだろう。
 だが……。
 嵐の中でよぎる違和感。


「いてて、とりあえず、役員さんに連絡しなきゃな」


 じくりじくり。
 ああ、赤はまだ、止まらない。



■■■■



「あーあ……」


 数日後。
 嵐の危惧していた事は現実となる。
 あの時受けた傷のせいで腹に包帯を巻き、自宅ベッドの上で退屈しのぎにテレビを見ていた――そこまでは良い。
 その番組がニュースとは全く関係の無い平和なバラエティー番組だったのもいいだろう。
 だが速報としてテレビ上部に流れてきたものは……。


    『――本日未明、某政治家自宅にて謎の死を遂げる――』


「ふぅん、人を呪えば穴二つってやつかな。っていうか、黒幕こいつだったのか」


 まだ完治していない腹の傷をそっと撫でながら、嵐は言いようのない苦笑を浮かべる。
 そっと瞼を下ろし一連の事件を思い返せば、最終的に思い出すのはあの男。
 普段は鍼灸師として働いているらしいあの「殺人犯」の姿。
 誰が政治家に手を下したのかまでは判断出来ない。だが彼は「コイツは俺達の掟に背いた」と言っていた。つまり何かしらグループに所属している、もしくは嵐の知らない殺人に関する掟に関係しているものと言う事。


「まだ何か先がありそうだな」


 じくり。
 もし何かがまた起こるのならば腹の傷が治ってからが良い。
 そうでないと嫁さんに泣かれたり怒られてしまうから。


 ピッ。
 面白かったテレビも今は見る気が起こらず、嵐はリモコンで電源を切った。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【5266 / 嵐・晃一郎 (あらし・こういちろう) / 男 / 20歳 / ボディガード】
【7430 / 大守・安晃 (おおかみ・やすあき) / 男 / 23歳 / 鍼灸師/仕掛請負人】

【NPCA001 / 草間・武彦(くさま・たけひこ) / 男 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました!
 今回は嵐様中心で話を進ませて頂きましたが、こっそり大守様のポジションも引き立てられるように懸命に描写させて頂きました。この後嫁さんに怒られる嵐さんに何食わぬ顔で鍼灸師の仕事をする大守様の姿を想像するとちょっと面白可愛いですね(笑)
 ではまたご縁がありましたら宜しくお願いいたします!
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
蒼木裕 クリエイターズルームへ
東京怪談
2010年05月26日

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