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『【野宿も普通】 』
東雲 辰巳(ea8110)
 色々と手続きが終わり、ナイトにジョブチェンした東雲辰巳。そこには、レディさんことミス・パープルの入れ知恵が8割ほど含まれていたりするが、表向きはよくやってる領主となっていた。
 それから数年後‥‥。
 アリススプリングスの町は、年単位では珍しいほどに成長していた。
「しかしまぁ、増えたわよねぇ。色々と」
 レディさんが、館の窓から周囲を見回してそう言った。中央に領主の館、その前に大きな広場、んでもってロシアの越境地らしく教会もある。
「本国では、いまだ人力に頼っていると言うのに、この辺はそれに頼らないものも増えたしなぁ」
 東雲が、少し離れた場所にある月道の施設に視線を投げかけた。ここからでも良くわかるその施設は、本国や欧州諸国に比べ、貝殻等がふんだんに使われており、遠くから見ると月魔法の象徴である銀色の壁面を持っている。反対側を向けば、湖の周辺が、まるで港のように整備されていた。
「で、今ではこの状態‥‥と。それじゃ、ロシアの金持ちが目の色変えるのも不思議はないわよね」
 そう言って、レディさんと東雲が二人で覗き込んでいるのは、本国では錬金術の結晶と言われるガラスのはめ込まれた‥‥遠見の魔法がかけられた品である。この辺りの遺跡から掘り出されたものだ。
「その為に、一週間の渡航人数を制限してるんだがな。何しろ、無制限にあけたら、ここは人で溢れてしまう」
 ロシアと比べて快適な場所だ。見た目には石作りに見えるが、自然石ではない家々が並び、他の都市では地面がむき出しの路面は、石畳に見えるモノが敷き詰められている。
「さて、旅行に行く前に、領主の仕事を済ませてきましょうか」
 レディさんは、黙って腕を差し出す。東雲がそこへ当たり前のように自身の腕を絡めて、エスコートしている。行き先は、月道の控え室だ。今日は、しばらくぶりの旅行に出立する日である。
「久々よね。遠出するのも」
「そうだな。まぁ、保養を兼ねてと言うのも、悪くないだろうさ。おまけはいるかもしれないけれど」
 だた、そこには1つ条件があった。アリスへやってくる貴族の子息を、近所へ案内すると言う大義名分である。いわゆる課外授業や合宿の相手と言う事で、2人は保養を兼ねてその旅行へ付き合う事を決めていた。
「って、なにこの年代‥‥」
 頭を抱えるレディさん。気楽に考えていたのだが、やってきたのは予想していたのより、遥かに幼い子だった。普通、士官学校へ入る年頃と言えば、もう少し物の分別がつく頃だと思っていたのだが、やって来たのはもう少し若い‥‥ジャパン風に言えば、寺子屋へ入るかどこかへ丁稚奉公へ向うかと言った年頃の子供ばかりだった。
「いくら旅行が流行って言ったって、こんな子供まで‥‥。ああもう、そっちは子竜の訓練場だから、行っちゃダメだってば! いくなっつってんでしょ!」
 どんっと何かが炸裂する音が響いた。見れば、もくもくと土煙が上がり、子供が驚いて停止している。中には尻餅を付いているのを見て、東雲は頭を抱えていた。
「あーあ、やらかした‥‥」
 さらば、平穏な慰安旅行。ロマンスと2人っきりがその一撃で粉砕された気がした。驚いた係りの人が駆けつけて、大騒ぎになってしまったのは言うまでもない。
「いい? あんた達は今から冒険者よ。一人前として扱うから、そのつもりでいなさい」
 その間に、レディさんは子供達にそう言い渡すのだった。

 旅行といえど、冒険者のやる旅行と言えば、通常は野宿である。
「ようやく落ち着いた?」
「ああ。最初ははしゃいでたけどな」
 レディにそう答える東雲。子供達にとっては初めての事だったらしく、泣くは喋るはと様々な反応をしていたが、月が顔の高さを回る頃には、すっかり大人しくなっていた。そんなお出かけに興奮していた子供の反応を、楽しそうに話すレディさんを見て、東雲はやはり子供は好きなんだな‥‥と思う。でなければ、あの性格で教師なんぞやってはいないだろう。
「‥‥レディ、部下達の配置は完了したぞ」
 朝、東雲はレディに言われた通り、部下達を子供達からは見えない場所からついて来るように指示していた。面倒だが、子供の気分を削がない為なので、ある程度の距離を離せば良いと伝えておく。もちろん、こちらのスケジュールは伝達済みだ。
「OK。多分好き勝手に動くから、苦労はすると思うけど、孤立だけはさせないで」
 レディさんが、そのリーダーの係に、指示を伝えている。お互い、伝令を飛ばす約束をして、彼女は子供達の所に戻ると、こう言った。
「いいこと? 今日はここがキャンプ地よ。屋根がないとか、森の中だとか、そんな事文句言うようじゃ、将来の行軍に役に立たないんだからね」
 うげーとか、そんなーとか、文句が聞こえてくるが、見ないふりだ。しかし、親元を離れてここまで来ようって子なので、半日も立つと慣れてきた。中には無理やり放り込まれたタイプもいるようだが、ここはそんな泣き言が通用するような世界ではない。
 そうして、嵐のような1日が過ぎた。大人の時間になった瞬間、オーストラリアは別の顔を見せる。
「ティラノは石切場とかの向こうだから、こっちまでは来ないと思うんだけどね」
「ブラントが気付いてくれるかどうかだな。トリケラでもでかいと言うのに‥‥」
 恐竜達は、基本夜はあまり動かない。気温が下がるからとか、獲物が探しずらいからとか、色々説はあるが、人と同じ用に、朝起きて夜は寝ると言うパターンなのは、夜営をあまりしなくて済むので、安心なわけだが。
「頭は悪くないから、ちょっと大き目のお猿さんって認識してくれるでしょ。たまに空気読まない夜行性も居るけど」
 そう言って、レディさんはライトハルバードを一閃する。目の前で、子供のテントに近付いてきた小型恐竜に、ライトハルバードをお見舞いする。目の前に金属の塊を落とされて、ビックリした恐竜が逃げて行った。部下達のいる方向に。
「やれやれ。後で特別手当てを出してやらないとな‥‥」
 だいぶ思考回路が領主らしくなってきたようだ。変わった所と言えば、そう言う大人数を前提に行動出来るようになったところだろうか。その分、動かせるモノが増えて、把握に戸惑う事もあるのだが。
「キャンプじゃないって言って置いたのにね」
「仕方がないさ。俺達だって数年ぶりなんだし」
 目的地はアリス周囲の教会湖ではない。もう少し遠くにある遺跡の湖だ。東雲達も最近はアリスの周囲にばかり行っており、そこまで足を伸ばしていなかった。アリスから出た事のない人々にとっては、なおさらの事だ。
「そうねぇ。屋根のないところで寝るの、こっちにきてから、あまりやってなかったわね」
 レディさんがそう言って、キャンプセットに寝転ぶ。湖以外は乾いた地面。その香は久方ぶりだ。
「今は大丈夫だと思うが、昔はティラノが追いかけてたりしたしな」
 そう言って、東雲もまたその隣に寝転ぶ。領主になってからと言うもの、色々あってベッドを共にすると言う習慣がなくなってしまった。配下が強固に言い張るので、仕方なく部屋を分けたと言うのがその真相だが。
「ふふ。夜行性の恐竜、あんまり多くないって分かったのは、アリスで保護するようになってからだしね」
 鼻を摺り寄せるように顔を覗き込んで来るレディさん。抱き寄せて、「ムゥの遺産サマサマだな」と答える東雲。アリスを支えているのは、掘り出した遺産のおかげだ。それを忠実に修理複製し、今日に至る。
「それなんだけど、このままだといずれ尽きるわよ」
「そうかな」
 抱き寄せられたまま、レディさんは警告するように言った。
「生産されてないもの。あの子達が大きくなるまでには、枯渇するわね」
「それは‥‥まずいな」
 鉱山から掘り出されるものは、掘りつくされてしまえば、それでおしまいだ。本国の人々は、そこまで考えては居ないのだろうが、ここはオーストラリア。別天地。
「何とかしなさいよ。領主サマ」
 耳元で囁やかれる。そんな妻にキスしてから、胸の上辺りに頭を乗せて、東雲は思案を繰り返す。
「とは言え、充分に本国には貢献してるしなぁ」
 税収、と言う形で。それに、旅行者の取り扱いも。制限しているのは、ただ町に人が溢れて泊まれなくなるのを防いでいるだけ。
「少し、応用するのも必要かもしれないわね」
 傍目から見れば、恋人同士の語らいにしかみえないが、それでも2人は、アリスの事を自分達の子供のように考えているのだった。

 翌日、その解決方法は思わぬところから見つかっていた。子供達が、白くて丸くて大きい塊を見つけてきたのだ。報告を受けて見に行った所、確かに白くて丸くて大きな塊があった。
「何、これ」
「卵、だと思うが」
 つついて見ると、意外と柔らかい。蛇やトカゲの卵とそっくり同じ質感は、東雲達にも覚えがあった。いつぞや、誰かが持ってきたディノニクスの卵の‥‥数倍大きいモノだ。
「この辺の竜達の管理は、あんたの仕事でしょうが。迷子は保護してるって話じゃなかったの?」
 レディさん、その卵を抱え上げて、攻めるような口調。明らかに竜の卵だ。しかも‥‥大型の。
「いや、どうやらこのあたりのは‥‥。二ヶ月前の大水で、親が流されてしまったらしいな」
 だが、東雲は首を横に振った。アリスの周辺で保護された迷子竜に関しては、隣のフォトドミールと協力して、その保護と育成にあたる事にしている。だが、この辺りまでは手を伸ばしていなかった為、そこまで把握していなかったようだ。
「大事じゃない‥‥。ああこら! 勝手に触らない!」
「子供の相手は頼んだ。数が多いから、人手が必要になると思う」
 おそらく、この辺りに数多くいるブロントザウルス当たりの卵だろうなぁと予想しつつ、東雲は離れた所にいる部下に指示を出していた。
「よし、これで向こうは大丈夫だな。えぇと、確かまだ在庫があった筈だ。持ってきてここに人を集めて‥‥と。アリスにまだ絵図が補完されていたはずだ。持って来てくれ」
 材料はムゥの遺産に、ブラン細工の余りを使って補強する。設計図は昔冒険に出ていた頃に、試験的に作ったモノがあったはず。
「何を作るの?」
「保竜所さ」
 さすがにブロントの子供を全てアリスで面倒を見ると言うわけには行かないが、卵をこのままにしておくのは気が引ける。狙う肉食恐竜が、まかり間違ってこちらに来るとも限らないのだから。
「ひょっとして、ここでたくさんの竜達を育てる事にならない?」
「子供が多いのは、不満か?」
 レディの指摘に、東雲はそう囁いた。跡継ぎは部下には切望されているが、何も自身の子供である必要は無い。養子に後を継がせている御仁達はたくさん居るし、ましてやこの領が子々孫々に伝えられる保障もない。ならば、手を広げておくのも良いだろうと。
「知らないわよ。どうなっても」
「何とかなるさ。きっと」
 俺の愛するレディさんなんだから。そう言われて、ひそかに頬を染めているレディに、東雲は満足そうに微笑むのだった。
■「連休…そうだ、旅行へ行こう」ノベル■ -
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2010年06月11日

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