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『其の尊き春の海で。 』
空閑 ハバキ(ga5172)

 5月と言えば、春を通り過ぎて初夏と言っても過言ではない季節だ。すでに桜の頃は終わり、萌え始めた新緑が町行く人々を楽しませる季節。
 けれどもここ、デンマークではようやく春を迎えたばかり。季節感が違うのだと、薄手のコート姿の人が行きかう町を見ながら、アンドレアス・ラーセン(ga6523)はしみじみ思う。
 故郷に帰ってきたのは久しぶりだ。生まれた時から意識することなく身体にしみこんだ季節感覚は、いつもはどちらかと言えば逆に季節の巡りが早い事にほのかな違和感を訴えたりするのに、こうして戻って来たら来たでまだ春が巡ってきたばかりだと言うことに戸惑いを覚える。
 不思議なもんだ、と唇をへの時に曲げながらアンドレアスは、かって知ったる町を歩き始めた。ヨーロッパの古い町並みは基本、なかなか変化すると言うことを知らない。放っておけば数十年でも数百年でも、同じ町並みの中で生き続ける。
 そんな事を考えながらシガレットを取り出しかけて、ふと気付いてまた片づけたアンドレアスは、ふと何かの予感に駆られて人の行き交う町並みをじっと見つめた。見知らぬ、見慣れた人々の群がちらり、とアンドレアスを見ながら通り過ぎ。

「アァァアスッ! こっちこっち!」
「何を間の抜けた顔をしてますの、アンドレアス?」
「って、何で居るんだよっ!?」

 その人波の向こうで、じゃあ行ってくると別れたはずの親友達が全力でぶんぶんと手を振っているのが目に留まり、愕然と目を見開いた。見開き、叫んだ言葉を聞いて、空閑 ハバキ(ga5172)とロジー・ビィ(ga1031)は顔を見合わせてビシッとサムアップ。
 ハバキとロジーがアンドレアスの先回りが出来たのは、一握りの幸運と半分以上の執念による。移動の便によっては先発より後発の方が遙かに早く目的地に着くこともある、そのタイムラグを偶然にも利用できる便にアンドレアスが乗ってくれたからだ。
 ゆえに、それが解った瞬間のハバキとロジーの行動力といったらなかった。あっと言う間に便を押さえて移動の荷物を詰め込んで、だがアンドレアスには悟られないようにあらかじめ手荷物預かりに預けてそしらぬ顔で「行ってらっしゃい」「楽しんでいらしてくださいね」と見送り、すぐさま別便に飛び乗ったのである。
 その甲斐あってアンドレアスの本気の驚き顔を見れた、と心から満足そうなハバキとロジーだ。待っている間もずっと2人でワクワクそわそわしていて、ロジーなんて「きっと吃驚しますわよ、アンドレアスったら」とその様子を想像してはころころと笑い転げていた位。
 と、言うところまでを詳しく語られたわけではないけれども、親友達の全力で楽しそうな顔を見れば何となく想像はついて、はああぁぁぁッ、とアンドレアスは大きなため息を吐き、その場にしゃがみこんだ。もちろん、困った事になったと思ったわけではなく――ちょっと楽しいとか、嬉しいとか思ってしまって。

「おまえら面白すぎ‥‥ッ」

 だから搾り出すように言われた言葉に、ハバキとロジーはまた顔を見合わせて、だが今度はほんの少しほっとしたように微笑み合った。アンドレアスがこの事態を楽しんでいる事が解ったからだ。
 この頃、それぞれがそれぞれに忙しくて、色々悩んだりもしてて。けれどもやっぱり忙しいから、互いにゆっくりと過ごす時間もなかなか取れなくて。
 だからせっかくのこの機会に、せめて親友3人でいつものように、いつもとは違う場所で楽しめたら良いな、と思ったのだ。
 からり、とロジーが笑う。

「案内してくれませんの?」
「‥‥ま、しょうがないから案内してやるか」

 その言葉に、いかにもしぶしぶらしい声色を作りながらも、結構その気になってアンドレアスは立ち上がった。幸いここは彼が生まれ育った場所で、そうして時が止まったようにあの頃と殆ど変わってない。
 だからきっと何とかなるだろうと、うそぶいた男に三度、ハバキとロジーは顔を見合わせて笑ったのだった。





 質問。デンマークと言えば、あなたが思い浮かべるのは何ですか?

「やっぱり、ホットドッグスタンドは外せないよね」
「ワッフルも美味しいらしいですわ。アンドレアス、地元の方だけが知って居るような秘密のお店はありませんの?」
「この町にそんなもんあるか!」
「ぇー、アス、怒りんぼー」
「ですわね」

 お手軽デンマーク観光ということで、アンドレアスの引率によって歩き出したハバキとロジーは、のっけから賑やかにきょろきょろと辺りを見回していた。お供にはしっかり買い込んだホットドッグとワッフル。かぶりついたら口いっぱいにトマトの酸味とマスタードのぴりりとした辛味が広がって、それからじわりとウィンナーの肉汁がこぼれだす。
 それだけでももちろん、十分に飛び上がるくらいに美味しい。おまけにいつもとは違う光景の中で、仲良しの3人組でわいわいやりながら食べれば、なおさら美味しさが込み上げてきて、自然と笑みがこぼれてきて。
 何とはなしに浮き立つハバキとロジーの目に映る、いかにもヨーロッパの田舎の港町といった光景は、けれどもかつてアンドレアスが言っていたほど重苦しくは見えない。それは遅い春を迎えたからだろうか、それともやはり親友達と一緒に居るからだろうか。
 郊外へと視線を投げれば、あちらこちらにまるで何かの象徴のようにそそり立つ風車がチラリと見える。風力発電に力を入れているこの国では、ちょっと郊外に出ればあちらこちらで風車を見ることが出来るのだけれど。

「近代的と言うか、余り風情のあるものではありませんわね?」

 かぷ、とホットドッグを齧りながらロジーがコクリと首を傾げた。風車と言うとオランダのような、レンガ造りの建物の上に大きな羽のついたものをつい想像しがちだが、粉挽きのためではなく純粋に風力発電の為に造られた風車は全身が真っ白で、シンプルだけれどもどこか無骨な3枚羽のオブジェに見える。
 そんな感想を漏らすロジーの顔は、けれどもどこか楽しそうで、ハバキはほっと胸を撫で下ろした。この頃あまり元気のない彼女の事が、ハバキはずっと気になっていたから。だからせめてこの旅行の間だけでも、いつもの彼女らしく華やかに笑ってくれたら良いな、と思っていて――出来ればこれをきっかけに少しでも元気付いてくれたら、最高で。
 やがて、アンドレアスが親友達を案内したのはやはりと言うべきか、港だった。灰色の海――かつてヨーロッパの海で猛威をふるっていたバイキング達が、安らぎを求めて帰ってくるのがこのデンマークや、バルト三国に囲まれた北の海だったのだという。
 寒い気候が多いこの町で、晴れやかな空を見る事は稀で。この海を見るたびにまるで自分の人生まで灰色に塗り潰されたような気がしたのはきっと、そのせいもあるのだと、アンドレアスは思う。
 けれどもあの頃とも、ハバキにこの海を語った時とも違う、迷いも悩みもある意味で吹っ切れた心で見る海は、ただ懐かしく。

「うん、良い海だよ。俺の故郷とはやっぱり違うけど、でも同じ海だ」
「ラストホープが旅する海にも繋がってますわね」

 ハバキが目を輝かせながら嬉しそうに港の様子を見回し、いつかこの辺りも通りますかしら、とロジーが何だか楽しそうに頷いた。
 もう少し北に上がれば大規模な戦闘があったグリーンランドがあって、そのグリーンランドは本来デンマーク領。そう考えれば世界は何だか余りにも狭くて、身近で、いつだってすぐそこに誰かの大切な海があって。
 そう、思いながらロジーは2人の親友を暖かく見つめた。恋人の事で色々悩んでいるハバキと、奇しくもロジーと同じ想い人の事でもやもやしていたアンドレアス。2人を見てロジーが思うのはただ、彼らの心がこの旅行で少しでも軽くなれば良いと言う事だけで。
 ロジーにとって、想い人の事とアンドレアスの事とハバキの事は、どれもが等しく『大切』。そのどれかがより重きを持っていると言う事はなくて、傍から見れば矛盾しているかもしれないけれどもそれは全部、別々に、等しく大切なものなのだ。
 だからただ、彼らの心が少しでも軽くなれば良いと願う。そのためにも普段の色々な事は全て忘れて、ただ親友達と楽しく過ごすのだと、自分自身に言い聞かせて。
 港ではこの季節、春告魚であるヘリングの水揚げが盛んだ。その様子を眺めつつホットドッグを頬張って、あの船がかっこ良いとか、あれは年季が入って居るとか、どこかで美味しいヘリングを食べさせてくれるお店はありませんの? とか、他愛ない言葉と笑い声をひたすら重ねる。
 小一時間ほどをそうして過ごして、けれどもまだまだ寒い海風に負け、3人は港から引き上げ町中へと戻ってきた。そうして暖かいカフェでも、と歩きかけたアンドレアスがふと、思い出したように小道にそれる。
 きょとん、と首をかしげながら、ロジーとハバキはずんずんと歩くアンドレアスの背中を追いかけた。生まれ育った町で、迷子になる事もあるまい。
 いかにも観光客の寄り付かなさそうな、いわゆる普通の住宅街の中を幾らか進んだところで、ピタリ、とまた唐突にアンドレアスは足を止める。つんのめりながら同じく急停止した2人は、そこにあった小さなお店を見て目を輝かせた。
 新しくも、小洒落てもいない、ごくごく普通のパン屋。絶対にガイドブックなんかには載って居なさそうな、いかにも昔から町で代々営業しています、と言った看板のお店。

「ここが割と美味いんだ」
「おおッ、これまた地元民らしいスポットに来たね」
「素朴で良いお店ですわね」

 その古びた看板を見上げながら懐かしそうに言ったアンドレアスに、ハバキとロジーが明るい歓声を上げた。さっそくアンドレアスお奨めのパンを賞味してみよう、と楽しそうに店の中へと突入する。
 今この時間のお奨めは焼き立てのワッフル。おやつに食べるような甘いのではなくて、甘みを抑えて、バターやジャムをつけて食べるような素朴なもの。
 太っちょの店主がそう説明するのを聞いて、ロジーは迷わずワッフルを小さな紙袋一杯に買い込んだ。美人にはサービスだ、とおまけの菓子パンを幾つかつけてくれたのに、にっこり笑って礼を言う。

「んなに買ってどうすんだ?」
「もちろん皆で食べるんですわ」
「あ、じゃあ暖かい飲み物買ってまた港行こうよ! 俺、もうちょっとあの海見てみたい」

 バイキングがかつて眺め、親友が眺めて育った暗い灰色の海。それでもこの海は、世界中のありとあらゆる海へと繋がっているのだ。世界中のどこからでも見上げた空が、世界中のありとあらゆる空に繋がっているように。





 デンマークを発って、彼らの日常へと戻る日は随分と晴れた青空だった。見上げれば眩しいほどに――何だかこう、色々と圧倒的な感じで。
 座席に座り、ほんの少しばかりアンニュイな気分で窓から僅かに見える空を見上げて息を吐きかけたアンドレアスは、ふと隣の座席に座るハバキが大切に抱えている紙袋を見て首を傾げた。そう言えばこの親友は、この紙袋だけは絶対に、手荷物に預けようとはしなかったのだ。

「それ、何入ってんの?」
「ん、へリング」

 何気なく興味を引かれて、尋ねたアンドレアスの言葉に、尋ねられたハバキは当たり前のようにそう言った。その響きに釣られて、あぁそうかヘリングか、と頷きかけたアンドレアスはふと、その言葉を反芻する。
 ヘリング。魚類、ニシン科。簡単に言えばつまりニシン。
 ぐぎぎぎぎ、と音がしそうなほどぎこちなく紙袋に再び視線を落としたアンドレアスに、ハバキはここぞとばかりに真剣な表情を浮かべる。そうして、この世の真理を告げるかのような重々しくもキッパリとした口調で、親友の引きつった顔に告げる。

「アスがホームシックにならないようにと思って」
「‥‥ッ、はあぁぁぁッ!? おまッ、何考えて‥‥ッ、つか止めろよ手荷物チェック! 止めるだろう普通!!」
「きっと手荷物検査の人たちもアスの事を気遣ってくれたんだよ」
「んな訳あるかッ!」
「うるさいですわよ、アンドレアス、ハバキ。他の方にご迷惑ですわよ?」

 大騒ぎを始めた親友2人に、つ、とロジーは秀麗な眉を大げさなほど寄せて注意を促した。こんな騒ぎになってしまったら、羽目の外しすぎた親友達をたしなめる役は、騒ぎに混じり損ねた彼女のものだ。
 が、座席にしっかり座ってシートベルトを締めたまま、取っ組み合いをはじめた男2人は聞いちゃいない。その紙袋よこせ、絶対ヤダ、いいからよこせ、とまるで子供のような大喧嘩を、真剣ながらも楽しそうに笑って盛大に繰り広げている。
 やれやれ、とロジーは軽く肩を竦めた。だがその拍子にふと、ハバキが後生大事に抱えている紙袋から僅かに顔を覗かせた、ヘリングと目が合う――いやマジに。
 しばしの沈黙が、ロジーとヘリングの間に流れた。

「‥‥ハバキ、アンドレアス。調理ならお任せ下さいませっ☆」

 ヘリングとの間にどんな会話(?)が合ったものか、次の瞬間にっこりと良い笑顔を浮かべてそう言い切ったロジーの言葉に、ピタリ、と2人は動きを止める。そうしてそっくりの悲壮な顔で、料理好きながらほんのちょっと結果が残念な事になり過ぎてしまう、大好きな親友を振り返った。

「それ、は」
「ちょっと‥‥」
「まぁッ! どういう意味ですの、2人とも!」

 がくがくと震えだした2人の言葉に、流石にロジーの眉が跳ね上がる。そうして今度は彼女の方から、シートベルトを締めたまま親友達の方に小さな拳をぶんと振り上げて。
 そのうち本当に苦情がきそうだと、思いながらアンドレアスはふと、その光景を噛み締める。

(帰るトコがある、って実は凄く幸せなことかもな)

 彼の故郷、デンマーク。今は離れていても、何かあれば帰る事を許される生まれ育った場所。
 あそこを故郷と呼ぶのなら、もう1つの故郷はこの親友達だろう。アンドレアスがどこで何をしていても、きっとこの親友達の元に戻れば、アンドレアスは快く迎えられる。世界の果てにいても、この親友達は絶対にアンドレアスに「お帰り」と言ってくれるだろう。
 それを故郷と呼んで良いのなら、それはなんと幸いなことだろう?
 そう、噛みしめるアンドレアスの気持ちは、そのままハバキの気持ちであり、ロジーの気持ちでもあった。3人が3人でいる限り、世界中のどこにいても、そこが彼らの帰る場所だった。





━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 /     PC名     / 性別 / 年齢 /   クラス    】
 ga5172  /   空閑 ハバキ    / 男  / 24  / エクセレンター
 ga1031  /   ロジー・ビィ    / 女  / 22  /  ファイター
 ga6523  / アンドレアス・ラーセン / 男  / 28  / サイエンティスト

ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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いつもお世話になっております、蓮華・水無月でございます。
この度はご発注頂きまして、本当にありがとうございました。

ご親友同士のデンマーク旅行、精一杯努めさせて頂きました。
微妙に食べ物に描写の力が入って居るように見えるのはきっと気のせいです。
是非その様な方向でお願い致したく;

皆様方の、お互いを大切に思い会う暖かな気持ちのこもった、素敵な旅行になっていれば良いのですが。

それでは、これにて失礼致します(深々と
■「連休…そうだ、旅行へ行こう」ノベル■ -
蓮華・水無月 クリエイターズルームへ
CATCH THE SKY 地球SOS
2010年06月14日

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