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『求めよ!真なる強者への道しるべ 』
ガイ3547)&(登場しない)

告げられた言葉に居並ぶ男達は歓喜の咆哮が響き渡った。
呼び集められた闘技大会の上位入賞者たちにオーナーは喜色満面の笑みで高らかに告げる。
「今大会は通過点である!各地より更なる強者達を集めた最高の闘技大会開催される!そして、君たちには、その大会への出場資格を与えられた」
腕に覚えある者は名乗りをあげよ、と絶叫するオーナーに男達は咆哮で応じたのだ。

参加は自由意志で強制ではない。
だが、更なる強者が集まると聞いて怯え、引き下がるような輩はこの場にいるわけがなく、次なる激闘に胸を躍らせる。
今大会で治療士兼闘士であるガイもまた胸躍らせた一人。
唐突であるとはいえ、このような朗報は滅多にないのだ。
腕を磨き、格闘技の奥義を極めんとするものたちにとって、まさに嬉しい報である。
皆の熱き了承を受け、オーナーは正式に入賞者たちの参加を認め、新たな激闘の場となる闘技場を示したのだった。


目の前に開けた闘技場は天井部分が開閉式になった開放的な空間で、以前よりも数倍の広さと観客席を誇る申し分のないところ。
石盤も花崗岩よりも強度が高く、滑らかな黒曜石の上に白い石灰岩を薄く貼り付けてあった。
日の光が差し込んでもこれなら反射することもない。
また闘技場の所々に闘いに専念できるよう細かな配慮が施されているのが歴戦の勇士であるガイには一目で分かった。
内部は豪華な装飾は一切なく、闘士たちが気持ちよくできるように広々とした空間が要所要所に点在している。
高く造られた天井には採光用の天窓があるが、大きな1枚ものではなく、子どもの頭ほどの丸窓を微妙に配置を換えられ、差し込む光が柔らかいものになるように工夫されていた。
憩いの場としてある中庭には満々と水を湛えた噴水は数十人が集っても余裕があるほどの巨大なもの。
飲み水としても使えるが、あくまでもここは水浴び用。
闘技場の外に清らかな水が沸く場所があり、そこから専用の管を引いて、各控え室で自由に水が得られるようにしてあると説明を受けて、ガイは驚嘆した。
ここまで闘士たちに配慮した闘技場などお目にかかった事がない。
直前の控え室にいくつかの桶に水を汲んであればいいほうだ。
全くもって気合の入れ方が違うと改めて感じさせられた。
「気に入ってくれましたか?ガイさん」
「ああ、素晴らしい闘技場だな」
我がことのように嬉しそうに説明してくれた案内役の青年にガイは満足だと言わんばかりに、二ッと歯を見せて笑みをこぼす。
こんな素晴らしい設備がある闘技場は今までないと付け加えてやれば、案内役の青年はそうでしょう、と自慢げに胸をはる。
今回、『燃えよ闘魂!天下無双・漢(おとこ)闘技祭』と名づけられた闘技大会はオーナーの長年の夢。
かつては己も闘士でその腕を磨き、奥義を極めんとした人物だったが、時として劣悪な環境に置かれる闘士たちの扱いに一念発起し、設備環境ともに優れた闘技場の建設を志したという。
「元々、商人の出でそちらの才があった方で一財産を作られたのですが、全てを投げ打たれたお方で皆から慕われて……ガイさんたちが出場された大会を見て、ぜひとも彼らに出ていただきたいと仰られてました」
「あ、いたいた!ガイさーん!!」
我がことのように笑みをこぼす青年をまぶしそうに見つめたガイに通路の奥から丸眼鏡をかけた小柄な青年がほっとしたといわんばかりに駆け寄ってきた。
「どうした?」
「悪い、オーナーがガイさんに『依頼したいことがあるから来て頂きたい』って探していらっしゃったんだ。ガイさん、ご案内いたしますので一緒に来ていただけますか?」
生真面目に頭を下げる丸眼鏡の青年にガイは軽く応じながら、さて一体どんな依頼なのか?と頭の片隅で考えを巡らせた。

通されたのは最上階にあるオーナー室。
上質の革であしらわれたソファーと堅固なオーク材で造られたテーブルが一組だけが置かれているだけだが、その窓からは闘技場が一望できるという最高の場。
かつては名だたる闘士だったというオーナーは人の良い笑みを浮かべて、ガイを諸手をあげて歓迎してくれ、自ら進んで茶を入れるほどの人柄だ。
「よく来てくれました、ガイさん。貴方の高名はお耳にしておりますよ」
「それはどうも。まぁまだ修行中の身なので高名なのかは疑問ですが」
差し出された利き手を握り返しながら、ガイは小さく肩を竦めるとオーナーは親しげにその肩を叩きながら、わずかばかり悲しげな光を瞳に宿す。
「いやいや、その鍛えられた身体を見れば分かるさ……それに、あちらのオーナーから聞きましたぞ?治療士を引き受けながら大会に出場された、と」
あの闘技場の一件は各オーナー間では知れ渡っているほどの大きな事件だった。
純粋に腕を磨きたいと願う闘士たちを踏みにじる行為と、彼は激怒したが、悪どい先代たちが暗殺されたことは例え自業自得とはいえ、さすがに気分の良いものではない。
後を継ぎ、あれだけの大会を開催に踏み切った現オーナーの苦労も並外れたものだろうと心痛めていたが、ふたを開いてみれば、思いもよらぬ強豪たちが集い、大盛況となった。
その知らせを聞いた瞬間、元闘士たるオーナーは我がことのように喜び、即座に上位入賞者たちを『燃えよ闘魂!天下無双・漢(おとこ)闘技祭』に出場させて欲しいと打診したのだ。
身振り手振りでその感動を伝えようとする彼にガイはここまで喜んでもらえたことを誇りに思いながらも、少しばかりこそばゆい。
照れくさそうに腕を組み、視線を泳がせるガイに気付きながらもオーナーは多少頬を赤らめ、咳払いをすると意を決して本題に入る。
「我ながら無茶をしたと思う……だが、日々修行を欠かさぬ闘士たちに技を極め合う場所を提供するのは私の役割だ。闘士時代の経験から考えられる設備は全て整えた……が、どうしても整えられなかったことがあってね」
すっと細められたオーナーの視線は現役時代のそれを思わせ、自然とガイも背筋が伸びる。
「警備や食事のスタッフは充分な人数が揃ったが、治療士がどうしても足らないんだ。協会などに頼んで、腕の立つ治療士が集まってくれたが、大会中何が起こるか分からん……申し訳ないが、治療士としても君を雇わせて欲しい。正直、設備が整っても人がいなくては意味がないのだ。君ほどの腕があるならば私だけでなく、他の治療士たちも安心して任せられる」
この通りだ、と深々と頭を下げるオーナーにガイは頬を掻いて、嘆息した。
前のオーナーといい、ここのオーナーといい、どうしてこうも簡単に頭を下げられるものだろうかと思ってしまう。
だが、それだけ大会に対する思いが強く、参加する闘士たちへの配慮をおろそかにしたくないという気概も感じ取れた。
「前金という言い方で悪いが、これを君にお譲りしよう。私が持っているよりも君のほうがこれから先、生かしてくれると思うからね」
そういいながら、オーナーは堅牢な木材であつらえた細い木箱を取り出し、ガイの前に差し出す。
怪訝な表情を浮かべながらも、開いて欲しいと促され、おもむろに開けると、漆などで綺麗に装丁された巻物。
手にとって中身を確かめていくガイの表情が見る間に驚愕へと変わっていく。
「これは……!!」
「気功治療の奥義書だそうだ。そちらには疎い私でもこれがどれほど優れた書物であるかは分かる。だから、君に託したい」
事細かに記載された内容は人体の精緻な説明と各部分の怪我や病に対してどのような治療が有効かと詳しく解説されている。
治療士ならば喉から手が出るほどの代物を会ったばかりのガイにオーナーは惜しげもなく譲ってくれた。
その深い心遣いにガイは胸を打たれた。
「いいでしょう。治療士として働かせていただきます」
「そうか!!ありがとう、ガイさん。それと大会が終わったら、こちらの品も進呈しよう。引退した私が持っているのは宝の持ち腐れにしかならん」
良い持ち主を得たと笑いながら、オーナーは同じような造りをした木箱を取り出し、自ら広げてみせる。
その瞬間、ガイは息が止まるほどの衝撃を受けたのは言うまでもなかった。

大広間二つ分の広さを誇る訓練場で汗を流す闘士たちを見守りながら、ガイは同僚となった治療士たちと共に怪我人たちを診て回る。
充分な薬と医療器具を揃えた清潔な治療室は訓練場を一望できるように透明度の高いガラスをはめ込んだ大きな窓が備えられていて、どこで誰がどんな訓練を積んでいるのかすぐに分かった。
これならば怪我人が出たら、即座に呼ぶ事ができる上に危険な箇所があればすぐに改めることができる。
「さすが元闘士というところだな、オーナーは」
着地で足をひねったという闘士を治療しながら、ガイは小さく呟く。
治療士として承諾した時に差し出されたもう一つの巻物。それは気功治療と対に書かれた格闘技の奥義書であり、格闘家ならば一目でいいから読んで見たいもの。
まだ現役の頃、師匠から譲り受けたという書だというが、生憎気功の才覚がなかったオーナーは格闘の方のみしか読むことがなく保管していた。
だが、気功にも格闘にも才覚のある者に譲り渡したいと常々思っていたところに、前大会のオーナーからガイの話を聞き―自らの目で確かめた上で譲ることを決めたのだ、と。
「ただし、本大会で成績をきちんと収めてくれ。これは闘士である君に対する依頼だよ」
片目をつぶって笑うオーナーにガイは脱帽し、快諾したのだった。
あの奥義書に相応しい成績を収めなくてはな、と思いながら、ガイは悲鳴を上げながら治療を受ける闘士を真剣な表情で見る。
どんなに悲鳴を上げようとも、治療を怠っては大きな怪我に繋がるのだ。
入念にしっかりとしなくてはならんな、と一層の気合がこもる。

と、そこへ何かが割れるような声が沸き起こる。
ふと顔を上げて訓練場を見て―ガイは小さく喉を鳴らした。
現れたのは今まで対戦してきた男達と同等、いや、それ以上の気を纏わせた猛者たちがゆっくりとした動きで歩いている姿。
あれが他の地域からの参加者たちだというさざめきに格闘家の血が滾っていくのを感じる。
ここに集った闘士たちも猛者ぞろいだが、彼らの登場は一層の拍車が掛かっていく。
「退屈しなくてすみそうだな」
これから始まる激闘を思い、ガイは我知らずと笑みが零れ落ちるのだった。

FIN
PCシチュエーションノベル(シングル) -
緒方 智 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2010年06月21日

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