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『不散の誓いを立てるために 』
シーヴ・王(ga5638)

〜民宿『たちばな』へ〜
 電車で中心地から一時間、さらにバスで30分という長い道のりの末に一件の民宿の前にシーヴ・フェルセンはたどり着く。
 傍らには愛するべき夫であるライディ・王がシーヴの荷物も一緒に持って民宿を見上げていた。
 『たちばな』とひらがなで彫り込まれた木の表札は人の温かみを感じさせる。
「自然が一杯で静かなところでよかったです。連休に、よく休み取れやがったですね。嬉しい、です」
 ふわりと柔らかくシーヴは微笑み民宿のたたずまいを喜んだ。
「じゃあ、中にいって荷物を置いてこようか」
 大自然に囲まれた立地のため、空気がとても美味しい。
 人工島のラストホープでは味わえない空気に包まれた民宿の中へ二人は足を運んだ。
「いらっしゃい」
 玄関をくぐると、無骨ながらも落ち着いた雰囲気の主人がバリトン声で出迎える。
 堀の深い顔立ちは誰かに似ているような気もするが二人は会釈をした。
「部屋は二階の西端のいい部屋だ。景色もいいぞ」
 笑顔を見せながら主人は階段を指差す。
 木製の階段をトントンと駆け上がり、角を曲がって西に進んだ。
 西日の差し込む廊下は陽気で温かい。
 窓から流れ込んでくるそよ風も心地よかった。
「ライディ、いい景色でありやがるですよ」
 部屋に入るとシーヴは窓に走って近づき、身を乗り出して外の景色を眺める。
 青葉の茂る山や、近くを流れる川のせせらぎなどが聞こえてきて平和を五感を通して感じた。
 風がシーヴのストレートロングを撫で、それを目を細めてシーヴは受け止める。
 そんなシーヴを珍しいなと思いながら、ライディは微笑みつつも見つめ持ってきたデジタルカメラに収めるのだった。

〜二千年にも続く『フジ』〜
 言葉がでなかった。
 何本の絡みつく幹から伸びた枝が自然の屋根のように組まれた柱に絡み付いている。
 その美しい光景にシーヴは思わず息を呑んでただ見つめるだけだった。
「ライディ、藤は日本では『不散』とも言いやがるらしいです。‥‥だから、出撃前に見ておきたかったんですよ、二人で」
 隣に寄り添うライディに微笑みかけると同じように言葉を失っていたライディも微笑を返してくれる。
 世界は大規模作戦としてアフリカへの侵攻が始まろうとしていた。
 必ず返ってくるという約束をしつつも、心に不安がないわけではない。
 ライディは戦士ではないため、共に戦場で戦うことは無いため離れている間が心細くもなった。
 だからこそ、二人の思い出を‥‥そして『不散』の願掛けをしたいとシーヴは思ったのである。
 シーヴの気持ちが通じたのか、ライディが肩に手を置いて引き寄せてくれた。
 服越しに彼の温もりがシーヴを満たす。
 この温かさのためにシーヴは戦えるのだ。

 圓居(まどい)して 見れどもあかぬ 藤浪の たたまく惜しき 今日にもある哉
 
「――でありやがるです。ふふ、何処かの姫の影響で、ちぃとばっか勉強したです」
 藤の花を見上げながらシーヴは和歌を口ずさむ。
 ずっと一緒に見ていたい思いを込めてシーヴは歌にした。
「そっか京都のあの子とも結構あっているんだったね」
 歌を静かに聞いていたライディはシーヴの顔を見ながら納得したように頷く。
「お握りとかも京都に行ったときは教わったりしてやがるです。料理上手な奥さんになるためにがんばるです」
「うん、期待してるよ。じゃあ、帰りながらお寺にさいていた白藤を見に行こうか?」
「はいです」
 寄り添いながら二人は宿への道を戻っていった。
 
〜湯上り美人の妻と共に〜
 返ってきた二人は胸の大きな茶髪の長女から料理を運んでもらい席につく。
 先に温泉を済ませてきて涼しげな白藤模様の浴衣に二人は着替えていた。
 目の前に出ているのは山の幸や川エビなどを使った料理の数々。
 鮎の塩焼きや、山菜の和え物やエビや山菜の天ぷらなど出来立ての料理がテーブルの上に並んだ。
「美味しそうだね、頂きます」
「頂きますです」
 手を合わせて二人は料理に手を伸ばす。
 天ぷらを箸で掴んで食べるとパリパリと香ばしい音がした。
「シーヴも箸の使い方上手になったね?」
 去年の夏ごろ京都へ旅行にいったときには箸に苦戦していたシーヴも鮎の塩焼きを摘んで食べれるまでには箸の使い方が上達している。
「はい、あーんしてもらったのも懐かしいでやがるです」
 二人して頬を綻ばせた。
 思い出が積み重なり、新たな思い出と共に時間の経過を実感する瞬間が嬉しいのである。
「はい、あーん」
 ライディが不意に身を乗り出しながら川エビの天ぷらをシーヴの口元へ運んだ。
「あ、あーん」
 口をあけてシーヴは揚げたての天ぷらを食べる。
「ライディにはお酒です」
 一緒に頼んでいた地酒をシーヴはライディの猪口に注いだ。
 無色透明な液体は水のようであるが、アルコール特有の香りが仄かに漂ってくる。
「シーヴもどうぞ」
 ライディから返杯を受けたシーヴも日本酒を味わった。
 昨年まではできなく、今年からできること‥‥日々、二人のつながりが変わっている証だった。
 

〜思い出はまどろみの中へ〜
「藤、綺麗でありやがったですね」
 膝枕をしているシーヴが俺の顔を覗きながら髪を梳いてくる。
「綺麗だったね‥‥言葉を失うほど感動したのって久しぶりかも」
 シーヴの顔を見上げながら俺は答えた。
 湯上りから大分たっても、心地よい風が窓から入ってきて、時計のない部屋はいつもの忙しなさなどない二人だけの時間を作っている。
 息を吸うとシーヴの肌から石鹸の匂いがしてきた。
 後頭部にあたる柔らかい膝がまた気持ちいい。
「温泉も気持ちよかったね」
「露天風呂からみた星空もよかったです」
 目を閉じるとゆったりした温泉から見た光景が脳裏に浮かんできた。
 自然に溢れて息吹すら感じられる景色、そして満点の星空‥‥。
 ラストホープでは見られない多くの星に吸い込まれそうだった。
 混浴ではなかったのが残念だけど、それでもシーヴと同じ景色を見て同じように感動できただけで嬉しくなる。
 傍で繋がっているという瞬間[トキ]を俺は一杯感じた。
 そして、それ以上に俺はシーヴと触れあいたいと思う‥‥。
 手を延ばし、シーヴの手を引き寄せてキスをした。
 唇を重ね合わせるとシーヴがかすかに震える。
 怯えなのか、不安なのか分からないけど今、彼女の傍で彼女を支えられるのは俺だけだと自分に言い聞かしそのまま布団に転がった。
 白い柔らかい肌に触れ、赤い髪を梳きながら彼女を深く、優しく愛する。
 この一瞬を忘れないよう、忘れさせないように俺はシーヴを愛した。
 
〜旅の終わり〜
 チュンチュンという雀の鳴き声で二人は目を覚ます。
 山間の少し冷たい空気が肌に触れて、どちらからともなく体を寄せ合った。
「おはよう、シーヴ」
「おはようです、ライディ」
 朝の挨拶のキスを交わし布団の中でぎゅっと抱き合う。
 心地よい温もりがまだ夢の続きのように二人を満たしているが、朝が来て旅の終わりは近かった。
「もう、旅行も終わりでやがるです」
「うん‥‥ちょっと寂しいね」
 ラストホープに戻れば互いに仕事が忙しくて顔を合わせないときが増える。
 そのことが惜しくてなんだか、今がずっと続けばいいとかそんな気分にさえなってきた。
「けど、お互い‥‥やらなきゃいけないことがあるしそうしてがんばったぶんこうしてご褒美の時間が大切にもなるからね?」
 ライディがシーヴの手を握りながら微笑みかける。
 それは自分にも言い聞かせているのかもしれないとシーヴは思った。
「はいです。また、がんばって旅行にくるです」
「うん、また‥‥いろんなところに旅行しようね」
 二人は手を握り合って次を誓う。
 これからの思い出を作っていくために‥‥。

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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名      / 性別 / 年齢 / クラス  】
 ga5638  / シーヴ・フェルセン/ 女  / 18 / ファイター

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもより文章量を多く頑張ってみました。
橘真斗です。

どさイベの発注をワザワザ人に頼んでしていただいたようでありがとうございます。
純でありつつもラブを主眼にいろいろと頑張って見ましたがいかがでしょうか?
一年前の京都旅行のノベルを読み返しながらいろいろと差をつけてみたりとかしたのですが気に入ってもらえたら幸いです。

それでは、次回の運命が交錯するときまでごきげんよう。
■「連休…そうだ、旅行へ行こう」ノベル■ -
橘真斗 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年06月07日

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