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『*。・ Un sourire du jardin de l'amande ・。* 』
ライラ・マグニフィセント(eb9243)&ユリゼ・ファルアート(ea3502)&サクラ・フリューゲル(eb8317)&アーシャ・イクティノス(eb6702)&クリス・ラインハルト(ea2004)&明王院 月与(eb3600)

 空気に花の香りが混じる。
 ふうわりと。
 凍てつく寒さは、ゆるりとしたその暖かい陽光に抱かれ。
 ふくりとした花の蕾が、街のあちこちで咲き零れ。
 灰色に紗のかかったような景色は春の魔法で色を変える。
 冬の間息を潜めていた命の息吹が、そこかしこで柔らかな命の色を吹き上げるのだ。

「皆、集まってくれてありがとうさね」
 裏打ちされた布に、星の光が散りばめられたかのような漆黒のマントを留めるのは、真っ赤な薔薇の形をしたブローチ。すっきりとした漆黒の礼服を着込み、大きなバスケットを手にしたライラ・マグニフィセントの、不揃いに首元辺りで切られた、柔らかな茶の髪が春風に遊ばれて揺れる。春を映す碧の瞳が、集まってくる仲間達を見て微笑む。
「皆〜、元気にしてました〜?」
 真っ白な祝福がそらを飛んでやってくる。
 翼在る白馬、ペガサスのベガを駆って春風と共に舞い降りたのはアーシャ・イクティノス。柔らかなベージュのブラウスの胸元には、ブラウンのリボンが上品に結ばれている。白銀の髪が穏やかな光を浴びて、光る。イスパニアへ嫁いでからこのかた、パリに来るのは久し振りだ。
「皆、久し振り」
 パリから北の地方は、未だ凍てつく寒さだった。
 ユリゼ・ファルアートは、深緑のマントのフードを軽く上げる。懐かしい空気を吸い込み、右に蒼と左に碧の瞳を和ませれば、涙の形にカットした淡いピンク色の宝石のペンダントが、胸元から零れて、春を誘うかのように光り。
「サクラ元気にしてた?」
「ええもちろん。‥‥お茶会、何度目になるかしら」
 桜色の髪を真珠色の光沢のあるリボンでポニーテールに結んだサクラ・フリューゲルが、無邪気に笑う。瞳の碧と良く似た色の袴に、茶の編み上げブーツ。鶴の浮き模様が織り込まれた白の着物の袖裾に描かれるのは意匠された欧州の庭園の春の花々。所々に金糸銀糸で刺繍が入り、花文様を奥行きのあるものにしている。ちらりと見える帯は、アーモンドピンク。縦に差し込む小さな扇の先が帯から僅かに見える。
 金鎖と小さなピンクの珊瑚、小さな淡水真珠で作られた、パンジャが両手で春風のようにしゃらりと揺れて。袖無しの陣羽織は、膝丈の長いもの。腰から両脇、後ろと長めのスリットが入り、裾は三角に下がるように切れている。三角の下がった先には、僅かに七色に光るゴシックパールが金の留め具で陣羽織の裾が舞い上がるのを抑えている。
 顎の下まで伸びた白銀の髪を、赤い紐で押さえたクリス・ラインハルトは、締め付けない、ゆったりとした服を着ていた。優しい水色のドレスに、白いふんわりとしたブラウスに、同じ白い糸で、袖口と襟に花文様が刺繍されている。仲間達と冒険に明け暮れていた日々は、懐かしくも近く、遠く。そっと撫ぜるのは、新たな祝福を得て育つ場所。お腹に手をあてると、酷く落ち着いたゆるやかな笑みが零れた。
「今日のお茶会に参加するのは‥‥六人半ですね」
「ふふ。ホントだね」
 明王院月与は、大好きなクリスと一緒が嬉しくて、彼女に宿った新しい命が嬉しくて、始終笑みが絶えない。とても大きなバスケットなどには、お花見の準備が満載に詰まっている。
 高くひとつに結わえた、癖の無い黒髪が、さらりと肩から落ちる。綺麗な緑のドレスに重ねた、エプロンドレスの裾が、ふんわりと揺れた。
 春の香りの中に、仲良しが久し振りに顔を合わせる事となったのだった。

 街の木々や鉢植えの花々の艶やかさもさることながら、果樹園の花の美しさは、また格別である。
 一面に手入れされた木々に、一斉に花開く果実の花。
 それは、遠目から見れば、まるで花の絨毯のようだ。葡萄畑や、小麦畑。さまざまな畑がパッチワークのような模様を地に描き出している。
 プラタナスの農道を走れば、遠くにピンクの雲霞が見えてくる。
 抜けるような青空が、小道を抜けると、目の前に広がった。
 遠くにはけぶるような色だったのに、アーモンドの合間を歩けば、透けるようなピンクの花弁が満開に咲き誇っている。ジャパンに多く咲く桜の花に良く似た。けれども、それよりも色鮮やかで華やかなアーモンドの花。
 クロウタドリが、チチチと、高い声を響かせて、飛んで行く。
 ひらひらと舞う蝶が、蝶の道を辿るのか、人を避けもせずに、ひらひらと舞寄っては、去って行く。
(「旧聖堂に植え替えた、桜の盆栽もそろそろ見頃かな?」)
 月与は、大地へと命を移した花を思い出して、目を細めると、春風が長い黒髪を梳いて行った。きっと見頃とささやく様だと、月与はくすりと笑う。
「ここにしましょうか」
 ゆったりと歩くクリスを思いやりながら、ライラは、どちらを向いてもアーモンドの花ばかりという、花の中に埋もれたかのような、美しい場所で足を止めた。
 アーモンドの花の種類もたくさん目にうつる。
 濃いピンクから、白くけぶるような色まで。
 花のグラデーションが目に優しい。
「どうかな?」
 鼻腔をくすぐるのは、リンゴのような香りのカモミール茶。
「素敵です」
 マザーリーフとも呼ばれる、カモミールのお茶は、神経を鎮め、心穏やかにする効能があるのが良く知られている。そして、もうひとつ。マザーリーフと呼ばれる所以は、身体を暖めて、女性特有の悩みを解消する。暖かくなったとはいえ、大地はまだひんやりとしている。腰を冷やさないようにという、ライラの配慮に、クリスは嬉しそうに目を細める。
 並べられたお菓子は、パリのお菓子屋ノワールの看板商品ともいえる、ホイップクリームを添えた、ふわんふわんのシフォンケーキ、パリジェンヌのお菓子と呼ばれる、特製のマカロン。
 そして、アーモンドの花を愛でる場所にふさわしい、桜色がうっすらと浮かび上がった、長方形の小さいビスケットの、ビスキュイ・ド・ランス。ガトー・アマンドを切り分けると、かりかりに焼けた薄いピンク色の中から、しっとりとしたピンク色が現れる。
 優しい色合いの砂糖でコーティングされた、アーモンドドラジェが、小さな丸い箱いっぱいに現れる。『豊かさ』、『豊穣』『多産』のシンボルとされる、そのころころとした一口大のお菓子が、またクリスの笑みを深くする。
「あ、お姉ちゃんはここ座ってね」
「ふふ。ありがとう。んー‥‥こっちもいい香り」
 ぽむぽむ。と、月与が叩いて、クリスを招くのは、花茣蓙の上に、もこもことした、あひるさんのクッション。大きな荷物はこれだったのかと、クリスは笑いながら、もこもことしたクッションに腰を落ち着ける。
「ありがとう、もこもこで暖か」
「あひるさんだし?」
「そう」
 顔を見合わせて、笑い合いながら、月与は、大荷物の中から、さらに取り出すのは、お弁当の重箱。三段重ねの中から出てくるのは、濃厚なチーズがとろりと溶けて絡まっている、ハーブで蒸した鶏肉を挟んだライ麦パンのサンドイッチと、ロースとビーフが薄く切り出され、それが、これでもかっ! というくらい、挟まれたサンドイッチ。バケットの中には、スモークサーモンの厚切りと、ピクルスにスライスオニオン。マヨネーズがまったりとした味で引き締めて。
 お団子は、三色団子。ピンク、白、黄緑と連なる甘いお団子。そのほかにも、白いお団子にたっぷりと甘辛い醤油タレがかかったものや、黒ゴマをまぶした黒ゴマ団子も。
 とどめとばかりに出したポットからは、複雑な香りが漂う。柑橘系の香りと、甘いリンゴの香りが混じり、さらに、その中に、爽やかな花の香りが立ち混じる。一口含めば、蜂蜜の甘さがさらりと溶けていて、思わず笑顔になってしまう。
「三色団子が、可愛い」
 桜が、つと手を伸ばす。
「私もお土産持ってきました」
 サクラの横で、ユリゼが並べるのはふっくらとした、スコーンに、黒すぐりのジャム。クロテッドクリームも忘れずに。二つに割ったスコーンに、たっぷりとクリームを塗り、その上から、黒すぐりのジャムをぽてっと乗せて、少し大きな口でほおばるのが、贅沢な食べ方。
「甘酸っぱくて美味しいな」
 ライラが褒めれば、ライラの合格点を貰えたならば、大丈夫だろうかと、ユリゼが微笑む。
「お茶をどうぞ」
 サクラへと、ユリゼは、香草茶を注いだカップを手渡す。ジャパンで桜の季節に出回る、桜餅の香りが、すっきりと際立った、ほの甘いお茶だ。
「それにしても、皆のお菓子、どれも目移りしますね」
 マカロンを口にしつつ、ユリゼが微笑めば、アーシャが、まだまだありますと、スペインのお菓子を広げる。
「細長いっ!」
「甘くてもちもちしてて、かりっとしてるんですよ。チュロスっていいます」
 月与が、わぁと手を伸ばすと、アーシャがにっこりと笑って、もうひとつのお菓子を広げた。小さめのクッキーのようだが、どうやら作り方はまた別のようだ。アーモンドプードルで固められているのだと言う。
「これはポルポロン」
「ポルポロン‥‥弾むような名前ですね」
「でしょう? 弾むようなおまじないもあるんです」
「おまじない?」
 甘い香りは、オレンジ、チョコレート、シナモン、キャラメル、バニラの風味のそのお菓子は、スペインの結婚式や、お祝い事には必ず登場するのだと言う。
「口の中で崩れないうちに『ポルポロン、ポルポロン、ポルポロン』と3回唱えられたら幸せになるといわれているんですよ」
「本当っ?」
「私は幸せになりましたよ。だって素敵な夫と結婚できたんだもの♪」
 にっこりとアーシャが笑えば、月与がさっそく挑戦する。
「ポルポロン、ポルポ‥‥っ。難しいっ」
「もう一回?」
「もう一回っ!」
 このポルポロン、さっくりと焼き上げてあり、細かい砂糖の粉がとろりと口の中で溶ける。甘い、甘〜いお菓子だけれど、幸せの呪文を唱えるのは、意外と難しい。
 挑戦中の月与の為に、ライラがお茶のお代わりを注ぐ。
「ポルポロン、ポルポロン、ポルポロン‥‥言えたっ!」
「これで、幸せになるのは決まりましたね」
 鈴が転がるような、笑い声が、アーモンドの花の中を春風が運ぶ。
「そういえば」
 クリスが、小首を傾げて、月与を見る。
「?」
 少し、あひるさんクッションから、月与に身を乗り出して、口の端に手を立てて、猫が笑ったかのような笑みをクリスは浮かべた。
「誰か、決まったお相手‥‥好きな人とか居るの?」
「えっ!」
「あ、聞きたい」
「えっ?!」
「ですねえ」
「ええええっ?!」
 突然振られた、コイバナに、月与は目を白黒させる。
 女の子同士の楽しい集い。くるりと見回せば、決まった人が居ないのは、月与だけで。
 この際、教えてもらおうと、クリスが、いい笑顔で、催促をすれば、月与はどう答えようかと、ぱくりとアーモンドドラジェを口に放り込む。
 アーモンドドラジェは、幸せのおすそ分けという意味もあるのを、知っていただろうか。
 仲間たちの笑い声が、心地良い。
(「来年は私どうしてるかな‥‥」)
 ユリゼは、柔らかな笑みを浮かべて、ハーブティを口にする。
 満開のアーモンドの花弁が、春風に乗って、舞い落ちて。
 静かで、優しい時を止めるかのようだ。
「毎年こういう風に集まって楽しめると良いな」
 花弁と共に吹き抜ける春風に、髪を押さえ、クリスが、静かな笑みを浮かべた。



 また、来年も。



 きっと皆で。


 













 ☆・。*  A suivre  *。・☆



☆登場人物一覧☆
【eb9243/ライラ・マグニフィセント/女性/(終了当時)22歳/お菓子作り職人】
【ea2004/クリス・ラインハルト/女性/(終了当時)23歳/吟遊詩人】
【ea3502/ユリゼ・ファルアート/女性/(終了当時)24歳/薬草師】
【eb3600/明王院月与/女性/(終了当時)15歳/公示人】
【eb6702/アーシャ・イクティノス/女性/(終了当時)21歳/警護】
【eb8317/サクラ・フリューゲル/女性/(終了当時)21歳/吟遊詩人】


☆ライター通信☆
 こんにちは。いずみ風花です。
 この度は、ご発注、ありがとうございました。
 アーモンドの花、綺麗ですね。検索で数々の逸話を見る事が出来ました。ありがとうございます。
 出会えた時間全てが宝物なのだと思います。
 何方様にも、穏やかで優しい時間が、この先も何時までも流れますように。
WTアナザーストーリーノベル -
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Asura Fantasy Online
2010年05月26日

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